「あ、待ってたよ先生ー!」
先程モモトークの連絡を貰い、ケイを一度アロナに任せた私がヴェリタスの部室を訪ねてみると、そこにはモモイ達の他にもハレやマキ等のヴェリタスの面々も揃っていた。
「ごめんね、少し遅くなっちゃって」
「全然大丈夫!それよりハレ先輩、昨日の廃墟で手に入れたデータの分析は?」
「それならマキがやってくれてる....あ、今丁度終わったみたい」
ハレが振り返った先には私が彼女達に手渡したUSBメモリを持ったマキが立っていた。
「うん、モモ達が廃墟から持ってきてくれたあのデータは分析し終わったよ」
「そ、それで結果は?」
「正真正銘本物だと思うよ、あれがかの伝説のゲームクリエイターが作った神ゲーマニュアルのG.Bibleで間違いない筈」
「しかも中身のファイルの作成日や最後に転送された日時も調べてみたんだけど、あのデータは今まで一回しか転送された形跡がなかったの」
「それってつまり...」
「そう、完全オリジナル版って事」
「やったぁぁぁ!!!」
そう言って自信満々に答えたマキの話を聞いたモモイ達は飛び跳ねるほど喜んでいた。
「よし!じゃあ早速そのデータの中身を使ってミレニアムプライスに出すゲームを作らなきゃ!」
「こ、これで私達の部活も大丈夫だね」
「あー、そんなに喜んでる所申し訳ないんだけど....」
「え?」
「その...G.Bibleの事でちょっとだけ問題があるんだよね」
「だって本物だってわかったんでしょ?なら他に何が問題なのさ」
そう不思議そうに尋ねられたマキは、どこか目を逸らしながら言葉を続けた。
「うーん、実は肝心な事にそのファイルのパスワードがまだ解析出来てないんだよね、あはは...」
「え、という事は....」
「まだファイルの中身を見られないって事...?」
「それじゃあ意味ないじゃん!」
「だ、大丈夫!別に方法が無いわけじゃないから!直接見るのは無理だけど、セキュリティ部分を取り除いて丸ごとコピーすればおそらくは.....」
「なら早く試そうよ!」
「出来れば私達もそうしたいのは山々なんだけど、そこについても問題があるんだよね...その解析に使うためのプログラム....通称『鏡』って呼んでるツールが今うちに無いの」
「この前押収されちゃったんです、生徒会に」
「ただの暗号化されたシステムを開くのに最適ってだけのハッキングツールで....しかも折角私達の部長が直々に制作したものだったのに」
私はそんなみんなの話を後ろで聞きながら、彼女の口から飛び出た部長という言葉にある人物を思い浮かべていた。
明星ヒマリ。
彼女達ヴェリタスの部長であり、このミレニアムの中でも数少ない『全知』の学位を持っている天才と知られている少女。
彼女とはかつての世界では色々な話をしたり、アリスの一件やデカグラマトンの調査等で互いに協力し合う仲だった。
身体が少し不自由らしく普段は車椅子に乗っているがそんな事を気にさせない程頼もしく、またかなりの自信家だったりロマンチストであったりと中々面白い子だ。
(...彼女ならリオの事を知っているだろうし、今度話してみるのも良いかもしれない)
「全くです、私はただ先生のスマホのメッセージを確認したかっただけでしたのに」
私が思考に耽っている間いつの間にか話が進んでいた様だ....若干聞いてはいけない様な会話が聞こえる気もするが、そこはスルーするとしよう。
「そこで相談何だけど、モモ達はファイルの中身を見る為に『鏡』が必要...そして、私達もその押収された『鏡』を取り戻したい....もう言いたい事はわかるよね?」
「なるほど、最初からそれが目的で呼び出したって事なんだね」
「流石モモ!話が早くて助かるよ」
「ま、まさかお姉ちゃん、ヴェリタスの人達と一緒に生徒会を襲撃するとか言わないよね...?」
「ミドリもわかってるくせに!勿論それしか方法はないでしょ!」
既にやる気満々なモモイ達、そんな彼女達へマキが再び苦い顔をしながら告げた。
「ただ、それを実行するには少し問題があって....『鏡』が保管されてる差押品保管所の警備担当がメイド部って事なんだよね」
「メイド部?.....って、それってC&Cの事!?そんなの絶対やばいじゃん!」
「大丈夫大丈夫!人数は私達の方が多いし、案外すんなり上手くいく可能性もあると思えば...」
「それって砂漠の中で宝石を見つける様なものでしょ!?や、やっぱりその作戦止める!」
「そ、そんな事言わないで!でないと私達が部長に怒られちゃう!」
突然湧いて出た大きすぎる問題に逃げ腰になってしまったモモイだったが
「....やります」
「あ、アリス?」
先程まで彼女達の話を静かに聞いていたアリスは目を瞑り手を胸に当てながら言葉を続ける。
「アリスはこれまで沢山のゲームを遊んできました....その中で学んだ大事な事があります」
「それは...仲間がいれば、どんなに難しくて辛い道のりでも乗り越えられるという事です」
「フィールドに配置された敵がいくら強くても、力を合わせれば必ず勝つ事ができます!それに敵は強大な程貰えるアイテムも美味しいものです!」
「う、うーん確かにそうかもしれないけど」
「.....うん、アリスちゃんの言う通りかも」
「ミドリ?」
それでもやはりC&Cが相手という事もありまだ若干尻込みしているモモイだったが、そんな中アリスの言葉にミドリは小さく頷くと口を開いた。
「確かに今まで以上に難しい挑戦かもしれない.....でも、ここで諦めたら私達の....みんなが一緒にいる為の場所が無くなっちゃうもん」
「それだけは、嫌」
更にユズも三人や私の方を見つめながら、おずおずと話し始める。
「わ、私も....昔はずっと一人だったけど、ある時二人が部室を訪ねてくれて...それから先生やアリスちゃんも来るようになって....今、毎日が凄く楽しいの」
「だから、私も賛成...ほ、本当は怖いけど、そんな日々が無くなる事の方が怖いから」
「ユズまで....そうだよね、やっぱり私だってみんなと一緒にもっと色んなゲームをして遊んだり、作ったりしたいもん、やろう!私達の大切な場所を守る為に!」
(.....あぁ、彼女達はやっぱり....)
例え違う世界だろうと変わる事のなく眩しい程強い彼女達の意志、私は確かにそれを遠巻きに感じ取っていた。
「でも結局どうするの?色々作戦を考えないと正面からは当然太刀打ち出来ないだろうし....」
「うーん....」
最終的に生徒会襲撃をする事に賛成した彼女達だったが、肝心の作戦が中々思いつかない様子。
「...アロナ、データを移した時にG.Bibleのデータって残ってたりは...」
『...否定、〈key〉ファイル...彼女が居たファイルは確認しましたが、それ以外のデータは全てそのまま移してしまったので....もしかしたら彼女であればまだデータを持っている可能性はありますが、まだ目覚める様子が無いので今は確認できません』
私は小声でアロナに尋ねてみるが、彼女は申し訳無さそうにそう答えるのみ。
もしG.Bibleのデータを確認できれば彼女達も危ない橋を渡らずに済んだのだが...仕方ない、あまりこういう考え方はしたくなかったけど.....
「...みんな、少し良いかな?」
先程まで黙ってこの場の状況を見守っていた私は、そこでようやく声を発した。
「先生、何か良い案があるの?」
その問いに頷くと、全員が興味深そうにこちらに視線を向けてくる。
私はそんな彼女達全員ともう一度目を合わせてから
静かに告げた。
「.....少しだけ″チート″を使おうか」