「う〜....!」
「.......」
ミレニアムタワー内のとある部室、そこでは苦しそうに呻く少女の声とピコピコという電子音が鳴り響いていた。
「ふーっまだいける...!まだ....あああああ!!!」
「お姉ちゃんうるさい」
悲痛な声を上げる少女は持っていたコントローラーを放り投げ床に寝転がり、もう1人は呆れ気味に隣の少女に答える。
2人の前にはブラウン管のテレビがあり、画面には2P WINの文字が映し出されていた。
「もーミドリ強すぎ!」
「いや、お姉ちゃんが弱いだけじゃん...明らかにやらなくて良い場面で技出したりしてたし」
「ぐぬぬぬ....もう一回!」
ミドリと呼ばれた少女は自身の姉であるモモイの抗議に正論で返すが、肝心のモモイは納得がいかない様子で再びコントローラーを握ると再戦要求をする。
「それもう何回目?...ていうかお姉ちゃん、このままで良いの?」
「何が?」
「いや、前に言われたじゃん。そろそろ部員を増やすか何かしらの成果を上げないといい加減廃部にするって」
「あー、えっと....」
「...まさか忘れてたなんて言わないよね?」
ミドリはジト目になりながら歯切れの悪い姉に詰め寄る。
「そ、そんな大事な忘れる訳ないでしょ!」
「さっき凄い怪しかったけど」
「本当だって!ほら、その証拠に良い作戦を考えてきたんだから!」
「作戦?」
彼女はそう言って自身の鞄を漁ると、中から少し折り目のついた紙の束を取り出しそれをミドリに手渡した。
「....”レトロゲームの素晴らしさとは”...?」
ミドリは姉から受け取った紙に目を通してみると、1番上にデカデカと書かれたその文字を読み上げる。
「そう!ミドリ、例えば自分の知らないものに急に興味を持てって言われて素直に頷く?」
「それは、すぐには納得できないかもしれないけど」
「でしょ?きっと皆はレトロゲームの事をまだよく知らないから入部してくれないだけなんだよ!だから私達がレトロゲームについてしっかり教えればきっと皆興味を持ってくれる筈!」
「確かにそうかも....凄い、お姉ちゃんが真面目な作戦を考えるなんて」
「へへーん!そうでしょそうでしょ!...あれ、それって褒めてる?」
「でもどうするの?」
ミドリは浮かんだ疑問を姉に投げかけるが、彼女は腰に手を当てながら自信満々に答える。
「当然!今から部の所に行ってプレゼンするんだよ!」
「....それ勝手にやったら怒られたりしない?」
「大丈夫大丈夫、レトロゲームについて布教するだけだし、これもゲーム開発部の立派な活動だって!」
「うーん、そうかな.....」
「ほらっ善は急げだよ!ユズも....ってあれ?ユズー、どこー?」
もう1人のメンバーでありゲーム開発部の部長のユズの名前を呼ぶが辺りに見当たらない、どこかに出かけてしまったのだろうか。
「ユズどこ行っちゃったんだろ?...しょうがない、ミドリ行くよ!」
「あ、ちょっと待ってよお姉ちゃん!」
「ほら、だから言ったじゃん!!!」
「ご、ごめん!後で謝るから今は服掴まないで!ユウカに追いつかれちゃう!」
あれからしばらくした後、ミレニアムタワー内には必死の形相をしながら廊下を走る双子の姿があった。
「こ、こうなったら...ミドリ!二手に別れるよ!後で例の場所で合流ね!」
「え、ちょ、ちょっとお姉ちゃん!?例の場所って何処の事なの!?」
「それじゃミドリ中尉!健闘を祈る!」
「あ、お姉ちゃん!」
私はミドリの声を背に走るスピードを上げ階段を駆け降りる。
丁度その姿をユウカに見つかり、彼女はミドリに気がつく事なく私目がけて追いかけて来た。
「な、なんてすばしっこいの....待ちなさいったら!」
「ゆ、ユウカは私なんか放っておいて仕事した方がいいんじゃないの!?」
「今はあなたを捕まえるのが仕事よ!いいから観念なさい!!!」
ユウカとの差はまだあるが、このままではいずれ追いつかれてしまう。
捕まった後自分が受けるであろうキツイ説教が頭をよぎり、身震いした私はとにかく足を動かし続けた。
そして猛スピードのまま曲がり角を進もうとした時
「っ!あ、ちょっと危な.....!」
目の前に突然現れた人影に一瞬気を取られるが、加速した車は急には止まれない様に、私はそのままの勢いでその人影へと突っ込んでしまった。
「えっ....うぐっ!」
ぶつかった瞬間、お互いもつれ合うように吹き飛び2人一緒に設置されていた自販機に叩きつけられる。
「モモイ!もう逃がさないわよ....って、え!?ど、どういう状況よ!?」
衝撃に頭を押さえている内に、とうとうユウカに追いつかれてしまったようだ。
こうなってしまえばもう逃げられない...私は観念してその場から立ち上がろうとする。
「あれ...せ、先生!どうしてここに!?」
だが肝心のユウカは私を見る事なく、視線を下げ驚いた顔をしていた。
「や、やあユウカ...」
その時、座り込んでいた私の足元から聞き覚えのない声がユウカの名前を呼んだ。
「....え、先生って....」
私は恐る恐る顔を下げると、そこに居たのは苦笑いを浮かべている1人の大人。
キヴォトスに着任してから色んな問題を解決していると噂の”シャーレの先生”、どこか不思議な雰囲気を醸し出しているその人は、何故か私を懐かしむ様な目で見つめていた。