転生者。
それは前世の記憶や技能を保ったまま産まれた、あるいは何らかの切っ掛けで思い出した者のことで彼、「
典正は最初、前世の記憶を持っていなかったが、ある切っ掛けから前世の記憶を取り戻した。その切っ掛けとは彼が十歳の時に「デュエルモンスターズ」というカードゲームの、ある一枚のカードを手に入れたことだった。
デュエルモンスターズ。
全世界の人々が熱狂し、今やプロスポーツとされているカードゲーム。このゲームを開発したペガサス・J・クロフォードは、過去に自らが調査した古代エジプト文明の遺跡にあった無数の石板から、デュエルモンスターズのカードの着想を得たと言う。
この古代エジプト文明の石板は、当時の「魔術師」と呼ばれる者達が人々の心から生まれた、あるいはこことは違う世界からやって来た魔物や精霊を封じて使役するためのもので、それをモデルにしたデュエルモンスターズのカードの中には特別な力を持つカードが存在した。典正が手に入れたカードも、そんな特別な力を持ったカードの一枚であった。
カードを手に入れた典正は気がつけば自分が今までいた世界とは違う、「精霊界」と呼ばれる魔物や精霊達が生きる異世界……その一つに転移していた。彼が転移した精霊界では二つの精霊の勢力が戦いを繰り広げており、典正はその片方の勢力の精霊達に「
精霊界に生きる魔物や精霊は、他者に一度封印された後に魔力を与えられて召喚されると真の力を発揮することができ、その魔物や精霊を召喚できる魔力を持つ者達は精霊界では決闘者と呼ばれていた。典正に協力を頼んだ精霊達と戦っているもう一つの勢力の精霊達、もし彼らが勝利すればその影響は精霊界だけではなく彼が生まれた世界にも及び、大きな災害が起こると言われた典正は精霊に協力することを決意すると、一人の決闘者として精霊達の戦いに参加した。
典正が力を持つカードの力を借りたとは言え精霊界に転移できたのは、彼の前世がかつて強大な力を持つ「敵」と戦うために今協力している精霊達と契約を結んだことがある魔術師であったからで、精霊達の戦いを経験していくうちに彼は前世の記憶と魔力を徐々に取り戻していく。
そして典正と彼が協力した精霊達が勝利して、典正が元の世界に戻ろうとした時、彼の前に一人の人物が現れてこう言った。
「俺達の世界に危機が訪れている。君の力を貸してくれ」
典正にそう言った人物は、デュエルモンスターズを遊んだ者であれば知らない者がいない決闘者の王と呼ばれる人物で、彼との出会いから典正は世界の命運を賭けた決闘の運命に巻き込まれることになったのである。
☆
その日、典正はタクシーに乗ってある場所に向かいながら携帯電話である人物と話をしていた。
《そうなんだ……。それじゃあ、もう一人のボクは突然いなくなってしまったんだね?》
「はい。少し前まで一緒にいたんですけど、突然『気になる気配がする』と言ったと思ったらいなくなってました。……すみません」
《ううん。気にしないで。もう一人のボクはちょっと自由なところがあるから仕方がないよ》
典正が頭を下げて謝ると会話の相手は携帯電話の向こう側で苦笑を浮かべてそう言った。
《でもちょっと困ったな……。もう他の三人は試験会場に来ているのに、もう一人のボクがいないって聞いたら『彼』は間違いなく怒るだろうね》
「そ、それはそうかもしれませんね……」
会話の相手の言葉を聞いて典正は、その人物が烈火の如く怒る姿が容易に想像できて僅かに口元を引き攣らせる。
《とにかくもう一人のボクを見つけたら教えてね?》
「はい。分かりました」
そう言って携帯電話を切った典正が何となくタクシーの窓から外を見た時、彼の目に必死に走っている彼と同い年くらいの少年の姿が目に映った。
「………!? すみません! 止めてください!」
少年の姿を見た典正はとっさにタクシーの運転手にそう言い、タクシーが止まると窓から顔を出して走っていた少年に声をかけた。
「そこの君! もしかして君も『デュエルアカデミア』の受験生?」
デュエルアカデミアとは、大勢の観客達の前でデュエルを見せるプロのデュエリストを育成する学園であり、典正はそこの入学試験を受けるために試験会場に向かっている途中であった。
「え? 君もってことは、お前も受験生なのか?」
どうやら典正の予想は当たっていたらしく、その少年もデュエルアカデミアの入学試験を受けるために試験会場に向かっていて、少年の言葉に典正が頷く。
「そうだよ。良かったら一緒に乗って行かない?」
「本当か!?」
典正がそう言うと少年は助かったという笑顔を浮かべてタクシーに乗り込み、タクシーが再び走り出すと少年が典正に話しかける。
「いやー、助かったぜ! こんな日に限って電車が遅れちゃってさ。試験に間に合うかどうかギリギリだったんだよ。ああ、俺『遊城十代』。よろしくな」
「俺は始波典正。こちらこそよろしく」
遊城十代と名乗る少年と挨拶を交わした典正は、十代を観察しながら心の中で呟く。
(やっぱりだ……。彼の魔力は普通の人とは比べ物にならないくらい強い。それに彼からは精霊の気配も感じられる。……遊城十代、彼も俺と同じ魔術師の転生者なのか?)