皇国歴407年
元皇子であるエオニア・トランスバールが現皇王ジェラール・トランスバールより王位を取り戻そうと起こした反乱が鎮圧された直後、皇国宇宙軍にて一つの論文が提出された。
「領域外知的生命侵攻時迎撃要綱」
題名こそ迎撃要綱とされていたが、それは悪意と皮肉に満ちた言い回しだった。
今次反乱は、エオニアに共謀しているかに見せかけていたシグルド・ジーダマイア少将が開戦直後に反乱軍から離反した為皇国軍の大勝に終わった。
謀略ありきの勝利であったにも関わらず、皇国軍上層部は「皇国軍の強さこそ勝利の要因」と錯覚したのだ。
そこで、ジーダマイア少将の謀略が存在しない場合のシミュレーションが行われた。
それが第一章。
当初から反乱を察知していた場合から奇襲を受けた場合まで数多くのシミュレートがされた。
結果の大半は「反乱の鎮圧に成功した」。
文字通り捉えれば皇国軍の自信を裏打ちするものだが、実態はインフラの壊滅、惑星間ネットワークの崩壊、人口の30パーセント以上が死亡等、国家運営が不可能となる程の壊滅的な被害が付随してのものだった。
奇襲を受けたならば、皇国軍は何も出来ないまま壊滅するという判定もされた。
これらのシミュレート結果は上層部に冷水を浴びせる結果になったのは言うまでもない。
さらに追い打ちをかけたのが本題である第二章。
「白き月」に匹敵するロストテクノロジーを入手した皇国と同規模の星間国家が存在した場合。
何十年も前から議論されていたことだが、荒唐無稽として真面目に検討されることの無かった事案であった。
しかし、今日まで無かったことが明日も起こり得ないというのが甘いことくらい今回のエオニア反乱で誰もが学んだ。
そこから弾き出された結果は、最悪の一言だった。
相手が友好的でない場合はあらゆる状況において皇国が消滅する結果に終わったのだ。
それは占領であったり殲滅であったり様々な形であったが、皇国という政治体制が消えて無くなるということには変わりが無かった。
平時であれば全てまとめて荒唐無稽とされたであろうが、エオニア反乱の直後であったというのが功を奏した。
事態を重く受け止めた皇国軍……特に宇宙軍は戦力の強化を開始した。
プロジェクト・ジェネラル
近年確立された新技術を応用して開発された新型機関、新兵器及びそれを搭載した新型艦、新型機動兵器の建造及び生産ラインの確保。
各種新兵器を用いた新戦術の策定。
軍の再編、効率化。
そして、領域外宙域の調査。
これにより皇国宇宙軍の戦力は大きく底上げされた。
プロジェクト・ジェネラルにて新設計された兵器はこれまでの皇国兵器とはかけ離れた戦術思想の下に設計されることとなる。
艦艇においては何より根幹に、「黒い箱」から回収された新技術である超時空弦融合機関……通称「C.S.F.E」を搭載することにあった。
これ以前の超時空弦推進機関、通称「C.S.E」はリング状に閉じた宇宙弦を重力制御で補足してクロノ・ストリング反応を起こし超高エネルギーを発生させるという機関だ。
しかし、クロノ・ストリングは確率的にエネルギーを放出する為、突然凄まじいエネルギーを放出することもあれば次の瞬間には放出をやめることもある。
つまり、1つのクロノ・ストリングが放出するエネルギーは非常に不安定でありそのままでは使いものにならない。
安定したエネルギーを得るためには放出の周期が異なる複数のクロノ・ストリングを集めて確率を平均化する必要があり、その数は膨大……つまり機関は巨大化する。
それに対し「C.S.F.E」は、一定条件下で2つ以上のクロノ・ストリングを超光速で衝突させ融合、活性化、人為的にエネルギーを発生させる機関だ。
これにより極少数のクロノ・ストリングで安定したエネルギー供給が可能となり、さらに高出力を発揮することが可能となった。
開発……正確には復元……は皇国歴360年初期には開始されていたが、回収されたデータが歯抜けだらけだったことや技術的な問題等で完成が遅れていた。
本来なら機動兵器に搭載出来るほどの小型も可能な筈なのだが、現在の皇国の技術力では再現不可能であった。
それでも、これまでのエンジンと比べればかなり小型化されたのも事実。
クロノ・ストリングを収めたシリンダーの数が大きく減ったことで信頼性も向上し、軍用艦艇には持って来いの機関と言えた。
機関の高出力化により艦載兵器も大きなパラダイムシフトを起こすこととなった。
これまでの艦砲は多連装で速射性に優れた砲の連続射撃によって敵艦を圧倒することが目的だったが、シールドの大幅強化によって有効打が与えられなくなってしまう。
多連装速射式は廃止され、大口径を単装か多くて連装とし、長射程から単発でも貫通力に優れた破壊力のある射撃方式で新型のビーム砲が開発された。
各種誘導弾の小型化も進み、発射装置の小型化、弾薬携行数の増大と戦闘能力を少なからず底上げした。
そして何より機動兵器に対抗すべく近接防御火器……ファランクスの多種多様化と搭載数の増大は大きな変化だった。
これは航宙機動兵器が艦艇に対して十分脅威に成り得る証左であったと言える。
その新型機動兵器の開発は大きく二つの計画に分けられていた。
シルスタイプ戦闘機の後継機とされる高速かつ高機動の中型機。
もう一つは、艦艇や軍事施設に十分な打撃が与えられる大型機。
これらは大成功を収め、高速高機動軽戦闘機と大火力重戦闘艇(しかも低コスト)を生み出し、皇国宇宙軍の戦術、戦略を大きく変更させる要因となった。
これらの母艦の整備も進み、皇国宇宙軍航宙艦隊は大規模な組織改編へと至ったのであった。
そして、これらに勝る重要な計画……新型機関や新兵器開発もこの為にあったと言っていい。
皇国の外に生きている文明はいるかどうかの調査だ。
数年に渡る大規模調査を行う巨大な調査艦、それらに付き従う護衛艦、護衛機。
しかし、この計画だけは頓挫した。
元から反対派も一定数存在していたことも様々な思惑が存在したことは否定しないが、最大の理由は予算不足だ。
装備の全面換装や組織改編により多大なコストが費やされた為、領域外への調査にまで手が回らなくなってしまったのだ。
軍隊の最大の敵は予算とは誰が言ったか。
建造中だった探査用大型母艦は戦艦への改装が決定し、410年には工事が開始されたのだった。