アビドスで目覚めてから数日が経過したある日、早朝にシャーレで作業をしていた所シロコからモモトークの連絡がきた。
なんでもリンにお願いしていた物資が届いたそうでお礼もしたいから来て欲しいとの事。
元々今日は話し合いでこの後アビドスへ向かう予定だったため二つ返事で了承し、私は早速シャーレを出発した。
「あれ、セリカ?」
「げっ...」
そうしてアビドス校舎へ向かう道のりを歩いていた時、偶然セリカと出くわした。
「なんであんたがいるの!」
「えぇと、今日が話し合いの日だからだけど....」
「...そういえばそうだったわ」
私の返答を聞きあからさまに気まずい顔を見せるセリカ。
「それにシロコからも連絡がきてね、補給物資が届いたみたいだったから」
「知ってる、私にも連絡きたから...確かにそれに関しては感謝してるわ、でも!私はあんたの事を認めた訳じゃないから!」
ビシッとこちらに指を向けてそう宣言する姿を見てかつてのセリカもこんな感じだったなぁと思い出し、つい吹き出してしまう。
「ちょっと!何がおかしいのよ!やっぱりあんたなんか嫌い!」
「ごめんごめん、つい....あ、セリカ」
そう言ってセリカは私に目もくれずそのまま走り去ってしまった。
「....やっぱりセリカはセリカなんだな」
『先生....罵られて嬉しそうにしている先生はもしかしてドMという人なのですか?』
「アロナ、誤解をしてるみたいだからちゃんと話し合おうか」
アロナの誤解を解きつつ歩き続け、ようやくたどり着いたアビドス校舎。
「あ、先生!おはようございます!」
「ん、先生待ってた」
「おはようございます、先生♪」
「ふんっ!」
「おはよー先生ー」
こちらに駆け寄ってくるシロコとアヤネ、軽く手を振るノノミ、腕を組み顔を背けるセリカ、眠そうな顔で挨拶するホシノ。
校舎の入り口前には既に5人が揃っていた。
「おはようみんな。物資が無事届いたみたいで良かったよ」
「はい、本当に先生のおかげです!まさかあんなに送っていただけるとは予想していませんでした」
アヤネは手元の端末を操作し、画面を見せてくる。
そこには送られてきたであろう各物資の種類や数がまとめられていた。
...思ったより、というか明らかに多すぎる程の量がそこには書かれており、私も内心驚いてしまう。
(確かに処理する書類の数がやけに多いなとは思ってたけど)
あの時は途中からほぼ無心で書面と向き合う機械の様になっていたためよく覚えていなかったのだが、確かにこれなら納得の量だ。
リンも色々と手を回してくれたのだろう、なんにせよ沢山あって困る事はない。
「それでは今から会議を始めます」
その後全員で部室へと移動し、早速アヤネが切り出したのはアビドスを悩ませているヘルメット団について。
「カタカタヘルメット団は、以前からここを定期的に襲撃しに来ている集団です。今まではなんとか退けてきましたが、流石に私達も厳しい状況まで追い詰められてしまいました」
「でも補給品問題はなんとかなりましたね♪」
「ん、先生のおかげで助かった」
「私は別に大層な事はしていないよ、お礼なら連邦生徒会の方に言ってあげて欲しい」
「いえ、あの時先生がここに来てくれなければ現状はもっと酷いものになっていたと思います。ですから改めてお礼を言わせてください」
そうして再び全員から感謝の言葉を言われ、私はついつい気恥ずかしくなってしまう。
「でも根本的な解決はできてないわ、どうせアイツら性懲りも無くやって来るんだから!」
「本当にしつこい」
「そうですね、以前と比べて撃退は容易だとは思いますがこのまま続けられても何も好転はしません」
「ふっふっふー、それを解決できちゃうかもしれない作戦を思いついたんだよねー」
「えええ!?ホシノ先輩が作戦を!?」
「ほ、本当ですか!?」
「いやぁおじさんだってやる時はやるんだけどなぁ、流石にちょーっと傷ついちゃうよー」
落ち込むような素振りを見せたホシノは一つ咳払いをして全員に告げる。
「作戦は超簡単、こっちからヘルメット団の拠点を襲撃しちゃえばいいんだよ」
「わ、私達が襲撃?」
「そうそう、先生が居るから補給品の補充の心配はしなくていいし、それにアイツらだってまさか私達の方から攻めてくるなんて思ってないだろうからねー」
「た、確かに有効かもしれませんが.....」
ホシノ達の会話を他所に、私は別の事を考えていた。
(まさかヘルメット団の襲撃前にこちらが奇襲を仕掛ける事になるなんて....)
かつての記憶ではヘルメット団がここを襲撃し、それを退けた後に彼女達の拠点を攻撃する流れだった筈だ。
だがこの世界では、私がここを訪れてからヘルメット団の襲撃はまだ起こっていない。
それに先程確認した通り物資も揃っているため戦力としてはあの頃以上だろう。
(私が目覚めた時期も違っていたし、そもそも先日アル達にも出会っている...)
何かがかつての世界とはズレているのだろうか、私がそう思っているとホシノ達の会話は既に終わっていたようで全員が私の方を不思議そうに見ていた。
「先生、どうかしたの?」
「あぁごめん、ちょっと考え事をしちゃって...」
「全くしっかりしてよね!」
いけない、最近はつい考える事に集中してしまう。
私は謝りつつ、先程の話し合いの結果を尋ねた。
「はい.....今から全員でヘルメット団の拠点に攻め入ります」
「ねぇ、今日こそ上手くいくかな?」
アビドスのとある一画にて、ヘルメットを身につけた少女達が話をしていた。
「さあね、でもアイツらもギリギリだろうし今回ダメでも近いうちに降参するでしょ。ただちょっかいかけるだけで報酬が貰えるんだから楽なもんだよ」
「それもそっか、ならもう少し休憩してから......?」
突然コロコロと何かが転がってくる音に気づいた少女はその発生源を見る。
「これ......スモークグレネード!」
それに気づいた瞬間辺りに煙が充満し、彼女達の視界を奪う。
「誰が........うわっ!」
「おい!どうした...ぐっ!」
『はーい悪いけど眠っててねー』
そこに現れたのは巨大な盾とショットガンを軽く扱い突き進むホシノ
『ん、全員捕縛完了』
さらに彼女と一緒に行動していたシロコがそれぞれヘルメット団のメンバーを拘束していき、奇襲の成功報告がインカムから聞こえてきた。
「2人ともナイスだよ、ひとまず増援が来るまで身を隠して待機。ノノミは右側の広いスペースに、セリカは1ブロック先の遮蔽まで移動して」
『了解です〜♪』
『わかった!』
私はアロナのサポートで地形情報、シロコ達の位置などを把握しながら指揮を行う。
「敵増援、300メートル先に補足しました!」
「残り100メートル付近まで近づいたらノノミは一斉掃射......今!」
『全弾発射〜♪』
突然物陰から現れたノノミに対応できなかったヘルメット団が銃弾の雨に次々と倒れていく。
「ホシノ、シロコ、セリカ、3人とも今のうちに前進、それぞれ別れて射撃開始」
「くそ、舐めんなよ!!!」
ヘルメット団は反撃に出ようとするが、4人の攻撃の前には中々歯が立たないようだ。
『今まで散々やってくれたわね!ってあれ、弾が...!?』
「ホシノ!援護を!」
夢中で撃ち続けていたせいか、弾切れに気づかなかったセリカが無防備な状態を晒してしまう。
「おらっ!くらえ!」
『そう簡単にさせないってー』
だが流石はホシノ、私の指揮よりも前に既にセリカの前に立ち相手にカウンターをくらわせていた。
『ほ、ホシノ先輩ありがとう』
「アヤネ、セリカにドローンで補給品を」
「はい、わかりました!」
隣に立っていたアヤネが即座にドローンを飛ばし、セリカの元に弾倉を届ける。
『サンキューアヤネちゃん!アンタら、覚悟しなさい!』
「3人はそのまま相手との距離を維持、ノノミは3人の撃ち終わりに合わせて再度一斉掃射、アヤネは....」
その後もシロコ達は次々とヘルメット団を倒していき、作戦が完了したのはそれから間もなくの事だった。
「大勝利ですね!」
「まさかあんなに上手くいくなんて!」
これまで散々一方的にやられてきた鬱憤もあったのだろう、アビドス校舎に戻ってきた彼女達は大喜びではしゃいでいた。
「これでしばらくはヘルメット団も攻め込んでは来れないと思います」
「よかった、これで重要な問題に集中できる」
「そうね、この調子で借金返済の方法を....っ!?」
セリカはすぐさま両手で口を覆うが、私にはばっちり聞こえてしまっていた。
(やっぱり借金問題は変わらず存在するらしい)
「借金返済って?」
「それは.....」
「ま、待ってアヤネちゃん!別に話す必要ないでしょ!」
「別にいいんじゃない?隠す様な事でもないしねー」
「ここまで協力していただきましたし、私も先生は信頼しても良いと思います」
「で、でも....」
セリカは納得できない様で、眉を顰めている。
「よかったら、話を聞かせてくれないかな?すぐに何かできるって訳じゃないけど...それでもセリカ達の助けになるのなら協力したい」
「っ.....!」
私を見たセリカは一瞬驚いた顔をして、すぐさま睨みつけてくる。
「少し関わったくらいでわかった様な顔しないでよ!確かにさっきは助かったけど....ここは...アビドスは今まで私達で守ってきた場所なんだから!それなのに、いきなり大人が首を突っ込んでくるなんて.....私は認めない!!」
「あ、セリカちゃん!」
そう言い放ち、セリカは勢いよく部屋を飛び出してしまった。
「私、様子を見てきます」
ノノミもセリカの後を追い、部屋から出て行く。
「ごめんね先生、セリカちゃんも悪気はないと思うから」
「大丈夫、セリカの言う通り結局私はたまたまこのタイミングにやってきただけの大人だからね。君達の事情を全て知っている訳じゃない、でも.....」
かつてと同じ経験をしているから、この先の出来事を知っているから、そんな驕りをするつもりはない。
「私は”先生”だから、生徒が困っているならどんな事でも、どんな時だろうと力になりたいんだ」
それはあの頃から私が持っている”先生”として、大人としての考え方だ。
「....そっか、じゃあ聞いてくれる?先生?」
そう言ってホシノはアビドスの抱えている問題について話し始めた。