ヒフミ達と今後の予定について話し合いをした翌日
「.....」
シャーレの仕事場で、私はトリニティの教科書を一人静かに読んでいた。
今日から彼女達...補習授業部の活動が始まる。
かつて同じ経験をしているとはいえ私がすべき事は変わらない、彼女達が無事試験に合格できる様全力を尽くすだけだ。
『報告、そろそろシャーレを出る時間です』
「うん、教えてくれてありがとう」
私はアロナに感謝を告げつつ教科書を閉じて鞄へとしまう。
『...大丈夫ですか?昨日は遅くまでそちらを見ていた様ですが』
「心配しなくて大丈夫だよ、アロナが眠った少し後に私も寝たから」
〈深夜三時半頃まで起きていた事がすぐというならアレですが〉
『先生...?』
「え、いや、あ、あはは...つい夢中になっちゃって....だ、大丈夫!眠気はバッチリとれてるから!」
まさかのケイの暴露によりアロナはじとっとした目をこちらに向けてくる。
私は誤魔化す様に席を立ち、トリニティへと向かおうとした所で
〜♪
『先生、お電話の様です』
突然モモトークの電話がかかってきた。
(誰だろう、ヒフミかな?)
今日のことで何か変更でもあったのだろうか、私は画面を操作し通話に出てみると
『ん、先生おはよう』
「シロコ?久しぶりだね」
『うん、久しぶり』
なんとその相手はシロコだった。
電話越しからは彼女の声と共に自転車を降りた音が聞こえてくる。
「今から学校?」
『そう、今日は作戦会議の日だったから』
「そっか...他の皆は元気?」
『うん、ホシノ先輩もノノミもアヤネも...あ、セリカは昨日また騙されて落ち込んでたけど』
簡単に想像できてしまう光景に私は苦笑いを浮かべてしまう。
『それで、先生って今日来れる?皆会いたがってる』
「あーごめんね、実は今日からトリニティでやらなきゃいけない事があって」
『ん、残念....じゃあまた今度誘う』
「うん、またねシロコ」
そう言ってシロコとの通話を終えた私は息をつくと、改めて準備を整えシャーレを出た。
(....よし、行こう)
雑談に花を咲かせる生徒達を見ながら、私はヒフミ達が待っているであろう教室を目指しトリニティ校内の廊下を進んでいく。
歩く事数分、たどり着いた教室の扉を軽く叩き開けると、そこには既に四人の姿があった。
「あ、先生!おはようございます」
「おはよう。ごめんね、少し遅れちゃって」
「いえ、私達もついさっき集まったばかりでしたので」
「うふふ、おはようございます先生♡」
「おはよう。時間が勿体無い、早く始めよう」
「....ふん」
ニコニコと笑うハナコ、鞄から教科書を取り出すアズサ、机に肘をつきそっぽを向くコハル...そんな彼女達を前に合図するかの様に手を叩いたヒフミはトコトコと教壇へと移動する。
「さて、今日から本格的に私達の活動が始まります。昨日も話しましたが、私達の目標は今度行われる試験で全員同時に合格する事....その為には、何よりも勉強です!」
「お互い得意不得意が違うと思うので、わからない時は協力して教え合いましょう!先生も、よろしくお願いします」
「うん、任せて」
こうして、補習授業部の初日がスタートしたのだった。
「むぅ...」
「あら、アズサちゃんどうかしましたか?」
「ここの解説がよくわからない」
「ああ、それでしたらこちらの参考書の方が簡潔に纏められているのでわかりやすいですよ。それとこの問題の場合でしたらここの文章から判断して...」
「成る程、ありがとうハナコ」
「先生、この問題なんですけど...」
「これは...うん、原文を訳すと″神は手を翳し″から始まるから...」
「あ、思い出しました!ありがとうございます!」
「......」
「...コハル?何かわからない所があったら遠慮なく言っていいからね?」
「っ!だ、大丈夫だから!集中してるから話しかけないで!」
「えっと、コハルちゃん。今読んでる所は今回の範囲ではないですよ...?」
「え、こ、これは...よ、予習だから!次のテストの為の予習なの!」
勉強を始めて数時間、教科書を読みわからない所は聞くと... 一応全員が試験に向けての勉強を真面目に取り掛かっていた。
...よくわからなそうにしているコハルにも何度か声をかけたのだが、その度に断られてしまう。
でも彼女は必ず努力できる子というのは知っている、無理に距離を詰めようとしても逆効果になりかねない。
それにまだ今日で初日、焦ることはないだろう。
「先生、質問がある」
「わかった、今行くね」
そんな事を考えながら私が四人の様子を窺っていると、不意にアズサに声をかけられた。
教科書を手に彼女の元へと向かうと、アズサは問題を指さして解説を求めてくる。
「この問題の解き方がわからないから教えてほしい」
「いいよ、これはね....」
私は彼女のそばに座りながら問題の答えまでの道筋を紙に書き解説を続ける。
その間真剣な表情で私の話を聞いていたアズサだったが、時折何故かこちらを盗み見る様な視線をむけているのに気がついた。
「アズサ、どうしたの?」
「.....いや、何でもない。つまりこういうこと?」
「え、ああ、うん」
何となくその視線がどこか普通でないと感じた私は彼女に尋ねるが、アズサは首を振ると今の解説からスラスラと答えを導き出していく。
(...気のせいだったかな)
私はほんの少し疑問を持ちながらも、そのまま彼女を見守ったのだった。