ファントムオブキルー天上の魔剣ー   作:アルカンシェル

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6話 レーヴァテイン

 

 

 

「キルオーダーって言うのはラグナロク教会が定めたキラープリンセスに対しての掟の事よ」

 

 レーヴァテインの手当てを終えて、焚火を囲んだ彼らにデュリンが説明をする。

 

「いろいろ細かい事は後で教えて上げるけど……

 とりあえずキラープリンセスは人を殺してはならない、異族を殲滅する、淘汰を果たす……

 この三つを覚えておきなさい」

 

「うん、分かった」

 

 デュリンの講義をレイは日記の余白にメモをして、質問する。

 

「それじゃあこの子――レーヴァテインが言っていたキル・オーダーって言うのは?」

 

 レイはシートを敷いた地面に横たわりティルフィングの手当てを受けている銀髪のキラープリンセスを振り返る。

 

「今のアンタに教えても仕方がない事なんだけど……

 キル・オーダーの中には“暴走”したキラープリンセスを処理する義務があるのよ」

 

「キラープリンセスを処理……」

 

 穏やかではない言葉にレイは思わずティルフィングを見てしまう。

 

「そもそも暴走って……?」

 

「キラープリンセスと“キラーズ”の関係は前に説明したわよね?」

 

 デュリンの確認にレイは頷き、答える。

 

「古の“伝説の武器”より抽出される“生命種・マナ”の亜種、キラーズ……

 そのキラーズがあるからキラープリンセスは超人的な戦闘力を獲得している……だったよね?」

 

「そうよ。だからキラープリンセスがそれぞれの伝説の武器の名前で呼ばれているの……

 ただそのキラーズって言うのがだいたい狂気を宿しているのよ」

 

「狂気?」

 

「神話の伝承にある武具はどれをとっても血と争うが付き纏っているの……

 もしくは人の身にキラーズと言う力が分不相応なのかしらね?

 ともかく言い換えると、キラープリンセスはキラーズが宿す“伝説”を操って爆発的な力を生み出しているということ……

 でもそれは諸刃の剣よ」

 

「それが暴走?」

 

「ティルフィングなら……

 “一度抜けば誰かを殺さなければ鞘に収まらない呪い”と“三度願いを叶えるがそれが終わると持ち主に死の運命”……

 これが必ず起きるわけじゃないとは思うけど、キラーズは大なり小なり血を求める性質があるのよ」

 

「キラーズが血を求めている……?」

 

 デュリンの言葉を、手当てを終えたティルフィングが繰り返す。

 

「異族討伐や淘汰の際、キラープリンセスが感じる高揚感……

 これはさらなる殺戮をキラーズが求めているせいだと言われているわ。戦闘中に恍惚の表情を浮かべるのも全てキラーズに起因しているの」

 

「私が……命を奪う事に喜びを感じている?」

 

「ティルフィング……」

 

「大丈夫です、マスター」

 

 体を震わせるティルフィングにレイは名前を呼んで寄り添う。

 その程度の事しかできないが、それだけでもティルフィングにとっては安堵を感じて落ち着く一助となった。

 

「その快楽に引っ張られ過ぎると“暴走”へと繋がるのよ」

 

「そうなったらどうなるんだ? 暴走したキラープリンセスは元に戻るの?」

 

「暴走したキラープリンセスが元に戻る事はないわ」

 

 レイの質問にデュリンは非情な答えを返す。

 

「暴走したキラープリンセスは目に映る全てを攻撃して、己の体が朽ちるまでキラーズに突き動かされるままに破壊を振り撒く怪物になるわ」

 

 脅すようなデュリンの口調にレイとティルフィングは息を呑む。

 

「だから奏官には暴走したキラープリンセスを処理するためにも最低限二人のキラープリンセスを従える必要があるの」

 

「ティルフィング以外のキラープリンセスを仲間にしろってこと?」

 

「別に暴走のため、とは言わないわよ……

 ザイン奏官が教えてくれた通り、ティルフィング一人だけだとアンタを護れない場面があるかもしれないから、仲間を増やす事は悪い事じゃないわ」

 

「でも……ティルフィング以外のキラープリンセスとバイブスを繋げるって言われても……」

 

 ティルフィングとの繋がりも自覚してできているわけではない。

 だからレイは仲間を増やせと言われても不安しか感じなかった。

 

「ラグナロク教会の総本山に辿り着くまでに別のキラーズを見つけられるならそれでも良いわ……

 見つけられなくても総本山にはマスターがいないキラープリンセスが管理されているからそこで見つけても良いわね」

 

「僕が……ティルフィングを……」

 

 そして何よりレイは奏官としてティルフィングを処理しなければならない可能性に動揺する。

 記憶がない状態で出会い、まだ短い付き合いでしかないがマスターと慕ってくれる彼女を処理しろ――つまり殺さなければいけないと言う役割にレイは苦しむ。

 

「安心してください。マスター、私が暴走する事はありません」

 

「ティルフィング、でも……」

 

「確かに殺意に身を包んだ時に感じる高揚感の事、いずれ慣れるってデュリンに言われていました……

 でもたまらなく怖くて、その先に行ったら戻って来れなくなる……ただ異族を狩るだけの“獣”になってしまうことが怖かった」

 

 しかし今は違うとティルフィングは微笑む。

 

「貴方が、マスターが――例え狂気に呑まれても引き戻してくれる。今ならそう思えるんです」

 

「ティルフィング……」

 

 何もできていないはずなのに全幅の信頼を寄せてくれるティルフィングにレイはこそばゆく感じる。

 そして改めてティルフィングの期待に応えられるようなマスターになろうと誓う。

 

「さあ、すっかり遅くなってしまいましたが夕食にしましょう」

 

 ティルフィングは話を打ち切る。

 

「……そうだね」

 

 “暴走”の事はこれ以上考えても仕方がないとレイは頷く。

 

「えっと……」

 

 そしてレイはティルフィングが川を一撃して確保していた魚たちを見下ろした。

 

「これって……どうやって食べれるようにすれば良いの?」

 

「それは……」

 

 レイの質問にティルフィングは口ごもった。

 

 

 

 

 細く整えた木の串を魚の口から刺し、体を貫通させて尻尾の方でもう一度刺す。

 一見すれば単純な焼き魚を作る下準備なのだが、レイとティルフィングは思わぬ苦戦を強いられていた。

 

「む、難しい……」

 

 二人で作業しているが、未だにちゃんと串に刺して焚火に当てられているのは一つだけ。

 

「ごめん、ティルフィング……本当に役立たずで」

 

 レイはすっかり消沈してティルフィングに謝る。

 旅路もレイの体力がなく、野宿をさせる羽目になり、食事の準備もまともにできない。

 戦いはキラープリンセスのティルフィングに任せるしかないだけにお荷物でしかなっていないことをレイは恥じる。

 

「い、いえ……むしろ私の方が申し訳ないというか……」

 

 謝るレイにティルフィングは自分が作り出した魚の残骸を見下ろして気まずくなる。

 

「ティルフィングが不器用なのは知っていたけど、アンタもなのね……」

 

 そんな二人をデュリンは一人、チョコを頬張り空腹を満たしながら呆れる。

 

「ごめん……」

 

「私は……料理とか……実は得意じゃなくて……村では他のキラープリンセスに任せきりで……」

 

 気まずくなる二人にデュリンはため息を吐く。

 

「とりあえず、今日はザイン奏官たちが持たせてくれた保存食で済ませなさい……

 ラグナロク教会の総本山まで行くには野営が必須だから、その対策も考えないといけないわね」

 

「うん……そうだね」

 

 前向きなデュリンの言葉にレイは頷く。

 

「とりあえず、できた魚はティルフィングが食べると良いよ」

 

「そんな! マスターが食べるべきです!」

 

 唯一の成功の温かい焼き魚を二人は譲り合う。

 

「………………何してんの?」

 

 そんな二人の背後、音もなく忍び寄っていた銀髪のキラープリンセスが冷めた表情で二人を見下ろしていた。

 

「レーヴァテイン、目が覚めたんですね」

 

 ティルフィングは振り返り、レーヴァテインの姿を見て嬉しそうに笑いかける。

 

「おかげさまで……」

 

 嬉しそうにするティルフィングにレーヴァテインはまだ本調子ではないのか気だるい言葉を返す。

 

「マスター。紹介します。彼女はレーヴァテイン……

 私と彼女はファースト・キラーズと呼ばれているんです」

 

「ファースト・キラーズ?」

 

「誰かが勝手にそう言ってるだけよ。それで……こいつはティルフィングのマスター?」

 

 レーヴァテインは半目のジト目でレイを見つめる。

 

「えっと……」

 

 ティルフィングや村にいたキラープリンセスとは違う圧のある視線にレイは思わず首を竦める。

 

「あんた……私の事を“ゼロ”って呼んだわよね。あれはどういう意味?」

 

「え……?」

 

 レーヴァテインはレイに詰め寄って質問を重ねる。

 

「“ゼロ”って何? 誰の事?」

 

「いや……それは僕にもよく分からなくて……」

 

 レイはかいつまんで以前に見た夢の話をレーヴァテインにする。

 

「ふうん……異族とは違う魔獣……ティルフィングがいて大きなデュリンがいて、そして“ゼロ”って呼ばれていた男か……」

 

「もしかしてレーヴァテインの兄妹でしょうか?」

 

「はあ? 何言ってるのティルフィング。私たちに親兄弟なんているはずないわよ」

 

 ティルフィングが上げた可能性をレーヴァテインはあり得ないと一蹴する。

 

「ゼロ……ゼロね……」

 

 どうでも良さそうという態度を見せながらも、レーヴァテインは何度もその名を口で繰り返す。

 そうしていると不意に空腹を訴える音がレーヴァテインから鳴り響いた。

 

「…………いや、これは空耳だから」

 

 レーヴァテインは襟を引き上げて赤くなった顔を隠す。

 

「レーヴァテイン、お腹が空いているならこれを食べると良いよ」

 

 レイはティルフィングと目配せをして許可を得ると、焚火に当てていた魚の串焼きをレーヴァテインに差し出した。

 

「…………なにこれ?」

 

 レーヴァテインはそれを見つめ、冷ややかな目でレイを見る。

 

「ティルフィングと頑張ってなんとか作った焼き魚」

 

 自信満々にレイは答えるが、レーヴァテインは眉を顰める。

 

「いや焼き過ぎて焦げてるし、それに内臓はちゃんと取ったの?」

 

「え……?」

 

「え……?」

 

 レーヴァテインの指摘にレイとティルフィングは揃って首を傾げる。

 その姿にレーヴァテインは深々とため息を吐く。

 そして、今度は二つ空腹を知らせる音が鳴り響いた。

 もう一度はレーヴァテインはため息を吐くと、ティルフィングに尋ねる。

 

「魚はもうないの?」

 

「え……あ……川に石で囲いを作って、朝食用に生け捕りにしておいたものならありますけど……」

 

「それ持って来て、ティルフィングのマスターはお湯を沸かして、それからナイフと塩はどれくらいある?」

 

「え……えっと……」

 

 矢継ぎ早に指示を出し、レーヴァテインは嘆くようにため息を吐く。

 

「はあ……どうして私がこんな事を……ああ、めんどくさい」

 

 そう言いながらもレーヴァテインはティルフィングが持って来た魚を手早く処理して、二人が悪戦苦闘した串を一発で刺して固定し、焚火の火加減を読み取って魚を焼く。

 

「おお!」

 

「凄いです。レーヴァテイン」

 

 レイとティルフィングはレーヴァテインが焼いた魚を口にしながら、その出来栄えに感激する。

 

「随分慣れてるじゃない……レーヴァテイン、アンタのマスターはどこよ?」

 

 デュリンはそれを褒めつつもレーヴァテインに質問をする。

 

「私のマスターは…………今はいない……」

 

「そう……」

 

 言い淀むレーヴァテインにデュリンは事情を察してかそれ以上の追及はしなかった。

 

「どういう事?」

 

 レイは意味が分からずティルフィングに耳打ちして尋ねる。

 

「レーヴァテインはキル・オーダーに従って私の暴走したイミテーションを処理しようとしていました……

 ですが、レーヴァテインを誰かが探しにくる気配は周辺にないということは、おそらく彼女のマスターは……」

 

 そこまで説明されてレイも理解する。

 ティルフィングも自分のイミテーションが起こした悲劇を想像して申し訳なさに顔を俯かせる。

 

「じゃあレーヴァテイン。アタシたちと一緒に来ない?」

 

「デュリン!?」

 

 突然の提案にレイは驚く。

 

「はあ……? 何で私が?」

 

「見ての通り、マスターもティルフィングもまともに野営できないポンコツなのよ……

 だからせめてその傷が癒えるまで、アンタの知識を二人に教えて欲しいのよ」

 

「嫌よ、めんどくさい」

 

 デュリンの提案をレーヴァテインは即答で拒否する。

 

「そう言わずに……アンタだってマスターがいないと不便な事は分かってるはずでしょ?

 何だったらこいつのキラープリンセスにならない?」

 

「デュリン!?」

 

 あまりにも無神経な言葉にティルフィングは声を上げて咎める。

 もっともレーヴァテインは気を悪くする素振りはなく、あり得ないと首を振った。

 

「冗談はよしてよ……こんな能天気でお人好しが私のマスターなんかに……」

 

「あれ……?」

 

 レーヴァテインに睨まれたレイは不意に繋がった感覚に首を傾げた。

 それはティルフィングと比べるとか細い繋がり、だが村のキラープリンセスには感じなかったものでもある。

 

「うそでしょ……あり得ない……」

 

 レーヴァテインもその細く曖昧なレイのバイブスとの繋がりに戸惑う。

 

「何なのアンタ?」

 

「そんなこと言われても……」

 

 まだバイブスやティルフィングのマスターとしても自覚が薄く、記憶すらないレイはレーヴァテインの疑問に答えられるはずなかった。

 

「まさか本当に適合したの!?」

 

 そして言い出した当のデュリンもまた都合の良い偶然に驚き喜ぶ。

 

「幸先良いわね。こんなに早く二人目のキラープリンセスを見つけられるなんて!」

 

「ちょっと、私はまだこいつをマスターだなんて認めてないから。バイブスとの繋がりだってなんか半端だし」

 

「大丈夫、大丈夫……総本山に着くまでには何とかなってるでしょ!」

 

「総本山って……まさか洗礼すら済ませてないの!? ああ、もう何で――っ――」

 

 楽観的なデュリンに対してレーヴァテインは嘆こうとして傷の痛みに呻く。

 

「レーヴァテイン、とりあえずマスターになるかは一先ず置いておいて、君の傷が治るまで一緒に行動するのはどうかな?」

 

「…………」

 

 その提案にレーヴァテインはレイを睨む。

 

「デュリンが言う通り、僕はマスターとして本当に何もできないから、旅の仕方を教えてくれたらありがたいし……

 僕達もここで怪我をしているレーヴァテインと別れるのは気掛かりだから……」

 

「…………」

 

「そ、それじゃあダメかな?」

 

 圧のある視線にレイは怯みながら答えを促す。

 

「……………ゼロ……」

 

「え……?」

 

 小さな声で呟いたレーヴァテインの言葉はレイには聞こえなかった。

 

「……まあ良いわ。少しの間、あんた達と一緒に行動して上げる。ただし、私はあんたをマスターだって認めたわけじゃないんだからね」

 

「うん、ありがとう。これからよろしくレーヴァテイン」

 

 差し出した手は無視されるが、それ以上の拒絶は無かったことにレイは苦笑する。

 

「あ……ティルフィング。そんな感じになったんだけど……良いよね?」

 

 レイは遅れてティルフィングにレーヴァテインを仲間にする事を伺う。

 

「はい……マスターとデュリンの判断は正しいと思います」

 

 ティルフィングは影を感じさせる雰囲気を醸し出しながら、レイの確認に頷く。

 

「ティルフィング、何か不満があるならちゃんと言って欲しいんだけど」

 

「大丈夫です。レーヴァテインを仲間にすることに不満なんてあるはずありません……ただ……」

 

 言い淀みティルフィングはレーヴァテインが作った焼き魚と自分が作った焦げた物体を見比べる。

 同じ“ファースト・キラーズ”と呼ばれている者でありながら、戦闘力とは別の差にティルフィングは落ち込む。

 

「マスター!」

 

「ティルフィング!?」

 

「私、頑張りますっ!」

 

「う、うん……」

 

 落ち込んでいる様子から一転して気合いを入れるティルフィングにレイは困惑するのだった。

 

「はあ……本当に何でこんなことになっちゃたんだろ……めんどくさい」

 

 そんな二人にレーヴァテインは口癖のようにめんどくさいと繰り返した。

 

 

 

 

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