ババババッ!
「ひゃっ!」
「大丈夫ですかコハルちゃん!」
「私が引き受けるから、ヒフミ達は下がってくれ」
休む間もなく撃ち込まれる弾幕の中コハルが身を縮めて遮蔽物に隠れ、その隙を補う様にアズサが飛び出し時間を稼ぐ。
「中々手強いですね〜」
あれから街中で繰り広げられる銃撃戦、その勢いは未だに衰えることを知らない様だった。
「ヒフミ、コハルを連れて一旦退却して。アズサとハナコはそのまま戦線の維持をお願い」
「わかった」
「了解です♪」
「アロナ、ケイ、状況は?」
私は通信越しに彼女達へと指示を出しつつ、眼前に浮かぶリアルタイムのデータを確認しながら2人に尋ねる。
『確認...今はその場で耐久を選択しているようですが、いずれ相手のリソースが先に切れる筈です』
〈その様ですね、逃げられない様に包囲を固めた方がいいんじゃないですか?〉
アロナとケイの言う通り彼女達の弾薬には限りがある。
このまま無理に攻め込まず逃げ道を塞げば自ずと決着はつくはずだ。
「ありがとう。イチカは他の子達を連れてアズサ達の援護、その内何部隊かは広く包囲する様に移動させ続けて。裏路地への逃げ道も塞ごう」
「了解です....さあ今の聞いたっすね?全員持ち場につくっすよ!」
指示をした瞬間からすぐさま行動を開始する彼女達、私は後方でアロナとケイから送られてくるデータを見ながら次の動きを考えていく。
一方包囲されつつある状況下でも、ハルナ達はどこか落ち着いた様子を見せていた。
「うふふ、このままではいずれジリ貧....やはり先生の指揮がある以上力押しではこちらが不利なのは変わらない様ですわね」
ハルナは爆風で揺れる髪を押さえながら飛んでくる銃弾を瓦礫で防いでいく。
「ちょっとどうするの!?弾もあと少ししか無いし、このままじゃ捕まっちゃう!」
「折角手に入れた最高級のゴールドマグロもここで没収されては意味がないですしね〜」
「えー食べられないの? お腹すいたよー」
「ええ、確かに不利....ですが、それが美食を諦める理由にはなりませんわ」
その時ハルナが不敵に笑うのが目に映った。
それと同時に彼女が給食部のトラックの荷台から取り出したのは不自然に大きな麻袋。
(あれは...?)
「....ふふ、戦いにはこう言う言葉も存在しますわ...逃げるが勝ち、と!」
そう高らかに告げるとハルナは麻袋をアスファルトの中央へ投げ出した。そして、迷うことなくその袋目掛けて銃弾を一発着弾させる。
するとパァンッ!という破裂音と共に凄まじい勢いで白いガスが噴き出した。
その瞬間ハルナ達とトラックを中心に包み込む様な巨大な煙が巻き起こる。
「きゃあ! 何も見えない!」
「な、何これ!? ケホッ!」
「みんな一度下がろう、闇雲に撃ち合うのは危険だ」
どうやらただのスモークの様だが問題なのはその尋常ではない量だ。
視界が殆どゼロに等しくなる程の規模の煙に、私は急いで全員へ退避の指示を出す。
「これじゃ迂闊に攻められないっすねー。先生、どうしますか? 」
「そうだね...」
いくら煙で視界が覆われていようと音は聞こえる。
現に彼女達が徒歩で移動している様な足音が聞こえていない以上、その場に止まっているのだけは明白だろう。
「今のうちに全員弾を補給しておこうか。もう少し煙が薄くなったら一気に距離を詰めて....」
そう言いかけた時だった。
ブルルッ....
「え?」
煙の中央から聞こえてきた微かなエンジン音。
それにイチカ達やヒフミ達も一斉にそちらへ視線を向ける。
そしてその音が徐々に大きくなっていき....
ブロロロロッ!
「わわっ!こ、こっちにきます!」
誰が口にしたか、その言葉と共に真っ白な煙の中から見慣れた給食部のトラックが勢いよく飛び出してきたのだ。
「ちょ、それは反則っすよ!」
その事に驚き咄嗟に道を開ける正義実現委員会の生徒たち。
「こういった戦いに反則はありませんわ、では皆様ご機嫌よう」
座席から身を乗り出したハルナがこちらに手を振りながらそう呟く。
「楽しかったですよ〜、また遊びましょうね〜」
「んんんっ!んんんんんー!!」
何とか追いかけようとするが全速力で走り出した車を生身で止められる者は流石に誰もおらず、やがて遠くの方へと走り去るハルナ達のトラック....
「....困ったっすね、あれじゃ追いかけようにも足じゃ追いつけないっすよ」
「ごめんイチカ、少し油断してたかも」
「ご、ごめんなさいイチカ先輩!途中で退いたりして...もう少し粘れれば...」
「いや流石にあれは仕方ないっすよ、とはいえこれからどうしましょうか...ひとまずハスミ先輩に連絡を....」
そうイチカが頭を抱えながらハスミへと連絡を取ろうとしていた時だった。
「イチカ先輩〜!」
「応援に来ました!」
「あれ、あの子達は...」
遠くの方から重低音と共にイチカの名を呼びながらこちらに近づいてくる影が見えた。
そこにいたのは戦車に乗り込みながらこちらに手を振るいくつかの正義実現委員会の部隊、彼女達はやがて私達の元へと駆け寄ってくると辺りの状況を見渡して不思議そうに首を傾げる。
「あれ、美食研究会と戦闘していたんじゃ...敵の姿が見当たらないですけど」
「いやぁ、それがっすね〜...」
イチカはやって来た部員達へ申し訳なさそうに事の顛末を話し始める。
...だがそんな中私は彼女達の会話ではなくあるものに目を奪われていた。
私の視線の先にあるもの....それは彼女達が乗ってきた何台かの戦車。
(....これならもしかして)
「ヒフミ、ちょっと良いかな」
「え、は、はい!どうかしたんですか?」
私はヒフミに声をかけると、彼女の周りにいた3人とも一緒に話をし始める。
「実は....ハルナ達に追いつく為の作戦があるんだ」
「作戦、ですか?」
ブロロロロッ
「ふぅ何とかなったわね、一時はどうなるかと思ったけどまさかあそこから脱出出来るなんて」
「美食を前に不可能はありませんわ。何より私たちの情熱があの戦力を上回ったということです。とにかくこれでようやくこちらのゴールドマグロを堪能出来そうですわね」
「どんな味なんだろー、楽しみー! 早く食べたい!」
あの激しい戦闘から逃げ出す事に成功した美食研究会4人...もとい、巻き込まれた給食部のフウカを含めた5人はトラックのスピードを徐々に落としながら逃げ切れた事への安堵と最高級食材への期待を口にしていた。
「若干先程の戦闘で新鮮さは失われてしまいましたがまだ許容範囲です、フウカさんの腕があればきっとこのマグロのポテンシャルを極限まで引き出した最高のお魚料理が出来ることでしょう。ですわよね、フウカさん?」
「...モガァ!」
「それは楽しみですわ」
もはや彼女の必死の抗議が通じているのかは関係無く、その反応を肯定と受け取り嬉しそうに笑うハルナ達。
後はこのまま学園まで帰れば夢にまで見た美食の探求が待っている....そう誰もが疑いなく確信していた。
キュルキュルキュルッ
「ねえ、あとどれくらいで着くの?」
「まだ少し先ですね〜学園の自治区に入ればこちらのものです、少しスピードをあげましょうか〜」
キュルキュルキュルッ
「....ねえ、何か聞こえない?」
「本当だ、トラックの調子でも悪いのかな?」
キュルキュルキュルッ
「なんか後ろからこっちに近づいて来てる様な...」
自分達の方へとだんだん近づいてくる重い異音、その音の正体に嫌な予感を悟ったのか荷台に乗っていた4人は後ろをチラッと振り返った。
「えっ、う、嘘でしょ!?」
「あら、結構しつこいですね〜★」
「わー凄い、戦車が走って来てる! 」
その言葉の通り彼女達の走らせるトラックの後方...そこには土煙を上げながら猛スピードでハルナ達目掛けて爆走する一台の戦車がいたのだった。