ピピピッ、ピピピッ、ピピピッ....
部屋の中にアラーム音が鳴り響いている。
その音によって夢の世界から抜け出した少女は、眠気を取り除こうとその場で小さく体を伸ばす。
まだぼんやりとする視界の中、ベッドから降りて備え付けられたカーテンを開けると穏やかな陽の光が少女の顔を優しく照らしてくれた。
「ん......良い朝」
なんとなく今日は良い1日になりそうだと思える様な心地よさにそのまま身体を預けていたくなるが、いつまでもこうしてる訳にはいかない。
顔を洗う、朝食をとる...その他様々な準備を終えたシロコは、愛用の自転車を引いて部屋を出た。
ペダルを漕ぎ道路を走るたびに気持ちの良い風が全身に吹き付けられる。
今度また時間がある時にサイクリングにでも行こうかと考えながら、彼女は通い慣れた道を進んで行った。
きっと他の4人は既に学校へ着いていることだろう。
それに今日は会議をすると言っていた気がする、尚更待たせるわけにもいかない。
そう思い少しペースを早めて走っていた時、前方の道の真ん中に普段見慣れない影が見えた。
「.........?」
近づいていくと徐々にその詳細がはっきりしてきた、どうやら人が倒れているらしい。
その人物はこの辺りではあまり見ないような白いコートを羽織っており、気絶しているのかまるで死んだ魚の様にピクリとも動かない。
流石に急いでいるとはいえ、このまま放っておく訳にもいかない。
シロコは道に自転車を停めるとその倒れている人物の傍に駆け寄った。
「大丈夫?」
返事は無い、それからも何度か声をかけてみるが結果はどれも同じ。
とりあえず何処かに運んであげた方がいいだろうかと考えていると、先程まで何の反応も示さなかった人物が突然顔を上げ、丁度顔を覗き込んでいたシロコと目が合った。
その目からはまるで喜んでいるような、悲しんでいるような、何か不思議な感情が伝わってくる。
「あの、大丈夫?」
一瞬その目に気を取られていたシロコだったが、気持ちを切り替え再度無事かどうかを聞いてみる。
「..........シロコ」
「え?」
だが返ってきた言葉は予想外にも自分の名前。
初対面の相手がいきなり自身の名前を口にするという状況に内心警戒しつつもシロコは質問を続ける。
「えっと、誰?」
「シロコ」
ひとまず何者なのかを尋ねてみたが、目の前の人物は自身の名前を繰り返し呟くのみで全く会話が成立しない。
見た所、もし襲いかかってきても1人で簡単に取り押さえられそうではある...おそらく負ける事は無いだろう。
等と考えている内に、謎の人物はフラフラと立ち上がるとゆっくりこちらに近づき始めた。
変な動きを見せた瞬間押さえ込もう、そう決めたシロコだったが、次の瞬間彼女の思考はフリーズする事になる。
気づけばシロコは目の前の相手に抱擁されていた。
「シロコ!」
「!?!?!?!?」
いきなりの事態に頭が困惑で埋め尽くされ思うように体が動かない。
珍しく慌てふためいたシロコが抜け出そうとすると、相手はさらに力を込めて抱きしめてくる始末。
「シロコ...!私は.........ゴハっ!!!」
そしてシロコの脳がキャパオーバーした結果、彼女は反射的に相手の腹部を蹴り上げていた。
「あ.........」
蹴りの衝撃で空中に投げ出された相手はそのまま落下し地面に叩きつけられた。
恐る恐る近づいてみるが先程の様にピクリとも動かない、どうやら今度こそ本当に気絶してしまったらしい。
「......どうしよう」
しばらくオロオロとしていたシロコだったが、徐に携帯を取り出すと後輩へと連絡をとった。
『シロコ先輩どうされましたか?』
「アヤネ...ちょっと困った事になった」
『困った事ですか?それはどういう......』
だった今起こった事をありのまま話し終えると、携帯からはアヤネの驚いた声が聞こえてくる。
『わ、わかりました。そのまま放置しても問題になりそうなのでひとまずうちで休ませましょう。シロコ先輩、お願いできますか?』
「ん、わかった」
アヤネとの通話を終え、その間放置していた謎の人物をもう一度確認する。
未だに気絶しているようだが変に抵抗されるよりは良いだろう。
そう自分を納得させたシロコは乗ってきた自転車を邪魔にならないよう端に停め直すと、気絶した人物を背中におぶって自身の所属するアビドス高等学校を目指し歩き始めた。