そこはかつて、大きな事件の数々を解決してきたエース達が所属する部隊であり、ユナはともかく俺が入るには荷が重い部隊だ。
でも、ベストは尽くそう………そう思って、新しい部隊で頑張るとしよう。
八神二等陸佐から勧誘を受け、俺とユナは彼女の部隊『機動六課』という部隊に配属となった。
俺は入院期間の関係で直接、メンバーに挨拶出来ていないが比較的軽傷だったユナはひと足先に配属。才能の塊であるアイツはすぐに結果を出しているという。そして、遂に憧れのあの「高町なのは」さんに会えたみたいだ。連日、俺に連絡を寄越してくる。
『あのねあのね!?。今日、なのは様に褒められたんだ!。』
……こういった、連絡が毎日のように続く。
相当、嬉しいのだろう。実際に、新しい配属先の事を告げると飛ぶように喜んでいた。
そして、今日…俺は退院となり『機動六課』に挨拶に行く。
あれから、1ヶ月ほど入院生活を続けた。リハビリは順調に進み、動く分と空を飛ぶ分には問題無い。だが…手の震えまでは治らなかった。多少なりともマシだが、たまに力が抜けてしまう。
エース揃いの部署だ、こんな障害を理由に結果を出さないわけにはいかない。それに加え、彼女の厚意を無駄にするわけにはいかない。
今日から心機一転、入局時の気持ちで任務に励もう。
「……局員の制服に袖を通すのも久しぶりだな…。」
退院の手続きを済ませ、これまで面倒を見てくれていた主治医と看護婦たちに挨拶を済ませて病院を後にする。
テレビやユナからの電話で現在の状況についてはある程度理解はしていた。ここ最近、奴らの表立った行動は確認されていない。
しかし、"アルテミスの弓"は奪われたままで、状況は決して良いとは言えない。重要な"ロストロギア"が奪われたのだ、管理局のメンツにも関わる。だから、本局を初め様々な支部は「極東の旅団」の動向を必死に追いかけている。
今、確認されたメンバーはリーダーの『ローレル』とその部下である"暴れ馬"の『レオン』、"魔女"の『エイリス』と教会に潜入していた名前が分からないもう一人のメンバーだ。
その内の二人は逮捕、ローレルとシスター・シャッハを出し抜いて"アルテミスの弓"強奪したもう一人のメンバー…その二人が現在判明している。
小規模な傭兵団と言われているが、たった一人で本局に乗り込んであのフェイトを撃破したローレルのような人間がいるとなると、規模に反しての個々の戦闘力は並みの魔導士数人分といえるだろう。
今回のこの強奪事件を以て、彼らは「第一級次元犯罪者」として、ミッドのみならず管理局が把握している「管理世界」全体に言い渡された。つまり、世界規模の指名手配犯となる。
奴らが一体、何の為にいくつも事件を引き起こすのか…世界を敵に回してまで何がしたいのか…。
俺はずっとそれが気になっている…そして、あのローレルという男はどことなく、俺に"似たもの"を感じる。だから、次に会うことがあれば、問いただして見せる。その為には、奴に食いつくくらいにまで強くならなければいけない。
そう考えながら移動をしていると、件の部署へと辿り着いた。
…珍しく、俺は緊張している…何年振りだろうか…そう考えながら扉に手を掛ける……。
「失礼します。アイオン二等空士、現時刻を以て復帰し本日から………。」
その瞬間、クラッカーがいくつも音を立てて俺の頭に帯が乗る。
「………は……?。」
「いらっしゃい、待っとったんよっ!?。」
ニッコリと笑みを浮かべたはやてはフェイズの手を引っ張る。
未だに状況が理解できない…机の上には料理がいくつも並んでいて。そこはまるでパーティー会場のようだった。
「兄さん、やっと退院できたんだね!?。」
「ちょっと待て…これは一体…!?。」
「君の退院祝いと…着任の歓迎会だよ?。」
そう言って、部屋の奥からやってきたのはユナの憧れの人…高町なのはその本人、そしてその隣にはフェイト・T・ハラウオン。超が付くほどの有名人だ。
「へぇ~…ユナちゃんの言った通り、高身長の蒼髪でカッコイイ人だね?。」
「そうなんです!。自慢の兄なんですよ!?。」
「…お前な…迷惑をかけてないだろうな…?。」
「ユナさんは優秀ですよ?。六課に配属されてから6人もの犯罪者を検挙しました。」
フェイトは椅子を引き、そこにフェイズを座らせる。
「は…はぁ……その……他の方たちは…?。」
「ちょいと"野暮用"でな?他の任務に付いとる。明日には顔合わせ出来るよ?。さ、早く食べよ?。せっかくのお料理が冷めてまう。」
「は…はい……。」
……さっきまでの緊張感は何だったんだ…そう、思いながら"退院祝い&歓迎会"が始まった。
食べた料理は…正直言うとかなり美味い。どうやら、八神二等陸佐の手作りらしい。
店レベルだぞ…金をとられても構わない。そう思えるほどに。
「フェイズ君、私達と歳が同じなんだって?。」
飲み物を置き、なのははフェイズに話しかける。
「まあ……今年、19になります。」
「せやったら、業務中以外はタメ口でええよ?。私、堅苦しいのは嫌いやもん。」
「いや、そういうわけにはいかないでしょう…俺はユナ…妹よりも階級が下です。階級社会でそんなフランクに……。」
「なんや、つれへんなぁ…。」
「はやて?彼、困ってるでしょう?。」
……そう言えば、この人(フェイト)は、ローレルと対峙したんだったな…聞いてみよう、"奴"の事を。
「…ハラウオン執務官。少し聞いてもいいでしょうか?。あのローレル……"遊撃隊長"はどうでしたか…?。」
それを聞いた途端、彼女は険しい表情をする。
「…正直、底が知れなかった。単純な"魔法戦"では管理局の魔導士部隊に彼は敵わないと思う。でも、それ以上に格上との"戦い方"を熟知している。「どうすれば、最適解を導き出せるか」…その観察眼と実行力が並外れていた…実際に対峙したから分かる、私たちが"こうするだろう"と思った事と真逆…いや、全く想定していない動きを取る。」
…戦闘は「センス」。
奴はそう言っていた。どんなに戦力差と力量差があったとしても、考え次第では簡単に覆せる…ましてや、現代の戦闘の基本形である「魔法戦」の常識が通用しない相手…これほど、厄介な相手はいない。
特殊技能や希少技能があるわけでもなく、保有魔力量も並以下…自分と全く同じ境遇だが決定的に違うのは戦闘の大局を見据える「観察眼」の異常な高さ。
それがローレルの強さだった。所見では絶対に敵わない…だから、フェイトは敗北したのだ。
分かったとて、基本形である"魔法戦"以外に戦い方を変えてしまえばそれこそ、自分たちの持ち味が無くなってしまう…"魔法"に関しては素人以下だが、"戦闘"に関しては"天才"以上。
そう、ローレルという存在は魔導士にとっての"天敵"なのだ。
「……フェイトちゃんが敵わないなら、私も厳しいかな。私の基本形は"魔法"だもの。それに、砲撃主体だから撃つ前に避けられてる…。」
「え……なのは様でも敵わないなんて……。」
「…いや、勝機はある。」
フェイズは冷静に、そう答える。
「奴が「センス」で来るならこちらも「センス」で立ち向かえばいい。」
「…兄さん、それが出来たらこんなに真剣に考えないよ…。」
「違う。奴の「予想」を上回るんだ。」
「…「予想」を上回るって…あの人の頭の中を除くんか?。」
「奴がいつも想定しているのは"魔法戦"だからだ。でも、それが基本である管理局の戦法は変えられない…変えたところで持ち味が無くなってしまう。だからこっちも"魔法戦"を主体とした「センス」で戦うんだ。」
「…なるほどな…向こうさんもこっちの"基本"を想定してるからこっちも"搦め手"で行くってことか。」
「はい。その搦め手が通じるかは分かりませんが…奴との戦いは常に駆け引きが必要です。だから、相手の行動と思考を読まなければ手玉に取られます。それだけ、狡猾な相手ですよ…。」
フェイズは飲み物に映る自分の顔を見る。
(…悔しいが、奴の手法は俺の糧にもなる……才能の無い者が出来る戦い…か……。)
震えるその手を見ながら、フェイズはグッと拳を握り締める。
そして、ユナはその姿を心配そうに見つめていた…ーー。
…翌日。
「みんな、紹介するわな?。フェイズ・アイオン二等空士や。今日からこの六課の仲間になる人。よろしゅう頼むわな?。」
はやての紹介で前に出るフェイズ。その中で何人かは見たことのある人物がいたが4名ほど、始めて見る人間もいる。その年齢層から恐らく、新人なのか…フェイズはそう思う。
「紹介するね?今、私の班…「スターズ分隊」の隊員を勤めてる「スバル・ナカジマ」と「ティアナ・ランスター」。」
青髪の短髪少女とオレンジ色のツインテールの少女…なのはの紹介に上がった2人はフェイズに挨拶する。
「スバル・ナカジマです!。貴方があの噂のフェイズ二等空士ですか!?。」
「…噂…?。」
「知らないんですか?。「極東の旅団」メンバー2人を捨て身の特攻で撃破した事で「死に急ぎ野郎」って他の部署で噂されてるんですよ?。」
「死に急ぎ野郎」…淡々とそう言ったティアナに、ユナは詰め寄ろうとするがフェイズは静かに手を出してユナを制する。
「…そうだな。だが、俺はベストを尽くすための手段を取っただけだ。"アレ(エンド・ブレイカー)"はもう使わん。」
「……そうですか……。」
「続いて、私もこの子達を紹介するね?。「ライトニング分隊」のメンバー…「エリオ・モンディアル」と「キャロ・ル・ルシエ」。」
…次は、まだ小学生くらいだろうか…赤髪の少年とユナと同じく桜色の髪の少女が頭を下げる。そして、珍しいのはその少女の頭には小さな白い竜がいた。
「………"召喚士"か…?。」
「はい。この子は"フリードリヒ"と言います。ほら、ご挨拶。」
"フリードリヒ"と呼ばれた小さな白い竜は翼をパタパタとはためかせる…きっと、挨拶のつもりなんだろう。
「エリオ・モンディアルです。その…貴方の高速戦闘技術を教えて欲しいんですけど…。」
「…俺の…?。」
「まぁ、お待ちや?。それについてやけど、ちょうどこの場で発表するわな?。フェイズ・アイオン二等空士。君が所属する分隊やけど、なのはちゃんとフェイトちゃんの分隊じゃあない。」
「…だったら、貴女の直接の…?。」
「ちゃう…フェイズ君、君のその判断能力は指揮官としても優秀や。私らには出来ひん判断能力を持っとる。せやから、君を主軸とした分隊を与える。その名は…"ファイアフライ分隊"や。そう…君がその隊長を勤めて欲しい。」
…隊長。
それを聞いて、フェイズは思わず声を上げる。
「俺が「隊長」!?。何の冗談ですか、俺はお二人のような力量なんて…!。」
「ううん、そうやないねん。私がそう"させたい"って思ったんや。君には「隊長」としての器がある。そこでやけど、ちょうど君の背中を見せてやりたい2人を選出したんや。これは、この2人も了承済みやねん。」
なのはとフェイトはコクリと頷く。
「…スターズ分隊からティアナ…ライトニング分隊からエリオ。この2人を君の分隊に配属させる。そしてその任務は……"外気圏に現れた謎の「戦艦」"の情報を探ること。」
それを聞いたフェイズはもちろん、彼の分隊に配属となったティアナとエリオも驚く。そして、ユナも。
「わ…私は兄さんの分隊に配属じゃないんですか!?。」
「ユナちゃんは私の元で教導を受けてもらうの。貴女の魔法は私とほぼ同じ…だから、教えるよ。私のノウハウを。」
なのはからそれを聞いたユナは思わず感極まり、目を輝かせる。
「は…はいっ!!。よろしくお願いします、なのは様!!。」
その決定に、唯一不満を持っていたのは…ティアナだった。
「お言葉ですが納得出来ません!。どうして、私がスターズから彼の分隊へと配属に!?。」
はやてに食ってかかるティアナ。それを抑えようとエリオはオロオロとする。
「ちょ…ティアナさん…。」
「…ティアナ、君が“得るべきもん"はフェイズ君が持っとるもんや。それを学んでほしい。それが君の…"真価"に繋がる。」
「……私が…"落ちこぼれ"だから…ですか…?。それにーファイアフライーって…。」
「ちゃう。ーファイアフライー…『蛍』は"諦めへん限り、光は失われへん"っちゅう意味や。決して"落ちこぼれ"とかやない。間違ってもそう解釈したらあかん。」
「………わかりました……。」
俯くティアナにフェイズは声を掛けようとしたが、言葉が見つからない。そして、それとは逆にエリオはフェイズに駆け寄る。
「よろしくお願いします、フェイズさん!!。」
「あ……ああ…よろしく頼む…。」
……こうして、俺は突然「隊長」に任命された。そして、各分隊から2人が俺の下に着く事になる…エリオはともかく、このティアナという子は手を焼きそうになる……そう、確実に俺に対して"敵意"に近いものを持っている…きっと、悩みは同じだ。自分が"優れていない"からといった、劣等感……同じ悩みを持つ者なら、俺は教えないといけない。そう……。
諦めない限り、光は失わない…『蛍』は決して、落ちこぼれなんかじゃないと。
だが…俺はまだ知らなかった。この言い渡された任務…これこそが……。
世界を揺るがす大事件の始まり…だと…ーーー。
………………………end。
『機動六課』へと配属になったフェイズははやての出した指令の下、「ファイアフライ分隊」の「隊長」へと任命され、そしてその任務が全てが謎に包まれた「戦艦」の情報収集だった。
彼の分隊へと配属されたティアナとエリオ。しかし、ティアナは自分の中に渦巻く焦燥感から、フェイズに対して反発的だった。
…まるで、自分を見ているみたいに。そう思って…ーー。
次回
11話 "落ちこぼれ"同士。