……あれから3日。
ユナは、時空管理局が運営する病院へと今日も足を運んでいた…ーー。
…あれから3日。
私は毎日、病院へと通っている。あの戦いで受けた傷の治療、そして疲労を癒すべく本局よりしばらくの休暇を言い渡された。
何故、「05小隊」からではなく、本局からって?。
……「05小隊」は解体されたの。今回の戦いで部隊長の命令指揮系統に関して大きな問題を指摘されたらしい。
一つは、重要手配対象の「極東の旅団」との戦闘において、私と兄さんしか派遣しなかったこと。まあ、あれに関しては兄さんが切った啖呵のせいでもあるけど……。
もう一つは、先の事実を知った八神二等陸佐が問い詰める前に状況を優先し、「05小隊」に本局の防衛要請を依頼したがそれを無視し、支援に来なかった事。これは以前、彼らのリーダーである「ローレル・ランドルフ」に畏怖した部隊の人たちが敵前逃亡を始めちゃったらしい。
それに加え、部隊長自らも敵前逃亡を始めた部隊員を止めることなく、状況に身を任せてしまった事…。
その行動があってか、あの戦闘の後に査察が入ったらしい。
そこには、彼が担当した過去の事件でなんと次元犯罪組織と手を組んで起こした事件がいくつも露見された。
莫大な資金を彼らに提供し、結託して企てた事件を起こさせる……検挙に関してはその組織で奴隷同然に扱われている人を"替え玉"とし、部隊長は迅速な対応と解決に踏み切って本局からの点数稼ぎをしていたという…そして、その犯罪組織へ支払う資金は「作戦費用」として各部隊に支給される資金を回していた事実が発覚。
これが大きな決め手だろう。我欲に塗れた人の最後はあっけないものだ。軍法会議に掛けられ、厳罰は免れない……下手をすれば「監獄世界」行きだ。当然と言えば当然か……皮肉にも、最後は自分の部隊の人間たちに裏切られたんだ。
そして、敵前逃亡をした部隊の人たちも処罰は受ける。義務を果たさなかったのだ、彼らもしっかりと反省して次は身の丈に合った仕事を選ぶべきだろう。
……こうして、私と兄さんは居場所を失った。所属部隊が無くなったんだ、これからどこかの部隊に配属となるだろう。そして、日ごろの実績から兄さんと私はきっと別々の部隊に分かれてしまう。本局からの伝達が多いことから恐らく私は本局勤め…兄さんはきっと、人手不足が目立つ部署への異動だと思う。
……嫌だな…私、兄さんを追いかけて局員になったって言うのにこんなことでバラバラになるなんて…。
兄さんが家を出てから、話す機会も電話越しとなってしまった……本当はというと、一緒にいたくて追いかけてきた。
………いけない事かもしれないが、私は兄さんに"恋"をしてしまっている。兄さんが養子で血が繋がっていないとはいえ、"家族"は"家族"だ。世間一般からすれば、認められない事だろう…これまで、何人かの男の子に交際を申し込まれたが全て断った。私には"好きな人"が居る。それが、兄さん…結ばれることは無いと分かっていてもこうなってしまったんだ……私を助けに来てくれた"あの日"から。
もちろん、"家族"としても大切だ……兄さんは昔から自分の才能に負い目を感じているからいつも無理をしちゃう…だから、傍で見ていたい…そう思って。
………まあ、こんな感じで私の心境は話したけど、今はそんな事を言ってられない…あの事件の結末は私だってまだ分かっていないのだから。
そして、通院3日目……そこで私は意外な人と出会う。
「……あら、貴女は…フェイズ君の妹さん?。」
「へ…や…八神二等陸佐っ!?。」
私は思わず声が裏返って緊張してしまう。そう…あの憧れの"なのは様"の御親友で本局の偉い人…ましてや、今回の事件で「05部隊」の闇を暴いた人だからだ。
「あはは、そんなにかしこまらんでもええよ?今はプライベートやから。」
そう言って、笑みを浮かべる。
そして、2人は病院の中庭に足を運んでベンチに座る。緊張からなのか、ユナは何も話せない。
「…先日はおおきにな?。君らのおかげで助かったわ。」
「え……あ、いえ……えと…あの事件の顛末は……。」
それを聞いたはやての顔が少し険しくなる。
「…残念ながら、"アルテミスの弓"は奪われてしもうた。どうやら、教会内部に潜入兵がおったみたいでな…どおりで極秘情報を細かく知っとったわけや。ほんまに抜かりないな、あのローレルっちゅう人は。要するに、襲撃を掛けたあの二人も陽動やったってわけや。」
(……兄さん……ボロボロになってまで最後まで戦ったのにこんなのって……。)
「でも、悪い事ばっかやあらへん。レオンとエイリスっていう傭兵二人は逮捕出来た。これも、君らのおかげや。それだけでもデカい収穫になる。あとは奪還すればええ話や。」
「いえ……最後にあの二人に立ち向かったのは兄さんなんです…でも、兄さんは…!。」
動けないはずなのに、気力だけで最後に動いたフェイズを思い出して、ユナは瞳に涙を溜める。
……奇跡的にフェイズは生きていた。しかし、そのダメージは生死に関わるもので当初は後遺症は免れないだろうと医者は彼女に告げていた。
……もしかしたら、もう空は飛べないかもしれない……そう思うと、涙が溢れてくる。
そして今、その結果は誰にも分からない。
最後に放ったあの技はそれほど危険なものだったのだ。
限界を超えた極限の速度…ただでさえ、常識を遥かに超えた自殺行為も同然の高機動戦術。それの更に一段階上のギアを上げた速度と連携パターン。
医者も呆れるほどの無茶な行為を取った彼の身体はきっと無事ではない……誰もがそう思う。
そんな気持ちを汲んだはやては、ユナの頭に手を置いて優しく撫でる。
「…そっか……でも、彼は君を守るためと責任を果たすために全力で立ち向かった。それはとても誇らしいもんや。」
「……はい……。」
「ほな、君のお兄さんの容態を見に行こか?。私も一緒に行く。一人やと心細いやろうしどんな結果であれ、受け入れなあかん。」
ユナははやてに連れられ、フェイズのいる病室に向かう。
そして……。
ーーーーーーーーーーー
「………兄さん…?。」
病室に入った二人。フェイズは上体を起こし、本を読んでいた。
この時代では少し珍しい紙の本で、二人が入ったことに気づかないほどに熱心に読んでいる。その意外な光景に、ユナは先ほどまで抱いていた"恐怖感"が少し和らいだ気がした。
「あらら…えらい真剣に……おーい、フェイズ君?。元気そうやな?。」
はやての声に気付いたフェイズ。意外な来訪者に思わず目を見開いた。
「や…八神二等陸佐!?。」
「あはは……兄妹揃って同じリアクションや……。」
「ちょっと兄さん!?。身体は大丈夫なの!?。」
「ああ、特に問題ない。怪我が酷いのと疲労が激しいくらいで数日入院すれば退院しても良いとのことだ。管理局にはその通達が行っていると思うが……すれ違ったのか…?。」
それを聞いてユナは大粒の涙を流してフェイズに飛びついた。
「良かった…良かった……兄さん、空を飛べるんだね!!?。」
「当たり前だ。あの程度で飛べんくらいじゃ、とっくに諦めている。自分が組んだ戦術だ、あまり使いたくはなかったが自分のキャパシティくらいは理解している。」
しかし、はやては見逃さなかった。
フェイズが"微か"に、苦悶の表情をしたことに。
「…ユナちゃん、そろそろ診察の時間とちゃうか?。私、ここで待ってるから行ってき?。」
「ああ、そうだ!。それじゃ、また後で!!。」
笑顔が戻ったユナは勢いよく病室を飛び出していく。
はやてと二人きりになったフェイズ。誰も居ないことを確認すると、はやては口を開いた。
「……どうもあらへんなんてこと、ないやろ?。」
「……気付いていましたか…。」
フェイズは自分の両手を見る。
小刻みに震える両手…そう、人智を超えた「G」と戦闘で受けた深い傷による影響で内臓系統に甚大なダメージを受けていた。生きているのが不思議なくらいにまで負ったダメージは修復不可能なレベルにまで達しており、その大半が臓器移植で賄っている……そう、あの後フェイズとユナを回収したのは任務を終えて帰還していたなのはだった。ユナは疲労によって意識を手放していたがフェイズは違った。
彼女から彼の状況報告を受けたはやては、管理局が運営する全ての病院に彼と適合する臓器が保管されていないか、全力で問いかけていた。
奇跡的にドナーが見つかり、彼は一命を取り留めた。しかし、自分の中にある「リンカーコア」が受け入れていないせいで手の震えが止まらない障害が残ってしまっている。
飛ぶ分には問題はないだろう、しかし戦闘となると大きな影響が出てしまう。
はやてがここに来たのは、彼の今の容態確認とこの事実を受けて今でも"空"を飛ぶことを諦めていないのか…その意志を確かめに来た。
もちろん、あの事件の功労者である彼を無下にするつもりはない…この障害が原因で「空戦魔導士」を退任したとしても、それ相応の重要なポストを用意している。彼の状況判断能力ならば、オペレーターとしても最大限で活躍できる…道はまだ途絶えていないことも告げたいために。
しかし、フェイズは………"変わらなかった"。
「……例え、この震えが治らなくても俺は"空"を飛ぶことを諦めませんよ。」
「…ごめん、厳しい事言うけどな…現実は現実や。君のその障害じゃ、その目覚ましい空戦能力を生かすのも難しい……それに、"私達(管理局)"が抱えている問題は山積みや。正直、今の状態の君じゃあ力不足どころか、何も出来ひん可能性だって大いにある。"立場"として言わせてもらうけど、「空戦魔導士」はもう諦めたほうがええ。」
その言葉に、フェイズは……。
「…“たったこれ"で諦めるなら俺は初めから「空戦魔導士」を目指していません。誰が何を言おうと、俺は"空"を飛ぶ。」
「だからそれは……!。」
「身勝手だって言いたいんでしょう?。分かっている…俺は管理局員、組織に属する人間だ。上官である貴女の言葉は絶対だ、普通なら受け入れるしかない…だが、それでも俺は退けない。「鳥籠の中で一生を過ごす」なんて事、どんな"鳥"でも受け入れたくないことだ。俺は普通じゃない…他人よりも劣る人種だ。当たり前のことが出来ない落ちこぼれだ…でも、"蛍"はただ輝くだけじゃないでしょう?。」
「…蛍…それって君の……。」
「…"落ちこぼれ"を意味するーファイアフライー…それが俺の異名です。でも俺は嫌いじゃありません。「一瞬の為に輝き、消えていく」…確かにそうだ、だが……。」
その一瞬の為に全力で輝ける……諦めない限り、光は失わない…ーーー。
……その言葉を聞いたはやては何も言えなかった。
並みならぬ意思の強さ……それがフェイズを支えている。
きっと、何を言っても彼は揺るがないだろう…そして、所属部隊を失い、違う部署に行っても同じことをするだろう。
……本音を言うと、"これ"のつもりでやってきたのだ。そう……この兄妹を。
「……アイオン二等空士とアイオン准空尉の両2名は本日を以て、「05小隊」から除名。そして、通達します。」
ベッドの脇にある椅子に座り、真剣な眼差しで告げる。
「私が率いる部隊…まだ、部隊としては手続き中やけど2人は私が引き取る。正式に手続きに踏み切るから安心したらええよ?。前居た部隊のように冷遇はさせん。その代わり結構厳しいけど、2人なら大丈夫やろ。」
「え……俺達を……八神二等陸佐の部隊に…?。」
「そ。申請している部隊名は、『本局遺失物管理部』…通称…。」
ー『機動六課』や。ー
………………………end。
フェイズとユナは、はやてからの勧誘を受け、彼女が立ち上げた部隊『機動六課』へと配属される。
そして、彼らはここから味わうことになる。
…世界の命運に左右する"大きな戦い"…その、苦難を---
次回
10話 銀河に渦巻く"闇"。