偽りの道をもう一度   作:Mrふんどし

94 / 112
不意の視線 アズサside

補習授業部としての活動が始まって数日。

 

ペラペラと、紙が捲れる音が静かに響き渡る。

それに混じり時折唸る様な声やペンを走らせる音が聞こえる教室で、私は黙々とノートを眺めていた。

 

「ね、ねぇ...」

 

「どうしましたかコハルちゃん?何かわからない所があるなら教えてあげますよ♡それはもうじっくりと、手取り足取り♡」

 

「い、いいから!にじり寄って来ないで!」

 

「あはは...」

 

少し離れた所から私と同じ様な状況に陥っている三人の声が聞こえてくる中、彼女達の話に僅かに耳を傾けながら問題文と格闘する。

 

「アズサ」

 

「....」

 

そんな時、不意に頭上から私の名前を呼ぶ人物の声が聞こえてきた。

その声に反応し顔を上げると、″シャーレの先生″が微笑みながらこちらを見ている姿が視界に映る。

 

「大丈夫?随分と悩んでるみたいだから」

 

「うん、問題ない.....あ、でもこっちの問題がよくわからないから教えて欲しい」

 

「勿論、この選択肢は途中のこの箇所が間違ってて...」

 

「......」

 

先生はそう言って私の隣に座ると参考書を見せながら一つ一つ丁寧に教えてくれる。

私はそんな大人を横目で見ながら、あの時の事を思い返していた。

 

 

 

 

 

 

「...遅かったな」

 

「ごめん、最近は警備が強化されて夜出歩くのが少し難しくなった」

 

「気を緩めている訳じゃないだろうな?」

 

「問題ない、訓練はいつも続けているから」

 

月明かりに照らされる寂れた廃墟にて、二人の少女が影に隠れる様に語り合っている。

 

「....まあいい。それよりもアズサ、今日呼んだ理由はお前に与えられていた任務についての追加連絡だ」

 

「...百合園セイアの暗殺?」

 

「そうだ、本来ならもうすぐ実行に移すはずだったが...計画変更になった、それは中止にする」

 

「え?」

 

アズサは突然目の前の少女...サオリから放たれた言葉に思わず驚きの声を漏らす。

 

「....何故?計画は順調に進んでいた筈」

 

「マダムの決定だ」

 

「彼女が...?」

 

「どうやら計画に不備が出てきたらしい。...理由はわからないが、マダムがそう告げたのなら私達はそれに従うのみだろう」

 

「.......」

 

サオリの話を聞いたアズサは、静かに口をつぐみ頷いた。

そんな彼女の態度を見たサオリは徐にポケットに手を入れ何かを取り出す。

 

「だがアズサ、お前はまだトリニティに残ってやるべき事がある」

 

そう言ってサオリは取り出した一枚の写真をアズサへ手渡した。

そこに写っているのは、どこからか撮影したらしき画角で収められた一人の大人の姿....

 

「この人は?」

 

「″シャーレの先生″、と呼ばれている存在らしい。マダムが言うにはもう少しすればこの大人がトリニティへと訪れるそうだ、その時が来たらお前にはこの大人の監視をしてもらう」

 

「監視?」

 

「それについてもマダムの指示だ。決して危害は加えず、あくまで奴が何をしているのかを監視し報告する.....それがお前に与えられた新たな任務だ」

 

サオリはそう言い残すと、その場から立ち去ろうと踵を返す。

 

「....アズサ、油断はするな。そして常に心に刻んでおけ、″vanitas vanitatum″」

 

「....全ては虚しいもの、どんな努力も、成功も、失敗も、全ては最終的に無意味なだけ」

 

「そうだ、それが.....″私達″の生き方なのだから」

 

 

 

 

 

 

「....ズサ、アズサ?」

 

「っ!」

 

いつの間にかぼーっとしてしまっていたのか、先生が私を覗き込む様に声をかけている事に気づかなかった。

 

「ごめん、少し頭がぼんやりしてた」

 

「そっか、あまり無理しすぎても逆効果だから一回ここで中断しようか、頑張るだけじゃなくてしっかり休む事も大切だからね....みんなも少し休憩にしよう、私も飲み物を買いに少し外に行ってくるね」

 

先生は微笑みながら私のノートを閉じると、他の三人にもそう告げ教室を後にする。

 

「アズサちゃん大丈夫ですか?」

 

「....大丈夫、少し休めば良くなる」

 

「先生も言ってましたけど、あまり気を張りすぎるのも良くないですから、気楽に行きましょう。ま、まあ気を抜きすぎて試験に合格出来なくなるのは大変ですけど、きっと大丈夫です!まだ試験までは時間がありますし!」

 

心配そうに声をかけてくれたヒフミに返事をすると、ヒフミはそう言いながら私の手を取って笑顔を向けてくる。

 

「....ああ、わかった」

 

それを見た私は、無意識のうちに小さく頬を緩ませていた事に気づいていなかった。

 

 

やがて先生が私達の分の飲み物を買って戻ってきてから、もう暫くの間勉強が続いた後、今日の補習授業部の活動が終了したのだった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。