くだらない。
「ええ、進捗と言えるものはありません。ですが...クックック...あれから暫く観察を続けていましたがやはりあの方はとても興味深いと改めて理解出来ました」
「シャーレの先生か....私がまだ直接対峙していないというのもあるが、その者が本当に神秘を超える存在だというのはにわかに信じがたい」
「私も同意見です、ですが黒服がそこまで言う人物というのは大変興味はあります。いつかお会いしたいものですね」
「そういうこった!」
本当に、くだらない。
ベアトリーチェは扇子を口に当てがいながら、一人静かに憎悪の思いを募らせていた。
(何故この者達はそこまでアレに興味が持てるのです?)
彼女の目的は神秘を搾取し、キヴォトス外の力を利用し、自身を高位の存在へと押し上げる事。
それを叶えるのであればどんな犠牲が働こうと構わない、今目の前にいる彼らでさえも彼女にとっては利用する手段の一つでしかないのだ。
計画は順調だった、後は時間のみが解決してくれる...そう考えていた矢先
現れたのだ、異分子が。
シャーレの先生。
この世界に突如として現れた、自分達と同じキヴォトス外の存在。
子供を守り、導くという荒唐無稽で実にくだらない思想を持った大人....
(あり得ない考えですね、子供は我々に搾取されるべき存在...互いを騙し、傷つけあう地獄の中に居続けさせなければならないのです)
現時点で彼女にとってシャーレの先生という存在は全くもって脅威ではない。
黒服曰く何やら常識では通用しない力を持っているそうだが、所詮は一人の大人に過ぎない、その力も高が知れているだろう。
だがあの大人が関わったことで黒服の計画が潰されたのは事実、その点は注意が必要にも思えるが.....あの者の存在が障害になるのであれば排除すればいいだけの事。
だと言うのに....
「一度ゲマトリアへ勧誘をしてみたのですが、その時は取り付く島もない状態だったもので泣く泣く断念しましてね。あの方が仲間になっていただければ我々の探究も更に上の段階へ向上する事でしょう」
黒服はあの者をゲマトリアに引き入れようとしていた。
理解し難い、何故そのような愚行を犯そうとするのか、危険因子は排除するべきでしょうに。
「くだらない、そんな事を話すために私をこの場に呼んだのですか?」
ベアトリーチェは机を叩きながら吐き捨てる様にそう三人へ言い放つ。
「シャーレの先生など必要ありません。黒服、お前はその者に随分と夢中になっているようですがキヴォトス最高の神秘を得られなかったのは事実、何故悠長にしていられるのか理解に苦しみます」
ベアトリーチェは黒服に高圧的な態度で問い詰めるが、当の彼は不気味に笑うのみ。
「クックック...これは手厳しい。しかしベアトリーチェ、貴方もシャーレの先生を”見れば”その意味が理解できるかと」
(見ただけで何がわかるというのですか、その者の愚かさ程度でしょう?)
「遠慮させていただきます。それと、貴方達の話を聞いて気分が悪くなってきたので少し出ます。その者の話を続けたいのならば勝手に進めていなさい」
ベアトリーチェはそう言い切り、不機嫌さを隠す事なく部屋を出ていった。
「全く、無駄な時間です」
その後、暗い廊下を進んでいく彼女は文句を溢しながらこれからの計画について思考していた。
(...アリウスの掌握は完璧、後はあの鼠をいつ動かすかですが....それにあの木偶との約束も..)
「......?」
(何ですか?この違和感は....)
そんな事を考えていた彼女だったが、不意に自身の周りを取り囲む空気が変わったのを察知し瞬時に警戒態勢に移る。
(まるで空間ごと捩れている様な....何かが入り込んでくる様な感覚...)
「何者ですか?出てきなさい、さもなくば.....」
ベアトリーチェがそう言いかけた時
『────、』
「ぐっ....!」
突如として彼女は頭を抱え出し、苦悶の表情を浮かべてその場に膝をついた。
「がっ....ぁ......!!」
頭が割れる、言いようのない痛みが彼女の身体を駆け巡る。
『───、』
「...!お、お前達は....何を...」
ベアトリーチェはまるで何者かを睨む様に頭部の無数の目を一点に向け、震える身体を引きづりながら腕を伸ばす。
だが彼女の目の前には誰もおらず、ただの暗闇が広がっている様にしか見えない。
『───、』
「っ!........」
そして一際強い痛みが彼女の頭に響いた瞬間、
「......」
彼女は動きを止め、完全に沈黙した。
(貴様ら.....許さな....!)
『───、』
『眠れ』
『お前の”役割”は我々にとって実に都合が良い』
『だからこそ、今後それは我々が引き継ごう』
最後に彼女の視界に映ったのは”白装束を身に纏った謎の人物達”。
それを認識した瞬間、ベアトリーチェの意識は急速に深い闇の中へと落ちていった。