「おはよー」
「おはようございます」
「おはようございます、セリカちゃん、アヤネちゃん♪」
闇銀行襲撃から数日、これまで自分達に仕組まれてきた数々の出来事がカイザーグループによる仕業であったと知ったアビドス対策委員会。
だが、現状これからどうするのかという具体的な作戦は思いつかず、今日も彼女達にとっていつも通りの日常が始まろうとしていた。
「あれ、ホシノ先輩は?」
「先程までこちらに居たんですが、またどこかにお昼寝をしに行ったみたいで」
「はぁ、まったく。この前は先輩らしい所見せなきゃ〜とか言ってたくせに」
「あはは...」
「おはよう、先生いる?」
セリカ達の少し後にやってきたシロコはそう言い室内をキョロキョロと見渡した。
「おはよう、シロコ先輩。先生は私達がきた時も居なかったけど」
「そうですね、私も最初からこちらに居ましたが、今日はまだいらしていない様です」
「ん、そっか」
「というか先生こそまだ来てないなんて何してるのよ、ホシノ先輩みたく何処かでサボってるんじゃないでしょうね?」
「はっくしゅんっ!」
「お、何だ先生、風邪かい?」
「いやぁ、そういうわけじゃないんですが」
「ならきっと何処かで誰かが先生の噂でもしてるんだろうよ」
「あはは...」
大将に揶揄われた私は、現在柴関ラーメン店内で注文のラーメンを待っている最中だった。
いつもならシロコ達の元へ向かう所なのだが、今日はどうしても此処に寄りたかった事情がある。
「はいよ、柴関ラーメン一丁!」
「あれ、大将。何か具が多い気が....」
「いつもセリカちゃんがお世話になってるからな、サービスさ」
「はは、なら有難くいただきますね」
大将の好意を素直に受け取り、食事に集中していると時間が過ぎていく。
それからしばらくした頃、ガラガラと店の入り口が開かれる音が聞こえると同時に聞き覚えのある声が店内に響いた。
「はぁ.....」
「いらっしゃい!お、どうした、今日は随分疲れた様子だな?」
「大将さん、おっはよ〜♪」
「とりあえずいつもの柴関ラーメン4人分で」
「あ、アル様大丈夫ですか?」
やってきたのは先日一緒に行動した便利屋68の4人。
「どうすればいいの、このままだとクライアントの仕事が....でもだからって...」
4人が私から遠く離れたテーブル席に座るのを見ながら耳をすますと、ぶつぶつと重苦しそうに話すアルの声が聞こえてくる。
「いっそ全部吹き飛ばして...でもそうしたらあの子達は....」
「アル、どうしたの?」
「ああ、ついに先生の幻聴まで聞こえてきたわ...」
「社長、横見て」
「..........へ?」
アルはカヨコの言葉に顔をゆっくりとこちらに向け、目の前で手を振っていた私を視界に捉えてから数秒後
「えええええええ!ほ、本当に先生じゃない!?」
「あははっ!アルちゃんびっくりしすぎ♪」
「お、おはようございます!」
「おはよう、先生も来てたんだね」
三者三様の反応を見ながら、先程ラーメンを食べ終わった私は大将の許可をとり彼女達の席へと移動する。
「随分悩んでたみたいだけど」
「それは....」
アルは言い出しづらいのか、口をモゴモゴとさせながら俯いている。
「はいよ、柴関ラーメン4人前な!」
そんな中、アル達のテーブルに運ばれてきた柴関ラーメン4つ。
「まずは食べて、お腹が空いてたら元気もでないからね」
それから暫くの間、ラーメンを美味しそうに啜る4人を私は見守っていた。
始めは落ち込んでいたアルだったが、暗かった雰囲気も徐々になくなり今ではすっかり満足そうな顔でラーメンを口に運んでいる。
そうして気分が幾分か晴れたらしいアルはポツポツと話し始めた。
「...さっきはあの子達、アビドスへの襲撃作戦について考えてたの。クライアントとの約束も迫っているし」
「そっか」
「....前から思っていたのだけれど、先生はあの子達に協力しているんでしょう?前もそうだったけれど、普通なら今の私の話を聞いて止めたりするものじゃないの?」
アルは眉を顰めながら疑問そうに私に尋ねる。
「確かに私はシロコ達の味方だよ。でも、それと同時にアル達の味方でもあるから」
「.....?」
「私は元々アル達の仕事について無理矢理口を挟むつもりなんてないよ。勿論、私は今彼女達の手助けをしているからアル達とは違う立場になってしまっているけれど、完全な”敵”だとは思っていないからね」
この世界での彼女はシロコ達や私と接する時間が増えている。
だからこそ自分達が行おうとしている事に迷いが生じてしまっているのだろう。
「だから、私はアル達がしたいようにしていいと思ってる。苦しむのなら止めてもいいし、もし何か問題が起こってしまったらその時は私が責任をとるから」
「何でそこまで.....」
「私は”先生”....うーん、これじゃ納得できないだろうし...」
そう考えていた時、私はかつての自分の発言を思い出した。
「.....私はアル達のファンだからね。ファンだからこそ応援したいし、何かあれば助けたいと思うのは当然だよ」
「...ふふ、そう言えばそんな事も言ってたわね」
気持ちが落ち込んでいたアルだったが、私の話を聞くと薄らとだが笑顔を見せてくれた。
「それに、悩んだら周りを見てみて。アルのためなら何だって力になってくれる頼もしい社員が3人もいるでしょ」
「そうだよアルちゃん、いつもそうやって何でもやってきたじゃん♪」
「アル様、私にできる事であればどんなものでもやり遂げて見せます!」
「まあ、社長が暗いままだとこっちも少し嫌だし....」
そんな3人の言葉に背中を押され、アルはすっかりいつもの調子を取り戻したのか不敵に笑いながら立ち上がり
「...そうね、いつまでも落ち込んでいるなんて私には似合わないわ。何者にも縛られないアウトロー、それが私達便利屋68の....!」
ドォーーーーーーーン!!!
「えええええ!?せ、折角格好良く決めようと思ったのに急に何よ!?」
突然外から爆発音が鳴り響き、状況を確認するために私は彼女達と共に店の外へと出る。
視線の先に見えたのは、かなりの人数で構成された部隊がこちらに進行している光景だった。
「あの制服....」
「ふ、風紀委員!何でここに!?」
やがてその姿がはっきりとわかる程にまでの距離に近づいてきた彼女達の中から、聞き覚えのある声が響く。
「前方に数名の人物を確認しました」
「便利屋68、ゲヘナ学園での校則違反者であるお前達を連行する!大人しく私達に従ってついてこい」
そう言って姿を現したのは、ゲヘナの風紀委員の1人であるイオリ。
「ど、どどどどうするのよ!?まさか風紀委員がここまでやって来るなんて....」
「いつかはくると思ってたけど...にしては数が多すぎる、そっちの風紀委員長は?」
「委員長は多忙だ、それにわざわざお前達相手に委員長が出る必要もない」
「人数が多いとはいえ、風紀委員長がいない貴方達だけで私達を止められるとは思えないけど」
カヨコとイオリが睨み合う中、再び聞き覚えのある声があちらの方から耳に入ってくる。
「ちょ、ちょっと待ってください!もしかしてそこにいるのはシャーレの先生ですか?」
そう言って後方に居た私に尋ねてきたのはイオリと同じ風紀委員であるチナツ。
「あくまで抵抗する気か、ならこちらも手加減する必要はない」
「だ、駄目です!あちらにシャーレの先生がいる以上戦闘を行ってはいけません!」
「シャーレの先生?何だそれ、そんなのはあの厄介者達を捕まえるのに必要な事なのか?」
「え、えっと...それは...」
私としてもここでの戦闘は本意ではない、それに今日ここに来た目的を果たすためチナツに話しかけようとした瞬間、突如辺りに銃声が何発も鳴り響いた。
「うわっ!べ、便利屋の1人が突撃してきました!」
「許せません許せません許せません....アル様を危険な目に合わせるなら容赦しません...!!!」
いつの間に私達の傍から移動していたのか、そこに居たのはショットガンを風紀委員の部隊へと乱射しているハルカ。
「あはは♪ハルカちゃんやる気満々じゃん〜」
「くそ、総員!応戦しろ!」
「あの...皆さん私の話を....」
「み、みんな。一旦落ち着いて...」
「こうなったらもうやるしかないわね...!先生、指揮を頼むわ!」
私とチナツの制止も虚しく、ハルカに続き3人もそれぞれ銃を構え風紀委員と交戦し始めてしまった。
「.....しょうがない...アロナ」
『了承、これより戦闘指揮プロセスを起動します』
私は苦笑しながらシッテムの箱を起動し、彼女達の指揮を開始するのだった。