「先生、大丈夫ですかね?」
時計の針が動く音のみが静かに聞こえてくる一室にて、アヤネからポツリとそんな言葉が呟かれた。
彼女から告げられた"先生"は今ここにはいない、少し離れた空き教室でシロコが連れてきた謎の少女と話をしているのだ。
「アヤネちゃん心配しすぎだって〜」
「す、すみません。でもつい気になってしまって...」
「まあアヤネちゃんの気持ちもわかるけど...先生が大丈夫って言ってたし良いんじゃない?」
「ほらほらアヤネちゃん?お菓子食べますか〜?あーん?」
「は、恥ずかしいので止めてください!」
少しばかり重かった空気が和み、各々に笑みが溢れ始める。
「でも、先生はあの子の事知ってたんですかね?」
「どうだろ、見た感じは初めましてって感じだったけどね〜。シロコちゃんが電話した時も驚いてたんでしょ?」
「ん、びっくりしてた。...そういえば先生、トリニティで何かしてる途中だったけど、時間大丈夫かな」
「お仕事中ですもんね〜、前にもシロコちゃんが電話した時もそう言ってましたけど、先生も大変そうです」
「トリニティといえば、ヒフミさんお元気でしょうか?最近はあまりやり取り出来てませんし」
「また色々話したい、あの時のファウスト姿も久しぶりに見たいし」
「いや、あれは銀行を襲った時限定だったし....って、まさかまたそういう計画考えてるんじゃ...!」
「ん....気のせい」
ようやく彼女達の間にいつもの雰囲気が戻り、どこか安心した様子で溜息が溢れた。
「それにしても、もう三十分経ちますね...」
「私見てくる、もしかしたら変な事してるかもしれないし」
「あはは...先生に至ってはそんな心配はいらないと思うけど....お願いしていいセリカちゃん?」
「よろしくー」
セリカはそう言って立ち上がり部屋を出る。
「全く、そんなに時間はかからないって言ってたくせに....」
ぶつぶつと文句を言いつつも、内心ここまで時間がかかっている事を心配していた彼女はそんな気持ちを誤魔化す様に咳払いしながら、先生と謎の少女がいるであろう部屋の前までたどり着いた。
「ふぅ...」
一瞬息をついた彼女はそのまま扉に手をかけ...
「ちょっと、そろそろ終わった?先輩達も待ってるs.....」
いつも通りの態度で声をかけようとした彼女だったが、目の前の光景に思わず固まってしまった。
「せ、セリカ!?」
「....ぐすっ...」
まず目に入ったのは彼女が突然やって来た事に驚いている大人、そしてその大人の前で涙を流している少女...。
この光景を見たセリカの脳内は瞬時にある結論が導き出される。
「あ、あのセリカ?これはちょっと理由が...」
「っ!何泣かせてんのよっ!!!!」
「ぐぶぅっ!?」
まさに早業、一瞬でその場から距離を詰めたセリカは膝蹴りを繰り出し、それにより先生は勢いよく吹き飛び床に倒れ込んだ。
「大丈夫!?」
「え、あ...えっと」
「やっぱり様子を見に来て正解だったわ、まさかこんな小さい子を泣かせるなんて」
「あ、あの、違うんです...」
「えっ」
「そ、その人は私を...慰めようとしてくれて...」
「......えっ」
「ごめん、先生....」
「う、ううん、セリカのせいじゃないよ。私が紛らわしい行動を取ろうとしてたのが原因だから...」
それから暫くして、目を覚ました先生が最初に見たのは床に座り頭を下げるセリカの姿だった。
首からはいつぞやに見た反省中のプレートがかけられており、申し訳なさそうな顔を浮かべている。
「先生、大丈夫?」
「うん、ごめんね心配かけちゃって...それで....」
シロコの声に応えつつ先生は辺りを見渡すと、こちらを見つめる自然の中に件の少女がノノミの隣に立っているのを見つけた。
既に泣き止んでいる様でその顔にはもう涙は浮かんでいない、それを見た先生は内心ほっと息をつく。
「それで、彼女の事は何かわかったんですか?」
「えっと、それは....」
そう尋ねられた先生は一瞬口籠る、先程彼女が話した内容を五人にも告げるべきかどうか...そう悩んだ末に、ひとまず彼女がアリウス生ということは伏せながら話の一部を伝える事にした。
「...どうやらあまり良いとはいえない場所から逃げて来たみたいなんだ、彼女もそれについてとても恐れていてね。私からはあまり話せないんだけど....」
徐にソファから身体を起こした先生は五人を改めて見つめると
「それで、五人にお願いがあるんだ」
「お願い、ですか?」
「うん.....少しの間、彼女の事をここで守ってあげて欲しいんだ」
ノノミの隣に立つ少女に一瞬目を向けて彼女達に頭を下げた。
「本当ならシャーレとして対応するべきなんだけど、事情があって今はちょっと動きづらくて...でも彼女をこのままにする訳にはいかないのは承知してるよ」
「だからこれは私個人の勝手なお願いになってしまうんだけど、私が動ける様になるまで彼女を任せたいんだ....いいかな?」
彼女達は静かに考え込む、それから互いに顔を見合わせ頷くと先生の方に向き直り口を開いた。
「先生のお願いなら断る理由もないしね〜、それに元々この子をシロコちゃんが連れてきた時から見捨てる気も初めからなかったし」
「はい、安心してください。この子はちゃんと私達が見てますから♪」
「私も賛成です、事情はわかりませんが助けになれるのであれば喜んで」
「ん、任せて。しっかり鍛えて強い子にする」
「まあ先輩達が良いなら決定みたいなものだし...私も気にはなってたから」
「...ありがとう」
全員がそう言って快く引き受けてくれた事に感謝する先生、そうして彼女達に頭を下げた後ゆっくりと立ち上がると帰る支度をし始める。
「もう行かれるんですか?」
「うん、トリニティに戻らないといけないからね...少しでも何かあったらいつでも連絡して、可能な限りすぐ向かうから。じゃあまたね皆」
「はい、また♪」
「今度はゆっくり話そうね〜」
「お疲れ様でした、お仕事頑張ってください」
「ん、またね」
「やらかした私が言うのもアレだけど...お腹気をつけて戻ってね」
彼女達の言葉に頷き部屋を出ようとする先生、だが直前で振り返ると件の少女に声をかけた。
「君も、困ったときはいつでも連絡していいからね。私のモモトークは彼女達に聞けばすぐ教えてもらえると思うから」
「は、はい.....」
そう最後に言い残し、今度こそ部屋を出た先生はヒフミ達が待つトリニティ別館を目指し歩き出したのだった。