ファントムオブキルー天上の魔剣ー   作:アルカンシェル

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1話 出会いと淘汰

 

 

 そこは一面の花畑だった。

 色とりどりの花が蒼穹の空の下に咲き誇る美しく雄大な光景。

 だが、そんな美しい光景など意に介さず二人の乙女が剣を激突させる。

 鋼がぶつかり合う激しい剣戟の音が響き渡る。

 

「はあっ!」

 

「せいっ!」

 

 剣を交わす二人は何もかも同じだった。

 流れる様な桃色な髪も、身体の要所だけを守る軽装の鎧も、身体の大きさも、寸分も違わない。唯一の違いは彼女たちが持つ剣だけ。

 双子であってもここまで似ないだろう二人が入り乱れる。

 

「ふふ……」

 

「あはっ!」

 

 剣を交わすたびに少女たちは頬を上気させ、恍惚の笑みを浮かべる。

 一方の少女は舌なめずりをして、より苛烈に剣撃を繰り出す。

 一方の少女は頬を吊り上げて嗤い、より強烈な一撃を繰り出す。

 彼女たちが剣戟を振り、激突するたびに風が吹き荒れ、その風は花を散らす。

 

「うふふふっ!」

 

「あ……あははははっ!」

 

 戦いが、命のやり取りが、心の底から楽しいという快楽に酔った笑い浮かべながら少女たちは剣を振る。

 一合、二合、三合。

 剣が激しい音を響かせて火花を散らせる。

 力も、速さも、技も、何もかもが鏡映しのような戦いだが、長い剣戟の応酬の末に拮抗が崩れる。

 

「――きゃあっ!」

 

 一際強く剣戟の衝突音が鳴り響き、鍔迫り合いの末に片方の少女の剣が弾かれて宙を舞い――花畑に突き刺さった。

 

「残念ね……これで終わりよ」

 

 剣を持つ少女は手を抑えて蹲る少女を見下ろし剣を振り上げる。

 

「ま、待てっ!」

 

 気付けば、二人の間に割って入っていた。

 振り下ろされた刃が紙一重の所で制止する。

 突然割って入った男に少女は目を細め観察すると、剣を引き戻して淡々と感情の籠らない声で告げる。

 

「アナタの“バイブス”は私の“キラーズ”とは不適合……」

 

「バ、バイブス……? キラーズ……? 何の事だ!? 君達は双子の姉妹なのか!? 何で殺し合っているんだ!?」

 

 何を言っているのか理解できず男は戸惑いながらも疑問を叫ぶ。

 しかし、剣を握っている少女の態度は変わらない。乱入者の反応などお構いなしに続ける。

 

「……よって、アナタのオーダーを受ける義務は無い」

 

 返って来たのはやはり無感情な言葉。

 

「オーダー……命令ってことか? いや、命令をしているわけじゃなくて」

 

「“淘汰”中は、何人たりとも介入不能」

 

 男の言葉を無視して少女は淡々と続ける。

 それはどこまでも機械的で、無感情で、とても自分に親し気に話しかけて来てくれた少女と同じ顔をしているとは思えなかった。

 

「邪魔するなら、原則にのっとりそのイミテーションと共にアナタも排除することになるわ」

 

 少女は男越しに自分を見下ろして語り掛ける。

 

「それが“キル・オーダー”……私たちの絶対原則でしょ?」

 

「キル……オーダー……?」

 

 少女の言っている言葉の意味は男にとって一つも理解できる者ではなかった。

 むしろその言葉は男ではなく、同じ顔の少女に向けて言っているようだった。

 そして、剣を持つ少女がため息を一つ吐き――

 

「どきなさい」

 

 邪魔をした男を蹴り飛ばす。

 

「がっ!?」

 

 まるで足元のゴミを振り払うような無造作な蹴り。

 とても華奢な少女の足から繰り出したとは思えない衝撃に男を軽々吹き飛ばされる。

 

「マスターッ!」

 

 もう一人の少女が吹き飛ばされた男を見て悲鳴を上げる。

 しかし、駆け寄ろうとした彼女の前に剣が突きつけられる。

 

「さようなら……ティルフィングの名は私のものよ」

 

「……っ! よくもマスターをっ!」

 

 無手の少女は男が蹴り飛ばされたことに激昂する。

 その顔に彩られるのは先程の戦いに酔った恍惚の笑みではなく、怒りという人間らしさがあった。

 

「無駄よ」

 

 少女の反応に対して無慈悲に少女は剣を振り下ろす。

 

「っ――」

 

 咄嗟に少女は地面を掴み、振り下ろされた剣を横から蹴り飛ばす。

 

「なっ!?」

 

 驚愕に少女は目を剥く。

 剣戟を交わしていたから、寸分違わない“自分自身”だからこそ、この状況を覆すことは不可能だと判断した。

 にも関わらず、少女は少女の想定を超えた力と早さで剣を蹴り飛ばし、更に身を翻して少女を蹴り飛ばす。

 

「うぐっ……」

 

 今度は逆に地面に転がされた少女が呻く。

 蹴りの威力も先程よりも上がっている。

 

「そうか……あの男の“バイブス”がアナタの“キラーズ”に……」

 

 痛みに呻きながらも少女は剣を取り立ち上がる。

 条件が変わり、拮抗が崩れ不利になったというのに少女は逃げる素振りを見せずに剣を拾う。

 対する少女の方も既に剣を拾い、正眼に構えた。

 

「アナタの意志は……私が担う……」

 

「いいえ、アナタの意思を担うのは……私……」

 

 まるで鏡合わせの様に少女たちは剣を構える。

 二人の少女は剣に光りを――マナを漲らせ――同時に動く。

 

「はああああああああっ!」

 

「やああああああああっ!」

 

 人間離れした疾走によって花びらが舞い上がり、繰り出された斬撃が激突――

 

「アナタの意志は……私が担う……安心して逝きなさい」

 

 鍔迫り合いの中、少女は“自分”に語り掛ける。

 

「汚れなき声を――“ココロ”に刻め……!」

 

 その言葉を発したのは果たしてどちらだったのか。

 恍惚の笑みを浮かべながら少女はまじ合わせた剣を力任せに砕き、そのままの勢いで、同じ顔をした自分を――一切の躊躇もなく斬った。

 

「あ……」

 

 鮮血が踏み荒らされた花畑に降り注ぎ、少女は花に埋もれるように倒れた。

 

「我が同胞の叫び……この魂の礎とならん」

 

 少女は残心をするように、もう一人の冥福を祈るように目を閉じる。

 剣を染めた血はまるで蒸発するように、光となって宙に浮き上がる。

 それは倒れた少女も同じ。少女の体は徐々に存在を薄れさせ、光の粒に変わる。

 

「なっ……!?」

 

 死体が消えていく常軌を逸した光景に男はただ言葉を失う。

 少女がその光の粒の中に静かに佇んでいると、光の粒はまるで吸い込まれるように少女の体に触れて溶けていく。

 

「…………はあ……」

 

 光りを受け入れながら、少女は緊張した息を吐き出してその場に蹲る。

 そのまま動かなくなった少女に男はおそるおそる近付く。

 美しかった一面の花畑は彼女たちの激しい戦いに踏み荒らされ、薙ぎ払われて見るも無残な姿になってしまっていた。

 その事に残念さを感じながら、男は桃色の女剣士に声を掛ける。

 

「……大丈夫?」

 

 その声に少女はゆっくりと立ち上がり、顔を上げる。

 その時にはもう少女の周りを飛んでいた光は全て彼女の中に消えていた。

 

「はい、問題ありません」

 

 少女は先程までの戦闘の激しさが嘘だったかのように穏やかな微笑みを浮かべた。

 

「待たせてごめんなさい」

 

「え……あ……」

 

「思いのほか、イミテーションが手強くて」

 

 くすりと笑う少女の顔は戦っていた時の恍惚とした笑みとはまるで違う。

 そのギャップに男は戸惑う。

 

「これで話の続きができますね」

 

 しかし、男の気持ちに気付かず。少女は少し興奮した様子で言葉を続ける。

 

「アナタの声が、私に届いたの……」

 

 胸の奥に感じる男との繋がりを噛み締めるように少女は男に語り掛ける。

 

「私はアナタを探していたのかもしれない……」

 

「探していたって……君はいったい……何者なんだ?」

 

 華奢な少女とは思えない程の戦闘を繰り広げた少女に男は戸惑いを感じながらも、不思議と恐怖を感じず聞き返す。

 

「私の名前は“ティルフィング”と言います。これから、よろしくお願いします。“マスター”」

 

 少女、ティルフィングは桃色の長い髪を風になびかせて微笑んだ。

 それが彼女との最初の出会いであり、長い旅の始まりだった。

 

 

 

 

 

 

 






 この度、2024年5月27日にサービス終了が決まった『ファントムオブキル』のシナリオを文章化してみようと冒頭を投稿してみました。
 細かな変更点は武器の扱いについて考えています。
 ゲームでは言及されていませんが、彼女たちがシナリオ内で使っているのは特別な状況を除いて神器ではないので☆1武器を普段使いにしようかと考えています。

 マスターの名前をどうするか未定ですし、ティルフィング以外のキル姫を仲間にすべきかもと考えています。
 特に治癒係がいるかでシナリオ内でできる無茶の幅が大きくなりますから。

 メインで投稿している作品の合間に書くのでかなりの遅い投稿になると思います。
 とりあえずサービス終了を機にページだけは作らせていただきました。

 また独自解釈などを多分に含むことになると思うので御了承ください。


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