偽りの道をもう一度   作:Mrふんどし

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″初めまして″の自己紹介 サオリside

 

「中止...?」

 

「ええ、そうです」

 

私がその連絡を受けたのは、彼女を送り出して暫く経った頃だった。

 

 

 

 

 

 

「はぁ...はぁ....っ!」

 

「遅い、もっと素早く動け、相手の動きを視線に捉えろ。常に次の手を考える事を忘れるな」

 

十分程前、ここでは訓練場と呼ばれる場所で私は他のアリウス生徒への指導を行っていた。

先程まで戦闘指南をしていた相手の手から零れ落ちた銃を拾い、彼女へ投げ渡す。

 

この程度で音を上げていては、この世界では生きていけない。

弱ければ...価値はない、それが残酷なまでのこの世界の在り方だ。

 

「...まあいい、少し休憩しろ。その後で....」

 

「錠前サオリ」

 

私がそう言いかけた瞬間、背後から自身の名を呼ぶ声が聞こえてくる。

その声に振り返ると、そこにはマスクをつけた別のアリウス生徒が立っていた。

 

「”マダム”がお呼びだ」

 

「....わかった、すぐに行く」

 

(きっとまた何かの指示だろう)

 

私は口元にマスクをつけ直すと、すぐに彼女の元へと向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

「ああ、待っていましたよ」

 

「失礼します...」

 

マダムの待つ部屋へと入ると、彼女は扇子を広げながら椅子に座っていた。

頭部に点在するいくつもの目がこちらをまるで見透かす様に動いているのがわかる。

 

「以前話した計画については覚えていますね?」

 

「はい」

 

 

ある日、アリウス自治区に誰一人連れそう事なくやって来たトリニティの少女、彼女の口からアリウスと和解したいという言葉が飛び出した時の事は今でも覚えている。

何の思惑も無く、ただの希望的観測を述べる彼女の存在は、このアリウスで過ごして来た私にとって信じられないものと同義だった。

 

だがそんな彼女の提案をマダムは利用し、ある計画を立てた。

それは、トリニティとアリウスの”和解の象徴”を送り込み、トリニティのトップである百合園セイアを暗殺する事。

 

そんな裏が隠れているとはつゆ知らず、トリニティの少女はこちらの出まかせな話を信じ彼女...アズサを連れて行った。

後は時が来るのを待ち彼女へ指示を出す段階となっていた筈だが....

 

 

「...その計画に何か変更が?」

 

「はい、かのトリニティトップの暗殺....それを一時中止とします」

 

「中止...?」

 

私はマダムの話している意味が分からず、一瞬その場で固まってしまった。

 

「ええ、そうです」

 

「何故です?計画は順調に進んでいた筈...」

 

「貴方にわざわざ理由を話す必要が?」

 

「...いえ」

 

「まあ一つ答えるのであれば、仮にこのまま進めてもあの計画は成功しないということです」

 

だが一方のマダムは特に何事もないかの様な態度のまま答える。

 

(何故、まだ計画も途中の段階でそれがわかるのか...彼女には何が見えているんだ?それに....)

 

私の内心では、最近になって感じる彼女への謎の”違和感”が再び渦巻いていた。

当然見た目はマダムそのもの、だが...たまにどこかマダムではない”別の人物”と会話をしている様な感覚を覚えるのだ。

 

「では今後の計画は?」

 

「暫くは様子見です、彼女は上手く溶け込めているのでしょう?」

 

「はい、アズサからはそのように連絡を受けています」

 

「なら今はそれで十分です、こちらが変に動きを見せる必要はありません」

 

ベアトリーチェは扇子を閉じると椅子から立ち上がり、私の元へ近づいてくる。

 

「ただし....彼女には貴方からある任務を追加で伝えてもらいます」

 

「...任務?」

 

「この者の事は知っていますか?」

 

そう言って彼女は一枚の写真を私に手渡した。

そこに写っているのは、白いコートを羽織った一人の大人....

 

「この大人はシャーレの先生と呼ばれている存在です、今回の計画において一番の障害となる人物...この者はいずれトリニティへと足を踏み入れる事となるでしょう。そうなった時、彼女にはこの大人の監視をしてもらいます」

 

「......」

 

「この大人がどう動くつもりなのか、それを知るのが今は最重要事項です。今夜中に彼女へその事を伝えておきなさい、もう下がって結構です」

 

「わかりました」

 

私は頭を下げながら、マダムから受け取った写真をもう一度見る。

 

(...この大人が本当にそれ程警戒すべき相手なのか?)

 

写真越しではどうにも信じ難い、むしろ頼りなささえ覚えるくらいだ。

 

(....いや、今は考える必要は無い。私達は命令に従うのみだ)

 

 

私は首を横に振り、写真を仕舞いながら再度彼女へ頭を下げると、そのまま部屋を出て行ったのだった。

 

 

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