「それで、進捗はどうなっていますか?」
アリウス自治区の奥に位置する一室にて、ベアトリーチェは手元の紙を見ながらサオリに任務の経過を問いただしていた。
「アズサからは今の所問題は無いと聞いています、不自然な点は見当たらないと」
「そうですか...」
ベアトリーチェは彼女からの話を聞くと口元に扇子を当てながら黙り込む。
そんな様子を静かに見つめていたサオリ、暫くそのままの状態が続くがやがてベアトリーチェは紙を机に置くと口を開いた。
「いいでしょう、彼女にはそのまま監視を続けるよう伝えなさい。もう行っていいですよ」
「わかりました....マダム、そういえば1つお聞きしたい事が」
「何ですか?」
「....指導で倒れる人数が増えています、なのでもう少し手を緩めてもいいかの許可を確認を」
それはサオリが普段から他のアリウス生へ行っている指導内容の緩和の提案だった。
彼女は厳しい訓練がなければ生き残れないとは思っているが、それでも最近の消耗は想定よりも激しい。
以前ベアトリーチェがもう少し厳しく指導しろと言ったことも関係しているが、流石にこのままでは動ける者が減り続けるだけになってしまう。
「ふむ....ですがそれで成果が出ている者もいる以上、手を緩める必要はありません。貴方達スクワッドに近い実力を持つ者を増やすためです」
「ですがここ最近カタコンベの外へ逃げた者も何名かいます、そういう者が今後も増えてしまう可能性も...」
「彼女達はたとえ外に出てもここ以外では生きられません、どうせ最後には戻ってくることになる。何も問題ありません、そのまま続けなさい」
「....わかりました」
ベアトリーチェからの返答を受け、サオリはそれ以上何か言うことはなく頭を下げると今度こそ部屋を出て行った。
『与えられた監視任務については問題ない、たまにシャーレへ帰る事もあるけどそれ以外は私達と一緒にいる』
「.....」
ベアトリーチェのいた部屋から出て暫く、サオリは以前聞いたアズサの報告について思い返していた。
今彼女は補習授業部という組織に属しており、そこで他のメンバーと勉強をしているらしい。
彼女の報告では確かに任務をしっかりこなしている、だがそんな彼女が話す時の目や表情を観察していたサオリは背を向け去っていく彼女に思わず問いかけた。
『....忘れてないだろうな、[vanitas vanitatum] 』
『...ああ、全ては虚しいもの。どんな努力も、成功も、失敗も....全ては最終的に虚しいだけ.....一度も忘れたことはない』
『....そうか』
「.......」
あの時の自分は彼女の目の奥に何を見たのか、立ち去る彼女の背を見て何故ああして言葉を投げかけたのか。
....まさか置いていかれると思ってしまったのか。
「...馬鹿馬鹿しい」
サオリは自重気味に笑う。
何を恐れる事がある、今はただマダムの指示に従っていれば....
「リーダー、話は終わった?」
そう1人考え込んでいたサオリの背後からどこか感情が無い様な声が聞こえてくる。
「り、リーダー大丈夫ですか?」
振り返った先にいたのは自分と同じスクワッドのメンバーであるミサキやヒヨリ、そしてアツコだった。
(スッ、ススッ)
「....いや、大丈夫だ。体調は問題ない」
アツコが手話で心配してくるが、サオリはそれに首を振り答える。
「それより、他の奴らはどうした?」
「今はリーダーがいないから休憩させてる、結構皆クタクタだけど」
「そうか、ならすぐに訓練を再開させるぞ」
サオリはそう言うと他のアリウス生徒が待つ広場へと歩みを進める。
そんな彼女についていく様に3人も行動を始め、アリウス自治区内の時間が再び流れ始めたのだった。