「「「「「乾杯!」」」」」
カチンとジュースやお茶、各々の飲み物が注がれていたコップが触れ合う音が響く。
今日は12月24日クリスマスイブ。年末のテスト期間をそれぞれの学校で乗り越え、前々から約束されていたクリスマスパーティーにゆい達5人が集合していた。
会場はやっぱり和実家。座席のあるテーブルには大人たちが、居間の低めのテーブルにはゆい達と分けられているため、こっちには座布団を敷いて座っている5人だけ。目の前のテーブルにはあきほ、あん、拓海、ゆいが用意した料理の数々と、あまね、らん、ここねがそれぞれ持ち寄った品々が所狭しとならんでいる。
「デリシャスマイル~!今年もみんな一緒に過ごせて、あたし嬉しいよ」
「らんらんも学校がバラバラになってからこの集まりの大事さがましましに実感してたから、今日はめっちゃ楽しみだったんだ~」
「ふふっ。私も、すごく楽しみだった」
「もちろん私もだ。どうだ品田?見目麗しい女子に囲まれて過ごすクリスマスの気分は」
「自分でそれ言うのかよ…まぁ、俺も一緒に過ごせるのは、なんだ…楽しみだったからな」
お皿に料理を取ってから一口、また一口と舌鼓をうちながらも会話は止まらない。二年前はブンドル団関係、去年は受験のこともあって気がかりなことがある中でのクリスマスだったが、今年は幸い憂いもなく、全員が心から楽しめる時間となっていた。
「あ~むっ。んふふ~、やっぱり拓海の料理は美味しいね!」
「プロムとかで直前くらいまで忙しかったはずなのに、拓海先輩すごいなぁ」
「と、そうだったな。2人で参加したプロム、どうだったんだ?」
あまねの質問を受けて一度顔を見合わせる拓海とここね。ここねが軽く首を傾げたのを自分が先に行くかの問いと察した拓海が頷く。それを受けてここねの方から切り出した。
「すっごく楽しかった…物語の主人公が憧れる気持ちが、もっと分かった」
「そっか〜。あたしも行ってみたかったな〜。ねぇねぇ、会場の写真とかある?」
「あ、らんらんも見たい!」
「うん!ちょっと待っててね」
ハートキュアウォッチを操作して保存していた写真を見せるここね。入口の飾り、フロアに設置されたツリー、キャンドル風の照明とパーティーを彩った色々なデコレーションに参加してなかった3人は目をキラキラさせながら見入る。
「ほぉ…クラシックな雰囲気で本格的なのだとは思っていたが、ここまでやるとは…2人の通う学校はすごいな」
「はにゃ!?ダンスの時の音楽って生演奏だったの!?凄すぎっ」
「みんな色んなドレス着てて綺麗だね。ここねちゃんはどんなドレスだったの?」
「あ、うん。会場に向かう前に轟さんが撮ってくれた写真があるわ」
そう言ってアルバムを遡るここね。次に大きく表示されたのはここねの家、その玄関口で撮られたらしいドレス姿のここね。前に見たドレスやスパイシーの衣装とはまた違う清楚な雰囲気を纏ったここねの姿に、思わず3人も色めき立つ。
「わぁっ!ここねちゃんすごい綺麗!」
「はにゃ〜、ここぴー結構大胆…お肌も雪みたいに白くて綺麗…」
「ああ。本当によく似合ってる。きっと会場の視線も独り占めだったろうな」
「ふふっ。ありがとう」
みんなからの褒め言葉を受けながら嬉しそうに微笑むここね。その様子を眺めながら、ドレスを選んだ張本人である拓海もまた嬉しさを感じていた。と、何枚かのここねの写真が流れたあと、今度は見慣れた男子との並んだ写真が映る。
「あ、これ拓海と?」
「ええ。轟さんが折角だからって」
「おぉ〜!拓海先輩もやりますな〜。あ、ちょっとブラペっぽいね」
「なんだ品田。意外と様になってるじゃないか」
「たまには素直に褒めてもいいんだぞ、菓彩?まぁけど、俺も割と気に入ってたよ。華満の言うように、ブラックペッパーの衣装に近いから違和感もあまりなかったしな」
ヒールで少しだけ高くなっているここねだが、高校で少し背が伸びた拓海と並ぶととてもバランスのとれた身長差に見える。ここねは微笑むように、拓海は若干の照れを滲ませるような笑顔で並んでおり、プロムへの期待感が見られるようだった。
「はにゃ〜、ドレス姿いいな〜。前の時はみんなで集合写真は撮ったけど、あまり沢山は撮れなかったから、ちょっと残念…」
「じゃあまたいつかデュ・ラクに来て。その時また一緒にドレス選ぼう」
「それもいいな。また何かの記念にでも集まれれば、楽しそうだ」
「あたしも賛成!今度は拓海も一緒に行こうよ、ドレス選び!」
「俺もかよ…まぁけど、それもいいかもな」
ここねのドレスを拓海が選んだことをここねは伝えていないが、拓海も特に言及していない。故にそれはこの場では2人の秘密である。みんなで一緒に行った時、拓海に全員分選んでもらうのもありかもしれないし、きっとそうしたらみんな凝り性な拓海の本気に驚くかもしれない。その様子を想像しながらここねは楽しそうに笑った。
「ゆい〜?そろそろケーキ食べるでしょ?取りに来てくれる?」
「あ、お母さん!はーい!」
あきほの声に返事を返しながらゆいが立ち上がる。
「ケーキ…ってことはもしかして」
「うん!拓海にお願いしたら作ってくれたんだ!」
「大変だったのではないか?最近忙しかっただろうし料理まで作って」
「気にすんなって。俺が作りたくて作ったんだから。これくらいのお願い、どうってことないよ」
「はにゃ〜、去年食べたブッシュ・ド・ノエル、本当に美味しかったもんね〜。拓海先輩!ありがとうございますっ!」
いそいそとキッチンの方へと向かったゆい。それを見送る拓海の表情は優しげで、ゆいからの「わがまま」を叶えることをほんとに苦に思ってないのが分かる。
(遠慮しない…そっか…)
プロム前日のゆいからの言葉を思い返しながら、先程のゆいの様子を思い出す。拓海のケーキを食べることを本気で楽しみにしているのが伝わる笑顔…自分がプロムに向けて期待してたのと同じ。彼女はほんとにあの時の電話の通り、「わがまま」を我慢しないことにしたのだろう。
(良かった…)
その事にほっとしている自分を自覚するここね。ゆいの笑顔に寂しさがなかったこと、その事が心を軽くする。そして、だからこそあの時の「我儘」を意識する。叶ってしまったあの「我儘」は、きっと忘れない。
「じゃーん!今年はオーソドックスなショートケーキ!拓海がスポンジもクリームも飾りも作ったんだよ!」
何故か誇らしげに語りながらゆいが持ってきたケーキは純白の上に赤いいちごがよく映えるショートケーキ。その上にはマジパンで作られたもみの木、トナカイ、ソリ、そしていちごのサンタクロース。
「はわぁ〜!すごいすごい!ショートケーキのクリームがまるで雪みたい!これはまさに子供達にプレゼントを届ける、サンタさんの物語!」
「流石だな、品田。まさか飾りも手作りとは…」
「可愛い…」
「気に入ってくれて何よりだよ。っと、そうだ」
ケーキがテーブルに置かれたタイミングで拓海が立ち上がり、少し離れた場所に置いていた自分のカバンへと向かう。カバンの中から紙袋を3つ取り出した拓海は、ピンク、黄色、紫のそれらをゆい、らん、あまねへと差し出す。
「サンタさんといえばクリスマスプレゼントだろ?」
「ありがと〜、拓海!あれ、でもプレゼントってみんなで交換するんじゃ」
「そっちは別で用意してるよ。これは俺からみんなへ、個人的なやつだ」
「はにゃ!いいの?」
「もちろん」
「随分シャレたことをするな…だが、私たちだけか?ここねの分は?」
プレゼントを受け取りながらも当然の疑問をあまねが提示する。それに対して答えたのはここねだった。
「大丈夫。私はこの前先に貰ったの。ほら」
そう言ってここねは首から下げていた飾りにそっと触れる。黒いタートルネックの上にきらりと輝くティールブルーの石がついたアクセサリーこそ、先日拓海が送ったばかりのものである。
おしゃれなここねの私服の雰囲気にぴったり合うそれがまさか拓海からのものだったとは思ってもいなかった3人は思わず前のめりになってそのネックレスを見つめる。
「はえぇ~!これ、拓海先輩が!?」
「驚いたぞ品田…随分センスがいいなじゃいか?…まさか私たちのも?」
「まぁ、そういうことだ。ゆいも華満も高校生になったし、どうせなら菓彩にもと思ってさ」
「わぁっ!ねぇ、開けてもいい?」
「いいよ」
ここねのアクセサリーを見てわくわくが止まらない様子のゆいとらんが拓海の言葉にいそいそと包みを開けに取り掛かる。それを見て微笑みながらあまねも自分の分に取り掛かった。
「はにゃ~!これってブレスレット?あ、黄色の石をパンダが抱っこしてる!拓海先輩、ありがと~!」
「私のはイヤーカフスか?確かにこれなら気軽に身に着けられそうだな。ありがとう、品田」
「あたしのはリングだ~!可愛い~。ありがと拓海!あ、チェーンもあるってことは首からかけてもいいってことかな?」
女の子にアクセサリーを贈ること自体、その意味を思えば本来ハードルが高いはず。きっと細かい意味までは考えていないであろう拓海の様子を眺めながら、ここねは自分のネックレスに触れる。
それぞれ別々のアクセサリーだけれども、同じようにワンポイントアクセントとしてそれぞれのプリキュアとしてのイメージカラーの石が取り付けられていることがお揃いっぽさを出してくれている。サイズや用途こそ違うが、拓海が持つデリシャストーンと合わせると5人ともが石が取り付けられたアクセサリーを持っているという共通点もできた。
「喜んでもらえたみたいで何よりだよ」
嬉しそうにアクセサリーを見せあいながら盛り上がる4人を見て、拓海は優しく見守るような笑みを口元に浮かべるのだった。
──────────
「ゆい~!お皿とフォークまだじゃない?」
アクセサリーを見て盛り上がっているところへ、あきほがお盆で人数分のグラスと一本のボトルを持ってくる。わいわいしていたのはほんの数分あったかどうか。それでもケーキを前にして盛り上がっていたことに驚きながらもゆいが立ち上がる。
「あ、そうだった!って、お母さんそれって?」
「シャンメリーよ。ここねちゃんがパーティーのために持ってきてくれたの」
「そうなの?ありがとう、ここねちゃん!」
「ふふっ。みんな高校生になったから、折角ならちょっと大人っぽいのもいいかなって」
ワインボトルに似た形で持ち込まれたドリンクは、なるほど、確かに自分たちが少し大人に近づいたような気にさせる。小さな泡が中を上っているのを見つめながら、キラキラした瞳をゆいとらんは向ける。あまねも2人程ではないものの、興味津々の様子だった。
「あたしシャンメリー初めて飲むよ!どんな味するのかな?」
「らんらんも!あまねんはどう?」
「いや、私も初めてだな。品田はどうだ?」
「俺と芙羽はプロムの会場で出たからな…その時が初めてだ」
「なんだ、じゃあ2人だけ抜け駆けしていたのか」
「ごめんね、あまね」
「まぁいいじゃん。こうやってみんな一緒に飲めるんだから」
「うんうん。あ、あたしケーキのお皿とフォーク取ってくるね!」
再度キッチンの方へと向かうゆい。お盆に乗っていたグラスをらんがテーブルの上に並べる隣で、ややワクワクしている雰囲気であまねがいそいそとシャンメリーのボトルを開ける準備をしている。
「俺が開けようか?」
「いや、ここは私に任せろ。なに、きっといい音と共に綺麗に開けて見せるさ」
「…もしかしなくともやってみたいんだな?」
「べ、別にいいではないか」
「いや、悪いとは言ってないだろ。折角だから任せるよ」
あまねからボトルを受け取ろうと伸ばしていた手を引き、拓海は自分の席に座った。ボトルの蓋に手を添えるあまねとグラスを並べ終えてわくわくしながら覗き込んでいるらん。そこへゆいが人数分のお皿とフォークをもってやってくる。
「お待たせ~!あ、これから開けるの?」
「ああ。シャンメリーは開ける時の音から楽しむものだと聞いているからな。ゆいが来るのを待っていたんだ」
「あまねちゃん、ありがとう!」
「よしっ。では行くぞ!」
ワクワクとドキドキを織り交ぜた表情であまねがボトルの蓋に力を籠める。その様子を眺めていた拓海はふと視線を感じその方向へと目を向ける。
他の3人と違い、ここねだけは拓海の方へと視線を向けていた。何かあるのかと思い首をかしげると、ここねは3人に気づかれないようにそっと自分のネックレスの先の飾りを持ち上げ口元へと持っていく。
ポンッ!という軽快な音と共にボトルの蓋が外れる。その音と続く「わっ!」という3人のリアクションの音は、ここねが小さく立てたリップ音をかき消した。
わいわいしながらボトルからグラスにシャンメリーを注ぐ3人を横目に、ここねはネックレスから話した指を口元に持っていき、「しーっ」と口の動きだけを拓海に見せる。わずかに頬を朱くした拓海だったが、それでもその意図をくみ取ったのか自身の指を立てて「しーっ」とここねに返した。
「よし。これで全員分だな。グラスは持ったか?」
「「は~い!」」「ええ」「おう」
「では準備ができたところで、ゆい。もう一度乾杯しよう」
「そうだね、あまねちゃん」
「あ!じゃあじゃあ乾杯じゃなくて、メリークリスマスでやるのはどうかな?」
「らんちゃんそれいい~!ここねちゃんも拓海も、それでいい?」
「うん」「いいぞ」
「じゃあ改めて!メリークリスマス!」
「「「「メリークリスマス!」」」」
チンと鳴ったグラスが中のシャンメリーを揺らす。
しゅわっとしたシャンメリーに隠したもの。
メリークリスマスの言葉に秘めたもの。
ヤドリギという免罪符をもって求めたもの。
それはここねの我儘、2人の秘密。
小さく口元に笑みを浮かべてから、ここねはそっとグラスを傾けた。
口に運んだシャンメリーは、あの日に隠した秘密の味がした…
ここねと拓海の物語としてはこれが最終話ですが、エピローグがありますので、もうちょっとだけ続きます。