先生と空崎ヒナの結婚生活   作:シャーレの先生

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ブルアカのエデン条約編3章を読んで空崎ヒナと結婚したくなったので、「先生と空崎ヒナの結婚生活」を書きましたが、ミカのモモトークを読んだらミカはミカで心配になったので、「先生と空崎ヒナの結婚生活」の続編としてミカのことを書きました。
続編ですが時間軸としては数年遡っています。ややこしいですね。
実質ミカのモモトークへの返歌です。


屋根裏のお茶会

「そういえば先生、結婚してもう何年になるんだっけ?」

「えーっと、……。3年目かな?」

「ふ〜ん、じゃあ、そろそろ倦怠期ってやつだ?」

 ミカがここぞとばかりにクリクリっとした目でこちらを見つめて来る。

 それを無視して、一般常識の話にすり替える。

「3年目くらいまではまだ新婚じゃない?」

「……。3年目はもう新婚じゃないよ」

「……。」

「長くても1年くらいだよ」

 夢見がちなことを言いがちなミカに、そう冷めた一般常識を突きつけられると、ショックが大きかった。そりゃまぁ確かにドライなタイプの生徒には鼻で笑われそうだったから新婚がどうとか言わないようにしてたし、偏りのある価値観なのは自覚あったけどさ。でもハナコとかは新婚夫婦だっていつも言ってくれてるし。だから補習授業部では半分冗談で新婚がどうとか言ってたけど、実際どうなんだろう。一回ヒフミ一人だけのタイミングで確認してみた方がいいかもしれない。

 ミカを牽制するつもりが、私の天然が爆発してしまったので、勢いで誤魔化しにいくことにする。まぁ牽制にはなってるから良しとしよう。

「それに私とヒナの間に倦怠期なんてありません! いつまでもラブラブ夫婦なのです!」

「先生がそう思いたいだけなんじゃないの〜〜?」

「そう! そう思いたいんだ。だからそう信じ続けて、そうなるための行動をし続けることが大事なんだよ」

「セイアちゃんみたいなこと言わないでよ。先生まで」

 ミカは抗議の意味を込めてか、残り少ないアイスティーをストローで啜り音を立てる。

「セイアとナギサは、随分このお茶会に来れてないな。ミカは二人と会ってるの?」

「もうぜ~んぜん。いいよ。あんな二人なんて来なくって。口うるさいだけだもん。私は先生が来てくれたらそれでいい」

 私はおかわりのアイスティーを作りながら、軽くお説教をする。

「駄目だぞミカ。友達を悪く言っちゃ。本当はセイアのこともナギサのことも大好きなくせに」

「……別にそんなんじゃ、……。って言うと、『そういう嘘は私は嫌いだな』でしょ? はいはいわかりました。私は二人のことが、何かあったら命だけは助けてあげようと思うくらいには大好きです。これでいい?」

 ナギサとセイアに同じことを言ったら、互いに同じような返事しそうだな、などと思いながら、アイスティーを注ぐ。

 仲が良いのか悪いのかわからないが、これが彼女らの友情の形なのだ。

「何をしてでも死んで欲しくないくらいのことが言えないのかねキミたちは」

「先生がいる限り、そんなこと起きないって私知ってるもん。信頼してるよ。先生」

 このお茶会は誰が呼び始めたのか、屋根裏のお茶会と呼ばれ、旧ティーパーティーのメンバー、ナギサ、ミカ、セイアがこっそりと定期的に集まって、政治的立場を抜きにして、友人としての親睦を深めようという趣旨の会だ。メンバーのうち二人が不参加になると一人で参加することになるため、その場合は私が呼び出されがちだが、最近はミカとの二人の会になってしまっている。

 キヴォトス中で事件は絶えないが、御多分に漏れずトリニティでも色々な事件があり、公的な立場であるナギサとセイアは忙しくしていた。まぁあれだけのことがあれば仕方ないとも言える。

 その後も他愛もない雑談をしながらミカの近況を確認し、問題ないとわかったので、本題を切り出す。

「ところで実は、今日は少し話たいことがある」

「うん。なになに?」

 ミカは顔をキラキラ輝かせてせて答える。

 私は鞄から取り出したファイルを机の上に滑らせる。

「トリニティとの関係を強固なものとするために、私は教会の信徒となって、毎週礼拝に参加している訳だ。実際はそれにかこつけてナギサやセイアと会議したり依頼を受けたりしているのがメインなんだけど」

「うん。今日もそれで、空いた時間に優しい先生は屋根裏まで来てくれたんだよね。薄情な二人とは違って」

「いや、あの二人、想像を絶するほどバカ忙しくしてて、ナギサとかもう、白目剥いて働いてたからね。ミカも今度あったらちゃんと優しくしてあげな。あの二人は大変だよ」

 今度はミカはとぼけた顔で誤魔化そうとする。

「それで? この書類はなに……?……。……。わーお、トリニティの外に教会作るんだ。D.U.って、ほとんど先生のための教会ってこと?」

「私のためって訳じゃないし、会議が日曜日に集中するのも逆に効率悪くなってきたとか、トリニティの外に教会作る政治的意図とか利益の話とか色々あるんだけど、ミカはそういうの興味ないだろうし、そういうところを頼みたい訳じゃないから説明はしない。ともかく、ミカは『トリニティの外に教義が広まるのは素敵だな』って思っておいて欲しい。」

「うん。それは素敵なことだと思うよ」

「そう。そんな素敵なところで、ミカも奉仕をしてみませんか? っていう提案を、今日の私は持ってきたんだけど、どうかな? もちろん他にやりたいことがあるならそっちを優先させてくれて構わないけど」

「ううん。私、この書類見て、ここに行ければいいなって。そうすれば今よりももっと先生の側にいられるのにって。そう思った」

 ミカはいつもの、“私のことを口説こうとするときの顔”で私に言う。

「でも、なんで? 私がここに行きたいなって言ったら、先生はきっと『自立しなさい』って言うと思った。『友達を作って、自分でやりたいことを探しなさい。それはミカ自身にしか出来ないことだから』って」

「まぁそうなんだけどね。そうは言っても、現状ミカがトリニティのいくつかの派閥からは露骨に嫌がらせを受け続けてるのは事実で、友達作りも難しい状態が続いてる。ナギサもセイアも、ミカを助けたい気持ちはあるけど、ミカを特別扱いするのは二人の立場的にも許されない。元ティーパーティーという格と、パテル分派の代表という権限を持ちながら、実際には政治的な力はないし、政治に関わらせちゃいけない。この複雑な状況で、誰もがミカの扱いを持て余してるし、ミカが自分の努力だけでこれを解決するのはやっぱり難しいと思うんだ。だから、トリニティの派閥や政治とは離れたところで、頑張ってみるチャンスなんじゃないかと思ってね」

「……。」

 ミカは少し俯いて黙る。私は紅茶を飲みながらミカの言葉を待つ。

「私、嬉しい。先生が本当に私のために私のことを考えてくれたの。

 なんで先生はそんなに優しいの……?」

「私はシャーレの先生だからね。みんなのために、みんなのことを考えるのが私の仕事なんだよ」

 ミカは自分が望んでいた言葉を貰えなかったことに、少し不満げだが、ミカとしてもいつものことなので、仕方がないと諦める。

「ただこんなことを言っておきながら、私は教会の人事権とかはないし、例えあったとしてもミカを特別扱いする気はない。

 ミカがこの教会に行きたかったら、正規の手順を踏むんだ。公式にこの教会の募集が来たら自分から寮長に頼んで推薦をしてもらって志願をして、試験と研修に合格しなければいけない」

 サッとミカの表情が曇る。ミカの表情はわかりやすい。「それなら私じゃ駄目だ。私が選ばれるわけがない」顔にそう書かれている。

「ミカは寮長がなんて呼ばれてるか知ってる?」

「呼び方?」

「“誰よりも模範的で敬虔な信徒”。この権謀術数の渦巻くトリニティで、誰よりも清く正しいと言われてる人だ。あの人の前では、正論が正しく正論として機能する。ミカが正式に手続きをすれば正式に通るから、あとはミカの頑張り次第だ」

「へー、あの頭が硬くて正論しか通じない寮長、偉かったんだ?」

「正論を正論として通して物事を良くしようっていう考え方、めちゃくちゃ良いことじゃん?

 それ、ミカがアリウスにしようとしてたことだよ。『トリニティの仲間なんだから仲良く出来ないのかな?』って。ミカの正論がアズサをトリニティに編入させてくれて、結果的にアリウスの皆が救われた」

 償っても償いきれない、――少なくともミカ自身はそう考えている、罪を思い出して、ミカは顔を伏せる。

「私はね、ミカ。あのときミカは、いっぱい悪いこともしたけど、結果的には良かったことだっていっぱいしたんだよ。よく考えてご覧? ミカのこととは関係なく、アリウス、というかベアトリーチェはテロを企ててたし、ヘイローを破壊する爆弾なんてものを作っていた。でも結果的にセイアは無事だったし、ナギサも無事だったし、アリウスのみんなも無事に助かった。誰も損していない、万々歳の結果だった。だから自分のことを褒めてあげていいと思うよ。少なくともアリウスに手を差し伸べて、アズサをトリニティに入れたのは、間違いなくミカの功績なんだからさ」

「私は先生に褒めて欲しいな」

「私だって褒めてるさ。ミカは偉いよ。よく頑張った。寮暮らしもあんなに規則が厳しいのに、よくやってる。そのおかげで試験に通れば希望の進路に行ける。これはミカが自分で勝ち取ったものだ。凄いことだよ。だから寮長のことも、ミカの頑張りも、誇りに思ってあげなさい」

 ミカは納得していないようだが、まんざらではなさそうだった。少なくとも先程のような陰は表情から消えた。

 ミカはため息を吐いて一言。

「なんか今日の先生、説教臭い」

「そ、そうかな。……。それはごめん。でもこれは、ミカのこと期待して言ってるんだからね。

 ……。この一言が説教臭かったな。じゃ、別の話にしよう。ミカ、何か話したいことある?」

「えー? なんか先生が面白い話してよ。奥さんの話以外で」

「奥さんの話禁止? え、難しいなぁ。

 じゃあこないだ、ナギサに会いに行ったとき、どっからか借りてきたらしいシンセサイザーがあって、なんか可愛いフューチャーベースっていうのかな? ナギサのイメージとは全然違う曲弾いてて、何弾いてるのか聞いてみたら『ある人をモチーフに作曲してみた』だって。ナギサって作曲の才能もあったんだね。昔からそういうことやってたの?」

「……。もー。ナギちゃんとセイアちゃんとの話題も禁止! 先生話題の選び方下手すぎ! てかデリカシーがない!」

 その後ミカから女の子と話すための話題の選び方講座が始まった。私に説教をされていた意趣返しか、今までのありとあらゆる会話について滾々とダメ出しをされた。正直若い女の子との喋り方について、けっこう勉強になった。

 屋根裏のお茶会として予定されていた時間は過ぎ去り、別れ際、ミカは太陽に手を伸ばしながら言った。

「私、勉強頑張る。これにはさ、ティーパーティーに入るために身に着けたこととはまた違う勉強が必要だし、ほら、私ってお姫様だから、ちょっと普通の生活を知らないっていうか? ズレてる? みたいなとこあるから、そーゆーのも、ちゃんとしないといけないじゃん?

 でも、やってみようかな〜って思う。

 先生に、期待されちゃったしね」

「うん、それは、とっても良いことだ」

「じゃあね、先生」

去っていくミカの足取りは、いつもより軽かった。




ヒフミ「えっ? あれってそういうギャグじゃなかったんですか? ……。でもいつまでも奥さんのことを大切にしていらっしゃることは、とても素晴らしいことだと思います!
 ずーっと新婚さんみたいな気持ちでいてくれる旦那さんなんて、私、憧れちゃうな〜、なんちゃって。あはは……」

露骨に気を使って答えたヒフミの乾いた笑いが、先生の心に小さな棘となって刺さった。
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