今回は、決別の時。楽しんでいただけたら幸いです。
翌日の夕方。ミカを安心させるために授業に出て、放課後また絡まれないようにその足でアビドスまでやってきた私は、対策委員会の面子が先生と一緒に水族館から帰ってくるであろう時間帯に、ワレワレヘルメット団のいるいつもの廃ビルを訪れていた。フユと机を挟んで向かい合い、傍に控えているゑみの淹れた紅茶を啜る。……こいつら山海経出身のはずなのにトリニティみたいな味の紅茶を淹れるんだな。
「この間は悪かったな。巻き込むだけ巻き込んどいて何も言わずに」
「いえいえ、風紀委員長に負けたと聞いた時には肝が冷えましたがアビドスに回収されたと聞いていたので心配はしておりませんでしたとも」
そう飄々と笑顔で答えるフユ。心が広いというかなんというか……こいつは本当に、リーダーの器をしているな。
「ナイたちにも危ない橋を渡らせたのに勝てなくて悪いな」
「こちらも援軍間に合いませんでしたし、気にせんでもろて。こっちとしてもゑみさんとペペのいい訓練になりましたわ。あの二人はうちでもダントツで弱いんで」
「そうか?私はむしろ好きだぞ、あの二人の環境をとことん利用する戦法」
私もそっちが主体だからな。シンプルに強いノゾムやナイが羨ましい限りだ。
「そう褒めても紅茶しか出ませんよ?あ、お茶請けいります?」
「出るんかい。そういうとこやぞゑみさん。…それで、この学区がアビドスではなく別のどこかに権利が移っている話でしたっけ?」
「ああ。お前たち長いこと、ここにいるみたいだし何か知らないか?」
「私たちも無断でここ使ってるんでなんとも。例のカイザーコーポレーションの闇銀行を通じた依頼がきな臭いってぐらいですかね?」
「例の、か」
慈愛の怪盗から刀を取り戻す話をした際に、自分たちの依頼人を調べていたゑみさんとペペからの報告にあったカイザーコーポレーション。カイザーローンといい、
「私たちも引き続き調査しますので、なにかあったらお教えしますよ」
「助かるよ、ゑみ」
「あれだな、もう敵対する理由もないし、対策委員会と共闘するのもありだな!」
「そうだな。私からもアイツらに言って……!?」
フユの提案に頷こうとした時だった。絶え間なく響く銃声、そしていくつもの怒声が下から聞こえてきた。咄嗟にフユとゑみの顔を見る。彼女たちにとっても想定外の事が起きているらしい。すると扉が開いて、ボロボロのショウコが入ってくる。銃弾をまともに受けたのかボロボロだ。
「なんや、どうしたショウコ!なにがあった!?」
「カチコミです、今ノゾム先輩とナイ先輩が相手を……敵はアビドスの……ぐうっ」
「ショウコさん!?しっかりせい!」
「アビドス、だと?」
気を失うショウコを抱きかかえて叫ぶゑみを見ながら、私は狼狽えていた。なんでだ。なんでアビドスが、以前ならまだしも一緒に風紀委員会を蹴散らして共闘したワレワレヘルメット団を襲う?仕返し?馬鹿な、ありえない。これまで付き合ってきた私だから断言できる、アイツらはそんなことはしない。だとしたらなんで襲う?……ワレワレヘルメット団じゃない。私、か?だとするならば相手は……。
「……私が迎え撃つ。ノゾムとナイは私に任せて、フユたちは負傷者を集めてここから離脱しろ」
「いやでも、可愛い部下をやられて面子がたた……」
「総統だっていうならやるべきことはちゃんとやれ!」
「!」
あくまで徹底抗戦をしようとするフユの両肩を掴み、目を合わせる。ショウコをやられたせいか、気が動転しているらしい頭に冷静さを促す。
「部下の奴らは頭のお前に従うしかないんだぞ。お前が怒りに駆られてどうする、フユ」
「…そうやな。頭が冷えました。ゑみさん、撤退準備。みんなに伝えてくれ」
「わかりました…!」
「……行くんでしょう?ノゾムとナイのこと、任せたゾ」
ショウコを担ぎ、そう告げるフユに背を向けながら、鞘に納めた刀を掲げることで応える。任された。
「だからさぁ。セツナちゃんを出してくれれば、そこで倒れている子達みたいに痛い目に遭わなくてすむんだってば~」
「ふざけるなや。大事なお客様を差し出すと思うとるんか?」
「ここまでやられといてはいそうですかって通すはずもないやろ!」
二階まで降りると、そこは弾丸の跡が夥しい戦場だった。その中心で、高速で室内を駆け回り銃弾を縦横無尽に叩き込むノゾムとナイと、そしてその中央で盾とショットガンを構えた……ホシノがそこにいた。いやな予感は当たったか。
「いい加減、しつこいなあ!」
「ぐっ!?」
「がっ!?」
バトルライフルを構えて突き進んでいたナイの前に跳躍し、シールドバッシュを叩き込むホシノは、そのまま軽い体を生かしてシールドバッシュの反動で跳躍、飛び蹴りをノゾムに見舞って蹴り飛ばす。吹き飛ばされた二人は天井と壁に打ち付けられ、ぐったりと崩れ落ちた。倒れた二人に冷めた視線を向け、冷静に弾を込めるホシノの前に、躍り出る。
「いったい何のつもりだ、ホシノ……!」
「ああ、やっと見つけたあ。やっぱりここにいたんだね、セツナちゃん」
のほんとした口調とは裏腹に、ガシャコンとショットガンが音を鳴らして臨戦態勢であることを告げる。私は鞘に納められた刀の柄に手を添えながら、問いかけた。
「水族館はどうした。私と戦いたいだけなら、此奴らに手を出す必要はなかっただろ…!」
「その帰りだよ。こっちは急いでいるのに立ち塞がるからさあ。おじさんも手を出さざるを得ないよねえ。……さて、セツナちゃん。お願いがあるんだ」
「お願い…?」
「うん。……その刀を、手放してほしいんだ~」
のほほんといつもの声で告げられた言葉に、一瞬頭がショートした。すぐに頭を振って正気を取り戻す。
「寝言は寝て言え…!そんな冗談をわざわざ言うために来たんだとしたら笑えないぞ…!」
「冗談じゃないんだな、これが。……お願いだよ。セツナちゃんを死なせないためなんだ」
「……それ、聞いたことがあるぞ。“黒服”か。アイツの戯言に乗せられたか、ホシノ!」
瞬間、踏み込んで抜刀。ホシノの盾と刃がかち合い、火花を散らすもホシノは勢いのままに弾かれるように後退し、そのままショットガンを乱射。私は抜刀と納刀を繰り返して散弾を斬り弾きながら距離を詰め、抜刀。しかしそれは、横にした盾で刃をかち上げられて、不発に終わる。
「ちゃんと根拠があるんだよ…!」
そのままショットガンを近距離で撃たれ、盾で何度も刀を握っている手を殴られ、放しそうになるが投げ込むようにして鞘に納刀。頭上に放り投げてそれにホシノが気を取られた隙に、「ガラクタ」を引き抜いて突きを叩き込み、ホシノを殴り飛ばす。視界の端で、ボロボロのペペとレイラがノゾムとナイを回収しているのが見えた。
「ぐっ……やっぱり、言っても聞かないよねえ!どこかの誰かさんみたいだ!先輩の言うことも聞かないで…!」
「お前も私から
「ガラクタ」をしまいながら落ちてきた刀を握り、回転するように抜刀。ホシノのシールドバッシュとぶつかり、双方大きく弾かれ、私は納刀した刀を。ホシノは盾を構えて大きく踏み込んだ。
「「はああああぁああああああっ!!」」
斬撃が、打撃が。ぶつかり合い、弾かれ、フロアを斬り裂き、粉砕し、破壊の限りを尽くしながら縦横無尽に駆け巡る。私たち以外にいなくなったこの場で遠慮は無用。全力を叩き込む。そうしないと、勝てない。そう確信したから。そうしているうちに廃ビルは崩壊し、倒壊する瓦礫の雨の中でも、瓦礫を斬り、砕きながら、私たちはぶつかり合う。
「はあ、はあ、はあ……しつこいぞ」
「…はあ、はあ、この、わからずや……」
太陽が落ち切って、街灯が照らす瓦礫の山の上で。疲弊しきった状態で、ホシノの構えたショットガンから散弾が放たれる。それはあらぬ方に跳弾し、足元の瓦礫、崩れかけた天井と経由して私の手に炸裂。弾かれた刀が宙を舞い、私の鼻面すれすれを回転しながら落ちて、コンクリートの床に突き刺さる。私はそれを引き抜きながら、突きつける。
「……誰が殺されてたまるか。これは私のものだ。手放す気は、ない」
そう告げながら、倒れ伏す。限界だ。すると、ホシノは私の手から刀を奪おうとして、しかしそれでも放そうとしない私に寂しそうな顔を浮かべて、頬を掻いた。
「…そっか。なら……対策委員会の用心棒は今日限りクビだよ。もう来なくていいから。……巻き込んで、ごめんね」
「なに、を…」
刀を奪われないようにするだけでせいいっぱいな私は、ホシノがどんな顔でそれを告げて去っていったのか、終ぞ知ることはなかった。
いきなり襲撃してきたホシノとのガチバトルでした。その真意は……。
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