シャーレの先生が立ち去ったのを見送った私はカップの紅茶を見つめながら思考する。
(...いやはや、不思議な事というのは案外身近にあるものなんだね)
別の意識...しかもそれが別の自分自身という同一存在で、それが乗り移っているという事象....
私自身、予知夢のような力を持っているためそれらがまったくもってあり得ない事だと断言はできないが、ほぼ奇跡といって言い出来事なのは間違いない。
....正直な話、”あの意識の主”が体験した事はなんだったのか、私は気になってしょうがなかった。
結局それについての答えは得る事は出来なかったが、あの反応から察すると相当話し難い内容であるのは間違いない。
.....先生はこの場にやって来た際、私を見てひどく驚いていた。
あれは私がここにいる事自体を想定していなかった様な反応....つまり、″あの先生″の中では今日私はここにはいない筈の存在だったという事。
(...君がもし、私以上にこのキヴォトスの未来を知っているとしたら)
実際にこんな話を私が誰かから聞かされる立場であれば鼻で笑ってしまう様な仮説ではあるが...仮にあの意識の主がいた世界はこのキヴォトスの未来であり、あの時感じとれたあの感情の数々、それらが全てその世界で起こった事が原因であるならば
『今セイアやミカ、ナギサが考えている事も、気持ちも、苦しみも完全に理解する事は誰にもできない。でも、それを自分1人で抱え込み続けてしまえば、いつか必ず自分で自分を傷つけてしまう』
『だからまずはどんなに小さな事、くだらない事でも、それを誰でもいいから話してみて。君達の周りには、ちゃんと君達の話を聞いてくれる大事な人がいる筈だよ』
(....その言葉は、君自身にも当てはまるんじゃないのかい?)
いつかの未来、このキヴォトスが何か恐ろしい事態に陥るとして、その苦しみを君は痛いほど理解しているとして
誰にも話せず、それでも何とかしようと1人で行動し続けるというのは...もはや狂気の域だろう。
「セイアさん、本当なら先生が帰る前に連絡が欲しかったのですが....」
「そうだよー私だって色々話してみたかったのに!それで、さっきは先生とどんな事話したの?」
あれから少しして、ナギサとミカに先生が帰還した旨を連絡した私は2人からの文句を紅茶を飲みながら聞き流していた。
「すまないね、話が盛り上がってつい連絡を忘れてしまっていたんだ」
「....ちなみに先生は何か我々に”頼み事”などは?」
「ナギサが考えている様な話は全く無かったよ。私も呆れてしまったが...本当に適当な雑談をしていただけさ」
「ねーねー、頼み事って何の話?」
「ミカには似合わない難しい話だから気にしなくていい」
「セイアちゃん酷くない!?」
ぶーぶーと文句を垂れるミカに、ため息をつき呆れながら彼女を宥めているナギサ。
私はそんな2人を見ながら、先程の先生の言葉を再度思い出していた。
(....1人で抱え込まず、どんな小さな事でも話してみる、か)
確かに私は自身の気持ちを周りには勿論、同じティーパーティーの彼女達にも漏らした事はなかった。
私の性格上、きっとそれは今後も殆ど変わらないだろう。
単純でくだらないと一蹴する事も簡単だ。
だが、そうだね....
「ミカ、ナギサ、もし時間があるならこれから3人で少し話さないかい?」
「え、セイアちゃんいきなりどうしたの?」
「今日は元々多少は余裕のある日でしたし、私は構いませんが....何か重要な案件でも?」
「いや...少しだけ、君達と”くだらない雑談”をしてみたくなったんだ」
今日くらいは、意味も策略も存在しない、そんなどうでもいい行為を試してみるのもいいかもしれない。