…奴はそう語った。
"銀河監査団"と言っていたが、何が目的でここに来たのか…。
その答えは、奴が知っている…ーーー。
魔導兵器との戦闘後、俺達は医務室へと運ばれた。
幸い、大怪我には至らなかったが受けた傷は小さくはない…それよりも、件の魔導兵器が例の"異星文明"がもたらした「ウイルスプログラム」により、スペックを遥かに凌駕した力を発揮したこと。
それに加え、戦闘が長引けば長引くほど成長していくあの学習能力は対峙した者にとって、絶望を与えるものとなる。
こちらの世界の魔術すら再現できる程の能力…あの時、ローレルが来なければ被害は甚大なものとなっていただろう。
俺達、3名の軽傷で済んだのは皮肉にも奴のおかげだ。最も、奴はこちらを助ける気なんてさらさらなかっただろうが。
その残骸から得た調査の結果はやはり、こちらの世界では考えられない「ナノマシン」の残骸が検出されたという。
その科学力は、魔導と科学の最先端を誇る時空管理局の非ではないもの……技術的に言えば、この世界が心血を注いでも「10年」はかかるほどの高等技術だという。
その文明が魔導に精通しているかは分からないが、魔術式を解析できるほどの能力があのナノマシンに搭載されていた事から、科学が魔導を圧倒していることは間違いない…。
だから、ローレルは管理局が「勝てない」と考えているのだろう。
エース級でもなければ、奴らの能力を促進させてしまうだけ…それに加え、魔導を軸とした俺達(管理局)では、圧倒的に分が悪い…1体倒すのにどれほどの戦力が必要になるか……割に合わない計算となる上にそれが量産型ならなお、絶望的だ。
この事実を以て、時空管理局は例の"異星文明"とは話し合いの余地が無いという考えに舵を切っている。
この事実に対する対応をどう取るべきか、八神二等陸佐達は今、緊急会議に参加している。
…そして、今日。
19時に紙に記されたポイントに来いと、ローレルは俺に約束を取り付けた。
"異星文明・センチネル"の事を教えてくれるという……果たして、それは信頼してもいい事なのか…そんな重要な事を、俺のような末端が知ってもいい事なのか…誰かに相談すべきだろうと思うが、この機を逃すと自分たちの足でその真実を探らなければならない。
それよりも早く、またあの魔導兵器のような代物が襲撃を掛けて来ればそれこそ、蹂躙されるのが目に見える…悩んだ末、俺はその要求を飲もうと思う。
信頼は出来ないが、奴がそこまで悪人には思えないと俺はそう思える。
今、分かるのがその"センチネル"がこちらに対して明確に敵意を持っている事。
侵略のための前準備なのか…明らかにあの魔導兵器をこちらに送り付けていた。
……世界の危機は、もうすぐそこにまで迫っているのかもしれない……ーーー。
「フェイズ君。」
ローレルに指定された場所に向かおうと帰り支度をするフェイズを呼び止めるのは、なのは。
普段は職務に徹するあまり、そんなに話しかけてこない彼女から接してくるのは何か新鮮だ。
「どうしました、高町一等空尉?。」
「君達が対峙したあの魔導兵器の事…君自身はどう思ってる?。」
「どうって……厄介な相手だと思ってますよ。魔法を解析してそれを再現出来る能力がある…しかも、それも人の目では見えないナノマシンだ。ウイルスプログラムに化けられるほどの精巧さ……一体だけであれなら、複数やって来た時はどうなることか……。」
「そっか…そうだよね。私ね…君からの報告を聞いて嫌な予感がするんだ。近いうち、この空はきっと戦場になる…それも、私も体験したことのないくらい大きな戦場に。」
「不安…なんですか…?。」
その問いかけに彼女は「フフ」っと微笑む。
「…不安だよ?いつだって、私は不安…自信なんて無いよ。でも、いつも必死だからやれちゃうんだ。君もそうでしょう?。私と君は同じだと思うくらい"似てる"から。」
「…貴女の"事"はそれなりに聞きましたよ。それ故に、貴女には"制限"が掛けられてる……貴女に"本気"を出させない為に周りが気を遣ってる。貴女ほどの"天才"でも、無茶はするんですね?。」
そう言われたなのはは、自分の手のひらを見る。
「……あの頃は無茶をしたくなるくらい助けたいって思ったんだ。だから、今の私がいるんだけどね…ねェフェイズ君?"同類"からのアドバイス、空を飛び続けたいなら無茶はしない事。君が「今から」何をしようが私は止めないけど、無茶をして壊れるくらいなら落としてでも止める。そうならないように……選択を間違えないでね?。」
それを聞いたフェイズは驚いた顔をする。
…気付かれている…しかし、笑顔で彼女は俺を送る。その意味は、知った答えによって選択するものを間違えるなということ…。
それを理解したフェイズは静かに頭を下げてその場を後にする。
なのははそれを心配そうに見つめながら。
(…もう、私と「同じ」ような人は生み出させない……だからもう一度、私は…ーー。)
"無茶"をするよ…ーーー。
〜ミッドチルダ・埠頭〜 ーPM18:54ー
ローレルに指定されたポイント…ここ、埠頭エリアの一角にある廃倉庫。
いかにもといった場所だが、ここは誰も来ないことで有名だ。つまり、「魔導具」の違法取引などでよく使われている場所とも言える。
こんな場所に、管理局員がいるなんて事自体があり得ない話だが、相手が相手だ…"密会"するには申し分ない場所だろう。
警戒しながら、ゆっくりと奥に進む。すると、その奥には私服姿のローレルが待っていた。
「約束より少し早いな…なんだ、管理局では5分前行動でも義務付けられてんのか?。」
棒付きのキャンディを舐めながら、ローレルは目をこちらに向ける。
殺気は無い…周囲に人の気配もない事から本当に1人で来たんだなと、そう思うフェイズ。
「だから、警戒なんてすんなよ?言ったろ、誰も連れて来ねェって。ま…殆どはあんたらのお縄に掛かっちまったから居るとしても連れ1人だけさ。にしても…管理局の制服でよくここに足を踏み入れたな?。ゴロツキ共に袋叩きにされても文句は言えねェぞ?。」
「仕事終わりだ、仕方ないだろう。それよりも話の続きとやらを聞かせろ。あまり時間を取りたくない。」
「つれねェな。お前が聞きたそうな顔してたからこの場を設けたんだろうが、なんで立場が逆になってんだよ。ま…これやるから落ち着けよ、兄弟。」
そう言って、懐から棒付きキャンディを投げてくるローレル。それを受け取ったフェイズは溜め息を吐く。
「…どうして、話す気になった…?。」
「別に話しても問題ねェからさ。隠すことでも無ェ、ただ管理局に渡すにゃちっとばかしからかってやりてェって思ったのさ。」
「嘘を吐くな。お前は管理局があの異星文明…"センチネル"に勝てないと確信してるからこそ、情報を隠し続けているのだろう?それに加え、強奪した"アルテミスの弓"も、奴らに対抗する為の手段だ。違うか?。」
「……へぇ、そこまでお見通しってわけか。さっすがだな、正解だよ。あの兵器に与えられた能力を見たろ?。あの魔導兵器自体はミッド製だ。しかし、投与されたナノマシンがそのスペックの全てを書き換えてやがる。つまり、ウイルスプログラムに擬態させたナノマシンをこっちの兵器に移すだけであの化け物の出来上がりってわけさ。それを数多な数ほど保有する管理局にとってはこの上ないくらい最大の脅威となる。つまり、自分で自分たちを殺すようなものさ。」
「…プログラムレベルのナノマシンなんてそんな事、可能なのか?。」
「それを可能にしたからこそ、アイツらは自分達の姿を見せねェんだろうさ。自信があるんだよ、ナノマシンだけでこのミッドを制圧出来るってな。管理局が管理する"ロストロギア"が乗っ取られてみろ?。自分たちの所有する遺物によって世界は壊滅…ゲームオーバーってわけさ。」
「待て…なら、お前達が管理局を襲い続けてる理由って…!。」
「そう、"ロストロギア"の強奪と安置。奴らが外気圏上に転移してきたのも"ロストロギア"と呼ばれる遺物に興味を抱いたからだ。それに加え、"魔導"にも興味を抱いた…奴らは「科学力」で社会を築いている異星人…"魔導"という正反対の代物に探究心が疼いたんだろうさ。最も、それも「科学力」で解析しちまったからナノマシンによる侵略に乗り出したんだと思うが…ま、ありゃ本物の"魔導"じゃなくて「科学力」で再現した偽もんの"魔導"だけどな。」
「……質問を変える。お前達はどこでその"文明"の存在を知った?。どうやって、調べている…?。」
その質問に、ローレルはキャンディを噛み砕いてニッと笑みを浮かべる。
「ああ…オレ達「極東の旅団」は以前、仕事の途中で転移事故に巻き込まれてな。奴らの居る星系に跳ばされちまったのさ。」
……今から、約半年前…ーーー
当時の「極東の旅団」は、今みたいなテロ行為は行わない「傭兵稼業」を中心に活動していたという。
当時のリーダーはローレルではなく、『鋼鉄のノルド』の異名を持つ絶対防御の陸戦魔導士「ノルド・クオリア」と呼ばれる歴戦の傭兵魔導士だった。
彼は人格者であり、社会から爪弾きにされた者を迎え入れ、仕事を与えていた。
もちろん、傭兵稼業は常に死と隣り合わせだ…彼は強制はしなかった。彼に迎え入れられた者たちは進んで傭兵の道へと進んだのだ。
ローレルもその一人で、ミッドチルダにある「グレーゾーン」と呼ばれる無法地帯の出身者だった。
学歴も無く、その日を生きるのに日雇いの仕事で食い繋いでいたが、内容によっては戦闘も辞さない危険と隣り合わせの仕事をずっと続けていたせいか、彼は並外れた観察眼を持っていた。
常に格上との戦闘や駆け引きを行っていた経験が今の強さを引き出しており、当時の№2として旅団内では名を馳せていた。
だが、彼らの運命は"あの日"を境に狂い始めた…そう、突如発生した「次元嵐」による転移に巻き込まれ、"センチネル"の支配する星系に跳ばされた。
そこからは地獄だった…"センチネル"とは意思疎通も出来ず、突然の来訪者に向けて攻撃を開始。
常軌を逸したその力に、「極東の旅団」は壊滅寸前まで追い込まれた。
その地獄は数日間続き、もう駄目だと諦めかけた時に再び次元嵐が発生。
どこに跳ばされるかは分からないが、この状況から逃げ出す最後の手段だった。
逃げる以外の選択肢はもはや残されていない…生き残るために、尻尾を巻いて逃げるのは致し方のない事…そう決断した時、ノルドは一人残る決意をした。
「必ず生きて、帰れ。」
これが、最後の命令だった。全員がそこに残ると言い張ったが、ノルドはそれを拒否。
ローレルとエイリス、レオンと"もう一人のメンバー"を次元嵐に放り込んだのが最後、彼は一人"センチネル"の攻勢に立ち向かった所で生死不明となった。
運良く、ミッドチルダに帰還したローレルたちは"センチネル"を倒すことを決断。一時は時空管理局にも協力を呼び掛けるつもりだったが、上層部は傭兵の言い分などまるで聞かず、その事実すらも公表しないと来た。
そして、"センチネル"の持つ科学力がこの世界の"魔導"ですら簡単に解析してしまうことから"ロストロギア"の確保のためにテロ行為を行うことを決意。そう、彼らは世界の為に自らが"悪"となる道を選んだのだ。
正義のつもりなんて毛頭ない…だが、育ての親を殺した奴らを倒すことだけが生き甲斐となってしまったのだ。
それが、一連の襲撃事件の真実……それを聞いたフェイズは彼らの"理由"を理解した。しかし、それでも納得のいかない部分はある。それは…ーーー。
「だからと言って、こんな真似が許されると思うか?。"センチネル"を倒すためとはいえ、世界にとっての"必要悪"になることはお前たちの育ての親が望んでたことか…!?。」
「いや、これはオレ達の勝手な"復讐劇"さ。オッサンの無念を晴らす、そんでもって世界も救う…絵に描いたような"ダークヒーロー"だろ?。」
「お前……!!。」
「単刀直入に言う、フェイズ・アイオン。お前……。」
ローレルは何食わぬ顔で"こう言った。
「極東の旅団」に入れ。
…と…ーーー。
……………………end。
ローレルから語られた行動の真理、そして"勧誘"。
フェイズが出す答えは……。
次回
15話 信念と正義。