「大将、大丈夫?」
「ああ、ほんの掠り数程度だしな」
「お店の方も、少し修復は必要ですが大事にならなかった様でよかったです」
先生が風紀委員会と共にゲヘナへ向かったのを見送った対策委員会は、あの後校舎からやってきたアヤネとも合流し柴関ラーメン店内で大将と話をしていた。
自分達が到着する前に起こっていた便利屋と風紀委員の戦闘の余波で店の外壁などに少しばかり傷ができてしまったみたいだが、どうやら軽い修復で直せる程度のものであり大将自身も元気に笑っているのを見て彼女達は胸を撫で下ろしていた。
「まあ、多分店はもうこのまま...いや、もう撤去するつもりだったんだけどな」
「え、どういう事ですか!?」
「実はちょっと前に退去通知を受け取ってな、どのみち前から店を閉める事は決めてたんだ」
「でもアビドス自治区の建物の所有者はアビドス高校の筈で....」
「そうか、セリカちゃん達は知らなかったんだな。実は何年か前、アビドスの生徒会が借金を返済できなくなった時に建物と土地の所有権が他所に移ったんだ」
「そんな...!」
「誰がそんな事を!」
「そいつの名前まではっきり覚えてないな、すまねぇ」
大将からの衝撃的な事実に言葉を失ってしまった対策委員会。
「.....わかりました。ありがとうございます大将さん」
「おう、お前さん達も気をつけて帰るんだぞ」
それから驚きの気持ちが抜けないまま店を出た彼女達、先程の大将の話を聞き重い空気が4人を襲う中アヤネは一人顔を上げて口を開いた。
「....皆さん、風紀委員会行政官の言葉を覚えていますか?」
「確かアコって人の事?...なんて言ってたっけ」
「彼女はあの時、”他の学園自治区の付近なんですから”と言っていました。自治区内ではなく、あくまで付近とだけ。まるでここがアビドスのものではないと言ってる様な物言いに少し違和感を覚えていたんですが...先程の大将さんの話を聞いて納得しました」
「あの人はここがもうアビドスのものじゃないと知ってたって事ですね。でも結局誰が今この土地を所有してるのかがわからないと...」
「地籍図を調べましょう」
「それって何なの?」
「要するに土地などの取引が記録されている台帳です...先程の大将さんのお話が本当ならば、そこにそのやり取りの記録が残されているはずです」
「そうですね...ところで、ホシノ先輩はどうしたんでしょうか?」
「さっきから連絡してるけど、全然出てくれない」
「....先生もいませんし、ひとまず私達だけで確認しましょう、きっとそのうち先輩も戻ってくるでしょうから」
それから数時間が経ち空が夕焼けに差し変わりそうになった頃、アビドス校舎へと帰還した彼女達がいる部室内は重苦しい雰囲気に包まれていた。
「カイザーコンストラクション...まさかカイザーコーポレーションが私達の土地の殆どを所有してたなんて....」
テーブルの上の契約書を見ながら4人は考え込む。
「こちらの記録にはかつてのアビドス生徒会が土地を取引していたと記載されています。...生徒会が無くなってからは取引自体も止まっているみたいですが」
「それでも借金は残って今の状態に、という事ですね。でもこの売られている土地の殆どが砂漠やあまり意味のない場所ばかりです。売ってもそこまでの値段になりませんし、カイザーもこんな土地を買った所で何の利益にもならないと思うのですが...」
4人が頭を悩ませる中、シロコがポツリと呟く。
「そうでもしないといけないくらい当時の生徒会が困ってたのか...もしくはそうするように仕向けられたのかも」
「え!?」
シロコの発言に3人が注目する。
「...今アビドスにお金を貸しているのはカイザーコーポレーション、土地を買ったのも、多分私達を襲撃してきたヘルメット団達を雇ったのも」
「っ!成る程...」
「え、つまりどう言う事....?」
「多分連中はお金が目的じゃなくて、このアビドスの土地自体が狙いなんだと思う。まずカイザーが当時の生徒会に大量のお金を貸す、それも学校だけでは手に負えなくなるくらいの」
「その後借金の利子の返済に土地を売るように仕向ければ....」
「最終的にアビドスの全てが借金相手であるカイザーコーポレーションのものになると...」
「でも生徒会が無くなって、私達が毎月の利子を返済する様になった事で、カイザーは残りの土地を得ることができなくなった」
「おまけに肝心の残っている土地は私達がいるアビドス高校とその周辺...カイザーにとっては目障りこの上ない筈です。だからヘルメット団や便利屋にわざわざ襲撃依頼を出してまで潰そうとした....」
「うん、本当かはわからないけど辻褄はこれで合う」
「もしそうなら、全部カイザーの仕業って事でしょ...そんなの絶対許さない!」
今までの数々の出来事が繋がり始めたと感じた4人、だがそんな時突然校舎の入り口から誰かが入ってくる音が聞こえてきた。
一応警戒しつつ全員が耳をすましながらその音の発生源へと向かってみると
「「「「先輩!」」」」
「あ....」
そこには何故かバツが悪そうな顔を浮かべたホシノが立っていた。
「もう!どこ行ってたのよ!」
「凄く心配した、何度も連絡したのに1回も出てくれなかった、何をしてたの?」
「先輩〜?流石に私も少し怒ってますよ」
「....いやぁごめんねー、すっごく気持ちいい夢を見ちゃってさー。中々起きれなくてつい」
「はぁ?もしかしてずっと寝てたって事!?もう心配して損した!」
「ホシノ先輩!さっき大変な事がわかったんです!先輩にも見ていただきたいものが....」
「わあ!わ、わかった、わかったから落ち着いて!引っ張らないで〜!」
更に丁度その時アヤネの携帯から通知音が聞こえ、確認してみると
「あ、先生からです!今無事話が終わったようです」
「良かった〜これで明日には行動できそうですね」
「はい、とりあえず皆さん一度部室に戻りましょう。先輩、早く来てくださいね!」
そう言って部室までの階段を駆け上がっていくアヤネ、セリカ、ノノミの3人。
「ははは、若い子は元気だねー....えっと、シロコちゃんはどうしたの?」
3人が部室へと戻っていく姿を見ていたホシノは、何故か一緒に向かわずこちらを見つめているシロコに声をかける。
「.....ホシノ先輩、寝てたのは嘘」
「うえっ!?な、なんで?」
「流石に朝からこの時間まで電話に出なかったのはおかしい。それに.....」
「さっき私達を見る目が少し変だった。なんていうか、その...何か思い詰めてるような....ごめん、上手く言えない」
そう言い俯いてしまったシロコの頭を、ホシノは優しく撫でながら答える。
「....大丈夫だよシロコちゃん、おじさんは本当に寝すごしちゃっただけだから...ほら、早くアヤネちゃん達の所に戻ろう?」
「ん...」
ホシノはシロコにそう笑いかけながら、3人の待つ部室へと歩いて行った。