「「「.......」」」
ゲーム開発部の部室内、そこは普段であれば騒がしく元気な声が聞こえてくる筈なのだが今は酷く静まり返っていた。
そんな室内に居るのは四人の少女達。
モモイは床に寝転びながらボケーっと天井を見つめている。
ミドリは一人ソファに座り、何を考えているのかわからない顔をして口を閉ざしている。
ユズはすっかり気分が落ち込んでしまったのか、愛用のロッカーの中に引きこもってしまっている。
「あ、あのモモイ、ミドリ、ユズ?」
そんな明らかに様子のおかしな三人に、心配そうな表情を浮かべながら声をかけるアリス。
「ふふ、ふふふふふ、何だか天井が凄く遠く見える...もう私達はおしまいなんだぁ...」
「どうにもならない事がのしかかる時ってこんな気分なのかな....」
「........」
「あ、あの...大丈夫ですか?一体どうしてこんな...」
だが誰も彼女の声かけに一切応じる事なく、どこか上の空な返事をするばかりだった。
「...もしかして、アリスが戦った時のあれが原因ですか...?」
「チャージ完了、残りの魔力をリソースに転換、この一撃に全てを込めます!」
「光よっ!!!!!!!」
ドカァァァァァァァン!という轟音と共に凄まじい衝撃の塊がネル目がけて飛んでいく。
「ははっ!」
そんな彼女が放った全力の一撃をネルは逃げる事なく正面から受け止め、その後続けて巨大な爆発音が廊下に鳴り響くと同時に辺りが煙で包まれた。
「ど、どうなったの?」
「わからない...」
「アリスちゃん大丈夫かな...?」
あまりの衝撃に耳を塞ぎ床にしゃがみ込んでいたモモイ、ミドリ、ユズの三人は視界を塞ぐ程立ち込めている煙を見つめながら小さく呟いた。
「うぅ...ま、魔力切れでもう動けません....」
「アリス!」
やがて煙から姿を現したのは、自身の武器であるスーパーノヴァを手放しフラフラと壁に手をつき立っていたアリス。
しかしあれだけ戦闘を続け、最後の最後まで気力を振り絞って戦った彼女の身体は流石に限界の様で、三人の目の前でバタリと気を失う様に倒れてしまった。
「まさかここまで食らいついてこれるなんてな、流石にこれは予想外だった」
「っ!?」
「う、嘘、まだ倒れてないの!?」
「そんな...」
三人がアリスの元に駆け寄り無事かどうかを確かめていると、煙の中から今の彼女達にとって聞こえて欲しくない少女の声が聞こえてくる...それは先程アリスの一撃を正面からくらった筈のネルだった。
衝撃によるものかメイド服がボロボロになった彼女はどこか楽しそうな笑顔を浮かべながら三人へ近づいていく。
「ここまでやって勝てないなんて...」
「どうするのお姉ちゃん、もう私達だけじゃここの突破は....」
「あぁそれなら気にすんな、もうあたしは戦うつもりはないからな」
「え?」
まさかの発言に驚いたモモイ達の目の前にネルは手に持っていた二丁のサブマシンガンを見せつける。
そこにあった彼女の銃は全体的にヒビが入り、所々欠けたり折れ曲がったりとかなりボロボロの状態になってしまっていた。
「さっき撃たれたあのビームを受け止めようとしたらこうなっちまった、銃が壊されちゃやられたのと同じだからな。それにたった今連絡が入った、依頼取り消しだとさ」
「そ、それって」
「ああ、これ以上あたしがあの部屋を守る理由が無くなったって事だ。ま、後は好きにしてくれ」
何事もなかったかの様にその場を立ち去ろうとするネルだったが、最後に彼女達に振り返ると
「ああそうだ、ソイツが起きたら伝えといてくれ。今度また本気で再戦しようって、じゃあな」
それだけ言い残し、今度こそネルは先程彼女達がやって来たた廊下の先に消えていった。
「こ、怖かった!」
「うん、凄い迫力だった...」
「で、でもこれでもうあの部屋に入って良いって事、だよね....?」
「良し!じゃあアリスの事も急いで運ばないといけないし、早く回収して帰ろう!」
「あの時、アリスの光の剣で『鏡』が壊れてしまったせいで...」
何故今彼女達がここまで気を落としているのか...それは目的であった『鏡』が手に入らなかったからだった。
あれからアリスを支えながら差押品保管所前に向かった彼女達を出迎えたのは、原型を留めない程酷く破壊された扉。
どうやら最後に放ったアリスの攻撃がネルの背後にあった部屋にまで届いていたらしい。
その時点で既に嫌な予感がしていたのだが、一縷の望みをかけて部屋の中に入ってみるとそこにあったのは色んな部活から押収されていた物の数々、それらが無惨にも壊れ床に散らばっている光景だった。
そして、その中には彼女達が求めていた『鏡』もあり.....
「ごめんなさい、モモイ、ミドリ、ユズ....」
「っ!違う!それは違うよアリス!」
彼女達がこうなってしまったのは自分のせいである、そう考えたアリスに謝られ先程まで心ここにあらずだったモモイが飛び起きて彼女の肩を掴みながら話す。
「確かに『鏡』は壊れちゃったけど、あの作戦が最後まで上手くいったのはみんなが力を貸してくれたのもそうだし、何よりアリスが頑張ってくれたからじゃん!」
「うん、アスナ先輩と戦った時もアリスちゃんが居なかったら勝てなかったかもしれないし...ネル先輩が居たのは予想外だったけど、それでも無事にあそこから帰れたのはアリスちゃんのお陰」
モモイに続きソファから立ち上がったミドリもそう言葉を続ける。
「モモイ、ミドリ...」
「...そうだよね。ごめんアリスちゃん、こんな情けない姿を見せちゃって....」
二人がアリスへ感謝を伝えている最中、ギィッとロッカーが開かれユズが姿を現した。
「みんなやアリスちゃんが頑張ってくれたのに、私は欲しいものが手に入らなかったからって諦めてこのロッカーに隠れるだけで...」
「私、ミレニアムプライスの事で必死で...G.Bibleがあれば何とかなる、G.Bibleなら凄いゲームを作れる...そんな風に全部G.Bible頼りに考えてて、本当に面白いゲームを作ろうって気持ちを少し忘れちゃってたのかも....」
ポツポツと話し始めたユズの言葉を静かに聞くモモイ達、やがてユズは何か決意した様に顔を上げると彼女達の目を見て告げた。
「...でもやっぱりここで諦めたくない。例え噂のゲームの聖書が無くても、私達ならきっと面白いゲームが作れる筈....初めて二人がこの部屋に来た時に、アリスちゃんが私達が作ったゲームを遊んだ時に言ってくれた面白いって言葉...他のみんなにもそう言って貰える様なゲームを....!」
「...うん、そうだね、やろう!」
「やっぱりいつまでもクヨクヨしてたって仕方ないもんね!それにゲーム作りで行き詰まるなんていつもの事じゃん、ここから本気出せば私達なら出来るよ!」
ようやくいつもの調子を取り戻した彼女達、だがそれでも課題はまだ残っている。
「ミレニアムプライスまでの残り日数は?」
「あと一週間ちょっとかな...今から内容を改めて考えてプログラムを組むとなると結構ギリギリかもしれないけど」
「大丈夫きっといける...いや、間に合わせる!」
そうして彼女達が行動に移そうとしていると、不意に部室の扉が誰かにノックされた。
「おーい、いるか?」
「えっ!?そ、その声は...」
「ネル先輩!?」
「あ?なんだ鍵開いてるじゃねーか」
彼女達の予想通り、扉の向こうから現れたのはつい最近あの廊下で対峙したばかりのネルだった。
まさかの来訪者に驚きを隠せない四人だったが、そんな彼女達を気にする事なくネルは部室内に足を踏み入れる。
「よお、案外元気そうじゃねえか」
「あ、あの時のチビメイド様です!」
「おいふざけんな!あん時も言ったが誰がチビメイド様だって!?」
「ひぅ!?」
「....たく、少し心配して来てやったのに損しちまった」
「え、私達を心配して?」
そう聞き返されたネルはしまったと表情を浮かべ、誤魔化すかの様に咳払いをする。
「勘違いすんじゃねぇ、あたしはただあの後セミナーの会計からお前らの事情を聞いて気になったから来ただけだ」
「それを心配してたって言うんじゃ...」
「お前ら、あの部屋に何か必要なもんがあったんだろ?...そこのソイツとあたしの戦闘でそれが回収出来なくなっちまったそうじゃねぇか」
「あ、は、はい...」
「あー、だからその...あれだ」
「「「「?」」」」
どこか言いづらそうに顔を顰めるネルだったが、四人からの不思議そうな視線に耐えきれず大声で叫んだ。
「だからあれだよ!一応その件に関しちゃあたしにも少しやり過ぎた部分もあったからな....だから出来る範囲でならあたしも少しだけだが協力してやるって事だ!」
「あっ!アリス知ってます!これはツンデレというやつですね!本当は素直に手を貸すと伝えたいのに恥ずかしがって出来ない、だからつい反発する様な態度を取ってしまう王道パターンです!」
「て、てめぇ!やっぱり表出やがれ!今からあん時の再戦するぞ!」
「ひっ!」
「リーダー?喧嘩はしないようにって言いましたよね?」
アリスとネルが一触即発の状態になろうとした瞬間、再び扉の向こうから声が聞こえてくる。
そこに居たのはネルと同じC&Cのメンバーである三人だった。
「げっ、何でアカネ達がここに...」
「先程私達全員で行くと提案したのにリーダーは一人で行くと仰ったでしょう?あれからやっぱり心配になって来たんです」
「あ、この前の子達だ、やっほー!」
「あ、アスナ先輩!?そ、その、あの時はごめんなさい...」
「いーよいーよ、気にしないで!私も楽しかったから!」
「リーダー、喧嘩するよりもちゃんと話はしたの?」
「ああわかった、わかってるって!さっき話は済んだ所だ!ただコイツが変な事を言いやがるから...」
「ちょっと、何でこの部屋にこんなに人が居るのよ」
「ユウカ!な、何でユウカまで...」
いきなりやって来た彼女達に驚いていたモモイ達だったが、更に追い討ちをかける様にユウカまで姿を現した。
「ま、まさか私達を今から反省部屋に...」
「しないわよ、まあ本当ならそうしてこってり絞ってやろうかと思ってるけど...それはミレニアムプライスが終わってからでも問題ないし」
「結局そうなるんじゃん!...それより何でユウカまでここに?」
「....別に、あの作戦が失敗して落ち込んでるであろう貴方達の顔を見ようと寄っただけよ。まあその様子じゃもう意味なかったみたいだけど」
「何それ!わざわざ追い討ちしようとしてた訳!」
「アリスわかります!本当は心配で優しく声をかけたいのについいつもと同じ様な態度で接してしまう、これもツンデレですね!」
「ちょ、アリスちゃん!?」
ゲーム開発部の部室内、そこは普段であれば騒がしく元気な声が聞こえてくる筈なのだが今はいつも以上に騒がしく、楽しそうな声が響いていた。
そんな部屋の扉の前に立っていた一人の人物は、中から聞こえてくる少女達の声を聞きその身を翻す。
『中に入らなくてもよろしいのですか?』
「うん、どうやら今は忙しいみたいだしそれに....彼女達はもう大丈夫みたいだからね」
手に持っていた端末の画面越しにそう呟いた人物は、どこか嬉しそうな笑顔を浮かべながら来た道を引き返していったのだった。