義務的に事務的に、乗り気なのか何なのかよくわからないまま求めてくる女がいっちゃんエロいんだから

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セックスしないと出られない部屋VS童貞の俺VSアンドロイド少女

「ん……」

 

 やべえ、飲みすぎた。

 目覚めてから最初に思ったのはそれだった。頭がガンガンと痛いし、何なら気持ち悪い。出来ることなら脳と胃と肝臓を水洗いしたい。

 酒に飲まれて昨日の記憶すらないし、何ならここ、知らない部屋なんだけど? 

 

「ホテル……ではないよな?」

 

 それにしては殺風景すぎる。六畳ほどある部屋には、ベッド以外の家具・雑貨がひとつもなく、天井も床も壁紙も、桃色一色で統一されていて、なんだか気持ち悪い。胃の中のムカムカが増す。

 洗面所と浴室はあるようだけれど、不思議なことに、他の部屋に繋がる出入口が見当たらない。ベッドから見て左の壁に小さな小窓があるが、小物ならまだしも、人が通れるようなスペースはない。

 何なんだ一体、と頭を掻いていると、隣からウィーン、と機械的な起動音が聞こえた。布団がゆっくりと盛り上がってくる。

 

「充電完了。おはようございます、マスター」

 

「うおおおお!?!?」

 

 布団の中から現れたのは女の子だった。人形のように整った仏頂面、作り物じみた銀の長髪、極めつけに片腕がないという恐ろしい状態の美少女だった。

 何より一番恐ろしいのは──

 

「……困惑。何故、驚いているのですか?」

 

 彼女が、全裸であることだった。布団が捲れ上がると同時に、白い鎖骨が、主張しすぎないまでもたしかに存在感を表す胸、臍まできっちり見えてしまい、咄嗟に目を覆う。

 

「ふ、服! 服はどうしたんですか!?」

 

「……? 衣類は不要、と判断致しましたが」

 

「いやどう考えても必要でしょう!」

 

 と返したところでようやく、己自身も全裸であることに気づき、動揺が増す。

 

 

「ってかここは!? あとあなたは誰ですか!? ま、まさか一夜の過ちが……!?!?」

 

『やっとお目覚めか』

 

 スピーカーから声が聞こえ、壁の中心にあった大きなモニターが点灯し、そこに女が映った。

 手入れのなされていないボサボサの長髪、分厚い度の入った眼鏡、白衣の上からでもわかる痩せぎすの身体に整った顔立ちを崩す分厚い隈。

 彼女は、俺の知り合いのマッドサイエンティストだった。

 

「な……! これはお前の仕業か、どういうことだよ!?」

 

『どういうことも何も……ああ、酔っていたから覚えていないのか。これは、キミが望んだ状況だよ?』

 

「は?」

 

 重い頭を酷使して、彼女の言葉を反芻し、昨日の出来事を思い返す。

 ああ、そうだ。たしか昨夜はコイツと飲んでいて、軽い近況報告の後にいつもの愚痴が始まって──

 

 

 *

 

 

『あ~~~彼女ほしい』

 

『またそれか。よくもまあ飽きずに言い続けられるね』

 

『いやだって欲しいんだもん! 別に仕事もプライベートも充実してるからいいけどさあ、やっぱりこう……人肌の温もりが……』

 

『ふむ。私じゃ駄目なのかい?』

 

『お前、別に彼氏が欲しいとか俺が好きとかそういう訳じゃないだろ』

 

『そうだね。キミに好感はあるが、色恋については経験としての興味がある程度だ』

 

『だろ!? それは違うんだよなあ……』

 

『キミは恋人を作って何がしたいんだ?』

 

『え? そりゃもう、一緒に御飯を食べたり……遊びに行ったり……湖畔で愛を語り合ったり……あと……あと…………』

 

『あと?』

 

『セ…………ックスとか…………?』

 

『なるほど。してみるかい?』

 

『え!?!?!? いやでもお前は大事な友達っていうかそういう目で見れないっていうかそりゃ嫌いじゃないしむしろ好きなんだけどそんなの俺自身が許せないっていうかなんていうか……』

 

『面倒だね』

 

『お前自身が俺のことをちゃんと好きでいてくれてたりとかあとセックスせざるを得ないような状況にあるとかなら話は違うんだけど……』

 

『とても面倒だね……あと、セックスせざるを得ない状況ってなんだい?』

 

『なんだろう……無人島に二人で漂着するとか?』

 

『ああ、そうしたら種を残そうという本能で盛り出すかもしれないね』

 

『だろ!? あとは──セックスしないと出られない部屋とか』

 

『なんだい、その非合理的で非機能的かつ非現実的な部屋は』

 

『俺もよくわかんないんだけどさあ……なんか、セックスしないと出られないらしいんだよな。なんか色んな漫画とかのキャラでパロディされてた』

 

『なるほど。閉鎖環境で条件を設定することで、それを口実に行為に及ぶことができる、というわけか』

 

『ああ!』

 

『実際にやってみるかい?』

 

『ああ!』

 

 

 *

 

 

「ああっ!!」

 

『ようやく思い出したようだね』

 

「え、じゃあここがセックスしないと出られない部屋!?」

 

『そうだよ。作るのに七時間四十九分もかかってしまった』

 

「いやはえーよ!」

 

 一晩かからず完成してんじゃん。流石に実力だけは確かだな。

 

「……で、なんでお前がいないんだよ。あとこの子は誰なんだよ、可哀想すぎるだろ」

 

『別にキミ、相手は誰でもいいんだろう? その子は私が作ったアンドロイド・マキナだ』

 

「あ……アンドロイド!?」

 

 呼ばれて、アンドロイド──マキナは、恭しくお辞儀をした。

 たしかに言われてみると、整った顔立ちはCGみたいな作り物に見えるし、身体の方だってそうだ。片腕がないが、その断面は普通にメカメカしい。いわゆる不気味の谷みたいなものを、感じないでもなかった。

 

「な、なんでアンドロイド?」

 

『それは当然、実験のためさ。昨日私は、キミの話を聞いて思ったんだ──そもそも、セックスとは何ぞや? と。生殖行為であることは間違いないだろう。だが、それなら避妊した上での挿入はセックスではないのか? 挿入したらセックスしたと見做していいのか、抽挿行為を繰り返したらセックスなのか、絶頂に至らずに終わった場合は? その答えを暴くべく、キミたちにはこの部屋に入ってもらった』

 

「え……でも、アンドロイドなんだよな……?」

 

『そこも含めての実験だよ。アンドロイドでもセックスはできるのか? それを、この部屋のAIに判断してもらう。勿論雰囲気や空調も、AIが最善の形に整えてくれる』

 

 返事をするようにぶおおお、とエアコンが風を吐き、照明がチカチカと明滅した。サンキューハザードかよ。

 

『ご飯などはそこの小窓から給仕される。こう見られていては勃つものも勃たないだろう、あとはごゆっくり。早めに出られることを祈っているよ』

 

「え、マジでセックスするまで開かねえの!?」

 

 返答を待つことなく、モニターの電源は消えた。後に残されたのは、俺とマキナだけ。

 

「…………」

 

「…………」

 

 マキナは何も言わない。俺は俺で、何も言えない。というかなんて言えばいいのかわからない。いくら相手がアンドロイドとはいえ、俺は童貞なので。

 

「と、とりあえずシャワーでも浴びてこようかな。昨日そのまま寝たっぽいし」

 

 気まずい雰囲気から逃げるように浴室に向かい、とりあえず熱いシャワーを浴びて落ち着く。……いや、全然落ち着かない。

 

 え? セックス? これから? 

 

「失礼致します。お背中お流しいたします」

 

「ああ、ご丁寧にどうも……は?」

 

 押し戸が開く音とともに、部屋のひんやりした空気と、確かな気配が浴室内に侵入してくる。それは俺の背後で、ピッタリと、ほとんどゼロ距離で停止した。

 

「失礼致します」

 

 俺が固まっている間に、何かを泡立てる音が響く。

 背中にひんやりとした柔らかな感触。上下にゴシゴシと動かされたことで、それが彼女の手であることに気づく。

 背中の汚れを落とすだけでなく、適度に力を加えてマッサージもしてくれているようで、普通に心地よかった。

 異常な状況に適応し落ち着いたのも束の間、彼女の手が別の場所に伸びる。

 

「ひゃっ!?」

 

「疑問。立ってませんね」

 

「や、やめてくださいっ!」

 

 手が上下に動きかけたことにビビって、思わず生娘みたいな反応をしてしまった。

 

「困惑。何故拒むのですか?」

 

「いや、なんでったってそれは──」

 

 それは────何故拒むのだろう? 

 積極的な女の子との身体的接触。そんなの、望んでいたモノであるはずだった。

 見た目が変わらないとはいえ、相手がアンドロイドだから? いや、それは違う。別にロボ娘は嫌いじゃない。

 だとしたら──

 

「当機に魅力がない、という解釈でよろしいですか? それでしたら外装の付け替えも視野に入れますが」

 

「い、いやそんなことは……! ほら、童貞って肝心な時に勃たないって言うし、それかも」

 

「成程。では、準備ができましたら教えてください」

 

 ゲームのNPCみたいなことを言って、アンドロイドは停止した。

 顔も身体も人間のそれに見えるが、命令がないが故の動きのない様子、固まった表情を見ていると、やはり不気味の谷じみたものを感じる。

 

「あー、っと……そもそもの話なんだけど、マキナさんは、なんでそんなに俺と……?」

 

「回答。そういう命令ですので」

 

「まあそりゃそうか……」

 

 アンドロイドだもんな。

 しかし、アンドロイドとはいえ、卑猥な命令に従わされている女の子を抱くというのは、絵面的にどうなんだ……? 

 

「あの……ちょっとまだしばらく厳しそうなんで、一旦お話させて貰ってもいいですか……?」

 

「はい、可能です」

 

 一旦浴室を出て、身体を拭いて、唯一この部屋にあった衣類であるバスローブを纏って、ベッドの上に向かい合って座る。

 

「えっと……今更なんだけど、自己紹介というか、マキナさんについて聞きたいんだけど。あ、俺は」

 

「マスターのことは昨日プログラムしていただいているので、結構でございます」

 

「あ、さいですか……」

 

「私は博士に造られたアンドロイド、型番『MC-1NA』であり、製造理念は『人間社会のよりよい隣人の作成』です」

 

「なるほど……」

 

 よりよい隣人に性奉仕を強要させる辺り、早くもコンセプトの破綻感は否めなかったが、あのマッドサイエンティストの中では都合のいい人間のことを『よりよい隣人』と定義しているのかもしれないので、何も言えなかった。

 その場合、きっと俺もそうなので。

 

「いずれは感情の獲得を期待されていますが、現在は何よりも創造者である博士、そして人間の皆様の命令に従うのが優先事項と判断しております──人間的に言えば、博士は『親』皆様は『隣人』であり、それらの教えに従うのが宗教的・学問的観点から見て正しく、また最終目標である『感情の獲得』にもっとも効率的である、と捉えています」

 

「まあ……言わんとすることはわかるけど、それだとちょっと非効率な気もするな。へいAI!」

 

 部屋全体に響くように呼びかけると、部屋のAIが空調をウオンウオンと鳴らして返事をした。

 

「さっきのモニターって、映画とか見れる?」

 

 返事の代わりにモニターが現れ『映画名やジャンルなどをご指定ください』と画面に表示された。それできるならエアコンで返事する必要なくなかった? 

 

「じゃあ……そうだな、なんか感動しそうな映画をひとつ」

 

『かしこまりました』

 

 そんな抽象的な要求で感情の学習を要求されるなど、マキナの立場に立ってみれば、既に怪しさ満点非合理極まりないことこの上なかったが、幸い彼女には何も言われなかった。

 気づけば二時間、しっかり画面に釘付けになっていた。

 

「めちゃくちゃよかった……」

 

 初めて見る映画だったのだが、内容が感動的だった。

 一日ごとに記憶がリセットされる女性と、医者との恋。明日には自分のことも、今日した話も忘れてしまうと知りつつも、それでも同じ日々を重ね、障害を乗り越えて結ばれる──その過程に、心が惹かれた。

 

「ど、どうだった?」

 

 一人で普通に楽しんでしまったことに気づき、焦って隣のマキナを見つめる。彼女はこちらを見つめていたが、その白い瞳に自分が映っているようには見えなかった。

 

「大変、興味深かったです」

 

「いいね〜。どの辺が良かった?」

 

「そうですね、特に主人公がヒロインのために、誕生日パーティを開くところなどの」

 

「みんな無駄だと諦めてるのに、それでも心と記録に残そうと奔走する姿がよかったよな!」

 

「そうですね。そのシーンの、マスターの表情が特に」

 

「ああ、ほんとにそのシーンの…………え、俺?」

 

 はい、とマキナは頷いた。

 

「画面内の感情値が高まるにつれて、マスターの表情や仕草が変化するのは、見ていて非常に惹き込まれました」

 

「いや……なんか嬉しいけど、映画の内容は……?」

 

「『五十回目のファーストキス』ですと、既にアーカイブに記録されていましたので、マスターの観察を優先しました」

 

「選択ミス〜〜〜!」

 

 それなら先に言ってほしかったという気持ちもあるが、アンドロイドである彼女は、(選んだ訳ではないとはいえ)俺の決定に口出しできなかったのかもしれない。

 

「ただ、人間が、人間と映画を見ることの意義というものは学べたように思えます」

 

「……その心は?」

 

「隣人が、映画によって知らない表情を見せるのは──非常に興味深い」

 

 そう言うと、マキナの口角が少しだけ上がった──ように見えた。

 すぐに先程までの仏頂面に戻ったが、それでも、感情なきアンドロイドが見せた柔らかな表情に──少しだけ、ドキッとしてしまった。

 

「……………………」

 

「ま、マキナ? どうかしたか?」

 

 整った顔が、俺を覗き込む。水晶玉みたいな瞳に、心まで見透かされるような錯覚を覚える。

 

「瞳孔の開き・心拍数の上昇・発汗・下腹部への血流の集中を検知。勃起可能と判断」

 

「いや雰囲気ぶち壊しだけど!?!?」

 

 優しく股間を摩られても、雰囲気重視派の俺は負けない。負けない、負け──

 

「……当機は、そんなに魅力がないでしょうか?」

 

「そ、そんなことないけど……ッ」

 

「いいのです。マスターが気を遣う必要などございません。当機はアンドロイド、抱いたところで自慰行為と変わりは────」

 

「それは違う!」

 

 思わず、俺は叫んでいた。それだけは、彼女がアンドロイドだろうが何だろうが──決して、言ってほしくはなかった。

 

「造られた存在だろうがなんだろうが、いま君といて俺が抱いた感情は嘘じゃない。だから、そんなこと……言わないでほしい」

 

「マスター……」

 

 己の腕に彼女の存在がある。機械の体は、合成有機物の肌は、シリコンの感触は、たしかな温もりとして胸の中にあった。

 

「では、抱いてください」

 

「だから、それで全部台無しなんだよね」

 

 思わず苦笑する俺に、彼女も困り眉だった。

 笑いあっていたその時──壁端のスピーカーから、けたたましい祝福の音色が響いた。

 

『ピンポンパンポーン……セックスを検知! 扉、開きます』

 

「えっ」

 

 背後の壁からすごい音が響き、音を立てて崩れ落ちる。中から現れた白い壁紙の無機質な研究室で、マッドサイエンティストが静かに拍手していた。

 

「おめでとう。君たちは答えを導き出した。ヒトのセックスとはすなわち、身体ではなく心の交尾。君たちの心はいま、深く交わったのだ!」

 

「えっ……えっ?」

 

「おめでとうございます、マスター。貴方と私の心はいま、深く繋がりました」

 

 先程までのやり取りはどこへやら、無感情な表情で拍手するマキナ。彼女は俺の耳元に口を近づけて「それとも……マスターは、身体でも繋がりたかったですか?」と、悪戯っぽく言った。

 

 


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