今回は主人公の過去編です。楽しんでいただけたら幸いです。
ホシノに倒されて、気絶していた間、夢を見た。酷く懐かしい、夢を。もちろんというべきか最初から日本刀を持っていなかった私は、何度もいじめられ、そのたびにある人に助けられた。優しい桃色の髪と純白の羽を持つ、渦を巻く様にゆっくりと回転しているヘイローが美しい人だ。トリニティの生徒会であるティーパーティーを担う生徒会長三人のうちの一人、聖園ミカだった。なんで助けてくれたのか、聞いたことがある。
「ミカ様は……なんで私を助けてくれるんですか?」
「ええー?私は頭がよくないからねー。助けたいと思ったから助けたんだよ。特に理由はないかなあ」
「……でも、あなたの立場が……」
「それなら心配いらないよ。気にしないから。それに数人が吠えたところでなにもできないだろうしね」
全員で一丸になったらさすがに困るけどねー☆と楽しげに笑うミカ様に、思わず笑いがこぼれた。
「わーお、綺麗。やっと笑ってくれた。セツナちゃんは笑顔の方が似合うぞ☆ そういえば、なんで虐められてたの?」
「……私、銃が使えないんです……」
私は度を過ぎた銃音痴について説明した。最初は真面目に聞いていたミカ様だったが、聞いているうちに、破顔していく。最終的に口元に手を添えて爆笑していた。侮蔑の目を向けられたことはあれど、笑い話の様に聞いてくれる人は、初めてだった。
「あはははは!なにそれ、どう撃っても弾が跳ね返って当たるってもうそれギャグ……お腹痛いー…」
「やっぱり……変、ですよね……?」
「ううーん。個性だと思うから何とも言えないなあ。私も殴った方が速いと思うこともあるし」
「え?」
「あは、なんでもない!でもそうだなあ……気になるなら別の武器を使ってみたら?銃だけが武器ってこともないでしょ?それこそほら、素手って手段もあるよ!」
「さすがにそれは無謀なのでは……」
ブンブンと、無駄にキレッキレのジャブでシャドーボクシングを行うミカ様に思わず苦笑いしたが、それが私のこれからの軸となった。それから、彼女と友人になった。他愛ない話をして、笑う合う関係だ。私が刀を手にしていじめっ子たちを返り討ちにしても、彼女は変わらず接してくれた。「ミカ様」呼びも禁止され、名前で呼び合う関係になったある日。珍しく思いつめた表情のミカが、言ってきたのだ。
「……かつてトリニティが追放したアリウスと、今更和解したいって思うのは、おかしいことかな?」
「え、いや……ミカらしいとは思うけど、いきなりどうしたんだ?」
「え、意図?別に政治的な利益はないっていうか……だって元々は、同じトリニティでしょ。直接自治区に行ってさ、『仲良くしよ?』って言ってみたいなって! ほら、みんなでお茶会でも開いてさ!そしたら和解して、みんな一緒に仲良くトリニティで……」
そういうミカの言葉は、楽観的と切り捨てる人もいるかもしれない。だけど、私はそんなミカに救われたのだ。彼女の意志は、尊重したかった。たとえそれが、現実にするのが難しい夢物語だと冷静な部分で感じていたとしてもだ。
「ミカがそうしたいなら私も応援するよ。でも、その時は私も連れて行ってほしい。ミカ一人じゃ危ないからな」
「もちろん!ナギちゃんやセイアちゃんを連れて行くわけにいかないから心強いよセツナちゃん!」
そうして私のアリウスへ向かうミカの同行が決まった。理由として「危ない」をつけたが、危ないどころじゃないのはわかっていた。なにせミカはティーパーティー、トリニティの生徒会だ。過去に、いくつものトリニティ学区が統合して一つの巨大な学園となったトリニティによって、統合を拒絶したために弾圧され自治区からも追放されてキヴォトスの表舞台から姿を消したのが、アリウス分校という存在だ。トリニティはもちろん、特にその生徒会であるティーパーティーであるミカが単身で向かえばどんな目に遭うかわからない。下手したらトリニティ共通の敵と呼ばれているゲヘナよりも敵意が高い可能性すらある。
ミカは、その可能性を考えていない様だった。本当に話せば仲良くできる、そう思っているのだろう。だけど私は知っている。恨みというのは根深い。例え仕返ししても、何度仕返ししても、し足りないほどに悪意が湧き出してくる。この私がその体現者だ。ミカには悪いが、そう簡単にいく未来なんて想像がつかなかった。
トリニティ学区の
「はじめまして☆誰だか知らないけど、あなたがアリウスの生徒だよね…?私は聖園ミカ。こっちは御剣セツナだよ。今日、とてもいい天気だね?すごくのどかで……」
「用件だけ言え、トリニティ」
さもないと撃つ、とでも言わんばかりの圧だ。やはり歓迎はされてないらしい。
「うわぁ……アイスブレイクとか嫌いなんだね。持ってきたティーセットは荷物になっちゃったかー。……うん、じゃあ仕方なく本題から。―――私は、あなた達アリウスと和解したい」
「和解…?そんな殺意をばら撒いてか?」
「この熱々の殺意を込めた視線のシャワーを止めてくれるならこちらも考える」
「それは無理な相談だ。武器を隠し持っている奴の言う事なんか信用できると思うか?」
そう言うアリウスの生徒は、私が銃を隠し持っていると疑っている様だった。この刀が本当に武器だとはつゆとも思ってないらしい。ミカは堂々と愛用の銃を下げているからなおさらか。
「生憎と武器はこれ一本でな。文句があるなら相手になるぞ」
「なに?
「うん。落ち着いてセツナちゃん。私は大丈夫だから。ちょっと過激な主張かもしれないけど、でも……あなた達は多分、まだ私たちを憎んでいるよね?だから私たちの助けも、連邦生徒会の助けも断って、秘蔵された自治区で孤立しているんでしょ?過去の憎悪が残っているから。私は、それがわかっていてここに来たの」
驚いた。私の危惧していたことを、ミカはちゃんと考えていた。自分が恥ずかしくなった。友人失格だ。
「でも、これを解決するには……互いの憎悪が大きすぎる……それに、積み重なった誤解も相当だろうし……まぁ、簡単じゃないよね。ナギちゃんも、セイアちゃんも、何も言わなかったけどセツナちゃんも、反対するのは当たり前だよ…」
「ミカ……私は」
「そこまで反対されて何しに来た。なにがしたい?」
そう言うアリウスの生徒が、耳に手を当てたことに気付いた。誰かと、通信している……?
「……仲良くするって、そんなに難しいのかな?お互いに少しずつ歩み寄れば、いつかは叶うものじゃない?私はそう思うの…だから、少しずつ努力しようと思って、ここに来たの」
「…その言葉が本心であると、どうやって信じろと?」
「うん…その反応も理解できるよ。だから、考えてみたの。あなた達アリウスの生徒一人をトリニティに転校させるのはどうかな?もちろん内緒で。私が後見人になれば何とかなるよ。こう見えて、私はティーパーティーだからね」
そうミカが言うと、周りの視線の殺意が膨れ上がったのを感じた。思わず反応し、抜刀し構える。……この数を相手にどこまで守り切れるかわからないが、ミカだけでもトリニティに生還させて見せる…!しかし、それを止めたのは目の前のアリウスの生徒だった。
「よせ、お前たち。マダムからの命令だ。手は出すな。…続けろ、ティーパーティー」
そう言うと、殺意が落ちていくのを感じた。……さっき連絡していたのはそのマダムってやつか。名前を出しただけで殺意を引っ込めるだなんて、何者だ…?
「よかった。マダムって人に感謝するね。それで、アリウス生が何の問題もなく、私たちの学園で仲良く過ごしながら幸せになれるということを証明するの。言わばその子が「和解の象徴」になってくれるってこと。どうかな?」
「…荒唐無稽な計画だな」
「で、でも…そんな存在がいたら、きっとセイアちゃんも、ナギちゃんも納得してくれると思うんだ!」
そのアリウスの言葉に関しては同感だった。希望的観測でしかない。百歩譲ってアリウスがその気になるとする。生徒会の残りの二人の生徒会長も納得したとする。だけど、トリニティの方が受け入れるわけがない。私は、それを知っている。慈愛に満ちたシスターフッドですら難しいだろう。
「…いいだろう。だが、私一人で決められる問題ではない。次の連絡を待ってもらうことになる」
「よかった、「和解の象徴」になってくれる……そんな子が、アリウスにはいるんだね……わかった。帰ろう、セツナちゃん」
「……ああ」
刃を納め、ミカについてきた道を引き返す。その時、嫌な視線を感じて。私は、あることを決意した。
その日の夜、私は再びアリウス分校に忍び込んでいた。あの嫌な視線の正体を探るためだ。
「どこで手に入れたか知りませんが……外の世界の異物を持つ生徒とは、面白い」
そこで私は、絶望に出会った……というところまでは覚えている。だけど、詳しいことは覚えていなかった。だけど誓ったのだ。この得体のしれない“絶望”からミカを守り抜く、そのために腕を磨くのだと。
「あ、起きたぁ?御剣…セツナちゃん」
目を覚ますと、知らない天井と、覗き込む黄色と青のオッドアイが見えた。
実はミカの友人兼アリウスとも一枚噛んでた主人公。マダムにも目を付けられている辺りだいぶ頑張らないといけない。
とまあエデン条約編はいったん置いておいてアビドス編始まります。
次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。