トリニティ本校舎、その敷地内では今多くの生徒達が行き交う光景が広がっていた。
時刻は丁度14時頃、広場では会話に花を咲かせる者や、どこかで買ってきたのかスイーツを食べている子達も見受けられる。
「確か大聖堂はこっちだったような...」
そんな彼女達の中を私は1人マリーの忘れ物である本を片手に歩いていた。
途中声をかけてきてくれた子達に挨拶を返しながら進むこと暫くして、ようやく目的地である大聖堂に辿り着いた私はそのまま入り口に手をかけ中に入ると、広い天井に煌びやかに広がるステンドグラスが私を出迎えてくれた。
やっぱり何度見ても凄い、そう思わせてくれる光景に感心していると
「おや?そこにいらっしゃるのはもしかして先生ですか?」
遠くの方からそんな声が聞こえてきた。
「やあサクラコ、こんにちは」
「こんにちは先生...いえ、初めましての方がよろしいでしょうか?実際にお会いするのはこれが初ですからね」
私がその声に顔を上げると、そこにいたのは、やはりシスターフッドの部長であるサクラコだった。
「それで、わざわざシャーレの先生が大聖堂までお越しいただいた理由は何でしょうか?何かシャーレとしてのお仕事が?」
「そんな大層なことじゃないんだけどね、さっきマリーがこれを忘れていったみたいで届けに来たんだ」
彼女の疑問に答えつつ私は手元に持っていた本を見せると、サクラコは納得したように頷き頭を下げた。
「そうでしたか、わざわざありがとうございます」
「それで、マリーは戻ってきてない?」
「実は先ほど少し外を見てくると言って出たところなんです、もう少しで帰ってくると思うので、よければこちらでお待ちください」
「わかった、ありがとね」
その言葉に甘えた私は近くの長椅子に腰掛けて一息つく。
その間サクラコや他のシスターフッドの子たちを見ながらマリーを待っていると、大聖堂の扉が不意に開かれた。
「ただいま戻りました」
「お帰りなさいマリー、お疲れ様でした」
そこから現れたのはやはりマリーだった、彼女はサクラコに出かけていたときのことを報告しているようだ。
「マリー、そういえばあなたを待っていた方がいらっしゃいますよ」
「待っていた方?それって...あれ、先生!?」
彼女は驚いた顔をしながらサクラコから離れこちらに駆け寄ってくる。
「先生、どうしてこちらに?」
「はい、これ」
「?...あ、わ、私の!」
困惑しているマリーを前に私は本を手渡すと、彼女は恥ずかしそうにそれを受け取った。
「す、すみません!まさか忘れてしまっていたなんて...しかもわざわざここまで届けにきていただけるとは...ありがとうございます先生」
「大丈夫だよ、私も良い運動になったからね。じゃあ私はもう行くよ」
「は、はい!ありがとうございました」
「今度お時間がある時に、またいらしてください」
彼女にそう返した私はサクラコとマリーの見送りを受けながら大聖堂を後にする。
(さて、あとは合宿所に戻るだけだけど....)
折角ここまで来たし、おやつにケーキを買って帰るのもいいかもしれない。
...アロナが後で欲しがるかもしれないという考えでもあるが、丁度良いだろう。
そんな風に考えながら郊外のお店に向かおうと足を進めた瞬間。
「おや、まさかこのタイミングで君に会えるとはね。久しぶりに散歩に出てみたけれど、巡り合わせというのは不思議なものだ」
背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
その声に反応し振り返るとそこにはやはりセイアが立っていた、彼女のそばにはお付きらしき生徒が数名ついている。
「確か今は補習授業部の顧問をしている筈だが...何か用事でもあったのかな?」
「まあ、少しね」
「ふむ....折角会えたんだ、世間話の1つでもしていかないかい?」
そう言いながら僅かに目配せしているのを察した私は、ヒフミ達に少し遅れる旨を連絡すると、セイア達についていった。
「ここまででいいよ、ありがとう」
「わかりました。ではセイア様、ごゆっくり」
部屋の前でお付きの生徒と別れたセイアはそのまま私をその中に手招きし、そこに置いてあるソファへと座らせた。
「さて....こうして話すのもなんだが久しぶりな気がするね。最近はどうだったんだい?補習授業部の調子は」
「うん、皆一生懸命やってるよ。セイアも元気そうで良かった」
「部屋に篭りっぱなしなのも窮屈でね、さっきもそれで散歩していた所だったんだが....元気かどうかを聞くのはむしろ私のほうかもしれない。...隠しているかもしれないが、目に隈が出来ているよ」
「...あはは、バレちゃうか」
「まあシャーレの先生というのは元々激務なのは知っているけれど、それにしても今はあの子達の勉強を手伝っているんだ、少しくらい仕事を減らしてもらってもいいんじゃないのかい?」
「うん、でも私にできる事なら少しでもやりたいんだ。それにありがたい事に他の子達にも手伝って貰ってるからね、私が甘えたらそれこそ申し訳ないよ」
「...生徒想いというのも難儀なものだ、まあだからこそ慕われているんだろうがね」
セイアは自分と私の分の紅茶を淹れながら呆れた様に溜息をついている。
そしてティーカップをこちらに差し出すと同時に、私の目を見ながら告げた。
「それで、何か"異変"はあったかな?」
私はセイアの問いかけに紅茶を口に含みながら考える。
彼女が言っているのは、私がトリニティに来た時話した事についてだろう。
「....特に変な動きはないかな、今は殆どの時間を合宿所で過ごしているし」
「そうか、私の方も今の所問題はないよ。相変わらずあれから夢はあまり見なくなってしまったが....そのおかげか身体は楽になったかな、そういう点では異変があったと言えるかもしれない」
それからセイアは飲んでいたティーカップをテーブルに置くと、小さく微笑んで言った。
「それがずっと気になっていたんだ、まあ君が大丈夫と言うのならこれ以上聞くのも野暮だろう。それにあんまり君をここに拘束しているとあの子達も心配するだろうからね」
その言葉を合図に私とセイアは立ち上がると部屋の扉へと歩いていく。
「すまないね、本当ならトリニティの校門まで送っていきたいんだが...少し疲れてしまったんだ」
「ありがとう、セイアも無理しないでゆっくり休んでね」
「お互い様だね。それじゃあ、またいつか」
そうして袖を振るセイアを背にしながら、彼女の部屋を出た私はそのまま今朝の様に早足で合宿所へ帰っていったのだった。