「.........」
ユウカと別れしばらく経った後、私は先程渡された紙を持ちながらある部屋の前に立っていた。
扉には”開発中 邪魔しちゃダメ!”と書かれたプレートがかけられており、周りには様々なゲーム機等が載っているチラシが貼り付けられている。
私はそっと扉をノックし様子を窺うと
「ミドリ、今ちょっと手が離せない...!」
「ゲームしてるだけじゃん...もうしょうがないなぁ」
2人のそんな話し声がすると、1人がこちらに近づき扉が開かれる。
「はい、どちらさまですか....?」
姿を現したのはつい先程会ったばかりのモモイとそっくりな少女。
モモイとは違い緑色を基調とした服装に、彼女と同じ猫耳のカチューシャを身につけているミドリだった。
「ミドリどうしたの?」
「あ、お姉ちゃん。えっと...」
「んー?...あ、先生!来てくれたんだ!用事は終わったの?」
「丁度さっき済んだから寄ってみたんだ。何か取り込み中だったかな?」
「全然良いよ!ほら、入って入って!」
モモイに笑顔で手招きされた私はそのまま彼女達の部室へと足を踏み入れる。
ゲーム画面が映るブラウン管のテレビ、棚に置かれた色んなゲーム機や資料、コードやコントローラーが散乱している床。
どれも私がよく知る彼女達の部室がそこには広がっていた。
「え、先生...もしかしてシャーレの先生!?ちょ、ちょっとお姉ちゃん!こんな散らかったままじゃ失礼でしょ!あの、少し外で待っててください!」
そう言われ私はミドリに部屋から追い出されてしまった。
中からギャーギャーと言い合う声やガチャガチャと片付ける物音が聞こえてくる。
「ど、どうぞ....」
「ようこそ先生!ここが私達の部室だよ!」
それから数分、改めて通された部室は綺麗に整頓されていた。
...隅の方に詰め込まれた形跡はあるが見なかった事にしよう。
「お姉ちゃん、さっきから気になってたんだけど、先生と知り合いなの?」
「さっきユウカから追われてた時に会ったの、先生のおかげで反省部屋に行かずに済んだんだー...あ、先生!勿論ちゃんと反省してるよ!あの後2人であの子達に謝りに行ったし...!」
「あはは...大丈夫だよ、2人がちゃんとできる子だっていうのはわかってるから」
「...あれ?先生って私達の事知ってたの?」
油断からか、彼女達と出会えた事に懐かしさを感じていたからか、つい口走ってしまった。
「あ、いやー....シャーレにいた頃噂だけは聞いてたからね」
「...自分で言うのもあれだけど、私達ってそんなに良い噂あったっけ?」
若干疑問を浮かべていた2人だったが、それ以上特に気にする事なく彼女達の部活について説明してくれた。
「....て感じ、今は次どんなゲームを作ろうか考え中なんだー」
「最近は殆どテレビゲームを遊んでは終わりの繰り返しですけど」
「そ、それはミドリも同じじゃん!それより先生、せっかく来たんだから一緒に対戦しようよ!」
モモイはそう言ってコントローラーを渡してくる。
彼女達とゲームをするのはいつ振りだろうか、今すぐその提案に乗りたい気持ちはあるが、私にはやるべき事がある。
「...実はユウカから頼まれてた事があるんだ」
「え、ユウカが?」
「何ですか?」
「これなんだけど....」
私は2人に例の通知書を渡した。
「「は、廃部予告!?!?!?」」
2人がそう叫んだ瞬間、背後のロッカーからガタンッと音が鳴り床に倒れ込む。
「な、何!?」
「ゆ、幽霊とか...?」
しばらく沈黙が辺りに流れていたが、やがて倒れたロッカーの扉がゆっくりと開く。
「そ、それ....本当...?」
「「ユズ!」」
そうしてロッカーの中から現れたのはもう1人のゲーム開発部のメンバー、ユズだった。
「あ、先生。この子はユズ、私達ゲーム開発部の部長だよ!」
「は、初めまして...せ、先生....!」
ユズはオドオドと目を逸らしながら挨拶をしてくれた。
「ユズちゃん、いつからそこに居たの?」
「え、えっと...2人が他の部の所に向かう前...」
「嘘!?そんな前から隠れてたの!?」
「ご、ごめん。つい出るタイミングがなくて....そ、それよりその紙...」
ユズはモモイから渡された紙を手に取るとじっくりと読み始める。
そして読み終えると同時にペタンと座り込んでしまった。
「ど、どうしよう...!このままじゃこの部屋が...」
「ユズちゃん落ち着いて!」
「な、何でこんな急に...いや確かに前から言われてはいたけど....ちょっとユウカの所に行ってくる!」
「あ、お姉ちゃん!」
モモイはミドリの静止を振り切り、紙を握りしめながら部屋の外へと走って行ってしまった。
「ごめん、いきなりこんな事になっちゃって」
「い、いえ。先生はユウカに頼まれただけだから、それに...元々規則を守ってなかった私達の方が悪いので...」
ミドリはユズを支えながらそう口にする。
やがて先程出て行ったモモイが戻ってくると、彼女は床に手をつき項垂れてしまった。
「くっ...”文句言うならルールを守ってからにしなさいっ!”って追い返された...」
「そりゃそうだよお姉ちゃん...」
「でも私達だって人数は足りないかもしれないけど、成果は出してるじゃん!」
「今年のクソゲーランキング1位って結果だけどね...」
「う、それはそうだけど....」
そんな彼女達のやり取りを聞いていた私は、好奇心から彼女に尋ねる事にした。
「そのゲームってどんなものなの?」
かつての世界でも彼女達は同じ様にクソゲーランキング1位を不名誉ながら受賞していた。
だが評判だけは知っているが、肝心のゲーム内容については知らなかった為つい聞いてみたくなったのだ。
「そうだ!先生にもプレイしてもらおうよ!ちゃんと遊べば面白いって思ってくれるかもしれないし。ユズ、いいよね?」
「う、うん...私は良いよ。遊んでくれるだけで嬉しいから...」
「よーし、じゃあ早速準備しよ!」
モモイは嬉しそうにしながらゲームを準備し始めた。
自分達の作品を遊んで貰うというのもそうだが、本当にゲームが好きなんだというのが伝わってくる。
「これでおっけー!はい先生!」
私は画面の前に座るとモモイからコントローラーを受け取った。
彼女達が一生懸命作った作品、そして再び彼女達と共に過ごせているこの時間、それらの期待や幸福を噛み締めながらゲームをスタートさせた....
私はいつの間にか気絶していた。