しかし、無許可での戦闘は懲罰対象となる…。
八神はやて…俺は彼女とのこの"出会い"が後に大きく響くことになるとはこの時は考えもしなかった…ーーー。
"聴取"という名の会食が終わり、俺は帰路に付く。
帰り道、戦闘のあったあの場所を見に行くと後処理は丁寧に進められていた。
戦闘痕は残るものの、あのロボットの残骸は全て回収されていた。恐らく、今回の事件の事について事情とその是正を問う為だろう。
暴走状態に陥ったロボットと同型機種を納品するわけにはいかない…恐らくだが、導入の話は白紙になると思う。
…それに加え、保有魔力量の低い"俺"に撃破されたんだ。まあ、セオリー無視の馬鹿げた戦法をとっての勝利…だが。
家に向かって歩きながら俺は、今日の事について考えながら帰っていた。
本当に、色々あった日だな……同僚や隊長によく思われないことは多々あることだ、それはもう慣れている…いや、慣れたという言い方はよくないな。結果を残せていない自分が悪いのだから。
そして、初戦闘。模擬戦と違って、命を懸けた実戦。ぶっつけ本番だが、模擬戦で考案し"凡人"である俺がベストを尽くせる"高機動戦術"…八神二等陸佐には、この戦術を使うことを叱責されたが……俺は考えを改めるつもりは全く無い。
"空"を飛ぶために俺は管理局員となった。劣る俺は他の人間の数倍も努力しなければならない。だからこそ、局員を目指すと決めた時から「空」を飛ぶために血の滲む努力をしてきた。
適性試験では保有魔力量の低さから、飛行も困難と言われてきた。試験官曰く、俺は「陸戦魔導士」向けらしい。だが、最初から俺は「空戦魔導士」を目指す以外、何も考えてはいなかったのだ。
空を飛ぶためにいろいろ勉強した。魔法力学や、実践を用いての飛行訓練…その他、様々。
少ない魔力量から練り上げられる精度はまるで話にならなかった。飛行と滞空に従事するため、持てる魔力の殆どをそっちに回すせいで基礎魔法すらろくに唱えられない。
だけど"何か"特化するものを兼ね備えていなければ、本当に何もない人間だ。そこで、俺が目を付けたのは"速度"だった。
残った魔力を加速に回し、それに耐えうる肉体を作り上げる……そう。防御魔法が使い物にならないなら身体能力によって加速に対する耐性を付ければいい。単純だが最後は結局、体力勝負となるのだ。
そんな、馬鹿げた意地で俺は何とか「空戦魔導士」としての資格を得ることが出来た。目を付けた"速度"が評価されたのだろう、それとも人員不足によって泣く泣く…といったところか。俺には分かる、部隊は俺に期待していないことが。任務に起用されたとしても、"速度"しか取り柄がない俺の役回りはきっと、ターゲットを追い回すくらい……美味しいところは、同僚達がかっさらっていくことだろう。
別に俺は"主役"になりたいわけではない。ただ、役立たずになるのだけは避けたいだけ……目立ちたい奴が"主役"を目指せばいい。
そう……俺は、"脇役"でいい。ただ、譲れないものは守り抜かなければいけない。バカにされたっていい、それが俺が俺である為の唯一無二の証明なのだから。
家に帰り着くとすぐにソファーに身体を落とす。そして、強烈な眠気が襲ってきた…今日は本当に疲れた。でも、明日には今日のこの行動は部隊長に伝達される事だろう。厳罰を言い渡されることを覚悟しておかなければいけない。まぁいい…明日は明日の風が吹く…また、"飛び方"を考えよう………。
…………………………………………。
…翌朝、管理局本局。
昨夜の整理をするはやて。フェイズへの"聴取"を取りまとめていた。
その中で、別れ際に最後に彼が話していたことを思い出す。
ー俺は「空」を飛ぶことを諦めない。誰が何を言おうと俺は…「空」を飛ぶ…ー
(……その身が砕かれようと、飛ぶことを諦めへん……局員になったのはその足掛かりとする為…か…なんやろうか、不思議な人やったな……でもあの戦術パターン…無茶苦茶やけど、理にかなっとる……。)
ロボットの残骸から抜き出した記録データを見るはやて。そこには、ロボット視点だがフェイズの戦闘技術についてはっきりと録画されており、防御機構作動のプログラムが作動する前に攻撃を当てている姿で再生が止まる。
(しかし、その無茶はいずれ必ず祟るはずや。並の魔導士でもあの速度に対する負荷の軽減は不可能……「死に急ぎ野郎」と言われるのは納得出来るわ…こんなもの、誰が扱えるっていうんや……。)
記録データを止め、溜め息を吐くはやて。
何故、彼女が彼をそこまで気遣うのか……それは、部隊会議で出た"ある任務"の事だった。
ー魔導傭兵部隊「極東の旅団」ー
…現在、管理局が重要視している次元傭兵部隊の事を指す。
その調査任務を近々、フェイズの居る部隊が担当する事を彼女は知っていたのだ。
"聴取"の際に彼の所属部隊名を聞いてその事を思い出した。そして、最も危惧すべきはその傭兵団が"武闘派"だという事。遭遇すれば戦闘は免れない…そして、対峙した部隊は壊滅寸前まで追い詰められるという。
だからこそ、彼女は不安だったのだ。知り合った新人局員がその危険な相手と対峙する可能性がある事…そして、"厄介者"扱いされている彼は恐らく、壊滅寸前にまで追い詰められた部隊を逃す為の「囮」として使われ、戦死同然の扱いを受ける事。
はやては彼が居る部隊の"悪い噂"を聞いたことがある。部隊長は自らの評価欲しさに、保有部隊戦力では到底太刀打ち出来ない任務を受ける傾向がある…今回は"調査任務"という事なので,直接戦闘というわけではない。あくまで、彼らの情報について調査をするだけであって戦闘は実績のある特殊戦術部隊へと任せる手筈となっている。しかし、相手が一方的に仕掛けて来れば、"生命を守る為の武力行使"を独断で下すことが出来る権限が部隊長にはある。恐らくだが、相手の攻撃性を利用してその権限を行使する気だろう。自らの部隊が「極東の旅団」の1人を確保すれば、部隊全体の評価が上がる。そう…今、管理局が最も問題視しているこの問題の解決に一役を担う事ができる…そして、部隊が評価されればその部隊長である自分の評価もグッと上がる事を知っているのだ。
そんな欲に塗れた任務となる事を予測する彼女は、フェイズの「理由」がその我欲に潰されてしまうかもしれないことを危惧していたのだ。だから、気にかける。彼の性格の事だ、きっと格上の相手でも物怖じはしないだろう。
(…この心配が杞憂やとええねんけどな……フェイズ君、君はきっと管理局の"闇"を見ることになるかもしれへんな……。)
………………………………。
「…処分は無し?どういう事ですか…?。」
翌日、俺は部隊長に呼ばれて隊長室へと足を運んだ。
言われる事は当然、わかっていた。昨夜の無許可戦闘の事だと。
しかし、言い渡されたものは俺の予想を遥かに超えてきた…きっと、謹慎処分になるものだとばかり思っていた。だが、現実は「お咎め無し」。手配ロボを撃破したとは言え、それに釣り合わないほどの規約違反を犯している。なのに、この処遇とは……。
「訓練では大した実績も出せないというのに、手配ロボを単独撃破するとは…普段から手を抜いているという事なのか?。」
「いえ…無我夢中でやった事です。それに、俺の戦い方は……。」
「ああ知ってるよ。空戦魔導士のセオリーを無視した"高機動戦術"。それも、生意気にも自分が組んだ戦術パターンで戦うって事だろう?。こちらの指示にも従わない、マニュアル外の戦術でよくもまぁ撃破出来たものだ。それに免じて、今回の事は不問にするというのだ。しかし、その戦術は二度と使うな。いいか、貴様は我が部隊の一員なのだ。マニュアルにそぐわない戦闘はリスクが大きい。部隊を危険に晒すな。以上だ。」
………半ば、追い出される形で俺は部屋を出された。
…もしかして、八神二等陸佐が根回しでもしたのか?。
そう思いながら、廊下を歩く。同僚達の目線を感じるが今はどうでもいい…首の皮が一枚繋がった事に今は安心するとしよう。
それから数時間後、ブリーフィングが始まる。今回のブリーフィングはいつもと違う…そう、"任務"が降りてきたのだ。
部隊長が前に立つ。そして、モニターを起動。そこに移されたのは、数名の人物……見たことがある、コイツらは…「魔導傭兵部隊」だ。
「諸君。明後日、時刻は9:32を以って以下の任務の遂行とする。まずはモニターを見てくれ。そう…我々は今、この「魔導傭兵部隊」に手を焼いている。コイツらは定期的に管理局を襲い、武器や魔導兵器の強奪を行っているならず者だ。当然、今の諸君らには彼らと戦う力は無いに等しい…今回は我が部隊に彼らの"調査任務"が下った。直接戦闘を仕掛ける前の情報収集だ。」
…同僚達の声が聞こえる。
(おい、コイツらを捕まえれば一気に出世出来るんじゃないか?。そうすれば、"高町なのは"さん達を一目見れるかもしれないぞ!?。)
(はは、それは楽しみだな?。)
……任務だろう、何を言ってるんだコイツらは?。
"調査任務"で確保なんて何を……そう思っていた矢先、部隊長はとんでもないことを言い出した。
「戦闘は"基本的"には許可は出来ん。しかし…奴らが"仕掛けて"来たその時は特別に戦闘を許可する。」
(なん…だと…相手はあの「極東の旅団」だぞ…新人が敵う相手じゃ……。)
それを聞いた同僚達は、一気に戦意が高揚する。
「よしっ!なら、訓練の成果を見せる時だ!!。」
「おいおい、"相手が仕掛けてきた"時だけだろう!?ははは!!。」
…バカなのか、コイツらは……相手の力量を理解しないままやれる気でいると言うのか?。間違いなく…"死人"が出るぞ……!!。
……………………………………。
……"調査任務"当日。奴らが目撃された地点へとやってきた俺達「空戦魔導士第05小隊」。ミッド主要部から大きく離れたこの地点で件の任務は開始された。
「おいおい、こんなチンケな場所で傭兵達は目撃されたのか?可哀想に、クズはこんな場所にしか住めないんだな?。」
1人の同僚空士は空を飛び回りながら声を上げる。
手柄を目の前に、同僚達はいきり立っている。
その中で、フェイズだけは冷静だった。
(…おかしい、静かすぎる……なんだ、この嫌な気配は……。)
静かすぎる周囲の空気。誰も居ないはずなのに、僅かに感じる人の"気配"。分かる……俺達は……"張られていた"……!!。
「おいっ!すぐに退避しろ!俺達は"蜘蛛の巣"に掛かってしまっている!!。」
フェイズのその言葉に、同僚達は鼻で笑う。
「なんだお前、怖気付いたなら1人で帰れよ?。」
「そうだ!ーファイアフライーには用は………。」
「勇ましい事はいい事だ、恐れない心もな。でもな……"優秀"と"バカ"は訳が違うって事を知ってるか?。」
響く男の声。1人の同僚が振り向いた途端、背中が切り裂かれた。
「ぐわぁああああ!!?。」
「おいおい、軽く撫でてやっただけだろうが?。大袈裟なんだよ全く…!。」
棒付きキャンディを舐めながら、出刃包丁のような剣を肩に担ぐ男はニヤリと笑みを浮かべる。フェイズは体中に寒気を感じた。
(…間違いない…コイツが……!!。)
たじろぐ同僚達に剣を向ける男は名乗りをあげた。
「俺の名前は「ローレル・ランドルフ」だ。お探しの品はここにいるぜ?管理局の犬ども。」
赤髪の青年…そして、雰囲気から滲み出る"狂気"。
「極東の旅団」・遊撃隊長ーローレル・ランドルフー
エンゲージ(会敵)…ーーー。
………………………end。
ローレル・ランドルフ。
それは、「極東の旅団」の遊撃隊長…いわば、戦闘力はNo.1とも言える人物。
他の者がたじろぐ中、フェイズだけは冷静だった。
そして、ローレルは…フェイズと一騎打ちを望む…ーー。
次回
4話 極東の旅団。