「やあセリカ」
「......なんであんたがいるの」
借金問題についてホシノ達に伝えられた日から数日。
朝早くアビドスを訪れていた私は何処かへ急いで向かっている様子のセリカと出会った。
「セリカが私に会いたいって思いを感じた...からかな?」
「.............」
「ごめん、冗談!冗談だから!」
まるで汚物を見るかの様な目をされたので、急いで訂正した私は正直に答えた。
「みんなの様子を確認しにね、セリカは?」
「私が何処に行こうがあんたには関係ないでしょ!」
相変わらずのツンツン具合に私は苦笑してしまう。
「学校に行くならさっさと行けば?私は忙しいからもう行くわね」
「なら私もついて行こうか?」
「ここまでの流れでどうしてそうなるのよ!訳わかんない、ついて来たら本気で通報してやるから!」
そう言って全速力でその場を去っていったセリカを見送っていると
「フラれたね先生」
「うわっ!し、シロコいつの間に」
「ん、先生とセリカの声がしたからこっそり見てた」
背後から突然現れたシロコに声をかけられた。
「これから学校行くなら一緒に行こう」
「うん、そうさせて貰おうかな」
それから自転車を引くシロコに並んで歩いていると、彼女は不安そうな顔を浮かべて口を開いた。
「セリカは最近ああやって何処かに行く、理由は私達には話してくれないけど...少し心配」
「...大丈夫、きっとセリカは恥ずかしいだけだと思うよ。親しい仲だからこそ話し辛い事もあるだろうし」
おそらくセリカは柴関ラーメンのバイトをしている筈なので、シロコの想像するような危ない事に関わっている訳ではないだろう。
「先生はやっぱり不思議、まるで私達の事を全部知ってるみたい」
「そ、そんな事ないよ、あははっ....」
シロコの発言に一瞬ドキリとしながらも、そのまま2人でアビドス校舎を目指し歩いていった。
「おはようございます、シロコちゃん。あ、先生もご一緒だったんですね」
対策委員会の部室に入ると既にノノミとアヤネの2人が座って話をしていた。
「おはよう2人とも、ここにくる途中でシロコと会ってね」
「ん、セリカにも会った。でも急いで何処かに走っていっちゃった」
「...セリカちゃん、時々姿を消す事もあるし何をしてるんだろう....」
「アヤネちゃんにも伝えてないんですか?」
「はい、聞いても答えてくれなくて....」
先程のシロコ同様暗い顔をするアヤネ。
やはり同学年であり大切な親友のセリカが心配なのだろう、私はアヤネに声をかけようとした瞬間
「ふっふっふっー、気になるかいアヤネちゃん?」
「ほ、ホシノ!」
「おはよー先生」
不意に背後から聞こえた声に驚き振り返ると、そこには眠そうに目を擦りながらこちらを見つめているホシノが立っていた。
今日はやたらと背後から人が現れるなと思いつつ、ホシノの話に耳を傾ける。
「ほ、ホシノ先輩、セリカちゃんが何処に行ったか知ってるんですか?」
「うーん知ってるって訳じゃないけど、大体予想はつくかなー」
「教えて、ホシノ先輩」
アヤネ達が自身に詰め寄る姿を見ながらホシノは言った。
「せっかくだし後でみんなで行ってみようか、セリカちゃんの所」
「いらっしゃいませ!柴関ラーメンです!」
「何名様ですか?空いてるお席にご案内いたしますね!」
柴関ラーメン店内にて、セリカの元気な声が響く。
彼女は毎月の返済の当てを少しでも増やそうと、他の対策委員会メンバーには内緒にバイトをしている最中だった。
「いらっしゃいませ!柴関ラーメンで....」
「あ、セリカちゃん居ましたね♪」
「ん、制服似合ってる」
「やあセリカ、さっきぶりだね」
「あはは...セリカちゃん、5名です」
「な、なな、な...!」
まさか私達が来ると予想してなかったセリカは頬を赤らめて固まってしまった。
「なんで皆いるの!ていうか先生も!....まさかあの時本当について来てたんじゃ...ストーカー!?」
「誤解だよ!?」
「違うよーセリカちゃん、セリカちゃんがバイトするならここかなーって思っただけだよー」
「くっ!ホシノ先輩か....」
「セリカちゃんの話してたアビドスの子達か。お、アンタはこの前の...」
セリカ達のやり取りを見て声をかけてきた大将に私は頭を下げる。
「え、大将!知り合いなんですか!?」
「おお、知り合いというか前に店に食べに来てくれてな。それよりセリカちゃん、そろそろ注文を受けてくれな」
「うぅ、そ、それではお席へとご案内いたします...」
それから私達はセリカに案内されテーブル席に座った後、4人がセリカにちょっかいをかけたり美味しいラーメンに舌鼓を打ったりなど和気藹々とした楽しい時間が経過していった。
「いやぁラーメンは美味しかったし、可愛い後輩の姿も見れたし大満足だったねー」
「先生もありがとうございました、まさか全員分奢ってもらえるとは...」
「うん、お腹いっぱい」
「また明日ね、セリカちゃん」
「もう!仕事の邪魔だから早く出てってよ!」
そう言いつつもなんだかんだ見送りをしてくれるセリカに私達は全員笑みを浮かべている。
そんな彼女に外に出た後私は4人から離れて声をかけた。
「セリカ、今日は早く帰る事ってできないかな...?」
「はぁ?何言ってるのよ」
「ほら、親睦会的なものでもやろうかなーなんて...」
「そんなのやるわけないでしょ!いいからさっさと帰って!!」
そう私に言い捨てるとセリカは店に戻ってしまった。
「先生、セリカちゃんに何か用事でもあったんですか?」
「.....いや、何でもないよ。帰ろうか」
私はそう誤魔化し4人と共に帰路に着く中一人静かに思考し始める。
...セリカがヘルメット団に拉致されるのは今日の夜中、このバイト帰りの筈。
あの時と同じならば、翌日にアビドス砂漠でセリカを救出するという流れになるのだが....
....正直今の私は内心穏やかではなかった。
確かにこのまま流れ通りいけば、セリカを救う事は出来るだろう。
だが私の頭には、かつての彼女の嘆きが鮮明に思い出されていた。
”セリカが行方不明になった時....?”
あの時、シロコはあちらの世界のホシノ達を見て涙を流しながらそう言っていた。
私が意識を無くしてから起こったセリカの行方不明。
きっと彼女は、たった1人で何日もアビドス中を探し回ったのだろう。
吐き出したい気持ちを押し殺しながら、毎日、毎日。
そして...それでもセリカは見つからなかった。
もし、この世界の出来事があの頃と違っていたら?
あの時とは違いセリカが直ぐに見つからなかったら?
それで彼女達が、大切な生徒が悲しむのなら?
「せ、先生もしかして怒ってますか?」
「え?」
不意にそんな事をアヤネから言われ私は思わず彼女の方へ振り向くと、4人がこちらを不思議そうに見つめていた。
「うん、今の先生怖い顔してた」
「先生、どうかされたんですか....?」
彼女だけでなくシロコやノノミからも同じ様に言われてしまい、自分がよほど酷い顔をしていたと気づき謝罪する。
「大丈夫先生?何か嫌な事でもあったー?」
ホシノも私の顔を覗き込みながらそう尋ねてきたが、私はもう一度大丈夫だと笑顔を貼り付けながら話すとアビドス校舎へ戻る為に足を動かした。