話しかけてきたのは一人の男子だった。でも、こんな人居たっけ? それ以前の問題で何かこう……存在感が薄いっていうか……自分が無い?
「えっと、吉井で合ってるよ…な?」
「あ、うん。そうだよ、君は?」
「ああ、俺は西崎白野」
そう名乗った西崎君は黒い髪に黒い目、服装はこの学校ならどこでも見る文月学園の制服、はっきり言って無個性過ぎない?
「何か用事かな?」
「ウチのクラスに新入りが入るってことで案内に来たんだ」
「そっか、Sクラスの人?」
「ああ、そうだよ。よろしく」
差し出された西崎君の手を握って握手をした。
「よろしくね。鉄人は封筒に案内が入ってるって言ってたけど入ってなくてさー」
「地図作った奴がうっかり忘れたらしい。気にしないでくれ」
うっかり、まあ誰だってうっかりすることはあるよね。
「それじゃあ、案内するぜ。暦、行こう」
「ああ」
今まで気が付かなかったがもう一人いたらしい。黒髪にいわゆるアホ毛と呼ばれるくせっ毛、目の色は綺麗な赤、そして黒い学ランなんだけど学ランは校則的にありなのかな? それから身長が割と小さい、秀吉ぐらいかも。
「僕は阿良々木暦。阿るに良いを二つ重ねていまだ木工足りえずの木、それに暦で阿良々木暦だ。よろしく」
「よろしくね。阿良々木君」
その後もちょっとした雑談をしながら曲がり角を曲がれば信じられない光景に出くわした。
「え、ウチの学校ってこんなとこあった?」
「あった……にはあったぜ? なあ、白野」
「ああ、ここは一応一年生は通行禁止になっているから知らなくて当然だよ」
「あ。あれかぁ」
一年の頃はこの辺立ち入り禁止だった。うん、だった。でも、壁しかなかった記憶があるんだけど。
そのことを聞いてみたら二人は冷や汗をかきだした。
「そこら辺にはいろいろと事情が……なぁ」
「あ、ああ」
「そ、そうなんだ」
二人のうろたえっぷりにこっちまでしどろもどろになってしまう。
「わんっ! (明久!)」
そこにわんこの声が響き、僕は現実へと引き戻された。
「(どうかしたの?)」
「わぅ(早く行こうよ)」
うん、何て冷静なお言葉。そうだよね、わんこがいる時点でこれくらいのことは気にしちゃいけなかったんだ。
「早く行こう。こんなの気にしてたら序の口ってやつでしょ?」
「吉井って意外にも図太いんだな」
「しょうがないじゃん。ここ一か月ぐらいずっと超常現象起こりっぱなしだし、さらにいったら八年前もこんなのあったし」
「何か僕が言うのもなんだけどさ。吉井君ってありえない現実歩いてるね」
「現在進行形だけど? それが何か?」
人間逞しくなきゃ生きていけないよ?