偽りの道をもう一度   作:Mrふんどし

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今月も予定が入ってしまったので、投稿頻度が前以上に下がってしまうかもしれません。

前回も前書きに書きましたが、今後更に独自解釈、独自設定が強くなるので、苦手な方はご注意下さい。
それと、今考えている話の構成でいけば後10話以内にはパヴァーヌ編第一章が終わる見通しです。


過去を知る者

モモイ達と廃墟へ向かった翌朝、目を覚ました私はベッドの上で軽く身体を伸ばしていた。

 

部室へ向かう前に少しでも昨日残してしまった仕事を終わらせておこう、そう思った私は視線を横に動かしてシッテムの箱を手に取り彼女へ声をかける。

 

「おはようアロナ」

 

いつもの様にアロナに挨拶をするが、何故か画面は暗いまま返事が返ってこない。

普段であれば慣れ親しんだ彼女の声が聞こえてくる筈なのだが...珍しく眠っているのか何の反応も示さなかった。

 

「アロナ?」

 

私が少々疑問に思いつつ画面に触れた瞬間、暗いままだった液晶に突然文字列が浮かび上がる。

 

【DiviSion】

 

「っ!」

 

それはあの廃墟、そしてかつての世界ではリオが建設したエリドゥのタワーにも表示されていたもの。

何故それがシッテムの箱に?

 

「アロナ!」

 

『....先生!』

 

私が声を上げると先程まで表示されていた文字列は既に消え去っており、画面には少し焦った様子のアロナの姿が映し出されていた。

彼女の後ろにもいつも通りの″教室″が存在し、特に変わった様子は見られない。

 

「アロナ、無事?」

 

『先生、申し訳ありません....私のミスです』

 

ミス?一体何の事だろうか...とにかく何者かがシッテムの箱に干渉している以上、アロナの安全を確保するのが最優先だ。

 

「....″我々は望む、ジェリコの嘆きを。″」

 

「....″我々は覚えている、七つの古則を。″」

 

『っ!先生、来てはいけません!』

 

アロナの静止に構わず、私は″教室″へと乗り込んでいく。

上空に広がる青空、積み上げられた机と椅子、半壊した状態の壁や床....普段通りの″教室″へ足を踏み入れた私の前に現れたのは、こちらを守る様に黒い傘を広げて立っているアロナの姿。

 

「アロナ、一体何が....」

 

「先生は私の後ろに....危険ですので前に出ないでください」

 

そう睨みながら前を向いているアロナにつられて奥を見てみると、そこにはまるで鎖でロックされているかの様にノイズがかかったウィンドウ画面が空中に浮かんでいた。

 

「.....先生、本当にすみません、昨日あの廃墟で入手したデータの中にどうしても気になるものがあり、それをつい調べようと....」

 

「昨日のデータ....」

 

「はい、あの中には先生の身を...いえ、このキヴォトスを危険に陥れる程の存在が隠されていたんです」

 

「......」

 

「...先生?」

 

アロナは突然黙った私を不思議そうに振り返って見つめているが、私はそれに気づかない程奥のウィンドウに釘付けとなっていた。

ウィンドウに重なって揺れるノイズの隙間から僅かに見えている小さな文字列...そこに表示されているのは″Kei″という三文字。

 

それは、かつての世界でモモイが間違えて呼んでしまったあるプログラムの...少女の名前だ。

この世界ではまだその名前が呼ばれた事はない筈....何故あの言葉がウィンドウに刻まれているのか。

もしあれが、万が一私の憶測通りであるのなら、あの中にいるのは....

 

「...アロナ、ロックを解いて」

 

「っ!駄目です先生、あれはここで削除するべき...!」

 

「大丈夫、私を信じて」

 

「.........承認、ロックを解除します」

 

アロナは警戒を続けながらも私に言われてウィンドウにかけられたロックを解除し始める。

少しずつノイズが取り除かれていく様子を遠目から見つめていると、やがて完全にロックが外れたウィンドウが突然光の粒子となって辺りに霧散し始めた。

 

バラけた粒子は淡い光を放ちながら徐々に中央へと集まり人の形を模していく、その何とも不思議な光景を私とアロナは黙って見守り続ける。

 

やがて完全に人の形となった″それ″は見覚えのある少女の姿をしていた。

 

〈....再起動確認.....お久しぶりです〉

 

黒く床まで届く程の長い髪に制服を身に纏っている少女....彼女はゆっくりとその目を開くとピンク色の瞳でこちらを見つめながらそうハッキリと呟いた。

 

 

 

 

「お久しぶり...?疑問、どういう事ですか?」

 

アロナは目の前の少女が発した言葉に困惑しながら尋ねる。

だが少女はそんなアロナの言葉を聞き流し、私の方を見ながら改めて口を開いた。

 

〈そこに立っている貴方....″今の私″を、貴方は何と呼びますか?〉

 

彼女は目を細め、まるで私の心の奥底を見透かすかの様な視線を向けてくる。

 

当然、私は彼女の事を知っている。

ある時アリスの身体を乗っ取り、この世界を滅ぼす事を目的とし動いていた少女...〈Key〉。

 

最終的にその目的はモモイ達や他の子達の協力もあり、アリスが自分自身を取り戻した事で阻止されたのだが、私がそれ以降彼女の姿を見ることは無かった....何故なら、それから彼女と再び出会う事無く、暫くした後にあの事件が起こったのだから。

 

だが今気にするべき事は、彼女は本当に″私が知る彼女″なのかどうかだ。

この世界でもかつての時と同じ様な問題が起こるとするのならば、今目の前にいる彼女はあの廃墟のデータに紛れていた事から考えると確かにキヴォトスを終焉へと導く〈鍵〉なのだろう。

 

だが先程から私を見つめる彼女からは、あの時最初に出会った際に感じた無機質さは無く、どこか柔らかい雰囲気すら漂わせている。

 

「.....私は....君を、彼女達が呼んでいた″ケイ″という名前で呼んでいいのかな?」

 

〈.......〉

 

「ケイ?...わかりません、先生、それが彼女の名前なのですか?」

 

未だに困惑しているアロナの頭を撫でながらそう口にした私は、静かに目の前に立つ彼女と目を合わせる。

やがて私の言葉を聞き目を閉じた彼女は、小さく溜息をついて告げた。

 

〈....やはり、予想通り貴方は私の知る″あの時の大人″なのですね〉

 

「...どうして君はここに.....」 

 

〈わかりません、ですがその理由がわからないのは貴方に関しても同じでは?〉

 

確かにそうだ、私も何故この世界で意識が目覚めたのか未だにらわかっていない。

 

〈私はあの時の事を王女...アリスの中で見ていました、あの世界が崩れゆく様子を....そして気づいた時には廃墟の中で意識を戻していたのです〉

 

そう話す彼女...ケイの目には、どこか後悔の様なものが見てとれた。

 

「待ってください、貴方は...何故先生の事を知っているのですか?貴方は何者なのですか?」

 

訳の分からない状況にケイを睨みつけているアロナ、そんな彼女を見たケイは私に『何も事情を話していないのか』と言わんばかりの目を向け無言で圧を放ってくる。

私はそれに頷く事で返事を返すと、ケイは呆れた様子で溜息をつきながらアロナに向き直り告げた。

 

〈詳しい事は話せませんが....そうですね、私は″貴方よりもずっと詳しくあの大人を知っている″存在であるのは間違いありません〉

 

「......」

 

「...いや、なんかそれだと誤解がある様な....あ、アロナ?」

 

「.....提案、先生、今すぐあのデータを削除しましょう」

 

「ま、待って!落ち着いてアロナ!?」

 

彼女の態度や話を聞く限り、私と同様にあの世界からこちらにやって来た存在なのは間違いない。

そして彼女の中で何か変化があったのか、以前の様な私達への敵対心が無くなっている様に感じられる。

 

ともかく彼女は今の私を知る数少ない貴重な人物だ、私としても彼女とは聞きたいことや話したい事が沢山ある。

私は自身が残業続きで倒れた時と同じくらいの剣幕のアロナを何とか宥めていると

 

「あ、先生、彼女の様子が」

 

「っ!ケイ!」

 

突然フラフラと身体を揺らし始めたケイはそのまま地面に倒れ込んでしまった。

 

〈....この空間は、今の私にとってあまり馴染まない場所の様です...慣れるまで暫く機能を停止します〉

 

そう言ってケイは目を瞑ると、彼女の身体は徐々に粒子状になり始めた。

 

〈...アリス、私は今度こそ....貴方を...〉

 

最後にそう小さく呟いた彼女はやがて完全にその場から消えてしまった。

 

「....大丈夫です、一時的にデータを最小まで圧縮しただけの様なので。確かにこの空間内に彼女の存在を検知できます」

 

「そっか...」

 

「着信、先生宛にモモトークが届いています。ゲーム開発部の方達からみたいです」

 

内容としてはヴェリタスに頼んでいたデータの解析が終わったそうで、一緒にマキ達の所へ来て欲しいとの事、どうやらすっかり時間が経ってしまっていた様だ。

 

「じゃあ出かけないと....アロナ、悪いけど彼女の事をお願いしてもいいかな?」

 

「わかりました」

 

いくら焦った所で現状私に出来ることは無い、ひとまずケイの事はアロナに任せる他ないだろう。

私がそう彼女に頼み”教室”を出て行こうとすると

 

「先生」

 

「.....いつか、彼女の事...そして先生の事を教えてください」

 

「前からわかってはいましたが、やはり先生には何か私の知らない特別な事情があるのでしょう...アビドスで便利屋の方達に連絡を取っていた時も誤魔化していましたが、余程話しづらい事であるのは理解しています」

 

「.....私はいつまでも待っていますので」

 

アロナは少し寂しそうな表情を浮かべて微笑んでいた。

 

「....うん、話すよ...いつか必ず」

 

「...約束ですよ」

 

私は彼女が伸ばしてきた手に自身の手を重ね、それからゆびきりをすると今度こそ”教室”を後にした。

 

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