晴れ渡る青空の下、その日シロコはいつもの様に皆の待つ校舎へと向かっていた。
坂道を下る自転車の車輪の音が響く中、彼女はこれからの事をぼんやりと頭に思い浮かべる。
今日はアヤネが開く定期会議の日、でもきっとその時間の半分くらいは関係のない雑談が繰り広げられるのだろう。
最近は少しずつではあるが借金の返済への計画の目処もたってきた。
...あの出来事から、自分達の環境が本当に大きく変わっていった事を改めて実感する。
シロコは小さく笑みを浮かべながら、僅かにペダルを漕ぐ足に力を込めた。
そんなこれまでと変わらない一日が今日も過ぎようとしていた中で。
”小さな異変”は唐突に訪れた。
「....?」
もう少しで校舎に辿り着く、そう思っていたシロコの視界の先に何かが映りこんだ。
砂の山が点在する道の上に置かれているそれは、よく見ると人の形をしているようだった。
自転車から降りて恐る恐る近づいてみると、段々とその詳細が明らかになっていく。
それは、一人の少女だった。
身体に纏っている少し大きめの白い服、少しボサボサなクリーム色の髪、更に顔にはガスマスクをつけている。
「大丈夫?」
明らかに普通の状態では無い少女にシロコは声をかけるが、彼女は気を失っているのか何も反応を示さない。
「うーん...」
突然の事態にシロコは悩むが、流石にこのまま放置する訳にはいかない。
とりあえず考えるのは後という事で、彼女は背中に少女を背負うとそのまま歩き出したのだった。
「おはよう」
「あ、シロコ先輩おはようござ....って、ど、どうしたんですかその方!?」
それから暫くして学校に到着した後、四人が待っているであろう部屋の扉を開き挨拶をするシロコ。
そんな彼女に気がつき挨拶を返そうとしたアヤネだったが、背中に背負われている謎の少女を見て思わず声を上げてしまう。
「シロコちゃん、また誰か拾って来ちゃったんですか〜?」
「うへぇ、前は先生で今度は女の子かぁ」
「ちょ、ちょっと!ふざけてる場合じゃないでしょ!....シロコ先輩、一応聞くけど拉致とかじゃ...」
「ん、違う....学校来る時に道端に倒れてたから」
シロコはそう言うと背負っていた少女を下ろしソファに寝かせた。
その衝撃で少女は小さく声を漏らすが、まだ目を覚ます様子は無い。
「なんだか不思議な格好ですね?あんまりこの辺では見た事ない様な...」
「そうですね....武器も何も持っていないみたいですし、腕や足も少し細いですね。もしかするとあまりご飯を食べられてなかったのかもしれません」
「シロコ先輩、先生には相談した?」
「ん....まだ、最近忙しそうだったからあまり連絡しない方がいいと思って」
「うーん....でもセリカちゃんの言う通りかもね〜、こういう時は大人の力を借りた方がいいだろうし。それに、先生ならきっと相談しない方が心配すると思うよ?」
ホシノの言葉を受けて、シロコは頷くと徐に携帯を取り出し電話をかけ始めた。
何度かコール音が続き、それから少ししてシロコの耳元には先生の声が聞こえてくる。
『もしもし』
「ん、良かった、出てくれた」
『シロコ?どうかしたの?もしかしてアビドスに何かあったとか...』
「大丈夫、そういう訳じゃない...けど。うーん、でもそう考えると”あった”って言えるかも...」
だがどう説明したらいいのか、困ってしまった彼女は中々言い出せずに固まってしまう。
そんな彼女の様子を察したのか、電話越しからは優しい声で先生が話し始めた。
『...安心してシロコ、何か困った事があるなら遠慮なく言って欲しい。私はいつでも力になるからね』
その声に気持ちが落ち着いたシロコは、小さく息をつくと本題を口にした。
「ん、わかった。じゃあ話すね.....さっき、砂漠の中で倒れてる子を拾った。今はまだ気絶してるけど.....どうすれば良い?」
『え?』
彼女が口にした内容が予想外過ぎたのか、先生は少しの間無言になると困惑しながらシロコに尋ねる。
『えっと、拾ったっていうのは...』
「そのままの意味、さっき学校に来る前に道に倒れてた子がいたから連れてきた。とりあえずソファで寝かせて様子を見てる」
『そっか....わかった、なら今からそっちに向かうね』
「いいの?」
『うん、流石にその話を聞いて放っておけないし。もしその子が困っているなら何とかしてあげないといけないからね。じゃあちょっと時間がかかるかもしれないけど待ってて』
「ん、気をつけてね.....先生、今からこっちに来るって」
そうして電話を終えたシロコは、静かにやり取りを見守っていたホシノ達に事の次第を伝える。
「よーし、じゃあ少し片付けしちゃおうか。このまま先生を出迎えるのもアレだしね〜」
「なんだか久しぶりですね♪」
こうして、ソファで眠る少女拾った彼女達は、それから先生が来るまでの間静かに部屋の整理を始めたのだった。