偽りの道をもう一度   作:Mrふんどし

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確かなズレ

「さあ先生、遠慮せず入って欲しい」

 

あれからミカとナギサの二人と別れた私は、セイアに招かれ彼女の部屋へとやって来ていた。

 

....あの場で突然”話がある”と言った彼女の意図、それが一体何なのかわからないまま着いてきてしまったのだが、そんな私の緊張を知ってかセイアは小さく笑い言葉を続ける。

 

「そんなに緊張しなくてもいい、ただの雑談だとも」

 

「...お邪魔します」

 

私は覚悟を決め彼女の部屋の中へ一歩を踏み入れると、そこはまさに豪華という言葉が似合う内装が広がっていた。

外を見渡せる巨大な窓にサイズの大きなベッド、中央にはテーブルが鎮座しており、部屋に入った私を見たセイアは傍にある椅子へ腰掛ける。

 

「さて....わざわざここまで君を連れてきた理由が気になっているとは思うが...私が何を言おうとしているのか、君には概ね見当がついているんじゃないかい?」

 

そうして彼女に促されるまま対面の椅子へと腰を下ろすと同時にセイアは早速口を開いた。

 

「......」

 

「ふむ、もしかすると少々こちらが先走りすぎてしまったかもしれないね。まあどちらにせよ、君には遅かれ早かれ話さなければいけないと思っていた所だ」

 

私が答えられずにいると、彼女は一つ息をついてからじっとこちらを見つめてくる。

その目はまるで私を見透かす様に動かない。

 

それからどれほど経ったのか、静かな沈黙が室内に流れる中彼女は何の躊躇いもなく”その事”を告げた。

 

 

「君は....知っているんだろう?私が襲撃に遭うという未来について」

 

「っ!」

 

まさかその事を彼女から告げられると思っていなかった私は思わず動揺してしまう。

そんな私を見て彼女はわかっていたと言わんばかりに態度を崩さず紅茶を淹れ始めた。

 

「ふふ、その様子だとやはり初めて聞いた、というわけではなさそうだ」

 

「それは....」

 

「隠さなくていいとも、君がこの世界では非常に”特異な存在”であることは以前の対話で確認済みだからね」

 

私はその言葉に以前アビドスの一件でトリニティへ来た時

の事を思い出す。

 

「....落ち着いてるんだね」

 

「まあね、勿論初めてその夢を見た時は驚きもしたが、既に起こりうる可能性が高いと決まっている事に対して慌てていても仕方がないだろう?それならば起こった際にどうするかを考える方が懸命さ」

 

彼女は淹れ終えた紅茶を一口飲みながら会話を続ける。

 

「それに、元々ある程度予想はしていたからね」

 

「予想?」

 

「以前君がナギサへ会いに来た時に見せた態度....まるで私があの場にいる事自体に驚いていたあの表情、そして君自身に起こっている”未知の現象”、そこから本来であれば私が既にいなくなっていると考えるのは難しくない」

 

淡々と言葉を紡ぐ彼女に私は無言で聞き入る事しかできなかったが、ふとある事が気になり彼女に問いかける。

 

「その事を、ナギサ達に相談は?」

 

「....いいや、まだだよ」

 

彼女はティーカップをテーブルへ置くと、ゆっくり目を閉じながら首を振る。

 

「彼女達に話せば、躍起になって犯人を見つけ出そうとするのは目に見えている。ただ、それをするのは少々時期が悪い」

 

「今はエデン条約締結前という非常に重要な局面に立っているからね、ただでさえ私は自分の体調のせいでナギサには業務を任せてしまっている....トリニティとゲヘナを繋ぐ、その責任からくる心労は計り知れないだろう」

 

「そんな中、私への襲撃が起こると彼女が知ればどうなるか。....きっとナギサの事だ、何があろうと犯人を見つけ出そうとするだろう。それこそ、大切な者に疑いを向ける事も躊躇わない程にね」

 

「...信頼しているんだね」

 

「勿論、私もミカ程彼女と関わってきた訳ではないが、それでもかなりの時間は一緒に過ごして来たからね。彼女の性格はある程度理解しているつもりだよ」

 

どこかほんのりと照れ臭そうに告げるセイアはそれを誤魔化す様に再度紅茶に口をつける。

 

....けれども私としては今のセイアの発言を聞いてそのまま見過ごす訳にはいかなかった。

 

確かにかつての世界ではその襲撃事件は最終的に相手の策を逆手に取ったセイアによる作戦の一部だったと判明した為事なきを得た。

が、そこに至るまでの間彼女が襲われた事にナギサは勿論、結果的に襲撃を手引きしてしまったミカも精神的に傷つき周りを大きく巻き込み暴走をしてしまう事となる。

 

その時の彼女達の顔は今でも忘れられない...もしこの世界の彼女達にもあの時と同じ苦しみが降りかかろうとしているのであれば、それを放ってはおけない。

 

「セイア、私は....」

 

「...先生」

 

私が声をかけようとした瞬間、セイアは突然目を見開くと私の発言を遮った。

 

「”君”の事だ、私への襲撃を何とか防ぎたいと思っているんだろう、それかナギサやミカに正直に話した方がいいと説得してくるかも知れない」

 

「君はきっと私達の知らない”記憶”を持っている、そして君が持つ記憶と私が見た夢の内容はおそらく同じもの...私としても初めはそれを頼りにすぐにでも解決できる筈だと思っていたんだが....残念ながらそれは出来そうに無くてね、実は今日ここに先生を連れてきたのもその事で相談があったというのが本当の理由なんだ」

 

セイアは何かを言い淀みながら、困った様な表情を浮かべると改めてそれを告げた。

...だが、その告げられた内容に私は衝撃を受ける事となる。

 

 

「実は...予知夢の内容が変わってしまったんだよ」

 

「え?」

 

はっきりと、そう言い放ったセイアはそのまま話を続けていく。

 

「最近になって今まで見えていた予知夢が突如として見えなくなった...正確には別の予知夢を見る様になったと言うべきかな」

 

「それは、未来が変わったって事...?」

 

「.....わからない、こんな事は私も初めてだからね。ただ詳しい事がわからない以上その可能性が高い...しかし一番の問題は、今度の予知夢に関して私もその実態を全く掴めないという点だ」

 

「これまで見てきた夢では誰が何をしているのかを鮮明に見る事が出来ていた、むしろ鬱陶しいと思える程にね。勿論以前見ていた夢には襲撃の犯人の姿も映っていたよ....君も当然私の襲撃相手には心当たりがあったんだろう?」

 

「.....」

 

そう言われた私の頭には一人の生徒の姿が思い浮かぶ。

 

「だが今回変わってしまった夢にいたってはそれがまるでわからない。かろうじて私が何かに狙われているという情報だけが僅かに見えはしたが、残りは謎のままさ。だからと言っていつ起こるかもわからない問題に焦って対処しようとするのも危険だ、もし四六時中私の傍に見張りを付き添わせていればこちらの動きを察した相手をかえって警戒させてしまう可能性が高い。そうなれば最悪の場合更に未来が変わってしまう事も考えられる」

 

「相手は明らかに”何かを警戒している”、だからこそ始めに見えていた私の襲撃作戦を取り止めたんだろう。」

 

そこまで話したセイアだったが、やがて真剣な顔つきとなり私を見つめ 

 

「だからこそ先生、君はこれからナギサからのお願い通り補習授業部のあの子達を導いてあげてほしい。あくまで普通の変わらぬ日々を過ごすんだ、相手にこちらの考えを気取られない様にね」

 

「....わかった、でもそれだとセイアが...」

 

「心配しなくても平気だとも、私も油断はしないさ」

 

セイアはそう言って椅子から立ち上がる。

 

「さて、随分と話し込んでしまったね。すまない、これからあの子達の所へ向かう筈だったのに時間をとらせてしまった」

 

「ううん、私もセイアと話せて良かったよ」

 

トリニティに来てから確かに時間は経ってしまったが、まだ大丈夫だろう。

 

「.....先生」

 

私はナギサに手渡された資料を見ながら早速ヒフミに会うため部屋を出ようとした瞬間、セイアが不意に呼び止められる。

私が彼女の声に振り返ると

 

「....今の私が言うのも説得力の無い話だが...あまり抱え込みすぎない事だ。」

 

「いつかの君が言っていた事だよ、その言葉は君自身にも使われるべき言葉だ」

 

「......うん、ありがとうセイア」

 

そう最後にやり取りを返し、彼女と別れた私は早足で広場の方へと向かったのだった。

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