トリニティ郊外の店の前でヒフミと再会した後、私は彼女から事情を聞いていた。
どうやらペロロのぬいぐるみが売られている情報を見てここに来たらしいのだが、つい時間を忘れる程夢中になってしまったらしい。
なんともヒフミらしい理由私は笑みを浮かべ、とりあえず今日はもう遅いので補習授業部の件はまた明日にしようと伝えた後、彼女を送り届けたのだった。
そして迎えた翌日、私は朝早くからシャーレを飛び出しヒフミとの約束を果たすためトリニティまで早速出向いていた。
〈トリニティ総合学園....中々に大きな場所の様ですね〉
耳元からは外の様子を見てそんな感想を呟くケイの声が聞こえてくる、昨日はシッテムの箱の電源を切っていた為彼女がトリニティを見たのは初めてだったらしい。
『この近くにあるお店のスイーツが美味しいです。提案、お土産として買う事をオススメします』
〈...それは貴方が食べたいだけでは?〉
「あはは...帰りにちゃんと買って帰るからね、今はヒフミと会わないと....」
目を輝かせスイーツについて語るアロナに言葉を返しつつ、広場を見渡しながら歩いていく
「先生〜!」
すると遠くの方からヒフミがこちらを呼ぶ声が聞こえてきた。
「すみません、遅れてしまいましたか?」
「ううん、私もさっき来た所だったから大丈夫だよ」
「よ、良かったです。では先生、今日からよろしくお願いしますね!じゃあ早速他のメンバーの方達に会いに行きましょうか」
ヒフミはそう言いながら鞄の中から書類を取り出すと学校を目指し歩いていく。
『私はお姉ちゃんですので、ケーキのイチゴを半分なら分けてもいいですよ』
〈いや、別にいりませんけど...というか貴方の妹になった覚えは無いと何度言えば....〉
私は二人の会話に苦笑いを浮かべながら、ヒフミの後ろ姿を追いかけていった。
まずは同じ学年という事でハナコの元へ向かおうと決めた私達、だが数十分学園内を歩き回っても未だに彼女の姿を見つけることが出来ずにいた。
「おかしいですね....この時間ならまだ他の生徒も校内に居るはずなのですが...」
「誰か知っている人に聞いてみよう」
「そうですね、あ、すみません。浦和ハナコさんを探しているのですが...」
ヒフミは少し考えた後、近くを通りがかった生徒の一人に駆け寄りハナコの所在を尋ねる。
「はい、はい.....そうなんですね、ありがとうございました」
やがて話終わった彼女はその生徒にお礼を伝えてパタパタとこちらに戻ってくると同時に困った顔をしながら口を開いた。
「どうやら一時間程前に教室を出たきり戻っていないそうです、もしかしたら広場の方で休んでいるのかもしれません」
「そっか、じゃあもう一度戻ってみようか」
教えてもらった情報を頼りに私達は再度来た道を引き返し、広場へと足を踏み入れる。
そこは周りを綺麗に切り揃えられた木に覆われ、真ん中に設置された噴水の小さな音が耳に清涼感を与えていた。
「とは言ってもこの辺りは結構広いですし、探しているうちにまたすれ違ってしまったら....」
「うーん....」
私はヒフミの言葉を聞きながら思考を巡らせる。
ハナコの行動、彼女は今何をしている可能性が高いのか、それらを一つ一つ考え当てはめていく中、不意に視界の先に慌ただしく移動する何名かの生徒の姿が映った。
(あの子達は、正義実現委員会の....)
黒い制服を身に纏い、目元が前髪で隠れている子達は携帯を片手に急いでどこかへと向かっているようだった。
「...?先生、どうかしたんですか?」
「.....ヒフミ、彼女達について行こうか」
「え?でもハナコさんを探さないと...」
「大丈夫、私について来て」
「は、はぁ...」
いまいち状況を把握できていないヒフミは、怪訝そうな顔を浮かべたまま私と共に正義実現委員会の子達を追いかけていく。
「不審人物確保しました!」
「早くハスミ先輩に報告しないと」
「あら、とうとう捕まってしまいましたか...♪」
「え、あ、あの人って....」
やがて追いかけていた彼女達は他のメンバーと合流したようだったが、その仲間達に拘束されている一人の少女を見てヒフミは目を丸くさせる。
「....?そこにいるのはもしや、シャーレの先生ですか?ふふ、まさかこんな所を見られてしまうなんて♪...お隣の方は確か、阿慈谷さんでしたっけ?」
「え、あ、はいそうですけど....えっと、ハナコさん、ですよね?」
「あら、もしかして私をお探しで?」
「はい、でもその前にお聞きしたいんですけど、ハナコさんはここで何を?」
いきなり探していた人物が正義実現委員会に捕まりそうになっている場面を見たヒフミは、困惑しながらも彼女に声をかける。
正義実現委員会の子達も私とヒフミの姿を見て一時的に拘束を待ってくれているようだ。
「こんな気持ちのいい天気ですし、折角ならお散歩でもしようかと思いまして♪」
「えっと、それでしたら何故”水着姿”なんでしょうか...」
そう、至って普通の会話を続けるハナコだったが、現在彼女は授業で使用する学園の水着姿を堂々と晒していた。
「学校のプールでは皆さん水着になられますよね?つまり、学校の敷地内であるこの広場でも水着になっても問題無いということ、それは何も不思議なことじゃありません」
「そ、そうなんでしょうか...?」
「はい♪ですがその理解が得られずこの方達に捕まってしまいまして、何か私に用事があるようでしたが残念ながら今は応えられそうにありませんね」
そう言うとハナコは首を振り、そのまま正義実現委員会の子達に連行されそうになってしまう。
私としてもここでハナコが連れていかれるのは困るので、彼女達に声をかけなんとか引き止め始めた。
「お願いがあるんだけど、ハナコを解放してあげてもらえないかな?」
「え、でもハスミ先輩が...」
「ハスミには私に頼まれてって言ってもらえればきっとわかってくれると思う。それにもし何かあったら私が責任を持つから」
「うーん、どうする?」
「シャーレの先生のお願いだけど....」
私のお願いに彼女達は話し合い始めたが、それから少ししてこちらの願いを聞き入れてくれたのか、ハナコの腕の拘束を解いてくれた。
「ふふ、まさかシャーレの先生からそんなに私が求められていたなんて驚きですね♪これは是非”お礼”をしなければ...」
「あはは...でも良かったです、これで補習授業部のメンバーも残り2人ですね」
「補習授業部?」
「えっと、実は今回ハナコさんには補習授業部の方に....」
首を傾げるハナコにヒフミが説明をしようとした時、帰ろうとしていた正義実現委員会の子達の携帯が突然辺りに鳴り響いた。
「あ、イチカ先輩!どうかしたんですか?....え、校内で銃撃戦!?」
「「「!?」」」
突然のその連絡にその場にいた他のメンバーとヒフミも驚いてしまう。
「犯人は弾薬倉庫を占拠して現在抵抗中...!す、すぐに行きます!」
急いで携帯を切り他のメンバーと共にこの場から移動しようとする彼女達だったが、不意に振り返ると私の元へと駆け寄ってきた。
「あ、あの!シャーレの先生も一緒に同行してもらえませんか!」
「え?」
「今回の相手は中々手強いみたいなので、先生のお力をお借りしたいんです。シャーレの戦闘指揮の高さは噂で聞いてますし....」
突然そんな事を言われ一瞬困惑する私だったが、ハナコの件もそうだが彼女達が困っているのなら断る理由は無い。
(それに、おそらくその戦闘相手は....)
私は頭の中で一人の少女の姿を思い浮かべる。
「よ、よくわかりませんが、私もお力になれるのなら協力させてください」
「まあ、早速先生に借りをお返し出来る時がきましたね♪」
「わかった、じゃあ行こうか」
「はい、よろしくお願いします!」
こうして、予定外の事態に巻き込まれた私達は正義実現委員会の子達と共に急いで戦闘地点へと向かうのだった。