というわけで慈愛の怪盗参上。楽しんでいただけたら幸いです。
黒服との邂逅を終え、一人アビドス高校に向かっているときだった。アビドスの街並みの中でアビドスの制服を着た見慣れない生徒とすれ違ったのだが、知らないアビドス?と振り向いた矢先、マスケット銃を突き付けられた。獣の耳がついた桃色がかった白の前髪で顔が見えないが、対策委員会の人間じゃないな。
「……いきなりご挨拶だな?」
「いつもはもう少しスマートなのですが……災厄の狐様が苦戦したという情報だけでこうするのは妥当でしょう?私の美学に反しますが、手段を選んでいる間に壊されてはたまりませんので」
そして、間髪入れず発砲。私は抜刀して弾丸を斬り弾き、切っ先を突き出して刺突を繰り出す。しかしそいつはマスケット銃の銃身で刃の腹を受けてくるりと回転させて刃を逸らし、私を引き寄せて反転させたマスケット銃を発砲。顔を横に傾けて回避し、引き抜いた刀を振り下ろすとマスケット銃を横に両手で持って受け止められた。
「その並外れた身のこなし……美しい」
「お褒めに預かり光栄だよ。御世辞にしてもな」
「ふっ。純粋な誉め言葉ですよ」
そのまま蹴りを叩き込んできたので飛び退いて回避。砂に覆われたアスファルトに着地すると、カチッと音が鳴る。
「足元にご注意を」
「なに…!?」
それに疑問を持った瞬間、地面が爆発。地雷だと気付いたその時には、空に投げ出されていた。なんとか身を捻り、受け身を取りながら着地すると弾丸が足元に炸裂する。受け身を撮れてなかったら直撃コースか。手堅いな。
「お前、何者だ……?」
「嗚呼、そんな義理はないのですが問われたならば名乗らなければなりませんね。ある者は、私を
地面に煙幕を投げつけてアビドスの制服を脱ぎ捨る下手人。そして煙が晴れると、純白のスーツとマントを身に纏っており、目元にはドミノマスクを身に着けている姿へと変わっていた。早着替えとは、中々やるな?
「慈愛の怪盗……知らない名だ。泥棒の割には派手な格好だが」
「怪盗ですよ、お嬢さん。嗚呼、私の知名度もまだまだですね……ですが、その乱暴な使い方。せっかくの美術品がそんな扱いされるのは、我慢なりません」
「この刀が目的か?武器は乱暴に扱ってこそだろう」
そう言って刀を突きつけると、口惜しそうに唇を引き締める慈愛の怪盗はマスケット銃を突きつける。
「嗚呼、この美学が通じないなんて……
そのまま左手からワイヤーらしきものをビルの外壁に飛ばし、宙を舞って右手に構えたマスケット銃を撃ってくる慈愛の怪盗。刀で弾丸を斬り弾きながら、鞘を右手に、刀を左手に、それぞれ逆手に持って、前方で構え、風車のようにくるくると次々と持ち替えて廻旋させ、つむじ風を引き起こして砂塵を広げて煙幕を張る。これで上からは見えなくなったはずだ。そして、上の人影は砂塵に映って丸見えだ。煙幕の中に着地するのも、な!
「もらった!」
そのまま煙幕の中に降りた慈愛の怪盗に抜刀した斬撃を叩き込もうとして、再びカチッと足元で音が鳴る。やられた…!?
「ぐああああ!?」
爆発に巻き込まれ、転がった私の手から刀が吹き飛んでいき、煙幕が晴れた中で慈愛の怪盗が二つを手に取った。
「次からは、足元にも気を配った方がいいですよ。せっかくのダンスが台無しになってしまいますから。たしかにいただきました」
「返せ……!」
咄嗟に腰の後ろに下げていた「ガラクタ」の包帯の封印を解いて抜刀、斬りかかるが刀を振るわれ、咄嗟に距離を取る。取られた…!私の、相棒が…!
「それでは、これにて失礼。そう遠からず、またお会いすることになるでしょうけれど。次に会った時はその鞘もいただきます。その時まで、良い夢を。bye!」
そう告げると煙幕を張り、姿を消す慈愛の怪盗。……してやられたな。だが。
ドンガラガッシャーン!
「なああああああっ!?」
遠くから恐らく鉄骨が落ちてきた音と、悲鳴が聞こえる。その刀、持ち主を殺す呪いが込められてるらしいが生き延びれるかな?慈愛の怪盗さんよ。
「アヤネちゃん、それは本当なの?」
「手に入った書類を確認したんだけど……カイザーローンは、ヘルメット団に資金を流してるみたい」
「そんな、嘘よ。つまりヘルメット団は…私たちに銃を向けてきた連中は、私たちのお金で武器やらを調達していたって事でしょ!?」
「そう言う感じだったか」
とりあえずアビドスまでやってくると、セリカが絶叫を上げていたところだった。そういうからくりか。マッチポンプにもほどがあるな。
「あ、セツナちゃんお帰りー。……どしたの?」
「刀、盗られた。とりかえすつもりだがそれまで私の火力は半減だ。というわけで私は別行動するから今回は手伝えない。悪いな」
「刀を盗られた!?誰に…?」
「慈愛の怪盗とかいう手練れだ。油断した」
「慈愛の怪盗!?七囚人の……ですか?」
「ああ、七囚人なのか。道理で」
強いわけだな、と納得していると、先生が視線を合わせてきた。荒く吐いた息が先生に当たる。
「“大丈夫?セツナ”」
「大丈夫だ。心配することない。すぐに取り返……」
「“そうじゃない。心の方だ”」
「先生…?」
シロコが首を傾げ、私の方を見て…気付かれたのだろう、眼の色が変わる。私の手が震えていること、荒い息、激しい動悸、いわゆる、落ち着かない……禁断症状という奴だ。なぜかついてきたらしいヒフミにも見られてしまったか。はは、いじめられる理由が増えそうだ。
「“刀に依存していたんだよね?”」
「だったら悪いか、先生。私にとって銃は自分自身すら傷つける凶器だ。刀だけが私に応えてくれる。唯一の武器だ。アレがないと私は………いや、なんでもない。武器についてなら問題ない。この「ガラクタ」があるからな」
包帯でグルグル巻きにしたそれを掲げて見せると、微妙な顔をされた。そうだろうな、折れた刀なんてって感じだろう。ホシノ達が口を開く前に、踵を返す。
「刀を取り返したら合流する。……馬鹿なことはするなよ?」
「そっちこそ、無茶しないでね?」
ホシノに言われ、「ガラクタ」を手にした右手を掲げて見せることで返す。心配ご無用だ。
その脚で私が出向いたのは、例のワレワレヘルメット団が屯している廃ビルだった。
「というわけでワレワレヘルメット団、力を貸せ」
「我々を頼るとは正しい判断だナ!」
快く歓迎してくれるフユ。……うん?知らない顔が増えてるな。ヘルメットの上から丸メガネをかけたやつ、茶色いヘルメット姿で紅茶を嗜もうとしているやつ、そして赤いヘルメットに赤いマフラーを巻いているやつ、か。
「紹介しよう。我が軍団の要ともいえる七人の残りのメンバーだ」
「初めまして~!セツナさんのお噂はかねがね、先輩たちの後輩をさせていただいてます、
「ごきげんよう。私は
「わいが
三者三様に個性的な自己紹介をかます三人。個性が強い。
「お、おう。フユ、こいつらは?」
「依頼主が怪しかったんで調べてもらっていたうちの主要面子だ。ペペは詐欺師、ゑみさんは知恵袋、ナイはゑみさんの護衛やな。それで、どうだったのダ?」
「結論から言いますと、ワレワレヘルメット団を雇っていた金の出どころは、闇銀行でした」
「闇銀行に融資に行く振りして話を聞いたんですけど、なんでもカイザー・コーポレーションはアビドスを欲しがってるみたいですね。理由まではわかりませんでした」
「けったいな話やで?闇金使ってまでわいらみたいなチンピラ動かして、アビドス高校の連中を排除しようとしてるって話やからなあ」
「なるほど、セツナさんの言う通りここは断るのが吉か……そういやここに何しに来たんダ?セツナさん」
「ああ、それなんだが……刀を奪われたから取り返すために人員が欲しい。人海戦術で慈愛の怪盗とかいう下手人を追い詰める。手伝ってくれ」
そう告げると、奥で控えていたノゾム達三人も含めて、ヘルメットの下で笑みを浮かべたのがわかった。本当に戦争が好きだなお前ら。
「慈愛の怪盗って七囚人のですか?」
「知ってるのか、ゑみさん!」
「ええ、確か違法に取引された盗品や美術品を、その価値をわかってない輩から盗んで集めているとか……」
「上等だ。どっちが価値がわかってないか、教えてやる」
「闇金でアビドス狙うよりは面白そうだナ!総員、セツナさんに協力するゾ!」
「「「おー!!」」」
フユの号令に、やる気を見せるワレワレヘルメット団。ほんとに、頼もしい奴らだよまったく。
セツナが刀に依存しているのが判明しました。
・慈愛の怪盗:時系列的にはもっとあとに登場するはずのワカモのご同類。セツナの刀を美術品として盗み出した。罠を使うなどキヴォトスでは珍しい戦い方。
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