「では先生、本日先生をこちらに呼んだ理由ですが....」
そう言ってナギサは数枚の書類の束を差し出してくる。
それを受け取った私が紙に視線を向けると、そこには見覚えのある言葉が書き込まれていた。
『補習授業部の設立について』
(補習授業部....)
「その書面の通り、先生には補習授業部の顧問をお願いしたいのです」
ナギサはそう告げると詳しい説明を話し始め、私はそれを聞きながら″かつて関わった四人の少女達″の事を思い返していた。
補習授業部、それはこのトリニティ総合学園の中で行われる試験にて成績の振るわなかった者が所属する事となる部活。
その主な目的は学業に専念させ特別学力試験で合格させる、言わばそういった生徒達の救済の為のシステム。
「つまりは落第の危機に陥っている生徒達に救いの手を差し伸べて欲しい...そういう事です」
「本当ならあの子達の事もこっちで解決しなきゃいけないんだけどね〜」
「今は生憎と『エデン条約』締結に私達も奔走していてね、私達も猫の手を借りたい程なんだよ」
「でね!そんな時に思いついたの!″シャーレ″ならきっと解決してくれるんじゃないかって!」
ミカがパンッと手を叩いて私を見つめてくる。
「新聞とかでシャーレの活躍ぶりは見てたし、それに″先生″なんでしょ?なら補習授業部の顧問にピッタリじゃない?」
「その時は私も珍しくミカの意見に賛成だったよ、『先を生きる者』...後に続く者に見本を見せ正しい道へと導く存在....珍しく良い案を言うものだと思ったね」
「セイアちゃん一言多くない?」
ミカがジト目をセイアに向けるが、彼女はそれを無視してナギサに視線を向ける。
「まあ、ナギサはこんな事で借りを返してもらうのはどうなのかと渋っていたけれどね」
「それは....否定しません。すみません先生、そういった思いを持っていたのは事実です」
「ううん、別に気にしないから大丈夫だよ。あの時はナギサ達の援護もあって助けられた様なものだしね」
以前私がカイザーコーポレーションに攫われてしまった時、シロコ達に力を貸してくれた時の事を思い出しながらナギサに告げる。
「それに、元々その件が無くても断るつもりは無かったからね」
「...ありがとうございます、そう言っていただけるとこちらとしても助かります」
ナギサはそう言って小さく頭を下げる、そんな彼女を見ながら私はある事を考える。
(やっぱり、この世界は″あの時″とは違う...)
かつて私が生きていた世界でも、今回の様にナギサから補習授業部の事を任されていたのは事実だ。
けれども今はその根底に隠れているものがまるで違う。
以前の世界では既にセイアは襲撃事件によってこの場にはおらず、その頃のティーパーティはミカとナギサの二人のみだった。
事件の影響もそうだがエデン条約締結前の大切な時期というプレッシャーも大きかっただろう、疑心暗鬼の闇に陥ってしまったナギサは他人を信じられなってしまった。
そしてそのエデン条約締結を妨害しようとする″トリニティの裏切り者″.....その人物を見つけ排除する、それを行う為に容疑者を集め作られたのが補習授業部だった。
しかし、それはあくまで大元のセイア襲撃があったからこそ起きてしまった負の連鎖の結果...そもそもこの世界では襲撃自体が起こっていない。
今回の補習授業部設立に関しては、本当に心から彼女達を救いたいという気持ちから作られたものなのだろう。
(....でも、アイツはこの世界にもいる筈だ)
私はかつて敵対したゲマトリアの一人を思い浮かべる。
彼女が今動いてないにせよ、いずれ何か仕掛けてくる可能性は高い....
「先生...?どうかされたのですか?」
「....あ、ああごめんね。ちょっと仕事のことで考え事をしちゃって」
「本当にシャーレって仕事だらけなんだねー」
「.......」
私が思考に耽っていると、ナギサがこちらを心配そうな顔で見つめているのに気づき慌てて誤魔化す。
ミカは手で頬を支えながら苦笑いを浮かべているが、隣のセイアは静かにこちらを見つめていた。
「進め方については先生の方にお任せしますが、まずはヒフミさんに会うのが良いかもしれません、彼女には既にこの件について通達済みですので」
「わかった、そうしてみるね」
「先生、帰る前に少しだけ時間をくれないかい?話したい事があるんだ」
そうして話が終わり早速行動に移そうと席を立とうとした私だったが、その直前で不意に口を開いたセイアに呼び止められた。
「えー?またセイアちゃんと先生で秘密のお話?」
「セイアさん、それは....」
「問題ないさ、そこまで時間は取らせないとも。どうかな先生?」
セイアはただこちらに淡々と問いかけるのみだったが、彼女から何かを訴える様な視線を感じた私は、少し間を置いた後に無言で頷いた。
そして私とセイアのやり取りに疑問を覚えつつも、渋々納得した二人と別れた私はセイアに連れられて彼女の部屋へと向かったのだった。