何も変わらない、何の変哲もない山手線。
良い電車だと思う。事故数も少ない。2023年の頃は自殺者も居たというが、そんな物今はいない。だから運行が遅れる事もない。ただ揺られているだけで安全に迅速に目的地へ連れてってくれる。
165年経っても、恐らくは変わらぬ何かがそこにある。そう考えると、人間の強かさを肌で感じる事が出来る。
目的の駅──────────「上野駅」へと到着した。人の波に身を任せて、電車を降りて改札へと向かう。向かう途中に懐から定期を取り出し、落とさないように気をつける。そして改札へ行き定期を使って抜け、駅の外へと足早に歩く。
今日は、この上野の上野公園に用事があってやってきた。
外に出て、定期を懐にしまい、走って公園の方へ行く。本来なら観光をするべきだが、今日はそうもいかないのだ。
風が吹き、僕の銀髪の髪の毛に触れる。心地良い。この風を感じている、周りの人々は、急ぐ者もいればゆっくりと歩く者もいる。
皆、何の変哲もないこの日常を生きている。
「……よし」
上野公園に到着。
周りには、観光客や家族連れがいる。
今日は、土曜日だ。だからか、少し人が多いようにも思う。
持っている手提げ鞄から、スマホを取り出してある人物に電話する。
『……もしもし』
「僕です。上野公園に到着しました。これから問題の対処にあたります」
『……今回の敵は相当厄介だ。だが君なら敵にすらならないだろう。……ま、頑張りたまえ〜』
「……はい」
電話を切り、スマホを鞄にしまって、鞄を脇に置く。
じっと待っていると、公園の真ん中に紫色の次元の穴が空く。そしてそこから、濃い青の服を着た妖精が現れる。
あれは、「ピクシー」。
童話で出てくる醜い妖精とは違う、可憐で美しく、そして恐ろしい「悪魔」と呼ばれる怪物の一種。
「……」
僕はこれから、アレと戦う。
自らの持つ「異能力」と呼ばれる特殊な力で。
「異能力……『月下獣』!!!」
かつて忌み嫌った、猛獣の異能力を使って。
「……さて、彼や他の者達が対処に向かっている間に……おっと、君、いきなり現れないでくれよ」
「……何故彼を上野にやったのか、だって? 彼がいたら、これからやる極秘作戦が上手く進められないだろ」
「……まぁ、そう言わないでおくれよ。彼は後で活きてくるピースだ。今は必要ないのさ。この作戦を成功させるカギは他にある」
「この東京も、平和になったが……それは「異能力」を使う「異能力者」が、「悪魔」や「モンスター」と呼ばれる怪物への対処に当たっているからだ」
「だからこそ、彼らは平和に生きていられる。……ただその秩序と平和を乱そうとする人間が、この世の中にはまだまだいる」
「……例えば、2023年の夏に、突如"穴"からやってきたあの太平洋の浮島……あの上にある世界唯一の帝国国家"ミカド国"」
「……あの国の絶対権力者は、今、とんでもない蛮行を行おうとしている。私達はそれを止めるため、この作戦を行うのだよ」
「……わかったら君も職務に戻りたまえ」
「さて……彼に連絡をしよう」
『美鬼斗君。作戦開始だ』
謎の男の通話を受け取ったのは、遥か遠く……浮島の「ミカド国」……ある施設で祈りを捧げる1人の青年だった。
その施設は、「女神教」の教会であり、その青年には縁の深い場所だった。
その宗教は、かつてこの世界を作ったとされる女神……ライトニングを祀る物だ。
桃髪の彼の名前は伊達美鬼斗。
ライトニングの子孫だ。
ひざまづき、祈りを捧げていた美鬼斗は、
その通信をインカムから聞き取り、立ち上がる。
彼はこれから、単独でミカド国の帝王を殺しに行くのだ。……それこそが彼と男が考えた、テロとも言える作戦だった。
通常テロ作戦など、実行すれば相応のリスクが伴う。全てを失う覚悟をしなければならないが、今の美鬼斗にそれをする必要は無かった。
何故なら数ヶ月前のとある事件で、美鬼斗はミカド国で得た最も大切な存在を……恋人を失ってしまったからである。
「……必ず殺る。逃しはしない」
美鬼斗は教会を抜け出して、街道を堂々と直進していくようだ。
この国は東京とさほど変わらない見た目をしていて、江戸城跡のある位置に大きな城が存在している。この城の中に帝王がいるわけだが、もちろん城の前には護衛の兵士がいるし、特に最近は「特殊部隊PSICOM」と呼ばれる部隊も護衛に当たっており、中々突破する事は出来なさそうだ。
しかし、美鬼斗はそんな事は気にしていない。美鬼斗は街道にある家の屋根に飛び乗り、民衆がザワザワ言っているのも気に留めず屋根を伝って移動する。
(……これで良いんだよな)
一応目立っているのも作戦の内だったりする。
彼が城の前の庭園に着くと、PSICOMが彼の前に立ち塞がる。警棒やショットガンを持ち、美鬼斗に攻撃を仕掛けていく。
「……来たなPSICOM!」
ショットガンの銃撃を避け、警棒を掻い潜りながらPSICOMの者達を斬り刻んでいく。
「うわっ!」
「ぎゃあっ!!」
切り刻みながら合間を通り抜け、城内へと向かっていく美鬼斗。鮮やかな手際で荒くなく、繊細な動きで敵を翻弄していく。
(……城の中に入れれば、後は……!)
PSICOM達を難なく撃退していき、遂に城門まで辿り着いた美鬼斗だったが、世の中そんなに甘くは出来ていない。
「……やはり、お前が来たか。美鬼斗」
城門の上に、1人の女性が立っている。赤雲模様の黒マントに身を包んだ黒髪の女性は、美鬼斗を見据え、飛び降りてくる。
着地した時の音は、一見華奢なその体からは到底信じられないほどの轟音で、周りにいる護衛兵やPSICOMを恐れさせるには十分だ。
「……お前は……!?」
「久しぶりだな、美鬼斗」
「……ああ、随分だな。茂成」
この女性の名前は、鍋島茂成。
美鬼斗と同じく女神の血筋を受け継ぐ者であり、裏社会で暗躍する「鬼人」と呼ばれている女性だ。
「……何故お前があの男に加担する? お前はそんな人間じゃないはずだ」
「フッ。そんな事、わかりきっているだろう。金だよ、金。世の中、金が全てだからな」
「……金が欲しいなら自分の「担当」に余るほど貰っているはずだが?」
「俺が女に借りを作ると思っているのか?」
「……」
「……まぁ、悪いが契約上、俺はお前と戦わなくちゃならない。旧友と剣を交えるのは少し気が引けるが……仕方がないな」
「……!!」
「……時にお前、「妖力」の勉強は済ませているか?」
「……ある程度はな」
「妖力」とは、異能力を持つ者だけが使える、多種多様な忍術を使うための力である。
「……なら、驚きはないな」
茂成が目を閉じる。そしてゆっくりと開くと、三つ巴の黒目に赤目という禍々しい目が開かれる。
「……それが……」
「……あぁ。"写輪眼"だ」
「……行くぞ美鬼斗」
「……望む所だ」
この2人の激突から、
彼らの運命への叛逆の旅路が始まる。
これは、最後の幻想のその先の、
新たなる物語である……。
to be continued…