兄に憧れ、兄の夢を継ぐために目指したものが「現実」という壁に阻まれて崩れ去った。
…これが、自分の限界なんだ…。
そう思って、無様に足搔くしかない…そう思ってーーー。
俺は八神二等陸佐から「分隊」を与えられた。
ー「ファイアフライ分隊」ー
どうやら、この名前に縁があるようだ。皮肉用語でそう呼ばれていたが何度も言う…俺は嫌いじゃない。
あの時、この異名について俺の思いを語ったからだろう、彼女は『蛍』の美しさに因んで敢えて俺にこの名前の分隊を与えた。
しかし、世間一般からすればそれは"落ちこぼれ"を指す用語だから名前だけを聞けば、誰もが憐れむだろう。だが、それは逆にチャンスだ…きっと、彼女は"落ちこぼれ"と呼ばれた人達に希望を与える為にそう呼ばれている俺を隊長にしたのだろう。
この異名が誰かの希望になるのなら…俺は迷いなく空を飛ぶ。
だが…それは絶対に困難な道だ。そう、その一歩であろうこの分隊ですでに問題が起きているのだから…ーーー。
「…エリオ、ティアナはどこに行った?。」
任務前の事前ミーティングを行うために、俺は二人に声を掛けた。しかし、定刻通りに集まったのはエリオだけで。
「…多分、訓練場かと。話がまとまったら後で教えてくれと、そう言われまして……。」
「…そうか。」
「その…すみません。あの人の代わりに僕が…。」
「気にしなくていい。彼女が抱く気持ちは分からんでもない。だが、俺達はチームだ。組織に属している以上、勝手な行動は許されない。」
そう言って、フェイズは部屋を出ようとする。
「どこに行くんですか?。」
「アイツを連れてくる。少し待っててくれ、すぐに戻る。」
ティアナが居る訓練場へと向かうフェイズ。その道中で。「05小隊」にいた時の事を思い出していた。
(勝手な行動は許されない…か…俺もあまり人の事は言えんな……。)
…彼女は自分と"同じ"だ。
『才能』と呼ばれる壁に当たり、"現実"に翻弄された人間……自分の限界が浅いことに気付き、他者との差を痛感している…だから、無茶もするし納得のいかない事には強く反発する。
…申し訳ないが、俺は彼女の経歴を調べた。いや…分隊の仲間だ、これから行動を共にする仲間の事は知っておかなければならない。
……彼女の兄は優秀だった。それ故に『執務官』を目指していたらしい。
『執務官』とは、捜査指揮や弁護などの権限を持ち、そして単独での捜査任務を行使できる役職だ。
その合格率は『15%』と低く、その肩書だけで誰もが欲しがる人材らしい。
しかし、彼女の兄は任務中に殉職したとのことで、兄を敬愛していた本人はその夢を継ぐべく、同じ道を歩むことを目指していたという。
しかし、現実はそう上手くはいかない。執務官試験には落第、続いて自分には「空戦適性」が無いことが判明。まるで、自分を叩き落すかのような現実の嵐…そう、彼女はそれを実感してすべてに対して弱気になってしまっていた。
その中で、ようやく訪れた「スターズ分隊」という、超が付くほどの有名人である人の教導受けられることに少しは希望を見出していたのだ。でも、学ぶのは基本形ばかりであり、自分が強くなっている実感すらも感じられない……しかし、その基礎を叩き込むことで様々な応用が利くことを理解していない。
前述の通り、自分に"劣等感"を抱いているから……焦燥感から、彼女は自分の身の丈に合わない回り道をしようとしている…それも、最短距離で済むように。
…俺は、それを止めなければならない。自分が"凡人"と理解しているなら、余計な回り道は必ずと言っていいほど身に入らないものだ。俺はそれを良く知っている……劣るからこそ、焦ってはいけないと。
そうこう考えているうちに、件の訓練場へとやってきた。
そこには、息を切らしてトリガーを引くティアナの姿が。相当な時間をかけて訓練に励んでいるのだろう、疲れが顔に出ている。
「…そこにいたか、何をしている?ミーティングの時間はとっくに過ぎているぞ。」
…俺の声に反応したのか、一瞬だけこっちを見るが何も答えない。それどころか、さらに訓練を続けようとする。
「…それ以上はやめておけ。身に入らんぞ。」
「…離してください、エリオから聞いたでしょう?。あたしはミーティングに参加しない…まとまった内容だけ聞けばそれでなんとかします。」
「違う、それ以上の訓練は何も成さないと言っているんだ。」
それを聞いたティアナはキッとした目つきでこちらを睨んでくる。
「邪魔をしないで!。あたしは無駄なことなんてしてない!!。」
「いい加減にしろ、訓練場はお前の場所じゃないぞ。」
低い女性の声。その声を聞いたティアナは大人しくなる。
その声の主は……『シグナム』と呼ばれる女性。そう…『ヴォルケンリッター』のリーダーと言ってもいい女性だ。
「分隊長の命令にも従えんとは…貴様は何がしたい?。」
「あたしは……!。」
何か言いたそうにしているティアナ。だが、言葉を詰まらせて下を向く。
「……申し訳ございませんでした。ミーティングに参加します…処罰は何なりと…。」
そして、走り去る。
「…はぁ…すまないな、アイオン。奴の跳ねっ返りぶりは苦労するだろう?。」
「いえ…俺がちゃんと彼女を知っていなかったからだと…。」
「…そうか…すまないが、アイツの事は頼む。境遇が似ているお前なら、何か分かることがあるかも知れんからな。」
「わかりました。」
……そして、時間は大幅に遅れたがミーティングが始まった。
議題は先日、言い渡された任務…「外気圏上に現れた正体不明の"戦艦"について」の調査任務の段取りだ。
これは、数か月前に突如としてミッドの外気圏上に空間転移してきた"戦艦"であり、その記録はどの世界線上にも存在しない謎に包まれたものとなる。
現在は忽然としてその姿を消しているが、数日は同じポイントで滞在していたとのこと…管理局は通信によるコミュニケーションを図ったが応答はまるで無く、沈黙を貫いていたという。
前述の通り、"戦艦"と認識したのは艦砲に当たる武装が施されていたこと…そして、空間跳躍が可能な機能を持つことからミッドと同系統の技術を持つ文明だと推測されている。しかし、「管理外世界」のものだとしてもそれを証明することが出来ない…"ロストロギア"にも該当しないものから、上層部はこの物体を"異星文明"のものだと推測している。
"異星文明"ということは、"異星人"が運用するものだということ。コミュニケーションが取れないことから、こちらの言語も通じない可能性だってある…しかも、突然消えたということは何かしらの調査でやってきた可能性だって考えられる…そして、「極東の旅団」のローレルは"この事"について何か知っている。
いや、警笛鳴らしている……。
「ミッドの空が"燃える"。」
この意味はきっと、その異星文明がこちらに対して武力を行使することを示唆しているかのような……指名手配されている傭兵団の言うことだ、上層部はきっと信じないだろう。
そう思って、彼の言ったことは『機動六課』内で留めることにした。
何にせよ、もう一度彼らと接触しなければ分からないことだらけだ。"アルテミスの弓"の事もある…問題は山積みだ。
「……以上、ミーティングを終了する。何か、質問がある者は…?。」
「いえ…それでいいと思います。任務の期間は3日間ですね?。」
「そうだ、あくまで調査任務…一番の近道は「極東の旅団」にコンタクトを取ることだが…そうすれば、管理局が戦力を結集させてしまう可能性が高い…"異星文明"についての情報は奴らが一番良く知っている。」
「……それなら、叩き潰して情報を吐かせればいいのでは…?。」
これまで沈黙を貫いていたティアナは低い声色でそう言う。
「それは流石に理に適っていない。異星文明とやらがこちらに対して敵対行動を取るというのなら今は"身内"で争っている場合じゃない…少なくとも、奴らはその文明が侵略してくることを見越して行動に移っている…あくまで俺達の予想だが、これまでの一連の行動を見るにその文明が攻め入ってきたときのシミュレーションを奴らは行っている…。」
「…なら、テロ行為なんて真似をせずに手を取り合う手段をとればいいのに…わざわざ、こちらを潰しに来ているのが理解できません。こっちが受けた被害は相当なものなんですよ!?。それなのに、その言い方だとまるで手を取り合うかのような…!。」
「…お前が思うことは俺も同じだ。しかし、八神二等陸佐は奴らと「同盟」を組むのも一つの手段と考えている…答えはこの調査で浮上した"真実"で決まる事だろう。」
「でも向こうは武力行使を止めるつもりはない…交渉したとて、攻撃を受けるのを黙って見てろって言いたいんですかっ!?。」
「だからといって、奴らと全面戦争になれば本末転倒だろう!?。第三の勢力の真意が分からない以上、慎重に行動すべきだ!。その情報を色濃く持っているのは奴らなんだ、戦闘は免れないにしてもやり方はあるだろう!?。」
「それでも、管理局に甚大な被害をもたらした傭兵団のリーダーから情報をもらうなんて、間違ってます!。アイツらは逮捕するべきなんですよ!。「同盟」なんてあたしは認めません!。」
そう言って、ティアナはフェイズを睨みつける。そして……。
「…やっぱり、貴方の分隊で行動なんてできません…あたしは……強敵を倒せるくらいにまで強くなりたい…あのローレルという男を倒すのは…あたしです…!。」
勢いよく扉を開けて出ていくティアナ。フェイズはため息を吐き、頭を抱える。
…どうして、いつもこうなんだろうか……他人に興味が無いこの性格が災いするとは…。
フェイズは初めて、自分の性格を呪った。
「…フェイズさん…。」
「…すまないな、エリオ。大人げないところを見せてしまった…。」
「いえ…でも、僕も疑問に思います。果たして、ローレルという人は話に応じてくれるのでしょうか…?。」
「…それは賭けになるだろう。きっと、奴を納得させるくらいの力が無ければ何も語ってはくれないと思う。しかし、奴らの情報網はこちらの何枚も上手なんだ。件の"戦艦"が消えた今、その"異星文明"について何か知ってそうな奴らから情報を得るのが一番の方法だ…ならば、「同盟」とはいかなくても無駄な争いの一つくらいは摘む必要はあるだろう…管理局では"勝てない"と悟ったからこそ、こんな行動に出ているのだと思う。」
フェイズはフェイトから聞いていたのだ。ローレルが語った事を。
しかし、そう思っているからこそローレル個人に"打ち勝つ"必要がある。
彼らは傭兵だ、信頼できる者にしか背中は任せない。きっと、取引にも応じないだろう…ならば、彼の性格を知っているからこそその信用を勝ち取るために勝たなければならない。
手がかりがないからこそ、最短ルートで情報を確保する必要がある。そう考えて、この方法を思い付いたのだ。
しかし、ティアナの言っていることは間違いではない。
事実、彼らが起こした事件の数々で管理局のみならず、一般人が受けた被害は甚大なものとなっている。
どんな理由であれ、犯罪は犯罪だ。それを取り締まるのが自分たちの責務であり、仕事なのだ。
特に、執務官を目指す彼女にとってはフェイズの提案は言語道断。犯罪者に尻尾を振るも同然な提案に憤りを感じるのも無理はない。
だからこそ、冷静にならなければ……フェイズは頭を冷やす。
「……明日、件の任務を行う。第一目標は例の"戦艦"に対しての情報確保だ。これは、初記録を取った支部へと赴き、その情報を再確認する。すでに本局には伝わっている内容だが、その中で見落としが無いか俺達の目で確認しよう。でなければ、ティアナは付いてこない。」
「わかりました。しかし、それでも情報が得られなかったら…?。」
「……「極東の旅団」とのコンタクトを図る。これはあくまで最終手段だ。もちろん、八神二等陸佐の許可もいる。さあ、この任務にベストを尽くそう。」
連携もままならないまま、始まった『ファイアフライ分隊』の初任務。
果たして、彼らの任務は無事に成功するのか……。
…………………end。
"異星文明"の"戦艦"について、調査を始めた『ファイアフライ分隊』。
しかし、懸念していた通り大きな情報は得られない。
そして、「最終手段」に乗り込もうとしたフェイズとそれを許さないティアナはまた衝突をし始めてしまう。
だが、その時…見たことのない「ウイルスプログラム」に侵された魔導兵器が暴走し始めて…。
次回
12話 "異星文明"。