今回は紫関ラーメンでの一幕。楽しんでいただけたら幸いです。
対策委員会に連れられ、アビドスの市街地にあるちょっとした店舗、柴関ラーメンにやってきた私達。バイト中だったセリカが応対してきた。
「いらっしゃいませ……って、御剣セツナ。起きたのね」
「ご挨拶だな。客だぞ。愛想よくしたらどうだ」
「っ……こちらへどうぞ」
怒りそうになるセリカだったが、接客の方を優先したのかこめかみをピクピクさせながら私たちをテーブル席に案内する。
「ご注文は?」
「紫関ラーメン6人前」
「あと、餃子もくれ」
「かしこまりました…」
注文を受け取って戻ろうとしたセリカが、少し時間をおいて人数分のラーメンを器用に運んで持ってきた。すごいバランス感覚だ。
「そうだ、セリカちゃん。借金のこと、どうにかできるかもしれないよ?」
「え?」
ラーメンを置いて、戻ろうとしていたセリカがホシノの言葉に立ち止まって呆ける。砂=宝だということをアヤネが説明、会計係らしいセリカの脳内で計算が行われているのか、どんどん顔が面白いように変わっていく。
「え、え、え、え?」
「セツナちゃんが教えてくれたおかげだよぉ。お礼におじさんが奢っちゃうよ~」
「いい。金ならある。私だけサイドメニュー頼んでいるし、借金している奴らから奢られるわけにいかない」
「そう言わずに~」
奢る奢らない論争をホシノと繰り広げながらラーメンを口にする。580円にしては量も多いし、美味い。餃子も皮がパリパリだ。ここの大将は良い腕してるな、と思いながら厨房を見ていると、キヴォトスではそう珍しくない柴犬の人だった。あの可愛さで渋い声してるとは、人気ありそう。
「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
「あ、あの……こ、ここで一番安いメニューって、おいくらですか…?」
「ん?」
餃子の美味さに舌鼓を打っていると、入り口からセリカと知らない声が聞こえて、気になって振り返る。明かに気弱そうな、恐らくゲヘナの生徒がそこにいた。私は別に他のトリニティと違ってゲヘナに敵意は抱いてないが、アビドスだと珍しいんじゃないか?
「安いのは580円の紫関ラーメンです。看板メニューなので美味しいですよ」
「あ、ありがとうございます……」
聞くなり引っ込んでいくゲヘナ生に、外の気配を探る。全部で四人。なんか弱ってる。腹が減ってるのか?……ちょっと思うところがあったので、お手洗いに行くついでに厨房の柴犬の大将に話しかける。
「……大将。ちょっといいか?」
「おう。柴って呼んでくれ。どうしたんだい?ホシノちゃんたちの友達なんだろ?あんた」
「友達……友達?」
「おっ?違ったかい?」
「……私とあいつらは、友達……なのか?」
「い、いや俺に聞かれても困るぜ」
友達……友達、か。そう思って、いいのか……?私にミカ以外の友達ができて、いいのか…?悶々としてしまうが、ホシノの視線を感じてハッとなる。そんなことを考えている場合じゃなかった。
「さっきのゲヘナ生も合わせて四人いる。俺が金を払うから大盛りを出してやってくれ。多分、四人で一人前を食べるつもりだからな。あと、ホシノが奢るつもり満々だから私の金で払っといてくれ」
言いながら、クレジットカードを渡す。わざわざ安いものを聞いて、さらに弱っているところからろくなものも食べれないぐらい金がないと見た。ホシノも強がっているが、この人数の食費を出すのはきついだろう。先生も出そうとするだろうが、強制的に借りを作っておくのも悪くない。
「いいのかい?そんなことしなくても、四人前の特大盛り一つぐらいなら俺が奢ってやるぜ?」
「いや、どうせ使い道がろくにない。頼んだぞ、柴大将」
そう言い残してお手洗いに行く振りだけして、すぐ席に戻ってラーメンを啜る。本当に美味いな、また個人的に来よう。予想通り、四人のゲヘナ生が入ってきてなけなしの600円を払おうとしていたが、柴大将が四人前大盛りを出したのだが、そんなお金はないと遠慮しようとしていた。……そうか、出どころのわからない金には手を付けないのは当たり前か。しょうがないので、声をかける。
「それは私の奢りだ。さっさと喰え。麵が伸びる。美味いぞ」
「え、トリニティ……?私達、ゲヘナよ?」
「だからどうした。腹をすかせている奴に奢るのはなにかおかしいか?」
「え、いや、奢ってもらうのは気が引けるというか……」
「アルちゃん、せっかくだしいただこうよ~」
「アル様はともかく、私なんかが、いいんでしょうか…?」
「…刀を持ったトリニティ?もしかして……いや、今気にすることじゃないか。これを逃したらいつ食べれるかわからないよ。社長」
リーダー格と思われる赤い髪で上着を羽織っている目つきの鋭い女に、残りの三人が説得してる。本当にお腹空いてるんだろうな。
「そ、それもそうね!ご厚意に甘えて、ありがたくいただくとするわ!でも覚えておいて!私たち、便利屋
「気にしないで食え。気まぐれだから忘れていいぞ」
いやほんとに。気にしないでほしい。恥ずかしくなってきたから。気の迷いなんだって本当に。視線を前に戻すと、アビドスの連中がセリカ含めてにやにやと笑みを浮かべていた。
「……なんだよ」
「セツナちゃんは優しいねえ。おじさんもほんわかしちゃったよぉ」
「“セツナはいい子だね”」
「ん。チャーシュー食べる?」
「メンマもありますよ!」
「特別に煮卵もあげちゃいます!」
「やーめーろー!?」
トッピングを次々乗せてくるシロコたちに怒鳴りながら餃子を頬張る。美味いから、もうどうでもいいか!
その後、おどおどしていたゲヘナ生、ハルカが「お金が無くて…」と言い出して、そのことに対策委員会が反応。お金が無いのは罪じゃない!として意気投合することとなった。
「今回は刀の嬢ちゃんが奢ってやったが、金は天下の回り物。お嬢ちゃんたち、学生だろ?それでも小銭をかき集めて食べに来てくれたんだ、嬉しいじゃねえか」
とは柴大将の談。先生とは別ベクトルで大人だな。尊敬すべき人だ。
「でも、本当に美味しいわ……今度は自分たちのお金で払って食べたいわね」
「でしょ、でしょ?此処のラーメンは最高なんです~」
「わかるわ…。いろんなところでいろんなものを食べて来たけど、このレベルのラーメンは中々お目にかかれないもの……」
「それは同感だな」
トリニティ、ミレニアム、ゲヘナ、百鬼夜行、山海経、レッドウィンター……いろんなところに行ったが、このレベルは中々ないと断言できる。
「ところで、あなた名前は?トリニティみたいだけど、なんでここに…?」
「名乗る程の者じゃないさ。帰るぞ、ホシノ」
「え、もしかして用心棒になってくれるの~?」
「美味いものを紹介してくれた分ぐらいは働いてやる」
アルの問いかけを受け流し、バイトが終わったセリカも含めた対策委員会を引き連れて、夕暮れの街並みに出る。便利屋68とも挨拶を交わしてアビドス高校への帰路について、そう言えばと思い出す。
「……用心棒をやるにしても、ワレワレヘルメット団に断りを入れてからでいいか?一応あいつらお前たちの敵だし、世話になってるから一言言わないとな。それに夜も遅い。もう帰らないと」
「それぐらいなら大丈夫だよ~。逃げないんだろうなってわかったしねえ」
「じゃ、また明日な」
そう言って私は対策委員会と別れ、私はワレワレヘルメット団のいるであろういつもの廃ビルに向かうのだった。
本日も刀を振るえませんでした、とさ。気を抜いたら先生が空気になりかねない問題どうにかしなければ……。
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