自分の力量の低さから、一時はコンプレックスとなっていた。
しかし不思議なもので、時が経てば気にしなくもなる。
それが仇となったのか…俺は今、ある意味で人生で一番苦悩している。
ティアナ・ランスター。
果たして俺は、彼女から信頼を得ることが出来るのか……。
-ミッドチルダ・時空管理局『本局』 AM10:13-
任務コード『エイリアン・シップ』初日。
「フェイズ・アイオン」を始めとした「ティアナ・ランスター」、「エリオ・モンディアル」の3名で構成された調査分隊『ファイアフライ分隊』は発足後初の任務へと当たる。
目的は数か月前にミッドチルダの外気圏上に突如として空間転移してきた謎の"戦艦"の調査。
世間を騒がせている「極東の旅団」も、この"戦艦"の出現によって過激な行動に移ったことから、この一連の事件は全てこの"戦艦"から始まっている。
全てが謎に包まれたその存在…それにより、全てが狂わされている。
フェイズはそんな気がしてならない。
移動中…。
流石に、任務の放棄はするべきではないと自覚したティアナは納得の行かない表情で参加。その道中では会話など一切無かった。
何を言っても「はい」とか「そうですか」といった、乾いた返事しか返ってこない。
第一印象が最悪だったのか、彼女との距離はどんどん遠ざかる。特に、人付き合いが苦手なフェイズは距離の詰め方も分からない。
同じようなコンプレックスを抱いた者同士、分かりあうどころか反発してしまう…非常に困った表情でフェイズもしかめっ面となっていた。
「……何か文句があるなら聞きますけど…?。」
…それに気付いたティアナが突っかかってくる。きっと、自分の表情が気に食わなかったのだろう。そんなつもりは全く無いが、そう思わせてしまった事に悪く感じてしまう。それもそうだろう、自分でもそう思うのだから。
「…いや、考え事をしていただけだ。すまん。」
「…………。」
…場の雰囲気が悪い。こういう時、ユナが居てくれたらと少しばかり思う。学生時代、もう少し周りと打ち解けるべきだったと今更、後悔しながら。
「えっ…と…な…何か進展があるといいですね…!?。」
…10歳の少年に気を遣わせてしまっている。今年、19歳にもなる大人の自分がなんて情けないのだろう…しかも、ティアナはユナと同年齢。年長者たる自分がしっかりしなければまとまらないというのに、彼女1人に気を遣ってはどうにもならない。俺達は『チーム』だ。エリオもその一員…一番の年少者が場をなんとかしようと頑張るのは違うのではないか…?。
「そうだな。情報は既に出回っているものだが…俺たちの目で見て何か分かるものがあればそれでいい。2人はそれぞれの隊長…高町一等空尉とハラウオン執務官の元で基礎と応用を学んでいる。逆に俺が学ぶ事の方が多いかもしれんが…役に立てるよう尽力しよう。」
気を遣うエリオに、微笑を浮かべるフェイズ。
…ユナにも色々と気を遣わせている部分はたくさんある。そして、自分を拾ってくれた叔父さんと叔母さんにも。
自分が分隊を率いるのは荷が重いが、自分の力量を認めてくれたということもある。その期待に応えなければ、あの人の厚意を裏切ってしまう事にもなる。背伸びはせず、いつも通りに行こう…俺はそう思う。
…その時、固く口を閉ざしていたティアナが俺に話しかける。
「…少し聞いてもいいですか?。貴方は……"期待されてる"から頑張るんですか?。」
…その質問に、フェイズは困る事なくこう言った。
「違うな。俺は自分が人より"劣っている"事を理解している。当然、それはコンプレックスでもあり、高い壁だ。どんなに足掻いたって、俺の限界は知れているだろう。だが、それがどうしたと俺はいつも自分にそう言い聞かせている。周囲の目や評価なんてどうでもいい…俺はただ、自分がやり遂げたい事…"空"を飛ぶ事を止めたくないだけだ。」
自分の手を見るフェイズ。
やはり、まだあの"後遺症"は残っている…だが、それを知るのは自分をここに引き入れたはやてとなのは、フェイトの3人のみ。他の者には誰にも知られていない、知ってもらう必要も無い。
こんな事情を抱えたところで何かが変わるわけでもない…そう、"劣る"からこそ、常人の数倍努力すればいい。周囲が合わせる必要はない、ただ自分が足掻いて付いていけばいい。
…これはいつも、自分が"飛ぶ"為に思っている事だ。意地と言われればそうかもしれない。他人から見ればこれは見苦しい意地だろう。
だが、その"意地"があるからこそ今の自分の土台がある…それを否定してしまえば、自分が自分でいられなくなる…。
本当は、それをティアナに伝えたかった。でも、彼女の抱く夢は自分とは方向が違うもの…そう、彼女は"兄"の為にその夢を追いかけているのだ。
「人の為」と「自分の為」。
それが、似た者同士である2人が決して噛み合わない"理由"だった。
だから、こうも焦るのだろう…しかし、それを和らげられる明確な答えが見つからない。だからこそ、衝突してしまう。
そんな事を考えていると、件の支部へと辿り着いていた。
…もう少し、会話を交えられたらと思うがここからは「仕事」だ。任務遂行の為に切り替えるとしよう。そう思って、3人は案内の者に連れられて資料室へと入っていく。
「…調査資料は全て本局に報告済みですが…何故、わざわざここまで赴いて?。」
初老の支部長が俺に尋ねてくる。確かに、ここにある資料は全て本局に共有されているだろう。しかし、実際にその現場に足を運ぶ事で分かるものもある。その為にここに来たのだと説明すると、不思議そうな顔をして支部長はその部屋を後にした。
「…確かに、ここにある資料は全てここに来る前に確認したものばかりです。」
…件の"戦艦"は漆黒で、艦砲と思わしき武装が施されている。映像が少し荒いのか、ボヤける部分からは特に何も得られそうにない。
続いて、意思疎通を図る通信記録を再生するも、返答が無いという情報は全く同じ……そうこうしていること約2時間。ここにある全ての情報を洗い出すも全く進展が無い。そうすると、人は不思議と苛立ちを覚えてくる。
「…無駄足だったようですね…?。」
口火を切ったのはティアナ。そして、フェイズは考え込んでやはり「あの手段」を使う他無いと判断する。
「…仕方無い、エリオ。本局…いや、八神二等陸佐に繋いでくれ。」
それを察したティアナは拳を震わせてフェイズに詰め寄る。
「まさか…「極東の旅団」へコンタクトを取るつもりじゃないでしょうねっ!?。」
「…そのまさかだ。やはり、これ以上の情報を得るには奴らの持つ情報を分けてもらう他無い。管理局の持つ情報は弱すぎる…。」
「ならあたしは帰ります!。あんな奴らに頭を垂れるなんて真っ平ごめんよッ!。」
「待て、任務はもう始まっている。そして、その行使権は分隊長である俺にある。こんな言い方はしたくないが、命令違反に値する。」
その言い方に苛立ちを隠せないのか、ティアナはフェイズの袖に掴みかかる。
「ちょ…やめてくださいティアナさんっ!!。」
「エリオは黙ってて!。アンタは悔しくないのっ!?"あの現場(聖王教会)"に居て良い様にされた挙句に、あんなにズタボロになってまで守らなきゃいけなかったものを目の前で盗られたのよ!?。」
「…それと、今に何の関係がある…?。」
「アンタ、やっぱりおかしいわよっ!。自分が"劣って"いる事を理解してる?。いいえ、してないわ!アンタにはプライドが無い!。あたしなら絶対に頼ったりしないわ!。その情報が欲しいなら一方的に仕掛けてあいつらを捕まえる!。犯罪者は犯罪者なのよ、管理局員としての責務をアンタは放棄してるっ!!。」
「……いいからその手を離せ。」
「何よっ!同類の小娘に言われても悔しささえも沸かないのっ!?。アンタは……痛ッッ!。」
フェイズは掴みかかるティアナの手をグッと握り締めて引き剥がそうとする。その握力は凄まじく、ティアナは無意識に反撃に出ようと拳を構えてしまった。
「ティアナさん、それはダメですッ!!。」
今にも殴りかかりそうなティアナを止めようとしたその時、警報音が支部全体に鳴り響いた。
「警報!?。」
「……所属不明の魔導兵器が暴走だと…?。」
端末のメッセージを見るフェイズ。それに続き、二人も見る。
「任務内容を変更する。この魔導兵器の撃破任務に移行、2人は俺に続いてくれ!。」
「わかりました!。」
(…ここで訓練の成果を上げれば…あたしは強くなれたと実感できる…!。)
…………………………。
現場に到着した3人。
周囲は燃え盛り、暴走魔導兵器は破壊の限りを尽くす。
だが、その光景にフェイズはどこか見覚えがあった…ーー。
(待て…この感じ…まさか、あの時の暴走ロボットと同じ!?。)
初戦闘。あの時、対峙したロボットと同じ雰囲気を感じる…資料によるとあれはプログラムの暴走だと言われていた。しかし、今目の前で破壊行為を行うこの兵器は暴走とは言い難い挙動を取っていた。そう…まるで、"意思"があるかのように。
そして、その赤いモノアイがこちらを捉える。完全に敵と認識したのか、ゆっくりと歩み寄って。
「俺が先行する、ドラグーン01…セットアップッ!!。」
バリアジャケットを身に纏って飛び出すフェイズ。手の震えは…ある。しかし、持ち味の「スピード」だけは衰えないどころか、速さを増している。
「は…速いッ!?。」
「…負けてられるものですか、"クロスミラージュ"セットアップッッ!!。」
「僕も続きます、"ストラーダ"セットアップッ!!。」
ティアナとエリオもフェイズに続く。しかし、ティアナはフォーメーションを無視した攻撃パターンで仕掛け始めた。
(あたしは…"落ちこぼれ"なんかじゃない!ここで戦果を上げればきっと…!。)
速度を生かした攻撃でフェイズが撹乱し、ティアナが銃撃による手数の多さで敵の動きを止める。そして、トドメの一撃はエリオの放つ攻撃ということが本来のフォーメーションだった。しかし、彼女は功名心が勝ってしまったせいで単独行動に入ってしまった。
段取りが狂い、戸惑うエリオ。仕方がない、才能はあれども10歳の少年が想定していない事態に対処なんて思い付かないだろう。だったらここは……"合わせる"しかない。
「エリオ、スピードに自信はあるかッ!?。」
「多少なりともは!!。でも…!。」
「構わん!俺に付いて来る気で駆け抜けろっ!。こうなれば、ティアナに合わせる方が合理的だっ!。」
そう言って、突撃するフェイズ。そのあまりの速さにエリオは驚くが、言われた通りに付いてくる。
(…流石、ライトニング分隊にいることだけはある…基礎は完璧だ、俺を完璧に捉えている!。)
銃撃を浴びせるも、怯まない魔導兵器の背後を取ったフェイズ。
「な……っ!?。」
「勝手な行動は後で問い詰めるが、その攻撃はなかなか良かったぞ!。突っ込むっ!!。」
「はぁあああああ!!。」
「マニューバー・CQC、アクティブッ!!。」
速度を殺さずに突っ込んだエリオの一撃と、削ぐように縦横無尽に斬り刻むフェイズ。そして、その剥がれた装甲の中には制御コンピューターが丸見えとなる。
(…暴走の原因を掴み取れれば……!。)
魔力探知用のバイザーが「スキャンモード」へと移行。
動力システムの魔力が原因なのか、それとも他の要因があるのか…フェイズは調べに入る。だが…得られた答えは……。
「なっ…なんだこの「プログラム」は!?。」
「ど…どうしたんですか!?。」
…何かの間違いか…そう思って、バイザーの記録を再度確認するがやはり、"見間違い"ではない…一般的に、命令系統を暴走させるプログラムはおおよその配列が決まっている。機器に多少なりとも知識のあるフェイズは、脳内にその配列パターンを記憶していた。しかし、今読み取ったこの配列パターンは見たことがなく、そして何より驚いたのが……。
「……このウイルスプログラムは瞬間的に"成長"している…それも、とてつもないスピードで…。」
「ど…どういうことよそれ!?。」
「…つまり、俺達のデータを瞬時に取り込んで"対策"しているんだ……そのプログラム配列の中に「ミッド式」と「ベルカ式」の魔術式も含まれている…それだけじゃない、このウイルスプログラムは「プログラム」なんかじゃない…これは……"生物"だ……。」
そう言った直後、剥がれた装甲が瞬時に再生。それと同時に、装甲板がまるで生きているかのようにその形状を変えた。そう、弱点を補うかのような重厚な装甲へと。そして、「ベルカ式」の魔法陣と左腕部の武装から「カートリッジシステム」によるエネルギーチャージが行われた。先程まで確認されていない武装……それを瞬時に「形成」したのだ。
「な…何よこれ……!?。」
「……こいつは偶然、ここに来たわけじゃない…この兵器は……"送られた刺客"だッ…!!。」
…………………………end。
襲撃をかけてきた魔導兵器は生物のように進化を続ける。
自分たちの攻撃や魔法を"学習"し、瞬時に対応するその規格外な性能に翻弄される『ファイアフライ分隊』。
窮地に立たされたその時、そこにローレルが現れて…ーー。
次回
13話 異星より来たりし"監査団"。