「それでですね、いまトリニティのアクアリウムで"ゴールドマグロ"というとても希少なお魚が展示されているそうなんです」
「あ、それ私も知ってます!確か凄い珍しいお魚だとか...」
「...ただの魚じゃないの?」
「マグロか、私も本物は見たことない」
「──これは知っていますか?夜になると昔に潰れたアミューズメントパークから不思議な音や声がきこえるそうです」
「嘘!絶対デタラメ!そんなことあるわけないでしょ!」
「うふふ、怖くなっちゃいましたか?」
「そ、そんなことないけど...って、どさくさに紛れてにじり寄って来ないでよ!」
「ここから離れたとある場所に覆面水着団という集団がいるみたいですよ」
「何それ!そんなのただの変態集団じゃない!」
「?ヒフミ、どうかしたのか?」
「え、あ、べ、別に何でもないですよ!あはは...」
薄暗い空間の中、私の耳には少女達の楽しそうな声が響いていた。
水着パーティーというイベントに始めは動揺していたヒフミやコハルだったが、時間が経つにつれ徐々に笑顔を見せるようになり、今ではすっかり話に花を咲かせている。
「それにしても、水着は泳ぐ時だけに使う物だと思っていたがまさかこういう使い道もあるなんて初めて知った。確かにヒラヒラしない分動きやすいし通気性も良い、ハナコがこれを着て歩いていたというのも納得だ」
「そ、そこは納得してはいけないと思うんですけど...」
「まあ、アズサちゃんも水着の良さをわかってくれるなんて嬉しいです♪」
「駄目だからね!アズサも真に受けないで!普通に犯罪だから...というか先生も止めなさいよ、普通叱ったりするでしょ!」
「うーん、私も熱い日は薄着になったりするから...」
「なんで先生までそっち側につくの!?」
「うふふ、これではっきりしましたね。水着での散歩はシャーレ公認という事実が♪」
ぎゃあぎゃあと声を上げるコハルを楽しそうに揶揄うハナコ。
2人を苦笑いや不思議そうな顔をしながら見守るヒフミとアズサ。
そんな彼女達が目の前にいるこの空間を、今の私はとても心地よく感じていた。
私にはこの先やらなければならない事が沢山残っている、その不安は何があっても決して消える事はないだろう。
ただ...少しだけ、あともう少しだけはこの時間に甘えたいと思っている自分がいるのだ。
「それにしても...なんだか嬉しいです」
その時、不意にヒフミがいいな声でそう呟いた。
「嬉しい?」
「はい、最初は少し恥ずかしかったんですが....今は皆さんとこうして一緒にお話する時間が出来て良かったです」
ヒフミの言葉に3人は静かに耳を傾けている。
「ほら、私達は試験の為に集まった訳ですけど、もし今回のことがなければきっとこうして顔を見合わせてお話するなんて機会は無かったでしょうから」
「ヒフミ...」
「1度目の試験は残念でしたけど、そのおかげで今日があるんです!勉強も頑張ってますし、次こそきっと大丈夫です!」
「そうだな、私も必ずクリアしてあのぬいぐるみを手に入れる」
「私だって、次は見返してやるんだから!」
2次試験に向けて、改めてやる気を見せる彼女達。
その姿を眩しそうに見ていた私だったが、ふと視線を横にズラした瞬間
「.....」
(ハナコ...?)
ほんの一瞬だけ彼女が何とも言えない表情を浮かべているように見えた。
だが瞬きの後にはいつもの笑顔がそこにはある、私は彼女に声をかけようとするが
「あ!停電止まりましたね!」
「本当だ、雨も止んだみたいだ」
そのタイミングで天井のライトがつき部屋全体が明るい光に照らされる。
それはまさにこの水着パーティーが終わる合図でもあった。
「では改めて洗濯をしてしまいましょうか、今から始めれば寝るまでには間に合いそうですし」
「そうですね」
皆はそう言って部屋を出ようとするが、
「先生」
「ん?」
「.....いや、何でもない」
出ていく間際アズサがこちらに振り返ると何かを言い淀む様に口元を動かしていた。
けれども首を横に振ると、結局何も言わずにそのままヒフミ達の背を追いかけていく。
私はそんは彼女の様子が気になりつつも、彼女達が洗濯している間部屋を綺麗にしようと立ち上がったのだった。
「ん〜〜〜、今日はここまでにしましょうか」
その後、少しだけ勉強をしていた私達は空が暗くなる頃にようやくペンを置いていた。
「皆お疲れ様、頑張ったね」
「はい...すみません先生、こんな時間まで付き合っていただいて....」
「大丈夫、元々今日はここに来るのが遅れちゃったからね」
私はそう答えながら4人が解いた問題のプリントを整理していく。
「ひとまず試験まではあと少しです、残りの時間は各々まだ理解しきれていない部分を徹底的にやりましょう。なので明日からは....」
だがヒフミがこれからのことを話そうと3人に向き直った時だった。
〜♪
唐突に私の端末から電子音が聞こえてきた。
「ちょっとごめんね」
4人に断りを入れつつ電話に応答した私だったが、聞き覚えのある声に思わず目を丸くさせてしまった。
『先生〜、こんな遅くにすみません』
「イチカ?」
「え、イチカ先輩?」
『ちょっとハスミ先輩から教えてもらって連絡したんですけど、今って大丈夫っすかね?何か仕事中だったとか』
「問題ないよ、何かあったの?」
『いやぁ、ちょっと困ったことがありまして、出来れば先生のお力をお借りしたいんすよね〜』
電話越しのイチカは困惑したような声色のまま、それを告げた。
『たった今、美食研究会?って集団がトリニティの施設を襲撃してまして....その対処を手伝って欲しいんです』