残り4話です。
「成る程、そんな事が.....」
私は今、カイザーグループの目的やアビドスへ行っていた悪質な行為等の説明をする為サンクトゥムタワーへと訪れていた。
眼鏡に手をかけ、私が作成した書類や記録として残していた写真等をじっくりと確認していたリンはやがて顔を上げると軽く溜め息をつく。
「...まさか先生がこれ程までに丁寧な書類を作れたとは驚きました」
「え、そこなの!?」
まさかの一言目に驚きつつ、今までの書類はどれだけ駄目だったのかと若干悲しい気分に浸っていると、リンはほんの僅かに頬を緩ませ
「冗談です、ですが普段の業務もこれくらい丁寧にやっていただければ助かりますね。.....本題ですが、ここに書かれている事が事実であるのならば確かに彼らは警戒すべきでしょう」
「しかし....アビドスの土地をカイザーが所有しているのもまた事実。学校ではなく他の企業となると我々としても今すぐ何かしら行動するというのは難しいです」
「やっぱりか....」
「ですが、今後このカイザーグループが他の学園、生徒にまで悪影響を及ぼさない保証はありません。今度の会議ではその点を主張して話を進める事は可能でしょう」
とりあえずは進展の足がかりくらいになったという事だろう。
私はリンの発言に内心胸を撫で下ろす。
「ところで、先生はこれからアビドスの方へ?」
「うん、そのつもりだよ」
「そうですか。実は最近シャーレへの依頼が増えていまして、本日先生に確認していただきたい書類が届く予定だったのですが...」
「そっか、なら私はシャーレに居た方がいいかな?」
「いえ、別に構いませんよ。今すぐにという訳ではありませんし、届き次第こちらから連絡させていただくので」
ならばリンの言葉に甘えるとしよう。
私はリンにお礼を言ってその場を去ると、アビドス校舎へと向かった。
「えっと....これはどういう状況なのかな?」
さっそく彼女達の部室へ足を運ぶと、いきなり私の目には床で正座をさせられているホシノの姿が飛び込んできた。
更に彼女の首には”私は1人で勝手な行動をとりました”と書かれたプレートがかけられており、その姿にはどこか哀愁が漂っている。
「....あ、先生ーおはようー」
「お、おはようホシノ....それは?」
「ん、1人で危ない事してたホシノ先輩への罰」
私の問いかけに椅子に座っていたシロコが答える。
「それに私達をあんなに心配させたんだから、これくらい当然でしょ」
「いやぁごめんってみんな〜。おじさん反省してるからさ〜」
「駄目です!自分がどれだけ迷惑をかけたかしっかり向き合ってください!」
「うへぇ、そろそろおじさんの足が震えてきちゃいそうなんだけど...」
「まあまあ、ホシノも反省してるから...」
「そういえば先輩を連れ戻してきたという事は先生もあの時危ない所だったんですよね〜?」
「ん、なら先生も床に正座」
まずい、このままだと私の足が大変な事になってしまう。
「あ、そうだ!おじさん先生とちょっと話さなきゃいけない事あるんだった、行こっか先生!」
「あ、ちょっと先輩!」
そんな中突然立ち上がったホシノに腕を掴まれそのまま何処かへと連れていかれる。
後ろの4人の静止を振り切りやってきたのはこの前も訪れた屋上。
「ふぅ、先生が来てくれて助かったよー。あのままじゃ今日一日動けなくなっちゃう所だった」
出入り口の鍵を閉め、やれやれと首を振りながらほっと息をつくホシノ。
そんな彼女はこちらをゆっくりと見つめると口を開く
「...ありがとう先生。昨日は助けてくれて」
そう言うホシノの表情には、どこか安堵感が滲み出ている。
「実は、本当は少しだけ怖かったんだ。....おかしいよね、大丈夫って自分でも覚悟を決めていた筈なのに...サインする直前にみんなの顔が浮かんできてさ。もう会えなくなるかもって思ったら凄く怖くなっちゃった」
「私は先輩だから、もっと強くなきゃいけなかったのに....」
ホシノがポツリとそう呟いた後、私の口からは自然と言葉が溢れていた。
「無理に強くならなくていいんだよ」
「え?」
私の言葉が意外だったのか、目を丸くしているホシノ。
「確かにホシノはここでは1番の先輩だし、そういう責任を感じるのは仕方ないと思う。でも、子供が強くなるっていうのは苦しい事を我慢したり、自分を犠牲にする覚悟を持つ事じゃない」
「ホシノの傍には、いつもサポートしてくれる...一緒に並び立とうとしてくれる子達がいるよね?だから1人じゃなくて、5人全員で強くあればそれでいいんだよ」
「それに、そんな事をもしみんなに言ったら今度は正座じゃすまなくなっちゃうよ」
「...あはは、それもそうだね」
ホシノは笑いながら、どこか気の抜けた表情を見せる。
そんな彼女を前に、私はある事を考えていた。
ホシノは口にしないが、私があの場に何故訪れる事ができたのか、何故黒服達を知っていたのか....疑問に思わない筈がない。
それに、結局この前彼女に聞かれた事にも答えられていないままだ。
...私は全てを隠したままでいいのだろうか?
このままで、本当に彼女達と向き合っていると言えるのだろうか....
「....ホシノ、私は.....」
だが私がそう口にしようとした瞬間、私の口を塞ぐ様にホシノが手を伸ばしてくる。
「...きっと先生にしかわからない事も、辛い事も沢山あるんだと思う。あの時の先生を見てれば、凄く話し辛い事なんだっていうのは何となくわかってる。それに先生は気づいてないかもしれないけど....今の先生、あの時と同じ表情をしてたよ」
「今は話さなくていいよ。だから先生がそんな顔しないで済むような、先生が心から私達に話しても良いって思える様な時がきたら、その時は話して欲しいな」
「....ありがとう、ホシノ」
「うへ〜、なんか照れ臭いね。さぁて、そろそろ戻らないとシロコちゃん辺りが怖いから行こっか。それこそ今度は縄でぐるぐる巻きにされちゃうかも」
冗談めいた口調で話すホシノは先程閉めた鍵を開けて扉を開けると
「「.......」」
「......」
そこには縄を両手に持ったシロコの姿があった。
それからしばらくし時間が経過し時刻は昼過ぎ、私は1人アビドスの路地を歩いていた。
あの後シロコによって縄を巻かれ正座させられた私とホシノだったが、それから間もなくリンから連絡が届き私はシャーレへと帰還する事となった。
『先生〜!おじさんを見捨てないでよ〜!』
1人縄で動けなくなったホシノの嘆きを思い出しながら内心申し訳ないと彼女に謝りつつ帰路に着く。
その道中カイザーに破壊されたと見られる道路や建物が目に映り、私は昨日の事を思い返していた。
ホシノによって最終的に爆発し破壊されたカイザーの機体。
爆発が終わった後その場に残されていたものは機体の残骸のみで肝心の理事の姿はどこにもなかった。
今の所何の情報も無いがあの理事の事だ、おそらく爆発の直前に脱出をしていたに違いない。
カイザーが今後どうなるかはわからないが、少なくとも連邦生徒会も動いてくれる期待はあるので現状は静観するしかない。
そんな事を考えながら道を進んでいた時だった。
『...警告、周囲に不審な反応があります』
突然のアロナからの言葉に辺りを見渡してみるが周囲には何も確認できない。
「ここはあまり人がいない場所だけど....アロナ、それはどのくらい....」
アロナにそう尋ねようとした瞬間背後に気配を感じ振り向くと、何者かが棒状の物を私に振り下ろしている姿が見えた。
「っ!」
「くそっ!何で外れるんだ!」
振り下ろされた棒は私に当たる直前アロナによって軌道が曲げられた事で回避出来たが、気づけば周りを複数人に囲まれてしまっていた。
「カイザーの兵士...!」
彼らの正体はあの時理事が引き連れていた兵士達。
彼らはスタンガン、拳銃等の様々な武器で私に攻撃を繰り返すが、その全ては当たる事なく失敗に終わる。
『はぁっ...はぁっ....』
だがそれを防いでくれているアロナにも疲れが見え始めており、状況は悪くなる一方だ。
(このままじゃまずい...隙を見て逃げるしか.....いや急いで誰かに連絡を?)
なんとかこの場を脱しようと思考するが、そんな時兵士の1人が何かを床に転がすのが見えた。
『っ!先生!鼻と口を塞いでください!』
アロナへの反応が遅れてしまった私は、その物体から噴出された煙を吸い込んでしまう。
『先生!大丈夫でs...せんせ......』
「やっとk.....い、早く理事に......」
アロナが私を呼ぶ声と何かを話し合っている兵士の声だけが朧げに聞こえる中、私の意識は急速に闇の中へと落ちていった。