「美甘ネル...C&Cのリーダーでミレニアム最強のエージェント....」
「ど、どうしてネル先輩がここに...」
モモイ達は焦っていた。
これまで概ね計画通り順調に事を運んできていたが、あと少しで目的の部屋へと着く寸前で今日最大の誤算が目の前に現れたのだ。
それもただ計画に支障が出るレベルでは無く、計画そのものが無に帰してしまうレベルの大誤算...
「ん?ああ、何でいない筈だったあたしがここにいるのか不思議に思ってるのか?」
「っ!」
「そう怖がんなって、あたしが出る直前で急遽予定が変更になったってだけだ。丁度そん時にお前達が何か面白い事をするってアカネから聞いてな、折角だからあたしも参加する事にしたんだ」
「まあ正直あたしが居なくても問題ないと踏んでたんだけどよ...アカネやカリンにアスナまでやられたって報告が届いた時は驚いたぜ。凄いなお前ら、案外やるもんだ」
「あ、ありがとうございます....えっと、褒められてるんだよね...?」
「お姉ちゃん!呑気にお礼してる場合じゃないでしょ!」
「ふ、二人とも、おおお落ち着いて...!」
ネルから放たれるプレッシャーに足がすくんでしまう三人、そんな中アリスは一人不思議そうに彼女の事をジッと見つめていた。
アリスの視線に気がついたネルは目を細め視線を返すと、どこか面白そうにニヤリと頬を緩めて口を開く。
「よお、あんたが例の”アリス”って奴か?」
「?チビメイド様はアリスの事を知っているのですか?」
「おい!誰がチビメイドだ!誰が!?」
「アリスちゃん!?」
「あ、アリス!怒らせちゃ駄目だって!」
まさか過ぎる発言がアリスから飛び出し先程以上に凍りつくモモイ達、だが一瞬怒ったネルはその後すぐに落ち着きを取り戻すと再び笑みを浮かべた。
「....はは、お前良い度胸してるじゃねぇか。噂で聞いてたより随分強そうだな」
「はい、その通りです!アリスは今まで千体以上のモンスターの群れの中を無傷で生き残った事もあります!」
「モン...?よくわからねえがまあいい、ならあたしも少しは楽しめそうだ...なあ、お前達はこの先の部屋に用があるんだろ?」
そう言ってネルは手に持っていた銃を自身の背後に突きつけながらモモイ達へ問う。
「けどあたしは誰であろうとここを通さない様依頼されてる、そうである以上お前達を見逃す事は出来ねぇ」
「「「「......」」」」
「...けど、そいつらの様子を見る限りもう体力も限界だ、あたしにしちゃそんな奴と戦っても意味はない...そこで提案だ」
「あんた、あたしとタイマンで勝負しろ」
「タイマン...一騎討ちのイベント戦闘という事ですか?」
「イベント?....ああ、他の奴らは巻き込まずあたしとお前だけで片をつける。あんたが勝ったらあたしは大人しく引き下がるしお前達がしたかった事が出来る、簡単だろ?」
「諦めてそいつらを連れて逃げるならそれも別に構わねぇ、その後にお前達を追ったりしねぇしアカネ達にも手を引く様言ってやる、さあどうする?」
「あ、アリスちゃん...駄目だよ、流石にネル先輩は危険すぎる...」
「今捕まったらそれこそミレニアムプライスまで間に合わなくなっちゃう....」
「アリス、仕方ないけどここはネル先輩のいう通り退くしか...」
あまりに絶望的なこの状況にもはや諦めの気持ちが出てしまっているモモイ達。
「.....いえ、アリスは戦います」
「これはメインクエストです、クリアしなければこの先のエンディングには辿り着けません、それに....」
「モモイ達はさっきまで一生懸命頑張ってました、だから今度はアリスが頑張る番です」
だが何かを考える様一瞬目を瞑ったアリスはモモイ達の一歩前に出ると目の前のネルを真っ直ぐ見据えてそう宣言し、背中に背負っていたスーパーノヴァをネルに構えた。
「ハハハッ!良い意気込みだ!」
そんなアリスの姿にギラギラとやる気に満ちた表情をしていたネルは、ジャラジャラと鎖を鳴らしながら同じ様にアリスへ二丁の銃を突きつける。
「......」
「........」
廊下には緊張で張り詰めたピリピリとした空気が流れ、アリスの後ろで彼女を見守っていたモモイ達もその雰囲気に当てられ額に冷や汗を浮かべる程だった。
それから暫くお互いに睨み合う時間のみが過ぎていく。
「フッ!」
「っ!」
そんな均衡を崩したのはネルだった。
どう切り出そうかとアリスが一瞬ネルから視線をズラしたのを彼女は見逃さず、その隙をついたネルはアリスとの距離を一気に詰め寄り発砲する。
ダダダダッ!
「うっ!」
「速い!?」
まるで瞬間移動でもしたかの様なネルの動きに反応出来なかったアリスは一瞬油断していた事もあり彼女の攻撃をそのまま身体で受け止めてしまう。
だがアリスもやられたまま黙っている訳にはいかない、すぐさまスーパーノヴァを盾に弾を防ぐ判断を取るとその巨大な銃身を思い切り振り回し始めた。
「凄いアリスちゃん...あんな大きな武器なのに」
「ハッ!やるじゃねえか...でもそんな動きじゃあたしには当たらねぇ」
「くっ!」
ネルの指摘にアリスは苦い顔をする。
どんなに力があろうとやはり武器が大きすぎる為か、彼女言う通り一向に当たる気がしない。
それ所か武器を振り回す事でその分無防備になり、彼女へ攻撃のチャンスを余計に与えてしまっている。
「そら!これでもくらいな!」
「うぅ...!」
現に武器の振り回しを避けたネルによる猛攻は激しく、アリスは先程よりも着実にダメージを受けていた。
だが攻撃回数が多いという事はその分弾の消費も激しいという事、いくらネルであっても永遠と攻撃出来る訳では無く定期的に弾倉を変える動作を必要とする。
「っ!今です、魔力充電100%!」
そして丁度リロードをしようと体勢を変えたネルの隙をアリスは見逃さなかった。
「何っ!」
「光よ!!!!!」
ドカァァァァァァァン!!!
彼女が攻撃を止めた瞬間を狙い振り回していた武器を正確にネルへと向けて取り付けられたボタンを押し込むと、廊下には今日何度目かの強い衝撃と轟音が辺りに鳴り響いた。
「わぁ!?」
「や、やっぱりアリスちゃんのあの武器凄い...!」
その様子を隠れながら見守っていた三人は思わず声を上げる、撃ち終わったアリスはネルがどうなったかを確認しようと目を凝らして自身が撃った箇所を覗き込もうとして....
ダダダダダッ!
「うぁっ....!」
「アリスちゃん!」
「中々良い動きだった、だが....そんなんじゃあたしは倒せねぇ」
いつの間にか背後に回っていたネルによって放たれた何発もの銃弾の雨がアリスに降り注いだ。
「くっ...はぁっ!」
「悪いな、遅すぎだ」
「!?」
背中に走る痛みに耐えながらアリスは振り返り再びスーパーノヴァを撃ち込もうと腕を動かすが、そうはさせまいとネルはアリスの持つ武器の上に着地しそれを妨害する。
「確かにあんたの武器は強ぇ、火力も馬鹿みたいにイカれてる。ただ...その分引き金を引いて撃ち込むまでに僅かに時間がかかる」
「あ、あの一回でそこまで...」
「それに、こんだけ相手に近づかれちゃ火力が高すぎて撃つことも出来ねぇ、違うか?」
「.....」
武器の上に乗りながらアリスの目を見つめ話すネル、そんな彼女の指摘通りなのかアリスはただ黙って見つめ返すばかり。
「図星か、ならここで諦めるか?まあ予想より楽しませてくれたからな、今退くなら....」
「っ!」
「なっ、お前!」
ネルがそう降参を促した時、アリスは上に乗っていたネルごと無理矢理武器を持ち上げると壁に向かって銃口を突きつけ
「モモイ!ミドリ!ユズ、伏せてください!...光よ!!!」
「ちっ!」
ドカァァァァァァァァァァァン!!!!
「「「わぁぁぁ!?」」」
周囲を巻き込む事を厭わずに、アリスは迷わず再度ボタンを押した。
当然アリスから離れた場所にいたモモイ達にもその衝撃が届くが、事前の警告のおかげか彼女達は吹き飛ばされずに済んだ様だ。
だが流石に自分自身を巻き込みながら撃つとは予想していなかったネルは驚き、銃口から放たれた衝撃によって身体が宙を舞い少し離れた壁に叩きつけられる。
「はぁ...はぁ...」
「.....はは、ハハハっ!やるじゃねえか!まさか撃つなんて思わなかったぜ」
少し強めに叩きつけられた筈が殆ど息を切らす素振りを見せずに楽しそうに笑うネル。
「ひ、HPが高すぎます...」
「ああ、あたしはタフだからな。こんくらいじゃまだ遊び程度だ....どうする、降参するか?」
「....いえ、アリスのHPもまだ残ってます!」
「へっ!そうこなくっちゃな!」
再びスーパーノヴァを構え堂々と目の前の相手を見据えるアリスの姿にネルは満足そうに好戦的な笑顔を浮かべる。
そうしてアリスが武器を持ち上げ駆け出したと同時にネルも二丁の銃を構え飛び上がった。
ババババッ!バババッ!
ドォォォォォン!
それからどれほどの時間が経過しただろうか、二人の周りを遮っていた廊下の壁は何十、何百もの銃弾の痕がつき、所々巨大な穴が空いているという無残な姿に成り果ててしまっていた。
「ふ、二人とも大丈夫かな?」
「もうどのくらい経ったのかわからないけど、これだけ長い時間戦ってたらユウカ達も来そうな筈なのに...」
「多分ネル先輩が来ない様に連絡したんだと思う、アリスちゃんと戦うのもそうだけど...ここに他の人達が居たら危ないし....」
あれから長い事二人の戦いを見守っていたモモイ達がヒソヒソと話をしている中、ネルとアリスの戦況にも変化が訪れていた。
「はぁ...ここまであたしにくらいついてくる奴は久々だ、凄ぇなあんた」
「はあっ....!アリスも、こんなに手強いボスを相手にするのはあの時プレイしたゲーム以来です....!」
スーパーノヴァを振り回し、撃つたびに重い衝撃を何度もその身に受けていたアリスは少し余裕の無い表情をしながらも何とか地に足つけて立っている。
ネルの方も中々倒れないアリスに流石に疲れが出てきたのか少々息を切らしながら彼女を見つめ笑っていた。
お互い初めの頃より体力が削られた事で動きが明らかに鈍り始めている、このまま戦闘を続ければそれがより顕著に現れるだろう。
アリスが持つスーパーノヴァの残りエネルギーはもう僅か、ネルが用意していた替えの弾倉も既に尽きてしまっている。
最早決着がつくのは時間の問題、そう誰もが考えていた時
「....なああんた、こうしねぇか?」
「...?」
「次が最後だ。あんたもアタシも、もうこれ以上戦闘を続ける為の物資がねぇ」
「アリスはまだ...」
「誤魔化さなくていい。あんたが持つそのデケェ武器、いくら性能が良かろうとあんなもんを何発も打てるだけのエネルギーが無限にあるなんて考えられねぇ....もう撃てて後一発って所か?」
「......」
「あたしもこの弾を使い切ったら終わり、つまりお互いジリ貧な訳だ....だから次で決める、最後にあんたの全力をあたしにぶつけてみろ、受け止めてやるよ」
「.....わかりました、アリス、いきます...!」
ネルの提案にアリスは首を縦に動かすと、若干ふらついている身体を奮い立たせスーパーノヴァを彼女に向ける。
それを見たネルは自身の前に銃を重ね合わせる様に構えアリスの攻撃を静かに待つ体勢を整えた。
「....チャージ完了」
アリスの声に反応する様にスーパーノヴァ全体から駆動音が聞こえ始める。
「残りの魔力をリソースに転換...」
アリスは目を瞑り意識を全て手元の武器に集中させると、ゆっくりと瞼を開きその瞳でネルの姿を完璧に捕らえた。
「....っ!この一撃に全てを込めます!」
彼女の目がまるで輝くように光り出すと同時にボタンを押し込み、アリスはその言葉を言った。
「......!″光よ”!!!!」