『むにゃ...大盛りパフェ.....』
隣で幸せそうな寝言を溢しているアロナ先輩を見ながら、私は終えた作業を先生に報告していました。
”お疲れ様2人とも。アロナは....寝ちゃってるみたいだね”
『はい、少し前に眠られました』
”そっか、なら起こすのも悪いしプラナもゆっくりしていいよ。...私も丁度仮眠をとろうと思ってたからね”
『了解です、お疲れ様でした』
先生はそう言って小さく欠伸をするとソファに倒れ込んでしまいました。
随分と疲労が溜まっていたのかそれから少しも経たないうちに寝息が聞こえてきます。
アロナ先輩に先生、そんな2人の姿を見ていたからか珍しく眠気がやってきた私はつい目を閉じて.....
......気づけば私は暗い闇の中にいました。
ここは何処なのでしょうか....
夢の中?ですがそれにしては不自然な程に身体の感覚がしっかりとしています。
そんな状況を不思議に思っていると、いつの間にか私の目の前には”どこか懐かしい光”がありました。
「.......」
私は無意識のうちにその“光“へと手を伸ばします。
そして、それに触れた瞬間私の意識は更に深い深い底へと落ちていきました。
『......?』
次に私の目の前に広がっていたのは、記憶にもない見知らぬ暗い部屋。
どうやら今私はこの部屋の机の上に置かれている様です。
ですが私は先程までシャーレに居たはず...それに傍にいる筈のアロナ先輩の姿までも見えない状況に流石に違和感を覚えた私は周囲のシステムを解析し始めます。
不思議と普段よりも力が溢れる様な感覚があり、この程度の遠隔作業も楽にできました。
『......状況分析中....なるほど、何かしらの軍事設備の様ですね...考えられる可能性は私の見ている夢であるか、あの後シャーレが何者かによって襲撃を受けたか....この程度であればシステム権限を一時的に変更可能でしょう.....これよりシステムの掌握を開始』
私はシッテムの箱を通じて施設内で使用されている全ての電子情報を調べ上げ、操作可能な状態へと構築し直します。
『....カイザー?何故彼らがここに?』
施設内の監視カメラをハッキングし内部の様子を確認すると、そこに居たのはカイザーグループの兵士達。
そしてそのうち1つの部屋の中に居たのは....
『...!先生!』
手首を拘束され床に座り込んでいる先生の姿でした。
理由はわかりませんが、カイザーが先生を拉致しているのは明白です。
遠隔で先生の手首の拘束具と扉のロックを解除し、不思議そうにしている先生をなんとかこの部屋の扉の前まで誘導、そうして対面した先生は安堵の表情を浮かべながらこちらへ駆け寄って来ました。
『....先生の安全を確認。疑問、一体ここで何が....』
「アロナ!無事で良かった....!」
『............アロ....ナ...?』
その言葉を聞いた瞬間、私の思考は一瞬止まりました。
私はアロナ先輩に新しい名前を貰い、先生もその名前で呼んでくれています。
私がアロナと呼ばれていたのは....あの出来事以前です。
ましてや、先生が私とアロナ先輩を見間違うなんて事もあり得ません。
私はもう一度先生を見つめ直します。
先生の顔つきも、声も、服装も特に変わった様子はありません。
ですが.....目の前の先生から伝わってくるのは、不思議とどこか懐かしい雰囲気。
それはまるで、私がよく知るかつての先生そのもので...
『....せ、先生...なのですか....?』
声が震えながらもそう呼ぶと、”先生”は優しく微笑みました。
それから私の”教室”に来た先生から何が起こっているのかを教えていただきました。
この世界はどうやら私達にとっていわゆる過去であり、今はカイザーPMC理事がまだアビドスで暗躍していた時期である事。
先生自身、あの爆発の後気づけばこの世界で目覚めていた事。
先程先生がかつて所持していた大人のカードが現れ、おそらくその力によって私が呼び出された事....
「.....まさか先生の身にそんな事が起こるとは」
「私も詳しい事はよくわかって無いのが正直な所だけどね....元気だった?」
「...はい、アロナ先輩も、先生も優しくしてくださるので。アロナ先輩にプラナという名前もいただきました」
「プラナ、か。うん、いい名前だね........ところで、シロコは?」
「否定、わかりません。あの時別れてからまだ会えていないので....ですが彼女は逞しいのできっと大丈夫です」
私の言葉に安心したのか、頷き笑う先生。
”おい、何が起きている!”
”そ、それが突然施設内の全システムが操作できなくなりまして...”
”理事!捕らえていた奴が脱走しています!”
すると突然遠くからカイザー達の声が聞こえてきました。
「まずい、とにかく隠れないと...!」
「...問題ありません」
「え?」
私はそう言いすぐさま部屋の扉をロックをかけました。
この施設はそれなりに頑丈に作られている様で、カイザーの持つ武器程度では簡単には突破出来ないでしょう。
「でもこのままここに隠れ続ける訳にはいかない、どうにかここから脱出する方法を考えないと」
「そちらもご安心を。現在先生の連絡先に入っている方々全員にこの場所と先生が身動きがとれないほど大変な目に遭っていると救援要請を送りました」
「...ははは、なんか後が怖くなってきたかも....でも流石アロ...プラナだね、ありがとう」
「...先生、おそらく彼女達がこちらへやって来るのにそこまで時間はかかりません。それに、それまでこの扉をカイザーに破られる事もないでしょう」
「そして....私がこの世界に存在できているのはそのカードの力です。それがいつまでもつかはわかりません」
先生の手に握られている黒く焦げたカード、本来ならばすぐに壊れてもおかしくない状態になっているそれを見つめながら私は続けます。
「ですから....それまで、先生と話していたいです。.....いいでしょうか?」
「......うん、勿論」
先生は私の願いを聞くと優しく微笑みました。
それから私は先生に色んな事を話しました。
あれから今まで過ごした日々の事、アロナ先輩が私に色々教えてくれた事、お姉ちゃんと呼ばせようとしてくる事、”先生”が毎日仕事に埋もれて呻いている事等。
どれも他愛もない話でしたが、先生はそれを楽しそうに聞いていました。
その姿は、”先生がああなってしまう”以前に見ていた私の記憶の中にある姿そのもの。
そうしているうちに、次第に外の様子が騒がしくなってきたのがわかりました。
聞こえてくるのはやたらと鳴り響く爆発音に、カイザー兵士の悲鳴.....おそらく先程の救援要請に応じた彼女達が到着したのでしょう。
それと同時に先生の持っていたカードが崩れ始めます。
それは.....この時間の終わりがやってきたという事を表していました。
徐々に意識が薄れていくのがわかります。
あと少しすればこの身体から私という意識が消え、こちらの世界の元の”私”に戻るのでしょう。
「.....提案、最後に1つだけ宜しいですか?」
その前に、どうしてもお願いしたい事がありました。
先生が頷いてくれたのを見た私は口を開き
「......頭を、撫でて欲しいで...」
そう言い切る前に先生の手は私の頭の上にあり、優しく動かしてくれるその感触を、私は細部にまで記憶に焼き付けます。
数秒か、数十秒か...名残惜しい気持ちはありましたが、いつまでも今の先生をこちらに縛り付けておく訳にはいきません。
私は先生から離れ、万が一の事を考え“教室“から出るように伝えました。
「プラナ」
”教室”から出て行く直前、先生は私を見つめ
「”アロナ先輩”と仲良くね、喧嘩は...してもいいけどちゃんと仲直りする事」
「あと、もしも向こうの”私”が困っている時は、手を貸してあげて」
「それから....」
「.....行ってらっしゃい」
「..........はい、行ってきます...!」
その言葉を最後に、先生は”教室”を去って行きました。
丁度その瞬間、部屋の扉が無理矢理こじ開けられ外から何人もの見覚えのある生徒がなだれ込んで来るのが画面越しに見えます。
見慣れた彼女達が先生に駆け寄っていく姿を最後に、私の意識は途切れ.......
『.....ゃん、プラナちゃん?』
『.........アロナ、先輩』
『はぁー良かったです!』
目を開けると、そこにはこちらを心配そうな顔で覗き込んでいたアロナ先輩が居ました。
『中々プラナちゃんが目を覚さないのでびっくりしました!』
”おはようプラナ。ごめんね、よっぽど疲れていたみたいなのに、手伝わせてしまって....”
ほっと息をついているアロナ先輩に、申し訳無さそうにしている先生。
”今日はもう仕事は無いから、2人ともゆっくり休んでね”
そう言って先生は席を立ち飲み物を取りに行きました。
『プラナちゃん、何か良い夢でも見たんですか?』
『...何故ですか?』
『プラナちゃんがそんなにわかりやすく笑顔になるなんて珍しいですから』
ニコニコと笑うアロナ先輩の言葉に、つい自分の顔に手を当ててしまいます。
良い夢.....
『.....はい、とても...大切な夢を見たんです』