今回はアビドスの話。楽しんでいただけたら幸いです。
「あ、起きたぁ?御剣…セツナちゃん」
目覚めたら、知らない天井と黄色と青のオッドアイ……小鳥遊ホシノの顔がそこにあって、私はあまりの驚きに飛び起きる。
「た、小鳥遊ホシノ!?って、刀はどこだ……?」
「うへー、さすがに武器は取り上げるよー」
刀を手に取ろうとして、傍にないことに気付いて。確認すれば、ハンドガン型水鉄砲も取られている。一応鈍器になるからか。だが、見たところホシノも武装していない。体格はこちらが上だ。取り押さえることは、可能…!
「なんて、思っちゃってる?おじさん心外だなぁ」
「なっ……」
飛び掛かった瞬間に、足払いを駆けられ転倒、両手を腰に組まされて押さえつけられ、逆に取り押さえられてしまった。この女、銃がなくても強いとか反則だろ…!?
「何の騒ぎですか!?」
「ホシノ先輩、無事…?」
すると、保健室と思われる部屋の扉が開いて見たことないメガネの生徒と、シロコが入ってきた。ここは……アビドス高校か。
「私は、捕まったのか……ワレワレヘルメット団の奴らは」
「ん。貴方がやられたら降参してすぐ逃げた。一人しつこいフードのがいたけど」
「それから、私たちは貴方を捕らえたわけではありません。刀は没収させていただきましたが、拘束はしてないでしょう?」
「まあ絶賛おじさんが拘束中だけどねー」
「……なんのつもりだアビドス」
「“目覚めたようだね”」
ホシノに押さえつけられたまま睨みつけていると、再び扉が開いて、ノノミを連れたスーツを着こなした大人……先生が入ってきた。それで合点がいった。私を捕まえたのは、先生の指示か。
「見損なったぞ先生……」
「“え、いや誤解しないでね!?君に協力してもらいたかっただけで、手荒な真似をするつもりは……”」
「でも先生?彼女は強いから気絶させないと連れてこれないって言ってませんでしたぁ?」
「ん。ノノミ、それは言わない方が多分いい」
「やっぱり先生の仕業じゃないか」
「“あははは…”」
ノノミの指摘とシロコのツッコミに、明後日の方を見て乾いた笑い声を上げる先生。食えない人だな。まったく。
「それで?何の用だ。私を連れ込んだってことは話があるんだろう」
「“セツナには、アビドスのために力を貸してほしいんだ”」
「はあ?なんで……いや、先生が来ているってことはシャーレの仕事か。私にできることは刀を振るう事だけだぞ」
「“セツナの事は調べさせてもらった。最近は不登校だけど、それ以前は成績が優秀だとあったね”」
「………」
私の経歴を調べたのか。そうだ、私は一年の頃は学年一位の成績だった。銃が使えないのに成績は優秀、というのがいじめられていた理由の一つらしい。勉強するのがバカらしくなって、二年になってから授業をまともに受けなくなった。どうせ腫物みたいな扱いされるだけだしな。……そういえばアビドスには教師がいなくて、ほぼ自習で授業していると聞いたことがあるな。
「……それで?」
「私はアビドス廃校対策委員会の書記をしている奥空アヤネといいます。今、アビドスが抱えている問題を話します。どうか、力を貸してください」
アヤネと名乗ったメガネっ子が、頭を下げてくる。……話ぐらいは聞いてやるか。
ホシノが解放してくれて椅子に座り、話を聞いた。かつて繫栄したアビドス高校だったが、進む砂漠化対策のために多額の資金を投入するも事態は好転せず、膨らみ続ける借金のせいで学園の経営は逆に悪化。完済まで309年かかる9億にも上る借金をカイザーローンに、バイトなどでコツコツと返済し続けている上に、最近は今は何も価値がないはずの校舎を狙う暴力組織も出てきて、シャーレを頼ったんだとか。で、資金難を何とかするためにアイドルやら銀行強盗やら計画していたところだったらしい。……馬鹿なのか?
「お前ら……本気で言ってるのか?」
「え?私たちは本気です!アビドスは私たちの居場所で……」
「それは理解した。私が言っているのは、借金したという話だ」
「なにが言いたいのか、おじさんたちに教えてくれるかな?」
口調はふざけているが真剣な顔つきで見てくるホシノに、私はなんてことないように説明する。まさかとは思ったが、その知識もないのか?
「そもそも借金したのが間違いだというのはわかっているな?資金が足りなかったのはいい、だが捻出できなかったのはアビドスの落ち度だ」
「でも、潤沢な資金があった頃でもどうしようもなくて……」
「大金ならあるだろ。宝が、アビドス中に」
「え……?」
呆けるアビドスを尻目に、私は立ち上がって、指を向ける。砂に覆われた市街地が見えた。
「あそこに埋蔵金でも…?」
「違う。アビドス中に存在する宝……それは「砂」だ。トリニティで習ったが、「砂」はガラスに加工できる。建物や道路のコンクリートにも、浄水場のろ過技術や電子回路のシリコン成分にもなるのが「砂」だ。その原材料がゴロゴロ転がってるんだ……そんな悪徳金融に借金しなくても、大金なんてすぐ手に入ったはずだ」
「「「「!」」」」
「“……それは、目から鱗だな”」
おい先生。大人ならこれぐらいの常識は知っておいてくれ。アビドスに至っては寝耳に水だとでも言うように目を見開いている。ホシノですら目を丸くしている。……ここはろくな授業を受けれないという話だったが、ここまでだったか。
「さすがに加工するには然るべき会社が必要になるだろうが、そこはシャーレの権限で探すなりすればいい。このキヴォトスでは日夜行われている銃撃戦でガラスや建物、道路なんてものはすぐ壊れるんだ。需要なんていくらでもある。9億ぐらい、すぐ返済できるさ」
「本当、なの?それは、本当に…!?」
ホシノが、ふざけた口調を引っ込めて縋るように私の腕を掴んで顔を近づける。私はそれを押し退けながら、続けた。
「ああ。そのカイザーローンがまともな銀行だったらこれぐらいの資金源ぐらいすぐ見抜いているはずだし、わかってて黙ってたんだろう。理由はわからないが、アビドスを手に入れるためってところか。案外、ヘルメット団の奴らを差し向けているのもカイザーローンかもな」
「ん…今話したことが嘘じゃないって根拠は」
「ない。だが、砂の運用については調べればわかるようなことだぞ」
学区全域を覆う砂を利用すれば、9億稼ぐのも夢ではないはずだ。まあそのための人手も馬鹿にならないだろうが。
「じゃあ、カイザーローンの目的はその大量の砂…?」
「かもしれないな。断言はできないが」
というかカイザーローンって悪名高いカイザーコーポレーションが運営する高利金融業者の名前じゃなかったか?まあそれぐらいはこいつらもわかっているか。
「少しはは役に立てたか?なら刀を返してくれ。代えがきかない大事なものなんだ」
「うへー、少しどころじゃないよ……シロコちゃん、お願い」
「ん。わかった」
ホシノに言われてシロコが出ていく。……そういえば、見た顔がいないな。
「そういえばセリカってやつはどうした?いないのか?」
「セリカちゃんは今バイト中なんです。すぐ伝えてあげないと…!」
「セリカちゃんは柴関ラーメンってところで働いてるんですよー。これから食べに行くところだったんですけど、セツナちゃんも一緒にいきませんか?奢りますよー」
「ちゃん付けはやめてくれ……まあ、お言葉に甘えさせてもらうが」
ラーメンか。あんまり食べないからちょっと楽しみだな。
「ところで、アビドスの用心棒になるつもりはないかなぁ。セツナちゃんほど強ければ百人力なんだけど」
「寝言は寝て言え。二回も私を退けているお前がいるだろ。小鳥遊ホシノ。先生もいるなら問題ないだろう」
「“それは買いかぶりすぎだよ”」
そんな会話をしながら、アビドスの校舎を後にする。……私にはミカがいるが、こんな雰囲気も、悪くない。
あれだけ砂があれば資源としては使えるはずだよなあって思ったのは僕だけじゃないはず。
地味に優等生だったことが判明。太刀筋が妙に合理的なのはその名残。次回、柴関ラーメン。つまり彼女たちとの邂逅。
次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。