「.....という訳なんだ」
シロコに校内を案内して貰いその後砂の除去を手伝ってシャーレへと戻った翌日、私はサンクトゥムタワーへとやって来ていた。
理由はアロナが言っていた通り私宛に大量に届いていた連邦生徒会...主にリンからの連絡を処理、正確には謝罪をするためなのだがもう一つ理由がある。
「なるほど、アビドス高等学校への物資の支援ですか...」
彼女達にお願いされた弾薬などの補給品、それらを大量に用意、運搬などの諸々の許可をもらうため行政官であるリンの元へと足を運んでいた。
「急に姿を消したと思えば私への軽い連絡のみで呑気にシャーレへ戻り、その上アビドスの為に物資を大量に届けて欲しいと言いにくるとは驚きました」
「いや、その件は本当に申し訳ございません...」
先程まで小一時間程説教をされていた私はリンの言葉に平謝りするしかない。
「まあ先生の事情は理解しました。”シャーレの仕事”という形でしたらこちらとしても問題ありません」
「ありがとう、助かるよリンちゃん」
「誰がリンちゃんですか。ただし、それらの証明書の発行作業などは全てご自身でやってもらうのでそのつもりで」
「はい......」
その後無事許可を貰い面倒な作業は未来の自分に任せた私は再度アビドスへと向かった。
ヘルメット団によるアビドス高等学校への襲撃はおそらくまだの筈。
なので今のうちにアビドスの街の様子が私の記憶と違いはないか確認したいのが主な理由、おまけで今後有利に事を進めるために可能であればヘルメット団やカイザーグループの噂などを事前に調べておきたい。
そう考えた私はシッテムの箱片手にアビドスの街中を彷徨っていた。
『この辺りは一応商店街が栄えています...その他の地区は砂の被害で寂れてしまった場所も多いようです』
「うん、アロナの調べてくれた通りだね」
アロナがまとめてくれたデータを見ながら街の観察、住人への聞き込みを次々と行っていくが肝心な情報はあまり集まらない。
進展もそれ程芳しくないまま時間ばかりが過ぎていく。
「やっぱりそう簡単にはいかないよね....」
見た所街には特段変な箇所は見つからず、私の記憶通りのアビドスの姿そのままだった。
つまりこの世界は私の知る以前のキヴォトスであるのは間違いない...いやまだ断定するのは早いかもしれないが、ひとまずその考えで進めても問題ないだろう。
『先生、次はどうされますか?』
「そうだね...」
このままシロコ達の様子を見にアビドス高等学校を訪ねてもいいのだが
「次はブラックマーケットに行ってみよう」
『ブラックマーケットですか...あそこは治安が悪く、不良や裏社会の人物が蔓延っています。...向かうのは止めるよう提案しますが』
アロナが難しい顔をして私を止めてくる。
「でも、そういった場所だからこその情報があるかもしれない。大丈夫だよ、そんな簡単に何かに巻き込まれる事はないだろうし、それに...」
私はアロナを画面越しにそっと撫でながら告げた。
「もし何かあったら、うちのスーパーアロナが助けてくれるからね」
『...肯定、先生の安全はこのスーパーアロナにお任せください』
ふっとドヤ顔を披露する彼女の姿に頬が緩みながら、私はブラックマーケットへと向かっていった。
「おい、金置いてけよ」
「素直にすればあたしらもすぐどいてやるからさ」
「......」
そしてブラックマーケットに着いて早々、私は見事にカツアゲをされていた。
確かに治安が悪いのは予めわかってはいたが、こうも早く自分の身で体感するとは思わなかった。
「出会ったばかりの私が言うのもあれだけど、あまりこういう事はしない方が良いと思うな...」
「はぁ?あんたに関係ないだろ」
「いいからさっさと出すもん出しな」
一応説得を試みるが、聞く耳を持ってくれない。
本当はこの子達もどうにかしてあげたいとは思っているけど....
「今はちょっと忙しくてね、だから....じゃあね!」
「あ、おい!待て!」
彼女達の隙をつき、私は全速力で走り出した。
突然の行動に一瞬怯んだ不良達は慌てて私を追いかけ始める。
『先生、その角を右です』
アロナの指示に従い狭い路地裏を進んでいくが、彼女達もしぶとく追いかけてくる。
『...先程簡単に巻き込まれる事なんてないと言っていましたが』
「はぁっ...はぁっ...!そ、そんな事も言ったような気がする....!」
アロナの呆れるような声に答えながら足を動かし続けると、やがて前方に広い道が見えてきた。
私はそこへ勢いよく飛び出し....
「きゃあっ!」
「うわっ!」
道に出た瞬間誰かとぶつかってしまい、私はその衝撃で尻餅をついてしまう。
「びっ、ビックリした...ねぇ、貴方大丈夫?」
「あ、あぁすみません、こちらの不注意で....」
ぶつかってしまった相手はとくに怪我などないようで、逆に私を心配してくれる始末。
私はその相手に謝罪しながら顔を上げると
「....アル?」
「へ?」
なんとそこに居たのは私が良く見知った少女、陸八魔アルだった。
そしてつい反射的に彼女の名前を呼んでしまったと気づき急いで口を覆うが時すでに遅し。
「アルちゃん、大丈夫〜?」
「あ、アル様、どうかされましたか!」
「社長、何かあったの?」
さらに彼女の後ろからは同じく便利屋68のメンバーであるムツキ、ハルカ、カヨコの3人が姿を現した。
何故彼女達がここにいるのかはわからないが、あまり状況はよろしく無い。
「大丈夫よ、ちょっとこの人とぶつかっちゃっただけだから。それよりも貴方、何で私の名前....」
「見つけたぞ!」
「なるほど、仲間と合流する為に逃げたのか!」
「え、え?」
「まあいい、あいつらからも巻き上げちまえば稼ぎは倍だ!」
「えええええええ!ど、どういう事よ!」
追いついた不良少女達は、どうやら4人を私の仲間だと勘違いしているようで、それぞれ銃を構え始める。
「ごめん、完全に私のせいで巻き込んじゃって」
「というか貴方は本当に誰なの!?」
アルがそう問いただしてくるが、今はそれに悠長に答えている暇はない。
不良少女達には申し訳ないが、ここは一旦退いてもらおう。
彼女達の後ろに移動しシッテム箱を起動すると私の眼前には地形情報、不良少女達の数、位置、攻撃予想範囲などのホログラムが映し出される。
「ハルカは前に出て前の複数人を巻き込むように射撃、ムツキとカヨコはハルカの横から漏れ出した彼女達の進路を妨害」
「わ、わかりました!」
「クフフっ♪なんかよくわかんないけど、おっけー!」
「はあっ...まあせっかくの依頼料を取られても困るし」
いきなりの私の指示に戸惑う事なくハルカ、ムツキ、カヨコの3人は不良達を撃退していく。
「く、くそ!なんでこんなやつらに!」
『...前方に手榴弾の存在を確認』
「アル、飛んでくる手榴弾を撃ち抜いて」
「ああもう!全然訳がわからないんだけど!やってやるわ!」
文句を言いつつも即座に銃を構え、飛んでくる手榴弾を見事に撃ち抜くアル。
その様子を見て流石の不良少女達も動揺し始める。
「こ、こいつら強え...」
「チッ!逃げるぞ!」
それから少しもしないうちに彼女達はアル達の腕前に撤退していった。
...突然の事で単純な指揮しか出来なかったが、それでも完璧に動いてくれた4人に感謝しかない。
「ありがとう4人とも、お陰で助かったよ....じゃあ私はこれで.....」
彼女達に頭を下げて礼をする。
そしてこのまま何事もなかったかのようにそそくさとこの場を離れようとしてみたのだが、背中を誰かに引っ張られた。
嫌な予感がしながらも振り返ると、そこにはニコニコと笑顔を浮かべたムツキ、そしてじっと私を見つめている3人の姿。
「いやいや〜まず色々説明する事あるんじゃない?」
「そ、そう!どうして私達の事を知ってるのよ!」
「...まさかどこかの依頼先の手先とか」
「そ、そうなんですか!?もしアル様に危害を加えるなら....」
それぞれが私に懐疑的な目を向けて問い詰めてくる。
そんな彼女達を見ながら、私は自分の不注意さや意図せず陥ってしまったこの状況に苦笑いを浮かべるしかなかった。