無双ゲーの無双される側に転生したので、ネームド達を避けつつ生きていき…たかったなぁ? 作:ムクロウ
純粋な鬼と鬼人、この間には絶対的な壁がある。
まず身体能力、
俺は
本来鬼人の力は鬼よりも数段落ちる。
次に生殖能力
純粋な鬼は一部の魔物系としか子供を作れないが、
鬼人は無差別と言っていいほど幅が広い。
そして衝動
純粋な鬼にとって食人はあくまで欲であり、
溜めすぎたからといって暴走したりはしない。
だが鬼人は違う。
鬼人になった人間には、
人としての自分と鬼としての自分で
異なる人格を持つことになる。
鬼としての自分に寄り過ぎると、
その人格に体を乗っ取られ、暴走する。
さらに言えば
鬼の人格と便宜上呼んでいるが
正確には魔物としての人格であり、
暴走した時どんな姿になるのかは
個人の資質や能力、
そして悪感情の量によって決まる。
俺の鬼としての能力とは
また別の力を使う可能性が高い。
さて、俺は転生者だ。
食った薬は
さらには"鳴神"の影響で
若干法則への干渉能力まで取得している。
そして悪感情は…
…この話は止そう。
とにかく
そんな属性モリモリ人間が魔物になれば、
どうなるかなんて分かりきってる。
俺はそれを黙って封じ込めた。
話したらアイツらはきっと罪悪感を感じてしまう。
だから1人でどうにかしようとした。
…限界が訪れる前には
決着をつけておく予定だったんだがな…
………………
「うぐぅぁ…グオォォ…がぁぐ…ギギギ…」
体が崩れる。
もう意識を保っていられない。
「っあ…」
夜霜丸を取り落とす、
拠り所を失った精神が急速に崩壊する。
「…ヒリュウ!?」
…最悪だ。このタイミングで見つかった。
「何でこんな…っ!
わ、私知らなくて…!」
いい、いいんだ。
だから…
「逃ゲ…ろ…」
「っ…!?」
「さっサと…二ゲろ!」
「キャッ!?」
渾身の力で夜霜丸を足場に飛び退きつつ、
シオンの方向に夜霜丸を飛ばす。
シオンは驚きつつも受け止める。
これで不安要素はなくなった。
「アぁ、終わりか」
今のがトドメになった。
意識が…落ち…
「…カカカッ」
………………
ヒリュウの罅割れが広がり砕け散る様子を、
私はただ見ている事しか出来なかった。
見つけた時、
ヒリュウは森の中で木にもたれ掛かり、
荒い息を吐いていた。
体の左半分は既にドス黒い*1何かが剥き出しで、
残っている部分もどんどん剥がれ落ちていく。
「…ヒリュウ!」
私がそう呼びかけると、
彼はこちらに視線を向けた。
「何でこんな…っ!
わ、私知らなくて…!」
今まで見たことがない状況と、
明らかに危機に陥っている愛しい人を見て
気が動転したとは言え、
どうにか助けようと手を伸ばした時
「逃ゲ…ろ…」
「っ…!?」
彼はそれを拒絶した。
イントネーションがおかしくなりつつあっても
拒絶の感情だけは強く出ていた。
呆然とした私に
「さっサと…ニゲろ!」
「キャッ!?」
あろう事か彼は刀を蹴り渡した。
とんでもないスピードで動いている。
ツバキの言った通り、
既にほとんど魔物化してるのだろう。
鞘がついていたから怪我は無かったが、
彼がこの状況で刀を手放したことの方が重要だ。
それはつまり…
「アぁ、終わりか」
彼が、既に諦めてしまったことを意味するから。
「待っ…」
ヒリュウが砕け散る。
ヒリュウの形をしたドス黒い何かが残る。
それが少しだけ大きくなり、
ヒリュウと同じサイズになる。
「何…あれ…」
一目見ただけで分かる。
アレには、
即座に分身と入れ替わる魔法を使い、
本体で対峙する。
「ハッ…ハッ…!」
冷や汗か止まらない。
動悸が激しい。
それを見るだけで、精神が削られていく。
「…」
そして、それが目を開く。
それが二つずつ存在する重眼。
白目部分はドス黒いままで、
明らかに人ではないことが分かる。
一つ一つの瞳は蛇目になっており、
獲物を求めてギョロギョロと蠢く。
それを見た時、ふと思い出した。
ヒリュウとツバキはお互いに
髪色に赤い部分があるが、明らかに違う色だった。
ツバキの椿の花のような明るく優しい赤に対して
ヒリュウの赤は血にも似た仄暗い獰猛な赤だ。
その根本は、きっとコイツなんだろう。
「いた!シオン!何…が…」
ツバキも駆けつけたらしい。
本体で戦闘状態の私を見て声を荒げたが、
アレを見て即座に言葉を失う。
蠢いていた瞳がこちらを捉える。
次の瞬間、世界から色が無くなった。
「「っ…!」」
正確には、そう感じるほどの
悍ましい殺気。
息がさらに荒く、鼓動は苦しいほど早くなる。
段々と、ドス黒い部分が無くなっていく。
肌は生気を感じないほどに白く
服は喪服にも似た真っ黒な袴
髪だけはドス黒いままだが
長さは腰辺りにまで伸びている
そして口を開く。
唇がなく、
口の造形自体がギザギザとして牙のようだ。
相手を噛み砕く、そのことだけを考えた形。
口の中は漆黒で、何も見えない。
「…カカカッ」
それは、歪んだ声で、愉悦を滲ませて嗤った。
………………
アタシが異変を察知して駆けつけた時には、
ヒリュウはソレに変わってしまっていた。
明らかな人外、
見るだけで精神を削られる程の存在。
こんなものを、彼は内側に飼っていたのか
ならば、あのイカれようも納得できる。
…あるいは、このレベルでイカれているからこそ
こんなバケモノが生まれたのかもしれない。
ヒリュウはアタシ達を救ってくれた。
その時彼は、何を思っていたのだろう。
自分が危機的状況の時に笑い合っていた、
愚かなアタシ達に
その答えは、きっと
「…カカカッ」
この、嘲りなのだろう。
………………
「誰…なの…アナタ…」
声を振り絞って問いかける。
それがこちらに意識を向けるだけで
命の灯火が小さくなる感覚がする。
明らかに鬼ではない。
鬼の証である角がどこにも見当たらない。
かと言ってこんなバケモノは
この世界に存在しない。
というか、
どんな世界でも存在してはいけないだろう。
「オレガ誰カ…ネェ?」
歪んだ声で嗤いながら顎に手を当てる何か。
「ソモソモオレガココマデ明確ニ外ニ出タノハ
初メテデネ。ナンテ言ウベキダ…?
コノ世界デノ名前ハ…ヒリュウダッタカナ?」
「嘘よ!貴方はヒリュウじゃない!」
思わず声を荒げる。
こんな化け物と彼が同じはずがない。
「オイオイ酷イナ、オレダッテ傷ツクンダゼ?
意識ガ明確ニナッタノハ今日ガ初ダカラ
生マレタテトモ言エルッテノニ」
肩をすくませるジェスチャーをしながら
まるで気にしていない声で嗤う何か。
「第一、ダ。
オレ達ノ事ヲ何一ツ知ラネェ馬鹿ガ
理解者ヅラシテンジャネェヨ」
「それ…は…」
図星だった。私は彼のことを何も知らない。
彼は元帝国のクローン兵だ。
だが、それしか知らない。
どんな人生を歩んできたのかも、
どんな考えで動いているのかも知らない。
まだ会って3週間も経っていない。
そう思うことにしていた。
彼が自分のことを、
明らかに語りたがらない事に目を瞑る為に
「マァイイサ、呼ビ分ケテクレタホウガ
コッチトシテモ都合ガ良イシナ」
…呆れたようなセリフに、ヒリュウの姿がダブる。
「オレノ呼ビ名カ…
第六天魔王?天魔?波旬?
テュフォン、カオス、アザトース。
アンリ・マユ
酒呑童子トカ呼バレテタナ。
世界ニヨッテ概念モ違ウシ…
ドレガイイノカネ?」
次々と出てくる知らない単語に
思わず目を白黒させる。
「ダガマァ、
ココハ一番気ニ入ッテル名ヲ名乗ロウ」
何かは自分を指さす
「オレノ名ハ
最悪ニシテ最凶ノ存在、
ナンテ大仰ナ表現デ恐レラレタ者ダ」
「空…亡…」
その名は、この存在の名称としてすんなりと
受け入れられた。
このバケモノにその名を付けた人物を
心の底から賞賛したい。
…生きていれば、だけれど
「サテ、名前モ名乗ッタコトダシ…」
空亡は、こちらに右手を向ける。
「何を…」
「トリアエズ腹拵エトイコウ」
次の瞬間
「は…?」
私の脇腹は消し飛んでいた。
「あ、がぁぁっ!?」
「シオンッ…!?」
「ン〜…ナカナカダナ。悪クナイ味ダ」
腸が飛び出そうになるのを抑えながら
ツバキの悲鳴を聞きつつ空亡を見れば、
いつの間にか右手は大きな顎に変形しており、
私の肉体を咀嚼している。
「ぐっ…!」
水魔法で体を再生しながら考える。
全く見えなかった。
変形の動作から咀嚼まで何も。
つまりそれだけ隔絶とした速度差がある。
「野郎っ!"裏燕"!」
「ツバキ!ダメ!」
静止も虚しく裏拳を放つツバキ。
それを
「ンァ?」
顔面で受けるも、微動だにしない空亡。
「ナンダ?アソビテェノカ?」
「ああそうだよ!アタシとしばらく遊んで」
「ジャアオマエボールナ」
「ガッ!?」
言葉の途中で横合いに吹き飛ぶツバキ。
見れば、空亡は既に脚を振り切った状態だ。
「長持チシロヨ?」
「ブッ!?グッ!?ギッ!?」
空中で何回も軌道を変えながら、
ボロボロになっていくツバキ。
空亡の姿は見えない。
「っ
どうにかツバキから意識を逸らす為に、
手数重視の魔法を放つ。
「チャチナ手品ダナ」
「嘘でしょ…」
それもまた、
空亡がこちらを一瞥した瞬間消える。
幸いツバキは解放され、
地面でどうにか体を再生させている。
だが、勝ち筋が見えない。
力量差が歴然過ぎて、戦意が保てない。
力が抜けて、座り込んでしまう。
ふと思い出すのは、最初にヒリュウに会った日。
あの時のヒリュウと私には、
このレベルの戦力差があった。
彼の異常性を再認識する。
この状況で笑えるのだ。
確かに狂ってるとしか言えないだろう。
絶望した表情で、俯く。
「モウ終ワリカ?」
言葉を返す氣力もない。
「…ナァ、ナンデアイツガ
命ガケデ人助ケヲスルノカ知ッテルカ?」
空亡の言葉に顔を上げる。
バケモノそのものの風貌には、
どこか憐れむような感情が浮かんでいる。
多分、この状況を味あわせたかったんだろう。
ヒリュウと同じ状況を
「アイツハサ、
自分ガシテ欲シカッタ事ヲシテルンダヨ」
「して、欲しかったこと?」
どういうことだろう。
何か私に会う前に命の危機が?
クローン兵だからこその感性?
「…始マリハ唯ノイジメダッタ。
何ノ変哲モナイイジメデ、追イ詰メラレテ自殺。
ドコニデモアル事件ダ」
…急に何の話を?
「二回目ハ悲惨ダッタ。
英雄ニ憧レタ少年ハ、
救ッテ来タ全テに裏切ラレ処刑サレタ」
…だから何の話を
「三回目ハ残酷ダッタ。
生マレテスグノ竜ハ、
野生ノ狼ニ集ラレテ苦シミナガラ喰ワレタ」
…まさか
「四度目は良かッタ。
みンナのヒーローは大勢ヲ救イ、
多くノ仲間ヲ救ッて幸せに生涯を終エた」
…それは
「五度目は絶望だった。
奴隷の少女はひたすらに嬲られ、
貶められ、穢され、
世界の全てを呪いながら衰弱死した」
…その話は
「六度目において、彼は世界を滅ぼし
魔王と呼ばれた」
いつ間にか声の歪みは無くなっている。
おそらく馴染んで来ているのだろう。
だが、そんなことはどうでもいい。
「楽しいことをすることにした。
楽しくない人生に幸福は無かったからだ。
極限状態が嬉しかった。
その間は生きている事を忘れられたから。
強くなることにした。
弱くて良かったことは何も無かったからだ。
助けを求めることをやめた。
都合の良いヒーローなんていなかったから」
だからあの時、彼は拒絶した。
期待して裏切られるのを恐れたから。
「それでも、人を助けることはやめられなかった。
あの時誰かが救ってくれていれば、
そう思わないことは無かったから。
かつての自分と同じ人を
助けないという選択肢が取れるほど、
善性を捨てきれなかったから」
酷く優しい、残酷なお話。
どこまでも救われない誰かのお話。
「何十何百何千回と過ごすうちに、
とうとう彼は前回の世界の仮想を
現実にした世界に生まれ変わった」
…それが
「それが、お前達のいう、
ヒリュウという男が出来上がるまでの物語だ」
私達の知らない、ヒリュウのお話。
「まぁこれは本人も知らない話だ。
アイツが保持出来るのは
前回までの記憶だけだからな。
ただ、魂が覚えている。
それは無意識に精神の方向性を決定してる。
何度も生まれ変わる内に溜め込んだ魂の淀み。
どんな人間よりも大きい心の闇。
それがオレの正体だ」
…それなら、この強さに納得もいく。
勝てるわけがないだろう。
私の前に今立っているのは、
何千人分以上の絶望の具現化だ。
「見ててツライんだよ。
全然報われてねぇ癖に、
周りの人間ばっかり幸せにして
自分は真に幸せにはならない。
好き勝手に生きるといいながら、
結局お人好しは止められない。
それならオレが代わりに好き勝手に生きて
存分に幸せにしてやろうと、
そうするのはそんなにもおかしなことかよ?」
否定できない。
この話をされたら、
ヒリュウにその権利はあるし、
同一人物に近い空亡にも
その権利はあると思えてしまう。
「だからまぁ、死ねや」
そうして、死の照準が定められる。
私は、それを黙って受け入れる。
助けて貰ったのだ。
せめて少しくらい、
報われて欲しいと願うのは
私だけではないだろう。
でも、少しだけワガママを言うなら、
もう一度、話を
「じゃあな」
ーーふざけてんのか?
…甲高い音が響く。
空亡の顔の右半分に亀裂が走り、
その中から金色の瞳が覗く。
「…おいおい、マジかよ。
まだ起きてたのかよ」
世界を呪い、人に絶望し、
希望はなく、意義など等に失った。
ヒーローは、それでも救いにやって来る。