「黒い箱」から回収された手書きの文書
連邦宇宙歴何年だろうな?4月30日
正直これが回収されることは期待しちゃいないが一応書き残しとく
これを読んでるあんたは俺達の境遇を知らんだろうから軽く説明する
簡単に言えば俺達は何でも汚染して同化しちまう化け物との戦争に負けた
生き残った知的生命体は全ての種族を含めて10億を切って、生存可能な惑星も全滅した
だからこの宇宙を吹っ飛ばすことにした
ビッグクランチってやつを人為的に起こすのさ
それを逃れる為に俺達はこの脱出用ステーションで亜空間に逃れたって訳だ
時間計によると俺達が脱出してから99999999……999999……99……99999年経ってるらしい
言っとくがこれが正確な数字だ 分かるだろ?もう観測不可能なくらい時間が経っちまってるんだよ
しかも次元を移動したかも知れんから、ここが俺達の宇宙の延長線上の世界じゃないかも分からないんだ
で、前置きはここまで
今、ステーションの周囲に生存可能な惑星は観測されてないし惑星改造が可能なほどの物資も残ってない
工場を動かす資材にも事欠く有様だ
脱出した生き残りも、半分は冷凍保存されてる間に死んだ
残った連中も半分以上起きてこない
だから、俺達は残った船でここを脱出して住める場所か資源利用可能な星を探しに行く
寝てる連中には悪いが残った物資は全部持ってく
起きた奴、これを読んでも恨まないでくれよ 俺達だって必死なんだ
もし今後余裕が出来れば必ず戻って来る
生きてれば絶対助けるし、死んでても供養くらいはしてやる
これを見つけた未来の不幸な連中へ
あんたがこれを読んでるなら俺達はここに戻って来れなかったってことだ
残ったデータやものは好きに使っていいしこの施設を好きに利用して構わないから、死んだ連中だけは弔ってやって欲しい
これで書きたいことは全部だ
ともかく出発だ
俺自身がコイツを破り捨てる未来に賭けとくぜ
じゃあな
―グラシム・マスタード少尉
「黒い箱」から回収された音声ファイル
〈重低音〉
女性アナウンス:『12番ブロック深層亜空間投入完了。続いて13番ブロック投入開始』
〈自動ドア開閉音〉
少女の声:「コマンダー・サイボーグNo.32033、(解析不能)、出頭しました」
老人の声:「やぁ、(解析不能)、間に合ってよかったよ。お茶は如何かな?」
〈断続的な爆発音〉
少女の声:「ドクター、今日くらいはおちょくらずに本題を先に願います。私は一刻も早く配置に戻らねばなりません」
老人の声:「急いでも仕方あるまいよ。ここが終わっても君らには次がある」
少女の声:「その為に私達は造られたのです」
老人の声:「全く。前々から言ってるだろう、もう少し頭を柔らかく、な」
〈断続的な爆発音。時々砲声が混じる〉
女性アナウンス:『13番ブロック崩壊、直ちに避難を開始してください。14番ブロック投入開始』
〈さらに1分53秒の沈黙。遠くで爆発音が響いている〉
老人の声:「ワシは、君らに幸せを与えてやることが出来なかった。戦いの為だけに生み出して、消費してしまった」
少女の声:「ドクター」
老人の声:「せめて……君だけでも……」
少女の声:「ドクター、人造人間の脱出は認められていません。脱出幇助は連邦法により反逆罪が適用されます」
老人の声:「なぁ、(解析不能)、ワシは君を娘のように思っている。君だってワシのことを嫌っている訳ではないだろう?親孝行と思って……」
少女の声:「だからこそです、ドクター。最後まで消費し尽される私の願いですドクター、生き延びてください。このブロックに居れば必ず脱出出来ます。だから私は……」
老人の声:「そうか、それを聞いて安心したよ」
〈放電音。後、何かが落ちる音〉
老人の声:「これを聞いている者に……いや、止めとこう、何万年後か別の宇宙の話だしどうせ言葉も通じんだろうしな」
〈34秒の沈黙〉
「……この娘を頼むよ」
〈自動ドア開閉音〉